2007年01月10日

誘拐犯 (The Way Of The Gun)

監督 クリストファー・マッカリー 主演 ベニチオ・デル・トロ
2000年 アメリカ映画 119分 アクション 採点★★★★

ナントカ山に登る映画のようにハッキリと描かなくても、男同士の友情には傍から見てしまうとゲイの香りがしてしまうもの。やはり異性の友人と一緒にいるのと違い、ふいに来る性衝動に襲われなくて済むってのは、非常に気楽。もちろん性衝動だけの問題ではなく、こんなワガママで自分勝手な私でさえ、異性と一緒だと何かと気を遣っているようで、いるだけで疲れてしまうことも。まぁ、気遣いをしていること自体、気付かれないことがほとんどですが。

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【ストーリー】
小悪党のパーカーとロングボーは、ふとした切欠で大富豪の子供を宿した代理母ロビンの存在を知る。一山当てようと早速ロビンを誘拐する二人であったが、その大富豪が闇社会と繋がっており、二人は殺し屋に追われることに…。

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ハッキリと描いていなくても、登場人物がゲイであることを、もしくはそう見えるようにも取れるようにホンノリと匂わせる作品は少なくない。『アラビアのロレンス』然り、『俺たちに明日はない』然り、そして『明日に向かって撃て』然り。その『明日に向かって撃て』のブッチとサンダンスの本名である、パーカーとロングボーを主人公らが名乗る本作。必死に「ゲイじゃない!」と否定しておりましたねぇ。
『ユージュアル・サスペクツ』の脚本家の初監督作として大いに話題になったが、「話が薄っぺら」「主人公が何を考えてるのか分からない」と散々でもあった一本。確かに脚本家が作った割には、物語の背景はスッカスカだし、展開も非常に場当たり的。主人公らに至っては、何を考えているのか、結局何が言いたかったのか最後までサッパリ分からない。しかし、それはあくまで“脚本家が撮った割りには”である。じゃぁ、マッカリーは本職である脚本家を捨て何をしたかったのかと言えば、“カッコイイ銃撃戦を描く”こと。それだけ。一介のチンピラにしては『ヒート』のデ・ニーロ一家並の重装備で、『ザ・ミッション 非情の掟』のアンソニー・ウォン一座並の見事な動きを見せるのも、それで納得。納得しないと、損ですし。実際、誘拐シーンにおける訓練された男達がお互いの背中をカバーしながら見せる美しいまでの身のこなし、ドアを開けたら戦場となっている展開の見事さ、つい「なるほど!」と膝を打ってしまうカーチェイスなど、オープニング30分間の流れるような繋がりには身震いをしてしまう。キャラクターの掘り下げが特にあるわけでもない中盤はダレるものの、ペキンパー作品を髣髴させるメキシコの売春宿で展開されるクライマックスも、その痛点を刺激する負傷描写も含め見事なもの。
序盤で散々いじってた“ゲイ遊び”が中盤以降スッカリ忘れ去られていたりと、非常に不器用で雑な作品であることは否めないが、作り手が何を差し置いてもどうしても見せたいものがハッキリとしている作品は嫌いになれず、そこだけは完成度もすこぶる高いので、評価も高めで。

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登場人物の扱いはぞんざいなものの、キャスティングは非常に豪華な本作。
最近では『クラッシュ』『父親たちの星条旗』と、大人の俳優として歩み始めたライアン・フィリップであるが、期待の若手として注目されるも、いつの間にやら“リース・ウィザースプーンの旦那”としてしか認識されなくなっていた頃だけに、イメージ打破に躍起になってる様子が伺えてカワイイ。ベニチオ・デル・トロが機械的で何を考えているのか伝わりづらい役柄だけに、ライアン・フィリップの必死さがより一層伝わってきたりも。
テイ・ディグスのキャラが『リベリオン 反逆者』の時とほとんど変わっていないのはご愛嬌として、実は大好きな女優の一人であるジュリエット・ルイスが、凄まじい雄叫びとガニ股以外印象に残らないのは残念。それでも、最近では『デビルズ・リジェクト〜マーダー・ライド・ショー2〜』で70年代風味を醸し出すスパイスとして活用されていたジェフリー・ルイスとの父娘共演は、やはり嬉しいもの。そんなジェフリー・ルイス同様、70年代風味を醸し出すスパイスとしてしか機能していない大御所ジェームズ・カーンの扱いは非常に雑ではあるが、「この世界、年寄りを見たら“生き残った者”と思え」はシビレるセリフ。年取ったら、マネしよ

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てことは、左がポール・ニューマンで、右がロバート・レッドフォード

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posted by たお at 02:20 | Comment(8) | TrackBack(4) | 前にも観たアレ■や行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月07日

YAMAKASI ヤマカシ (Yamakasi)

監督 アリエル・ゼトゥン 主演 YAMAKASI
2001年 フランス映画 91分 アクション 採点★★★

もう、てっきり何回も観たもんだと思ってたら、まだ観てなかったんですねぇ。ウッカリしてました。まぁ、観たからといって、別に印象が変わったわけでもありませんが

【ストーリー】
驚異的な肉体技でビルを駆け上る“YAMAKASI”のマネをした男の子が、木から落ちて重症を負う。心臓移植の為に大金が必要となった男の子の為に、責任を感じた“YAMAKASI”は、あるアイディアを思いつくが…。

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007/カジノ・ロワイヤル』や『アルティメット』などで、肉体アクションの一つのスタイルを確立したパフォーマンス集団“パルクール”を全面的にフィーチャーした一本。見せたいものだけが物語を押しのけて暴走するいつものベッソン映画を期待してたら、ちょっと違った。
ヤマカシの足かせにならぬ程度に添えられた脚本のスカスカぶりは相変らずなのだが、肝心のパフォーマンスまでもが、そのスカスカの脚本に足並みを揃えたかのように控え目。「なんか楽しそうだねぇ」と温かい気持ちにはなるものの、見慣れてしまったせいもあるのか、退屈さを吹き飛ばすまでの驚きが少ない。また、メンバーのキャラクターも上手に表現されておらず、勢揃いするとまるで佃煮のようにゴチャっとしてしまう感も強い。

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そんな佃煮のようなヤマカシの中でも、足だけは異様に速いギレン・ヌグバ・ボイェケはお気に入り。野生の感性のまま生きているのか、90分常に感極まりっぱなしで、涙目で声を上ずらせるその姿は、まるで黒い中西学
音楽以外にこれといって印象に残るもののない作品ではあるが、映画として最低限押さえるべき所は押さえているので、その後のアクションに新風を与えたことも踏まえ、★ひとつオマケで。

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“金持ちから盗むのはいい”とキッパリ割り切る姿は、清々しささえ

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posted by たお at 01:53 | Comment(2) | TrackBack(1) | 前にも観たアレ■や行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月27日

40歳の童貞男 (The 40 Year Old Virgin)

監督 ジャド・アパトー 主演 スティーヴ・カレル
2005年 アメリカ映画 132分 コメディ 採点★★★★

これまでの流れからすると、この序文の部分は映画の内容となんとなく関連する自分の体験やら考えやらを書き連ねて、そこにボンヤリと核心を織り込んでいたりするんですが、そうなると今回は自分の童貞喪失の思い出をってことと。さすがにそれは誰も聞きたくないだろうに。ま、未だ童貞ってことにしてもらっても結構でございますよ。この映画観る限りは、なんとなくモテそうですし。ところで、いつも通り自分の勝手な決めつけなんでしょうが、童貞の人って声が甲高い気がするんですが。やっぱり、ホルモンとかに影響するんでしょうかねぇ。

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【ストーリー】
フィギュアとゲームが恋人のアンディ。40歳。童貞。電器店で働く同僚達との談笑中、女性経験についてつい張った見栄がバレ、童貞暴露。「このままじゃいけない」と一方的に煽る同僚達によって、童貞喪失への道を歩まされることになったのだが…。

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DVD発売前に“劇場公開作”としての箔をつける為だけにチョロリと公開されるパターンが増えてきましたが、本作もそれで。まぁ、DVDが出るだけでもよしとしなければならないのかも知れませんが、誰が観たいのか全く不明な『氷の微笑2』なんかに莫大な広告宣伝費をかけるくらいなら、もっとマシな作品がゴロゴロしているだろうとも。
全米でも思わぬ大ヒットをしたことで話題になった本作。「童貞の中年男の話が面白いの?」って疑問も当然だが、これが面白い!童貞コメディとしては異例の2時間10分って長さだが、一瞬たりともツマラナイ瞬間がない。中途半端に知識を持った童貞男を笑い飛ばす様な意地悪さはなく、もちろんその痛々しさに笑いの比重こそ大きいが、そこには芯の通った童貞男のキャラクターと、それを真直ぐに見つめる作り手の視線があり、決して斜め上からの視線ではない。童貞男が抱えがちな誇大妄想や、身近に童貞がいると知るや否やイジり倒したくなる男友達の行動、彼らの女性観、そのどれを取っても非常にリアルで、非常に男性視点的。その視点は全くブレることがなく、そこに男性の思い上がりや浅はかさ、そして子供っぽいまでの可愛らしさが浮き上がる。それはそれでとっても楽しそうな童貞生活の痛々しさを笑う序盤から、徐々にセックスという行為自体に縛られ翻弄される愚かしさを笑う終盤への移行もスムーズで、いつの間にか“愛”がテーマになってしまう展開も定番ではあるがクド過ぎない構成の上手さですんなりと進んでいる。「男性諸君!女性は本当はこう考えているんですよ!」というラブコメこそ多いが、男性視点一本であるのにも関わらず得られる結果が同じな本作は、男性のみならず女性層にも是非観ていただきたい一本。
結局愛するフィギュアを売っちゃう主人公に、童貞ならではの押され弱さを感じてしまうが、客としてはゴメンだが是非とも働いてみたい電器店の様子や、“見事結ばれメデタシメデタシ”と何となく丸く収まってしまいそうな結末を、力技で更なる高みへ昇華させたエンディングもお気に入りなので、満足度は非常に高い。

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もう一部ではお馴染みを通り越して中毒患者を続出させている“フラットパック”。“コメディアン集団”と言う言い方には抵抗があるので、今後も使いませんが。絶好調のベン・スティラー、ウィル・フェレル、ウィルソン兄弟の影に隠れていた印象こそあったが、傑作『俺たちニュースキャスター』や、その登場シーンだけが面白かった奥さまは魔女』で印象深かったスティーヴ・カレルが遂に一本立ち。その立ち振る舞い、表情、声色と、どれを取っても生々しいまでに童貞的。ベン・スティラーやフェレルではこうはいかないカレルの真骨頂。もちろん、オーウェン兄弟ではもってのほかです。あの同性ですらドン引きする“セーターを着ている”様な胸毛があってこその、このキャラクターですから。劇中最も印象的な脱毛シーン。実際に胸毛をむしられたようで、あの絶叫も悪態も出血も本物。通りで周りの反応が素で爆笑だったわけです。
フラットパック勢には含まれないものの、『俺たちニュースキャスター』からポール・ラッドとセス・ローゲンが続投。演技だけとは思えない仲の良さを披露。その悪友連中の中でも気になるのが、ロマニー・マルコ。ラスト、異常に上手い蟹歩きを披露していたが、なるほど、『M.C.ハマー ストーリー』でハマー役だったんですねぇ。
バス男』での大失態もあってか、発売前からどんな邦題になるのか注目が集まった本作。小さな不幸が目白押しだった『バス男』の担当者の姿に恐れおののいたのか、本作はまんま原題通りに。私が言いたいのは、そんなことじゃないんですけどねぇ…。

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他人事ほど楽しいことはないですから

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2006年10月22日

ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎 (Young Shrlock Holmes)

監督 バリー・レヴィンソン 主演 ニコラス・ロウ
1985年 アメリカ映画 108分 アドベンチャー 採点★★★

推理小説ってのがイマイチ苦手なもんなので、アガサ・クリスティはおろかシャーロック・ホームズすらきちんと読んだことのない私。なにしろ“灰色の脳細胞”には程遠い、“ツルッツルの脳細胞”の持ち主なもので。推理映画ってのにも縁遠く、ちゃんと観たシャーロック・ホームズ映画は、ホームズがコカイン中毒の『シャーロック・ホームズの素敵な挑戦』のみって体たらく。でも、ホームズがすっごく頭が良くって、パイプくわえてて、帽子被ってることくらいは知ってますよ。充分ですよね?

【ストーリー】
若き日のホームズとワトソンは、恩師の謎の死によって明らかになったエジプトの邪教集団に立ち向かう。

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「愛読者が大喜びの仕掛けがあちこちにあるんだろうなぁ」と、観る度になんとなく羨ましく思う一本。スピルバーグのアンブリンによる作品だが、スピルバーグ色よりは、男の子の冒険物ばかり書いている気さえする脚本のクリス・コロンバス色が色濃く出ている。規模こそは小さいが、ワトソンとの出会いから学内での活躍ぶりまでを当時のロンドン風味をたっぷりに描く前半部こそ魅力的で、次への展開が非常に楽しみなワクワク感も大きいのだが、物語の背景が明らかになっていきエジプトの邪教やら巨大な地下ピラミッドやらの様々な要素が現われる後半になると、別にホームズじゃなくてもいいただの“ちびっ子アドベンチャー”になってしまうのは惜しい。「あれも、これも」と欲張った結果にホームズが押しつぶされる形に。
それでも80年代のちびっ子アドベンチャーにしては扱う事件が陰惨で、何の救いもない結末は特異で、20年以上経った今でもなんとなく心の隅に残り続ける一本に。

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公開当時は「全然魅力的じゃない!」と叩かれたホームズ役のニコラス・ロウだが、その顔の中央にラージヒルの様に伸びた鼻筋が、なんかレノン家っぽくてよい。クセのある顔なのでホームズのようなメジャーを演じるには荷が重かったのかも知れないが、個人的には嫌いじゃない顔。これっきり観てないなぁと油断してたら、『ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』で発見しビックリする羽目に。
ニコラス・ロウを始め、若いんだけどお爺ちゃんみたいなワトソン、強烈な向かい風を受けているマリアンの様なヒロインと、揃いも揃って個性的な顔ぶれのキャスティングも印象に強い。邪教の信者が全員ピート・ポスルスウェイトに見えたのは私だけですか?

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このCGでも腰を抜かした良い時代

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2006年07月22日

ユナイテッド93 (United 93)

監督 ポール・グリーングラス 出演 ハリド・アブダラ
2006年 アメリカ映画 91分 ドラマ 採点★★★★★

1940年代、アメリカのジレンマはピークに達していたと思われる。国際社会において地位と発言力を高める方法の一つとして“戦勝国”になることが挙げられるが、ヨーロッパの戦争であった第一次世界大戦に参戦できず、二流の田舎国と目されていたからだ。そして、ヨーロッパとアジア大陸が主戦場となった第二次世界大戦も、自国が関係するわけでもなく指をくわえて眺めざるを得ない状況の中、“西欧列強からのアジアの解放”を名目にアジアへの進出を進めていた日本軍が、フランス領インドシナへ到達。それに対しアメリカは激しく抗議し、石油の全面的輸出禁止措置をとる。これに対し外交的解決を求めた日本であったが、アメリカは拒否。後に「バチカンやルクセンブルグのような小国であっても、大国アメリカに宣戦布告せざるを得ない」とまで言わしめた、戦わずして無条件全面降伏を求めるのと同様の内容である“ハルノート”を突きつけてくる。日本は真珠湾へ船を進めることとなる。真珠湾攻撃の作戦開始時刻ぎりぎりまで外交的解決を求め続けた日本であったが、その望みは叶えられる事はなかった。“あらかじめ奇襲攻撃があることを知っていた”とさえ言われるほど都合よく老朽船ばかり停泊していた真珠湾に攻撃を受けたアメリカは、胸を張って第二次世界大戦へと参戦することとなる。

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第二次世界大戦後の世界情勢は、“民主主義VS共産主義”という対立構図を描くこととなる。日本軍による進軍後、次々と欧米植民地支配からアジア各国が独立を果たす中、もともとはフランス領であったインドシナ北部にホー・チ・ミンが共産主義国家“ベトナム民主共和国(北ベトナム)”を立ち上げ、それを認めないフランスは南部にコーチシナ共和国(南ベトナム)を成立させる。双方が争う第一次インドシナ戦争終結後も、アメリカはアジアにおける共産主義の拡大を防ぐため南ベトナムを全面的に支援。軍事介入はしたものの、直接的に戦争を開始する理由が見当たらず、ベトナムからの撤退を考えていたケネディ大統領が、1963年暗殺。翌1964年、ベトナムのトンキン湾に停泊していたアメリカの駆逐艦が北ベトナム軍の魚雷攻撃を受ける。この事件が北ベトナムからの宣戦布告と認められ、ベトナム戦争が開始される。しかし後に、当時の国防長官ロバート・マクナマラの告白によって、この事件自体がアメリカによる自作自演であることが判明する

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明確な敵国が存在する、もしくは戦争状態にある場合は、国民の目を国内の問題ではなく国外へと向けさせることが容易である。また、“戦時下”にある緊張感の下では、多少の無茶も通りやすい。つまりトップが支配しやすい環境にあるわけだ。しかしそんな中、1991年のソビエト連邦の崩壊によって、“民主主義VS共産主義”の対立構図も崩壊。新たな敵を模索するアメリカは、アフリカ・中近東へと介入をするが、明確な敵が存在しないまま21世紀を迎える。そして2001年9月11日早朝、通信不能に陥りハイジャックされたと目されたアメリカン航空11便が管制塔のレーダーから消えうせる。場所はニューヨーク。同時刻、ニューヨーク貿易センタービル北棟に航空機が激突。その頃、ユナイテッド航空175便も通信不能状態となる。管制塔が混乱に陥る中、今度は貿易センタービル南棟に航空機が激突する。「アメリカが攻撃をされている」そんな衝撃が走る中、同じく通信不能となっていたアメリカン航空77便が、アメリカ国防総省本庁舎(ペンタゴン)に激突。そして、もう一機ユナイテッド航空93便が航路を大きく変えワシントン方面へと向かっていた…。

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前置きが大分長くなってしまったが、『ユナイテッド93』に対するレビューを書く前に、この痛ましすぎる事件の背景とそこに到るまでの経緯に怒りと不信を大きく感じたので、筆を暴走させていただいた。
『ブラディ・サンデー』『ボーン・スプレマシー』のポール・グリーングラスによるこの作品は、綿密な調査を基に“その時何が起こっていたのか?”を再現する。乗客に無名の俳優を配し、管制塔スタッフに実際その場にいた本人を使うことによって、凄まじいリアリティを生み出している。しかし、リアリティに頼るだけではなく、登場人物の意味はないが日常的な会話を随所に入れることで登場人物に“知っている誰か”という顔を持たせ、誰も想像だにしていなかった悲劇に向け刻一刻と進んでいくサスペンス、そして誰もそれを止められない無力感は、不謹慎な言い方をさせてもらえば傑作パニック映画としても完成させられている。
刻一刻と事態が悪化するも、状況が把握できず混乱に陥りながらも事態の収拾に奔走する地上スタッフの描写は秀逸。徹底的に再現を試みたドキュメンタリータッチでありながらも説明的かつドライにならず、映画的醍醐味も存分に感じることが出来る。ドラマチックな演出も控えているため、最悪の事態を防ぐことの出来なかった喪失感や悲しみ、恐怖がなんのフィルターも通さず直接観客に伝わり、胸がもの凄く苦しくなる。
通信記録以外機内の状況を伝える証拠がないため、機内でのドラマのほとんどが想像によるものである。その為、この作られた部分も“事実”であるとして世に送り出されることには多少ならずとも違和感を感じるのだが、この“作られたドラマ”にこそ、観客に訴えたいメッセージが込められている。

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画質も荒く、ブレ続ける手持ちカメラによる映像は、あたかも自分までもが機内にいるような錯覚を感じさせる。そして乗客が感じたであろう恐怖と悲しみと絶望感の追体験を、我々観客に強いる。乗客の頭越しに見える景色がどんどん地上に近づいていく恐怖と絶望を。唯一違うのは、劇場内が明るくなった時、私たちは生きているということだけだ。絶望と恐怖の中でも家族に対する愛を忘れず、これ以上命を失わせまいと乗っ取り犯に立ち向かう勇気を描くクライマックスだが、この作品が訴えかけるメッセージはこれだけではない。
この事件以降、“テロリスト=悪”という単純構造で世界情勢が語られるようになってしまった。しかし、“テロ=悪”という単純な理由付けでは、この作品も含め、この事件に到るまでの経緯、そして今後も続くであろう恐怖に対して理解は出来ないであろう。この作品における乗っ取り犯の描写は、非常に人間的だ。愛する者に愛の言葉を遺し、乗客同様恐怖し絶望する姿は、我々となんら変わりない。そんな我々と変わらない“普通の人々”が、こんな大罪を背負わざる得なくなるまで、何が彼らを追い詰めたのかを真剣に考え、向き合うことが、これからの世界を少しでも良いものにするための第一歩であると伝えているのではないだろうか?
絶望の中、乗客と乗っ取り犯が祈っている神は、名前こそ違えど、同じ神なのだ。

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そして、その後。
アメリカはこの事件の首謀者をビン・ラディン率いるアルカイーダと断定。アフガニスタンの政権であるタリバンがアルカイーダを匿っているとし、アフガニスタンに対し空爆を開始する。この事件を機に、50%を割っていたブッシュ大統領の支持率が90%にまで急騰。見つかることの方が都合が悪いのではないかとさえ思えるほど一向に見つかる気配のないビンラディンをよそに、いつの間にかすり替えと目くらましと嘘に塗り固められたイラク戦争が勃発。サダム・フセインを捕らえたことで、同時多発テロ・アフガン空爆・イラク戦争で命を落とした膨大な数の人々と遺族の悲しみをよそに、事態を収束させようとさえしている気配を感じる。
“詳細な情報を事前に掴んでいたのでは?”とも言われるこの事件。事実が明らかになることはないのだろうが、国の思惑によって失われるのは、本来最優先に守らねばならぬ国民の命であることが、痛ましくて仕方がない。

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利用させてはならない

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2006年05月14日

遊星からの物体X (John Carpenter's The Thing)

監督 ジョン・カーペンター 主演 カート・ラッセル
1982年 アメリカ映画 109分 ホラー 採点★★★★

うちの両親は旅行好きで、小学生だった私をほっぽいてどっかに行ってることも。何時になっても戻ってこないので兄に聞いてみると、「ハワイに行ったよ」なんてこともしばしば。置いてけぼりをくらってふくれっ面の息子に多少負い目を感じるのか、海外の映画雑誌を土産にたんまりと買ってきてくれていましたが、何故か大抵ファンゴリア(ホラー映画専門誌)。
全然ハワイっぽくない。どんな息子だと思ってたんだか。『遊星からの物体X』特集なんてされてた号にゃ、震え上がらせてもらいましたよ

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南極。10万年前に飛来したと思われる円盤が、ノルウェーの観測隊によって発見される。しかし中に潜んでいた物体により観測隊は全滅。その物体は体液を媒体として他の生命体を完全に吸収・擬態化するのであった。やがてその物体は犬の姿を借りアメリカ観測基地に侵入。誰が人間で誰が物体か疑心暗鬼に陥ってしまう。

thing4.jpgどうやらこの年は、南極で犬が大変な目に遭う映画が流行っていたようで。
胸が裂け、全身から無数の触手が飛び出し、反転した首から足が生えクモの如く動き回る。この人体破壊の極北かの特殊効果ばかりが注目されがちな作品であるが、作品における恐怖をカーペンターはそこに描いてはいない。「あなたの想像力が、あなたの限界になる」と語るカーペンターは、『ザ・フォッグ』や『マウス・オブ・マッドネス』のように観客の想像力を侵害させぬよう、モンスターをはっきりと画面に現さないのだが、本作ではかなりはっきりとモンスターが映される。しかし、画面に現れるどんな形態にも変身でき、全ての部分が独自の生命を持つ凄まじいモンスター達でさえ、真の恐怖に到達する途中経過でしかない。全てが映されているわけではないのだ。カーペンターは観客に見えない部分、“誰が完全に取り込まれてしまったのか?”“この生命体が外の世界に逃れたらどうなってしまうのか?”という部分に恐怖を演出している。疑心暗鬼に陥った隊員たちによるサスペンス描写の秀逸さや、不気味な余韻を残すエンディングに比べ、本来クライマックスであるべき巨大モンスターとの対決がダイナマイト一本で終わるあっけなさからも、カーペンターが描きたいものがハッキリと分かるはず。

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女性キャラクターの描き方があまり上手とは言えないカーペンターだが、本作には女性が一人も出ていないので安心。“観測隊”という割には、学者めいた人物もいなければ仕事をしている様子も伺えないので、雰囲気的には孤立した刑務所および流刑所な感じなのでみんなアウトローにも見える。珍しく大御所に音楽を担当させているものの、結果的にいつもの「ベンベン♪」。“孤立無援”“アウトロー”“手前を急に何かが横切る”“ベンベン♪”と、『要塞警察』から脈々と続くカーペンター節が随所に効果的に染み渡っているので、カーペンター入門編としてもオススメ。
エンディングに「息が白くない方が物体だ!」と、カワイイ噂もまことしやかに囁かれたのもいい思い出で。よく見ると、どっちも息白いんですけどね。

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まだまだ序の口

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posted by たお at 04:20 | Comment(10) | TrackBack(5) | 前にも観たアレ■や行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月05日

Uボート 最後の決断 (In Enemy Hands)

監督 トニー・ギグリオ 主演 ウィリアム・H・メイシー
2004年 アメリカ映画 98分 戦争 採点★★

捨て犬の瞳を持つ”メイシーが主演である。『ファーゴ』では、計画した妻誘拐計画が手におえない事態となりオロオロするばかりの婿養子を、『ブギーナイツ』では、目の前で平気で妻に浮気をされるダメ亭主を好演したメイシー。それが主演である。それも、男汁満載の潜水艦映画の。大丈夫か?

大丈夫だった。機関長を演じるメイシーは、艦長と船員の間をいったりきたりの見事な中間管理職。自分の半分くらいの年の若造艦長(ジェームズ・カーンの息子!)の無謀な計画にも苦笑いを浮かべ、たまに助言を求められて発言しても、その意見はあっさりスルー。そんな中、彼らの乗る潜水艦ソードフィッシュは撃沈。ドイツ軍潜水艦Uボートに捕虜とされる。そのUボート内では、アメリカ兵が持ち込んだ伝染病が猛威を振るい、次々と死者が。本国ドイツに戻ることも難しくなった時、Uボート艦長は愛国心を持つ死か、愛国心を捨てた生還かの決断をすることとなる。

ストーリーを読む限りでは、ドイツ軍艦長が主役のような気がしてきたが、一応メイシー主演で。使いまわし映像満載の低予算作品だが、ストーリーと役者に救われてなんとか観れる映画になってる。特に、Uボート艦長役のティル・シュヴァイガーは相変らずカッコよく、立っているだけでサマになる。ものすごく古臭い演出や、アメリカ兵が原因の伝染病なのにドイツ兵ばかり死んじゃうのが気になるが、おおらかな気持ちで観ればソコソコ面白いかも。

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戦争映画とは思えぬ面構えの皆様方

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タグ:★★ 戦争
posted by たお at 15:31 | Comment(1) | TrackBack(4) | 前にも観たアレ■や行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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