2012年12月13日

ハングリー・ラビット (Seeking Justice)

監督 ロジャー・ドナルドソン 主演 ニコラス・ケイジ
2011年 アメリカ映画 105分 サスペンス 採点★★

犯罪の目的を達成し尚且つ警察から完全に逃げおおせることって、下手な堅気の仕事よりも難しいと思うんですよねぇ。短期的に見れば犯罪で稼ぐ方が早そうですけど、トータルで見たら案外地道に働いてた方が稼げそう。まぁ、そんな難しいことに易々と手を出すような輩だから、あっさり捕まっちゃうんでしょうけど。

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【ストーリー】
平穏で幸せな生活を送っていた高校教師のウィルと、音楽家の妻ローラ。しかし、ある晩ローラが何者かによって暴行され重傷を負ってしまう。そんな中、怒りと悲しみに暮れるウィルのもとにサイモンと名乗る謎の男が近づき、妻をそんな目に遭わせた犯人を代わりに殺す代理殺人の契約を持ちかけてくる。それを承諾したウィルは程なく犯人が死んだことを知り安堵するが、やがてサイモンからある男の殺人依頼が舞い込み…。

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闇の私刑組織に立ち向かう平凡な男の姿を描いた、『リクルート』のロジャー・ドナルドソンによるサスペンス・アクション。製作者に『カラー・オブ・ハート』のトビー・マグワイアの名も。
代理殺人を依頼してしまった男に待ちうける運命を描くにしても、警察内部にまで入り込む巨大闇組織に立ち向かう男の物語を描くにしても、いくらでも盛り上がりそうな題材の本作。ところがこれが、まぁ盛り上がらない。脚本のお粗末さとプロットの弱さが全てを台無しに。
顕著なのが、ちょっとした恩義と後ろめたさを共有して結束を高める、なんか『シャドー』みたいな組織の描写。犯罪によって家族を失ったり街の腐敗に心を痛める善意の集団ではあるのだが、所詮素人が嫌々殺人をする“やらされてます感”がハンパじゃないので、機密保守の面でも組織存続の面でも説得力が余りに脆弱。カルト集団のような盲信している者に対する怖さが無い。ある意味唯一の特色である組織の描写がこんなんなので、あとはもう都合の良い展開とありきたりの描写が連続する、ちょいと残念な“よくある一本”に。
これで上位部署の人間が暴走する支部長にドギツイ説教をする“組織色”の強い締め括りでもすれば独特の味わいが残ったんでしょうけど、なんだかんだと銃が事態を制してしまういつもの展開に肩透かし感も大きかったなぁと。

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高校教師のウィルに扮するのは、『ドライブ・アングリー』のニコラス・ケイジ。“普通の人”を演じたかった時期なのか、『ブレイクアウト』に続いて普通の中年男に扮しているんですが、まぁ大まかに見れば多少の無理をも押し通すいつものニコケイ。オーバーアクションと一般人役との相性は悪かったんですけど、嘘をついてる挙動不審っぷりだけは見事だったなぁと。
一方、謎の男サイモンサイモンに扮したのは、『プロメテウス』『ザ・ロード』のガイ・ピアース。一瞬人当たりが良さそうなのだが、知れば知るほど底意地の悪さが露呈する役柄を抜群の卑しさで好演。これで妻役である『アンノウン』『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』のジャニュアリー・ジョーンズがそれに同調すれば最高だったんですけど、ただ単に綺麗な奥さんってだけの役柄になんともガッカリ。もったいない使い方。
その他、『28週後...』のハロルド・ペリノーや、まだまだ悪魔が抜けきってない感じだった『エミリー・ローズ』のジェニファー・カーペンター、“ウォーキング・デッド”シリーズのアイアン・シングルトンらがキャスティング。中でも『ファースター 怒りの銃弾』のザンダー・バークレイの飄々とした公務員臭は良かったなぁと。

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ここは逆だった方が良かったのかも

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posted by たお at 12:59 | Comment(4) | TrackBack(15) | 前にも観たアレ■は行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年11月27日

ビッグ・ボーイズ しあわせの鳥を探して (The Big Year)

監督 デヴィッド・フランケル 主演 ジャック・ブラック
2011年 アメリカ映画 100分 コメディ 採点★★★

「趣味は?」と聞かれればとりあえず「映画です!」と答えるようにはしてるんですけど、そもそも“趣味”ってなんですかねぇ?“三食とばしてもやりたい事”となるとここではちょっと言えない上に、それを“趣味”と断言できるのはマイケル・ダグラスくらいなものを真っ先に浮かんじゃいますし、“金も時間も惜しまない”となると映画って作らない限りはそんなに金も掛からない。“興味のない人にとっては退屈極まりない”となるとちょっと当てはまる気もしますが、元々が娯楽なんで気が狂うほど退屈することもないのかなぁと。となると、やっぱり私にとっての映画は“習慣”でしかないのかなぁと思ってもみましたが、個人的には全然平気な“セガール24時間マラソン”なんかは興味のない人にとっては苦痛以外の何物でもないでしょうから、やっぱり映画は“趣味”で。決して“セガール”が趣味ではなく

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【ストーリー】
1年を通して行われる世界最大の探鳥コンテスト“ビッグ・イヤー”。全米の鳥愛好家が集まる中に、大企業の社長の座を退き第二の人生を鳥探しに打ち込みたいステュ、探鳥にのめり込むあまり仕事も恋愛も上手く行かず、30歳を過ぎても親の世話になっているブラッド、家庭を顧みず探鳥に打ち込むあまり離婚を繰り返す最高記録保持者のケニーら三人の姿も。この一年を通し、彼らはそれぞれ人生の岐路に立たされていき…。

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全てを擲ち探鳥に没頭する男たちの姿と、様々な形で彼らを支えまたは巻き込まれる家族の姿を描いた、ロードムービー的な味わいもある人情喜劇。メガホンを握ったのは、オーウェン・ウィルソンとは『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと』でタッグ済みのデヴィッド・フランケル。
仕事と趣味の狭間に立ち今後の方向を悩むステュ、何事も長続きしない生き様を父親に否定されながらも、この趣味こそが自分にとって本物だと確信している中年男ブラッド、妻を愛しながらも家庭と趣味を常に天秤にかけ、常に趣味が圧勝してしまうケニー。情熱も目的の為には手段を問わぬ様も然程変わらぬ三人が、ちょっとした(でも重要な)ターニングポイントでの選択で大きく人生を変えていく様を描いた本作。「やっぱ家族だよね!」といった心のこもっていない着地点ではなく、それぞれの人生にとって最も丁度良い折り合い点を見出す展開は好印象。約一名ほど一般的な幸せからは程遠いポイントに辿り着いちゃう方もいますが、彼自身も不本意でしょうけど、あそこが彼にとって最も丁度良い折り合い点なのかと。
ただ、ちょいと手堅過ぎるかなぁとも。ホンワリとした余韻で終わる本作のような小品はこれくらいの手堅さで問題はないんですけど、365日という時間と大陸を股にかけている割にはメリハリが無い気も。同じ様な手堅さを売りにするフランク・オズなんかだったら、季節毎のイベントを上手く利用してもうちょっと風情や情緒ってのを出したのかも

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ザ・マペッツ』のジャック・ブラックを中心に置き、『ミッドナイト・イン・パリ』のオーウェン・ウィルソンと『ピンクパンサー2』のスティーヴ・マーティンが絡み合うアンサンブルが楽しめる本作。精神年齢がさっぱり実年齢に追い付かないダメ人間の典型でもあるジャック・ブラックが、その反面愛する物事に対する無垢なまでの真摯さを見せる好演も、ちょいとイジワルなオーウェンも見応え十分でしたが、下手をすれば大人子供がギャースカ騒ぐだけの作品になりそうな所にしっとりとしたペーソスを漂わせて締めたスティーヴ・マーティンが見事。狂気を孕んだ笑いの破壊神としてのスティーヴ・マーティンも大好きですけど、ふと寂しさをよぎらせる本作のような彼も大好き。
ただ、本作で最も嬉しいのは、「これでもかっ!」ってほど好みの役者が勢ぞろいしてたってこと。保守の塊のような父親に扮した『ランボー』のブライアン・デネヒーを筆頭に、“可愛いオバサン”の代表格である『ロストボーイ』のダイアン・ウィースト、『50/50 フィフティ・フィフティ』のアンジェリカ・ヒューストン、『40男のバージンロード』のラシダ・ジョーンズ、劇映画で見るのはお久しぶりな『ポルターガイスト』のジョベス・ウィリアムズ、「醒めきってます」ってのが見た目で分かる『タイタンの逆襲』のロザムンド・パイクと、ちょっと中心に絡むだけでもこの面子。
それだけじゃ済まないのが本作で、冒頭のナレーションを『地球が静止する日』のジョン・クリーズがやってたかと思えば、『トランスフォーマー』のアンソニー・アンダーソンや『メジャーリーグ』のコービン・バーンセンが顔を出し、『インクレディブル・ハルク』のティム・ブレイク・ネルソンに『コップ・アウト 刑事(デカ)した奴ら』のケヴィン・ポラックらも忘れた頃にやって来る。そしてトドメがウィルソン兄弟映画の隠れキャラ、『ローラーガールズ・ダイアリー』のアンドリュー兄ちゃんが結構な割合で顔を出す、劇中の鳥を数えるよりも何かと忙しい作品に。いやぁ、この顔ぶれを一気に見れたのは嬉しい。

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家族と趣味を共有できるってのが一番の幸せなのかも

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posted by たお at 21:16 | Comment(6) | TrackBack(10) | 前にも観たアレ■は行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年10月29日

ハロウィン (John Carpenter's Halloween)

監督 ジョン・カーペンター 主演 ドナルド・プレザンス
1978年 アメリカ映画 91分 ホラー 採点★★★★★

ハイカラさんがいっぱい住んでる都市部ではどうか知りませんが、田舎のこの辺ではまだまだイベントとして定着していないハロウィン。死人絡みのイベントであればお盆の圧勝。ただまぁ、全国チェーン店の品揃えがそうなってしまうからか、なんでもかんでもカボチャ味になる時期としては定着したのかと。まぁ、位置付け的にはちょっと前倒しの冬至って感じですけど。

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【ストーリー】
まだ6歳だった15年前に実の姉を惨殺したマイケル・マイヤーズが精神病院から脱走。主治医のルーミス医師がその後を追い、マイケルの故郷ハドンフィールドに辿り着く。その頃、真面目な女学生ローリーは不気味なマスクを被った男の姿を目撃し…。

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ザ・ウォード/監禁病棟』のジョン・カーペンターの出世作であり、80年代スラッシャーホラーブームの火付け役ともなった傑作ホラー。主演は本作以降『ニューヨーク1997』『パラダイム』でカーペンター作品の顔ともなるドナルド・プレザンス、実質的な主人公にはその出自から“醜いアヒルの子”と揶揄されるも、『大逆転』でチャーミングな女性へと驚きの変貌を果たしブレイクしたジェイミー・リー・カーティスがキャスティング。
直接的なゴア描写は皆無で、血糊も極々僅か。本作のヒット以降、雨後の竹の子の如く発生したスラッシャーホラーがスプラッター描写を激化させていったのだが、その先駆けとなったこの作品にはそういった描写は見当たらない。ぶちまけられる臓物を観たければ、本作に手を伸ばさない方が良いだろう。ただ、この作品には雑多なホラーでは味わう事の出来ない、冷たく鋭利で美しさすら感じられる恐怖が満載。鈍器で殴られるのではなく、鋭く研ぎ澄まされた細身のナイフか、尖った針が深くゆっくりと刺し込まれていくかのような恐怖。キンキンとした怖さと言うか。
本作に感じる恐怖と美しさを際立たせる、カーペンターによるテーマ曲も秀逸。「ベンベンばっか!」と言われるカーペンターのスコアだが、シャープでスピーディな中にじわじわと不穏が混じってくるなんとも素晴らしい出来。その筋には疎いのでアレなんですが、現代テクノアーティストの中にはカーペンターに絶大な影響を受けた人が何人かはいるのでは。絶対いるはず。

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本作の顔は、やはり何と言ってもマイケル・マイヤーズ。そのマスクを見れば、元ネタであるウィリアム・シャトナーのことは思い出せなくても、本作のマイケル・マイヤーズのことは思い出せるはず。
そのマイケル・マイヤーズ。ルーツもはっきりしている、実存する殺人鬼。つまりは人間。ルーミスのパートとローリーのパートの大きく分けて二つの物語からなる本作だが、少なくてもルーミスのパートではマイケルは人間である。我々観客の日常とリンクする、現実的な恐怖としてマイケルが君臨している。
しかし、ローリーのパートになるとその様相は一変する。男性に対し臆病で、興味や異性に対する一種の願望は持っているが行動するまでは至らないローリーの前にマイケルは現れるが、ローリー以外の誰もその存在に気付かない。気付く時は死ぬ時のみ。生活感の感じられない冷めきった住宅街の様子も相まって、このパートはどこか幻想的な幽霊譚のようだ。事実人が殺されているのだからマイケルは存在する筈なのだが、まるでマイケルはローリーの男性に対する恐怖感が具象化した幻かのような存在感。
この現実と幻想を隔てる線上の、互いに混じり滲んだ場所に立ってるのが本作。それが同時にスクリーンの向こう側とこちら側の境界線が曖昧になることを意味し、向こう側が迫ってくる、うっかり向こう側に足を踏み入れてしまったかのような怖さを味わえる結果に。
後にシリーズ化されリメイクもされたが、因果関係が明確になっていく違った面白さこそあれど、知らない内に恐怖が後ろに立っているかのような感覚的な怖さを味わえるのは、やっぱり本作だけだなぁと。因みに、アメリカでTV放映された際にカットされた残酷描写の代わりに加えられたシーンを増量した“エクステンデッド版”なるものもありますが、カーペンターの作品は「劇場公開版こそディレクターズ・カット版だ!(本人談)」なので、そっちは興味があったらって程度に。

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見えたら“純粋”ってことで

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2012年10月22日

フェイシズ (Faces in the Crowd)

監督 ジュリアン・マニャ 主演 ミラ・ジョヴォヴィッチ
2011年 アメリカ/フランス/カナダ/イギリス映画 103分 サスペンス 採点★★

同じ人に2回自己紹介してしまうほど、人の名前と顔を覚えるのがイマイチ苦手な私。「○○さんってさぁ〜」みたいな話題に混じってる時も、その○○さんが誰なのか分かり切っていない事も多々。そんなんだから、合同会議など大勢の人が集まる場では「あぁ、どーもー」とどっちにでも取れる挨拶しかしない私でしたとさ。

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【ストーリー】
ニューヨーク中を震撼させていた連続殺人鬼“涙のジャック”の犯行現場を目撃してしまい、犯人からの襲撃を辛くも逃れた女性教師アンナ。しかし、彼女はそのショックから人の顔を認識できない相貌失認となってしまう。恋人も親友も自分の顔すら認識できない彼女は、犯人が隣に居ても気付かないという恐怖に陥り…。

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主演である『バイオハザード IV アフターライフ』のミラ・ジョヴォヴィッチも含め製作者が21人もいる上に、セガール作品でもお馴染のヴォルテージ・ピクチャーズも一噛みしてるってのが不安を煽る、『ブラディ・マロリー』のジュリアン・マニャによるサスペンス。
やや力技ながらも、顔の判別が出来ないので個人を識別できない“相貌失認”って仕掛けが目新しい本作。キャラクターの顔がシーンの度にコロコロと変わるってのも、その演出方法としては面白い。ふとデヴィッド・ボウイのPV“サーズデイズ・チャイルド”を思い起こさせるシーンもありましたし。
ただまぁ、「犯人の顔が分からない!怖いー!」にしたいのか「顔だけじゃ愛は生まれないわ!」にしたいのか、その顔同様に物語までもがぼやけちゃうのはどうかと。みんな同じ顔に見えるってのは始めのうちこそサスペンスの盛り上がりに貢献してるが、余りにワンパターンなので中盤以降みるみる飽きてきますから。主人公視点だけではなく、主人公以外は全員犯人の顔が分かっている客観的な視点もあった方が良かったのかなぁと。そもそも犯人探しは然程難しくはないんですし。
ウォーキング・デッド”でお馴染のサラ・ウェイン・キャリーズや、『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』のジュリアン・マクマホン、大体話題に“ミック・ジャガーの〜”ってのが付いてくるマリアンヌ・フェイスフルらもキャスティングされるも、コロコロ顔の変わる印象の薄い扱いなので、ミラジョヴォのことしか印象に残らない、ある意味いつものミラジョヴォ映画で。リックの嫁が出ていたなんで、これを書いてて今気付きましたし。

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相手の方から「お久しぶりです!」とか言ってくれるの待ち

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posted by たお at 12:25 | Comment(0) | TrackBack(11) | 前にも観たアレ■は行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年10月13日

ピンチ・シッター (The Sitter)

監督 デヴィッド・ゴードン・グリーン 主演 ジョナ・ヒル
2011年 アメリカ映画 87分 コメディ 採点★★★★

外国の物語なんで当たり前なんですが、映画を観ていると「ヘェ!日本とは違うんだね!」と驚かされることが多いですよねぇ。“ベビーシッター”もまさにそうで、若者のアルバイトの定番として定着している事にも、子供を置いて親が出掛けるってことにも驚かされるもので。“子供がいても自分たちの時間を大切にする”って考え方の違いもあるんでしょうが、基本知らない人が集まっている郊外族特有の「知らない人怖い!」ってのから一歩進んで、「知り合いになれば怖くない!」って考え方が根底にあるんでしょうかねぇ。

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【ストーリー】
大学中退後、まともな職にも就かずぶらぶらしていたノア。そんなある日、母親の知人宅で子供達の世話をするベビーシッターを頼まれ渋々引き受けることに。しかしその子供達はそれぞれ大きな問題を抱える問題児で、次々とトラブルが降りかかってきた挙句にドラッグディーラーに追われる羽目となり…。

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『スモーキング・ハイ』のデヴィッド・ゴードン・グリーンによるコメディ。主演のジョナ・ヒルが製作総指揮も務めている。
子供相手にてんてこ舞い”っていう、コメディの中でもよくあるタイプの一本。“笑えるか/笑えないか”のみがコメディ映画の指針ならば充分過ぎるほど及第点の本作。「あ〜笑った笑った!」で済ませるのも良いが、それだけではない面白さにも溢れている一本でも。
問題児のベビーシッターをしていたら、あれよあれよとドラッグディーラーに追われる羽目となる本作。そのイベントの中心となるディーラー絡みに関しては、“父親との決別”や強烈なしっぺ返しという意味合いを持たせているとは言え、問題解決の方法を概ね犯罪行為に頼ってしまっているし、掛けた迷惑は投げっ放しってのには大いに首を傾げてしまうのだが、本筋である“子供達/自分の成長及び悩み解決”に対しては真摯かつ素直な素晴らしい姿勢で向き合っている。特に、一家中一番の問題児である養子の子が抱える悩みに対して、所詮他人である主人公が偉そうなことを言って解決を図るのではなく、家族同士が自然と向き合う道筋を提示するだけに留め、家族間で解決させる姿勢も見事。
また、ベビーシッターをせざる得ない動機付けが“母親のため”ってのも好印象な本作。なんだかんだと母親に苦労を掛けてしまっていることを自覚し、言葉には出さないが母親の事を一番気にかけている“基本的には良い子”ってのをこの動機付けで明確にしているので、経験を通して人格が激変するのではなく、元々持っていた素質が良い方向に磨かれていくというスムーズな物語展開を成し得ているのも上手いなぁと。出だしから下ネタで幕を開けるだけに「キーッ!下品ざます!」と敬遠されてしまう可能性もあるが、そこまで過敏じゃない方であれば楽しめる一本なのでは。

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主人公のノアに扮したのは、『マネーボール』『伝説のロックスター再生計画!』のジョナ・ヒル。彼女が自分を愛していない事も、そもそも“彼女”なんかじゃないことも、今のままの状況では誰のためにも良くない事も十分解っているが、いま一歩踏み出す勇気のないノア。ただのダメ人間なんかではなく、社交性もあり他者にも好かれる人格ながらも、抱え込んでいる悩みを自分で上手く対処出来ない故にニートとして過ごすノアを、コメディアンとしてのみならず実力を備えた演技者としても活躍するジョナ・ヒルが見事に好演。一枚看板の作品を初めて観たが、ピンでも全然イケる存在感が圧巻。本作以降随分と痩せてしまったようですが、太ってたら太ってたで心配だけど、痩せたら痩せたで面白味も減っちゃうんじゃないかとついつい心配しちゃうのは、まぁファンの我儘ってことで。
一方、そのノアらを追うドラッグディーラー役には、『カウボーイ&エイリアン』『月に囚われた男』のサム・ロックウェルが。半裸のマッチョをはべらかし、「友達だと思ってたのにー!」半ベソで主人公らを追い回すこんな役柄がハマるのは、クリストファー・ウォーケンとジョン・マルコヴィッチとサム・ロックウェルくらいなんじゃないのかと
その他、ちょいとふっくらしたエドワード・ファーロングみたいな色気にはちゃんと理由があった『かいじゅうたちのいるところ』のマックス・レコーズや、メル・ギブソンの『キック・オーバー』も控えている爆弾小僧のケヴィン・ヘルナンデスら子役らも魅力的な一本で。

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要約すれば“ママ大好き!”って一本

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2012年10月06日

ブレイクアウト (Trespass)

監督 ジョエル・シューマカー 主演 ニコラス・ケイジ
2011年 アメリカ映画 91分 サスペンス 採点★★

家族や命ってのを別にすると、“絶対に奪われたくない物”ってのは案外ないもんですねぇ。そりゃぁ鉛筆一本だって盗まれれば気分も著しく悪くなりますが、気分が悪くなる以上の事は起きませんし。まぁ、お金持ちの方はちょい事情が異なるんでしょうけど。

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【ストーリー】
ダイヤモンド・ディーラーのカイル一家が住む豪邸に、突如武装強盗集団が押し入る。強盗団はカイルの妻と娘を人質に取りダイヤの入った金庫を開けるよう迫るが、カイルはそれを頑なに拒み…。

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ザ・クライアント/依頼人』『フラットライナーズ』のジョエル・シューマカーによるサスペンス。ニコラス・ケイジとニコール・キッドマンの初共演も話題に。
裕福で幸せそうな一家の裏側が、強盗事件を機に明らかになっていく様をスリリングに描いた本作。舞台と登場人物を限定したシチュエーションスリラーには正直食傷気味ではあるのだが、規模が小さくなればなるほど本領を発揮するシューマカーの手腕もあり、よく考えさえしなければそこそこ楽しめる一本に仕上がっている。
ただまぁ、やっぱり物語のお粗末さは隠しきれず。肝心の“金庫を開ける/開けない”の顛末は、一家の経済状態がひっ迫していることをオープニングから匂わせてしまってるのでさっぱり盛り上がらず、その後の展開も情緒不安定なキャラに全てを握らせてしまってるので、“何をしでかすか分からない”反面、“何をやっても驚かない後付け感”もハンパなく、やっぱりこれはこれで盛り上がらず。非常に些細なことではあるんですが、窓から家を抜けだし窓から戻って来た娘が、強盗から逃げる時だけ強盗の前を横切り玄関から逃げようとする、この細部に目が行き届いてないシーンが作品全体を象徴してしまってる気も。余韻も後日談もなく逃げ出すようにボツっと終わる本作だが、その気持ちも分からないでもない一本で。

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一家の長カイルに扮したのは、『ドライブ・アングリー』『キック・アス』のニコラス・ケイジ。ニコケイだけが気持ちいい“ニコケイ映画”じゃなかったせいか、製作前に「夫役じゃなくて強盗役やりたいー!ダメ?じゃ、降りるー!」と降板するも、「やっぱ夫役でいいよー!出るー!」と駄々をこねたことも話題に。今ではエキセントリックと(私の中では)同意語のニコケイ仕事は控えめに演技派モードで挑んでましたが、別に目一杯その方向にシフトしてたわけでもないんで中途半端なニコケイ仕事って印象が。
妻のサラ役には、ニコケイとの初共演が話題となった『ウソツキは結婚のはじまり』のニコール・キッドマンが。唇を中心に下品になってしまった今のニコマンの顔立ちは苦手なんですが、観客を巧みに惑わす好演で裏側がありそうでない薄っぺらな役柄を救った実力は流石。ただまぁ、ニコケイだけならどんなダメ映画でも「ニコケイ映画だから」と妙に納得できるんですが、そこになまじ名の知れたニコマンが加わっちゃったせいか“落ち目な大物共演”という哀愁が作品に漂ってしまった感は否めず。
その他、『ダークナイト ライジング』のベン・メンデルソーンや、強盗映画としてはアレだがストーカー映画としてはある程度の筋を通す役割を果たした『パンドラム』のカム・ジガンデイ、『アイ・アム・レジェンド』のダッシュ・ミホクらが出演しているが、作品が作品なもんで特に印象には残らず。

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ある意味非常に前向きなストーカー思考

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2012年09月30日

ボーン・レガシー (The Bourne Legacy)

監督 トニー・ギルロイ 主演 ジェレミー・レナー
2012年 アメリカ映画 135分 アクション 採点★★

ボーン・アルティメイタム』で最高の幕引きを見せた“ジェイソン・ボーン”シリーズ。ただまぁ、スタジオがそう易々とヒットシリーズを手放すわけもなく、第4作目の製作を決定。しかしながら、前2作を監督したポール・グリーングラスは「もういいよぅ」と早々に離脱し、主演のマット・デイモンも「だったらボクもー」と追従。初っ端から負け戦臭ぷんぷんの本作ですけど、まぁ蓋を開けてみないと何も分かりませんから。

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【ストーリー】
ジェイソン・ボーンの存在により、極秘プログラムの“トレッドストーン計画”や“ブラックブライヤー”はおろか、最重要極秘計画“アウトカム計画”までもが暴かれようとしていた。この事態を受け、国家調査研究所のリック・バイヤーは全てのプログラムを闇に葬るべく動きだす。関係者が次々と殺されていく中、アウトカム計画の最高傑作アーロン・クロスは間一髪難を逃れる。彼は体調維持に必要な薬を求め、同じく命を狙われた研究者マルタに接近するのだが…。

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シリーズの脚本を担当したトニー・ギルロイが手掛けたオリジナルストーリーを、自身がメガホンを握り映像化したアクションサスペンス。
結論から言うと、やっぱり負け戦でした。アクションの見せ場こそ多いが、情報を手中に収めることで社会を牛耳る権力という、現実に起こってそうな上に自分の身にも降りかかりそうな怖さってのがイマイチ伝わって来ないせいか、“遺伝子操作で作られた暗殺者”“善良な人がいとも簡単に暗殺者に”などの荒唐無稽さばかりが際立ってしまった本作。なんと言うか、前作を観た後に携帯で話してると、「もしかしてこれも聞かれてるのかな?」と頭をよぎる怖さがない。また、ただただ薬が欲しいだけでそれ以外の目的は特にない主人公に物語を牽引する力は弱く、それが観ていて何となく他人事って印象を残してしまう結果に。
これでアクション演出に際立ったものがあれば救いもあるんですけど、ミサイルが迫る絶体絶命の状況だってのに、必死に狼に発信機を飲みこませようとする素っ頓狂なシークエンスや、“警察に追われる主人公に迫る最強の殺し屋”って三つ巴のチェイスシーンが単にガチャガチャしているだけでさっぱり一つにまとまっていないなど、なんとも残念なシーンばかり。アクション演出に関しては、手腕の差が如実に出てしまった結果かと。
ただまぁ、決して先の明るくなかったプロジェクトを辛うじて大作として仕上げた根性と言うか忍耐力はアッパレだなぁと。その苦労を報いるためにも、ソフト化の際は『ボーン・レガシー/苦肉の策』とサブタイトルを付けて頂きたいもので。

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主人公のアーロン・クロスに扮したのは、『アベンジャーズ』『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』のジェレミー・レナー。“戦闘のエキスパート”に扮することが多い彼だけに、この役柄に全く違和感なし。ただ違和感が無さ過ぎるせいか、どんなシーンでも「彼ならやれて当然」と思えてしまい驚きが湧かないってのに繋がっちゃったのかなぁと。
一方のリック・バイヤーに扮したのは、『インクレディブル・ハルク』のエドワード・ノートン。その見た目の若々しさの為か、エリート官僚かアナリストって感じはするがそこまで権力を握ってるようには見えないって難点が。
また、“『ボーン・アルティメイタム』の裏側で起きてたちょっとした出来事”って物語なので、『デス・レース』のジョーン・アレンや『オリエント急行殺人事件』のアルバート・フィニー、『グッドナイト&グッドラック』のデヴィッド・ストラザーンに『エンジェル ウォーズ』のスコット・グレンらも出演。まぁ、“出演”ってよりは世界観を統一するための“フッテージ”みたいな扱いでしたが。
不満も少なくない作品ではありましたが、人形のような可愛らしさとは裏腹に芯の強い内面を備えた『ラブリーボーン』『ナイロビの蜂』のレイチェル・ワイズを大スクリーンで観れたのは嬉しかったなぁと。

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やぶれかぶれ

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2012年09月28日

ヴァルハラ・ライジング (Valhalla Rising)

監督 ニコラス・ウィンディング・レフン 主演 マッツ・ミケルセン
2009年 デンマーク/イギリス映画 93分 アクション 採点★★

地元では当たり前過ぎるせいか、てっきりそれらが全国区のものだと勘違いしてる事ってありますよねぇ。何処に行ってもホヤとずんだがあると思ってたみたいに。地方食を紹介する番組なんかでそれが地元独自のものと知って驚いたりするんですが、「この地ではこういう風に食べるのが一般的なんですよぅ」とか紹介されてるのが全くの初耳だったりして、それはそれで驚いたり。

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【ストーリー】
高い戦闘能力を持つ隻眼の奴隷“ワン・アイ”。ある日、彼は自分を捕らえていた男たちを皆殺しにし、彼の世話係だった少年の奴隷アーと共に旅に出る。道中、聖地エルサレムの奪還を目指すキリスト教徒らに出会ったワン・アイらは、彼らと行動を共にするのだったが…。

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ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフンによる、北欧神話をモチーフにしたバイオレンスアクション的な何か。一言も喋らない主人公に扮したのは、『007/カジノ・ロワイヤル』『タイタンの戦い』のマッツ・ミケルセン。
“北欧神話をモチーフ”と言うか、少なくても“ヴァルハラ”についてスラスラ解説できる程度は北欧神話に慣れ親しんでいないと太刀打ちできない本作。なもんで、「“オーディン”ってアンソニー・ホプキンスだよな?」って程度の知識しかない私は下手に知ったかして「面白い!独創的!」とか言わず、正直に「変な映画!」って感想を。
確かに“殺人ロボットと少年”的な組み合わせはワクワクしましたし、キリスト教徒により土着の神々が邪神として駆逐されていく時代に怒りんぼのオーディンが立ってる様は興味深く、言わんとしてる事もボンヤリとは見えてきてるんですが、いささか創造力が炸裂し過ぎたのかイマイチ凡人にはついて行けず。正直、途中で心象描写が言わんとしてる事について考えるのを放棄しちゃいましたし。“オーディン版エル・トポ”な趣もあるが、あそこまで突き抜けてるわけでもないので、結局“作り手の頭の中では成立してた叙事詩”って印象から抜け出せず。まぁ、ある意味ローカル映画なのかなぁと。

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この土地だからこそ成立する物語

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posted by たお at 11:09 | Comment(2) | TrackBack(2) | 前にも観たアレ■は行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月25日

プロメテウス (Prometheus)

監督 リドリー・スコット 主演 ノオミ・ラパス
2012年 アメリカ/イギリス映画 124分 SF 採点★★

一時期ブームになりましたねぇ、“神々の指紋”。デニケンの焼き直しに過ぎない中身だったとは言え、「古代文明に超文明の痕跡がぁ!それはきっと宇宙人だぁ!“神”ってのは宇宙人だぁ!人類は宇宙人に作られたんだぁ!」って珍説は、読み物として面白かったなぁと。「だったらスゲェよね!」っていうオカルト物として面白いし、ワクワクもするんで大好物の類の珍説。ただ、そのぶっ飛んだ上っ面の部分は好きなんですけど、“だから人間は特別なんだ”って根っこの部分は好きになれないんですよねぇ。「それは驕り過ぎじゃね?」って感じがして。

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【ストーリー】
2089年。世界各地の遺跡から発見されたある共通の“サイン”。科学者のエリザベスはそれを地球外知的生命体からの招待状と確信し、巨大企業ウェイランド社出資のもと宇宙船プロメテウス号に乗り込み、そのサインが指し示す惑星へと飛び立つ。長い旅路の果てその惑星に辿り着いた彼女らは早速調査を開始するが、そこで待ち受けていたのは彼女らの想像を絶する存在で…。

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3D字幕版での観賞。
ロビン・フッド』のリドリー・スコットが、自身の出世作『エイリアン』と同一の世界を舞台に“人類の起源の謎”を描き出したSFホラー。デヴィッド・ガイラー&ウォルター・ヒルの“チーム・エイリアン”が製作を担当。
ギリシャ神話に登場する神“プロメーテウス”。ざっくりと掻い摘めば、人間を創造したのは良いが、神の領域へ近づく文明の鍵とも言える“火”を人間に与えてしまったのでゼウスに怒られ、永久的に内臓をハゲタカに食い破られる罰を食らった神さま。そんなプロメーテウスの逸話は、形を変え本作の随所に顔を出している。ある意味タイトルがネタバレ。
それはさて置き、人類誕生の謎を壮大な映像で描き出した本作。哲学的な風味を醸し出しながらも、“神=宇宙人”“人間=創造物”“創造物=腹からバカーッ!”と描写が直接的なのも特徴。リドリー・スコット自身が老いと共に死を意識し始めたのか、既存の宗教と科学的な裏付けが付きそうな気もする(と勘違いしそうな)“新しい神さま”の間を漂い、生と死、そして不死への願望を映しだした物語も興味深い。
“エイリアン・ゼロ”ではなく同じ世界を共有した別の作品である為、時代経過による進歩の具合や細部の合致点など『エイリアン』との辻褄合わせは多少ワンパクであるが、“リプリー”を“エリザベス”に、“ノストロモ”を“プロメテウス”に置き換えた『エイリアン』の名セリフで締め括る、ファンへの目配せも嬉しい一本。

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ただ、脚本が稚拙なのか演出力が老いたのか、はたまたその両方なのかは定かではないが、映画としては余りにデタラメ。
「招待状に違いない!」と断言する割にはその根拠がない科学者チームって自体相当アレだが、遠路遥々惑星に到着するや否やろくすっぽ状況確認もせずに地表へ「ヒャッホーィ!」と降り立ち、「あ!空気がある!」となれば全員ぱかぱかとヘルメットを脱ぎ、勝手な行動を取ってはぐれる者がいるかと思えば、片や発見した大切な遺体を爆破させる、およそ科学者とは思えぬ行動の数々に呆れるばかり。なんだ?観光客なのか?
ウェイランド社の目的もさっぱり分からない。年取って死にそうな社長の延命および不死化ってのは分かるのだが、その一方でアンドロイドは遠まわしな方法で科学者の体内にエイリアンを植え付けようとしてみたり、社長の娘は思わせぶりな顔をしているだけだったりと全てチグハグ。方針が一本化されていないダメ会社って感じ。
展開のバタバタ感も相当なものである本作。流れるような畳みかけるような展開は皆無で、ほとんどは行き当たりばったりで唐突。伏線やそれらしきものを散りばめているがそのほとんどは回収されず、ただ単に変な空気をそのシーンに漂わせて終わり。既存の“エイリアン”を極力避けたかったのか、イカ状の物体やら死体を乗っ取るタイプやら様々な種類の異生物が出てくるが、逆にそれらはひと昔もふた昔も前のSFを彷彿させてしまい、作品にどこか古臭さと安っぽさを感じさせるだけだったりも。あまりのことに「なんだ?これ実はリドリー・スコットじゃなくて、“リドリイ・スコット”とかが撮ったんじゃないのか?それか、ダメな方のポール・アンダーソンとか」と思えてきてしまうほど。3Dの効果も一部風景では功を奏しているが、大抵の部分ではリドリー・スコット特有の陰影や色彩の美しさを殺しているだけだったりも。

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そもそも、“エンジニア”と呼ばれる宇宙人の目的がさっぱり分からない。神の如き存在なのだから、我々下々の者が理解できなくて当然なのかも知れないが、それにしてもあまりに乱暴。
自らの遺伝子を基に人間を創造し、壁画を見る限り度々地球にやって来て指導もしていた割に、いざその創造物が自分を訪ねてやって来たら、挨拶もそぞろに撲殺する乱暴者。教育熱心で相談にも親身に乗ってくれた先生のもとを生徒が訪ねたら、お茶も出されず撲殺されたみたいなもの。私も確かにプライベートと仕事は分けたい方なので仕事関係者に家まで来られるのは嫌だけど、撲殺したくなるほどは嫌ではない。
なにやら地球を滅ぼしに来る途中だったらしいが、それも正直意味不明。プロメーテウスの神話に則れば“神に近づき過ぎた人間を滅ぼす”って行為は一応理に適ってるが、原子力を手にした時点なり恒星間飛行が可能となった時点ならまだしも、出発しようとしてたのが何千年も前ってんだから、ちょいと気が早過ぎないですかいと。なんかこう、ポピュラスやってて飽きてきたからハルマゲドン連発するみたいな感じ。
もともと想像力をいたく刺激した『エイリアン』のスペースジョッキーの死の謎と起源をひも解く作品になるはずが、「殺してやるからちょっと来い!」と進化した人類が呼び出される“逆2001年宇宙の旅”になってしまった事自体噴飯ものだが、それ抜きに考えても随分とアレな作品に仕上がってたなぁと。まぁ、“エイリアンの前日譚”としてはアレですけど、“リドリー・スコット版『ミッション・トゥ・マーズ』”としては楽しめた一本ではありましたが。

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根拠がなくても宇宙に飛び出す、その行動力だけはハンパないエリザベスに扮したのは、『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』のノオミ・ラパス。作品の大半を特に見せ場のない主人公として過ごすも、唐突にタフになるクライマックス以降は本領発揮できたかと。流暢なイギリス英語にも驚きましたし。
その他、SFが非常に似合う美貌だが、役柄がその美貌におんぶに抱っこしてただけだった『ヤング≒アダルト』のシャーリーズ・セロンや、ビリー・クリスタルがコントで老け役をしてるみたいだった『ザ・ロード』のガイ・ピアース、特攻船長に扮した『マイティ・ソー』のイドリス・エルバ、結局“種付け役”以外は仕事のなかったデビル』のローガン・マーシャル=グリーンに、いきなり出てきてちょっと驚いた『インシディアス』のパトリック・ウィルソンらがキャスティング。良い役者が揃っているのだが、役柄が揃いも揃って“その他大勢”みたいな感じだったので、特に印象に残らず。
ただ、そんな中でもアンドロイド“デヴィッド”に扮した『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』のマイケル・ファスベンダーは大健闘。ミステリアスとチグハグが若干混同してしまったキャラではあるが、『アラビアのロレンス』をお手本に人間勉強中なだけあって、その生々しいまでの妖しさが絶品。“愛”や“情”とは無縁のエロティシズムというか。対角線上にいたシャーリーズ・セロンと良いコントラストを生んでいただけに、彼の横に並べる男性キャラが不在だったのがなんとも残念。ブライアン・シンガーだったらその辺は抜け目なかったんだろうなぁ

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忘れられた者たちによる忘れられた昔話

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タグ:★★ SF
posted by たお at 21:08 | Comment(8) | TrackBack(50) | 前にも観たアレ■は行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月12日

50/50 フィフティ・フィフティ (50/50)

監督 ジョナサン・レヴィン 主演 ジョセフ・ゴードン=レヴィット
2011年 アメリカ映画 100分 ドラマ 採点★★★★

髪を切った女性に対しては「髪、切ったんだ?良いね!」とか「可愛いね!」とか言っておけばいいらしいんですが、あんまりにもバッサリいかれてる場合はどう声を掛ければ良いのか大いに悩みますよねぇ。「意図通りの髪型なの?」とか「大惨事になってるのを本人が一番知ってるんじゃないのか?」とか、「そもそも本当に美容院で切ったのか?」とか悩んでいるうちにどうでもよくなってきちゃって、最終的にはどんなに激変していようが気が付かない鈍感男ってポジションに落ち着いちゃうんですよねぇ。こんな時にサッと的確な言葉を掛けられる人って凄いよなぁ。

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【ストーリー】
5年後の生存率が50%と言われる癌を患ってしまった27歳のアダム。腹を括って闘病生活に挑む彼に対し、恋人を始め周囲は優しい言葉を掛けてくれるのだが、それが逆によそよそしく感じてしまう。ただ、アダムの悪友カイルだけは普段通りの無神経っぷり。そんなカイルと研修中のセラピストであるキャサリンのサポートで前向きに過ごすアダムだったが、病気が進むにつれ精神的に追い詰められていき…。

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自らの闘病経験を基に書きあげたウィル・ライザーの脚本を、親友のセス・ローゲンが製作と出演を兼任して映画化した人情喜劇。
“僕はこうやって難病を克服しました!”って物語よりは、“みんながこうやって僕を支えてくれました!”ってのを描く本作。中心に“僕”ってのが存在するが、物語を牽引するのは周囲の“みんな”。普段通りの無神経さで主人公と接する親友に、終りかけの関係を何とか持続して主人公の傍にいようとする恋人、全てが手探り状態の新米セラピストと過保護な母親。結果や影響はなんであれ、全ては主人公の事を思っての行動。僅かに違うのは、悲しみに押し潰されそうな自分の感情を押し殺してまでも無神経で居続けた親友と、同情心と“何かあった時に嫌な気分になりたくない”から看護しようとする恋人のように、相手の事を最優先に考えてたのか、自分優先なのかの違い。ただ、恋人はその言動から劇中でヒールの扱いだが、自分も含め多くの人は彼女と同じ行動を取るのではと。相手の事を思いながらも、やはり自分が一番可愛い。損得勘定の上での思いやり
本作は、そんな様々な人の姿を素直に正直に描くことで浮き彫りになる本当の意味での思いやりや優しさってのを、麻酔から二度と醒めないかも知れない不安や恐怖を描くシーンのようにあざと過ぎないさり気なさで軽い口当たりと深い心象描写を両立させながら、笑いをたんまりと含めて描き出した爽やかで前向きな一本。下手にロマンスで終結させず、新たな人生の門出を匂わせるに留めるフワっとした締め括りも見事で。

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主人公のアダムを演じたのは、『インセプション』『(500)日のサマー』のジョセフ・ゴードン=レヴィット。元々ナイーブの塊のような役柄が非常に似合う役者だけに、神経質気味で自分ルールを遵守し、現実をいまいち受け入れられずにフワフワしたアダム役がドハマり。
一方の親友カイルに扮したのが、『宇宙人ポール』『グリーン・ホーネット』のセス・ローゲン。セスがセスを演じてるようなものなのでハマってるのは当たり前とはいえ、無神経でハッパと女をこよなく愛するがさつな人物ながらも、親友の為に難しいこと抜きで全力を尽くす懐の深い役柄を好演。“友達想い”ってのを体現するのが如何に難しいのかを見事に表現。また、相手との心の距離が服の胸元の開き具合で読み取れるような感じだったセラピストに扮した、『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』のアナ・ケンドリックの人形のような頭と身体のアンバランスさが醸し出す、木の実ばっか食ってそうな小動物的魅力も忘れ難し。
その他、『ヒア アフター』同様に良かれと思った行動で相手を深く傷つける恋人に扮したブライス・ダラス・ハワードや、相変わらず大姐御臭がハンパなかった『ライフ・アクアティック』のアンジェリカ・ヒューストン、『シャギー・ドッグ』のフィリップ・ベイカー・ホールに、いつも瀕死な感じがする『ドーン・オブ・ザ・デッド』のマックス・ヘッドルームことマット・フルーワーらが共演。
あぁそう言えば、セガールの“TRUE JUSTICE”シリーズレギュラーのウィリアム・“ビッグ・スリープス”・スチュワートも、看護師役で一瞬出てましたねぇ。相変わらず強烈な面構えでしたよ。

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憂さがあっての憂さ晴らし

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posted by たお at 13:17 | Comment(4) | TrackBack(28) | 前にも観たアレ■は行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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