監督 リドリー・スコット 主演 ノオミ・ラパス
2012年 アメリカ/イギリス映画 124分 SF 採点★★
一時期ブームになりましたねぇ、“神々の指紋”。デニケンの焼き直しに過ぎない中身だったとは言え、「古代文明に超文明の痕跡がぁ!それはきっと宇宙人だぁ!“神”ってのは宇宙人だぁ!人類は宇宙人に作られたんだぁ!」って珍説は、読み物として面白かったなぁと。
「だったらスゲェよね!」っていうオカルト物として面白いし、ワクワクもするんで大好物の類の珍説。ただ、そのぶっ飛んだ上っ面の部分は好きなんですけど、“だから人間は特別なんだ”って根っこの部分は好きになれないんですよねぇ。「
それは驕り過ぎじゃね?」って感じがして。

【ストーリー】
2089年。世界各地の遺跡から発見されたある共通の“サイン”。科学者のエリザベスはそれを地球外知的生命体からの招待状と確信し、巨大企業ウェイランド社出資のもと宇宙船プロメテウス号に乗り込み、そのサインが指し示す惑星へと飛び立つ。長い旅路の果てその惑星に辿り着いた彼女らは早速調査を開始するが、そこで待ち受けていたのは彼女らの想像を絶する存在で…。

3D字幕版での観賞。
『
ロビン・フッド』のリドリー・スコットが、自身の出世作『エイリアン』と同一の世界を舞台に“人類の起源の謎”を描き出したSFホラー。デヴィッド・ガイラー&ウォルター・ヒルの“チーム・エイリアン”が製作を担当。
ギリシャ神話に登場する神“プロメーテウス”。ざっくりと掻い摘めば、
人間を創造したのは良いが、神の領域へ近づく文明の鍵とも言える“火”を人間に与えてしまったのでゼウスに怒られ、永久的に内臓をハゲタカに食い破られる罰を食らった神さま。そんなプロメーテウスの逸話は、形を変え本作の随所に顔を出している。ある意味タイトルがネタバレ。
それはさて置き、人類誕生の謎を壮大な映像で描き出した本作。哲学的な風味を醸し出しながらも、“神=宇宙人”“人間=創造物”“
創造物=腹からバカーッ!”と描写が直接的なのも特徴。リドリー・スコット自身が老いと共に死を意識し始めたのか、既存の宗教と科学的な裏付けが付きそうな気もする(と勘違いしそうな)“新しい神さま”の間を漂い、生と死、そして不死への願望を映しだした物語も興味深い。
“エイリアン・ゼロ”ではなく同じ世界を共有した別の作品である為、時代経過による進歩の具合や細部の合致点など『エイリアン』との
辻褄合わせは多少ワンパクであるが、“リプリー”を“エリザベス”に、“ノストロモ”を“プロメテウス”に置き換えた『エイリアン』の名セリフで締め括る、ファンへの目配せも嬉しい一本。

ただ、脚本が稚拙なのか演出力が老いたのか、
はたまたその両方なのかは定かではないが、映画としては余りにデタラメ。
「招待状に違いない!」と断言する割にはその根拠がない科学者チームって自体相当アレだが、遠路遥々惑星に到着するや否やろくすっぽ状況確認もせずに地表へ「ヒャッホーィ!」と降り立ち、「あ!空気がある!」となれば全員ぱかぱかとヘルメットを脱ぎ、勝手な行動を取ってはぐれる者がいるかと思えば、片や発見した大切な遺体を爆破させる、およそ科学者とは思えぬ行動の数々に呆れるばかり。
なんだ?観光客なのか?ウェイランド社の目的もさっぱり分からない。年取って死にそうな社長の延命および不死化ってのは分かるのだが、その一方でアンドロイドは
遠まわしな方法で科学者の体内にエイリアンを植え付けようとしてみたり、社長の娘は思わせぶりな顔をしているだけだったりと全てチグハグ。方針が一本化されていないダメ会社って感じ。
展開のバタバタ感も相当なものである本作。流れるような畳みかけるような展開は皆無で、ほとんどは行き当たりばったりで唐突。伏線やそれらしきものを散りばめているがそのほとんどは回収されず、ただ単に変な空気をそのシーンに漂わせて終わり。既存の“エイリアン”を極力避けたかったのか、イカ状の物体やら死体を乗っ取るタイプやら様々な種類の異生物が出てくるが、逆にそれらはひと昔もふた昔も前のSFを彷彿させてしまい、作品にどこか古臭さと安っぽさを感じさせるだけだったりも。あまりのことに
「なんだ?これ実はリドリー・スコットじゃなくて、“リドリイ・スコット”とかが撮ったんじゃないのか?それか、ダメな方のポール・アンダーソンとか」と思えてきてしまうほど。3Dの効果も一部風景では功を奏しているが、大抵の部分ではリドリー・スコット特有の陰影や色彩の美しさを殺しているだけだったりも。

そもそも、“エンジニア”と呼ばれる宇宙人の目的がさっぱり分からない。神の如き存在なのだから、我々下々の者が理解できなくて当然なのかも知れないが、それにしてもあまりに乱暴。
自らの遺伝子を基に人間を創造し、壁画を見る限り度々地球にやって来て指導もしていた割に、いざその創造物が自分を訪ねてやって来たら、
挨拶もそぞろに撲殺する乱暴者。教育熱心で相談にも親身に乗ってくれた先生のもとを生徒が訪ねたら、
お茶も出されず撲殺されたみたいなもの。私も確かにプライベートと仕事は分けたい方なので仕事関係者に家まで来られるのは嫌だけど、撲殺したくなるほどは嫌ではない。
なにやら地球を滅ぼしに来る途中だったらしいが、それも正直意味不明。プロメーテウスの神話に則れば“神に近づき過ぎた人間を滅ぼす”って行為は一応理に適ってるが、原子力を手にした時点なり恒星間飛行が可能となった時点ならまだしも、出発しようとしてたのが何千年も前ってんだから、ちょいと気が早過ぎないですかいと。なんかこう、
ポピュラスやってて飽きてきたからハルマゲドン連発するみたいな感じ。
もともと想像力をいたく刺激した『エイリアン』のスペースジョッキーの死の謎と起源をひも解く作品になるはずが、「殺してやるからちょっと来い!」と進化した人類が呼び出される“
逆2001年宇宙の旅”になってしまった事自体噴飯ものだが、それ抜きに考えても随分とアレな作品に仕上がってたなぁと。まぁ、“エイリアンの前日譚”としてはアレですけど、“リドリー・スコット版『
ミッション・トゥ・マーズ』”としては楽しめた一本ではありましたが。

根拠がなくても宇宙に飛び出す、その行動力だけはハンパないエリザベスに扮したのは、『
シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』のノオミ・ラパス。作品の大半を特に見せ場のない主人公として過ごすも、唐突にタフになるクライマックス以降は本領発揮できたかと。流暢なイギリス英語にも驚きましたし。
その他、SFが非常に似合う美貌だが、役柄がその美貌におんぶに抱っこしてただけだった『
ヤング≒アダルト』のシャーリーズ・セロンや、
ビリー・クリスタルがコントで老け役をしてるみたいだった『
ザ・ロード』のガイ・ピアース、特攻船長に扮した『
マイティ・ソー』のイドリス・エルバ、
結局“種付け役”以外は仕事のなかった『
デビル』のローガン・マーシャル=グリーンに、いきなり出てきてちょっと驚いた『
インシディアス』のパトリック・ウィルソンらがキャスティング。良い役者が揃っているのだが、役柄が揃いも揃って“
その他大勢”みたいな感じだったので、特に印象に残らず。
ただ、そんな中でもアンドロイド“デヴィッド”に扮した『
X-MEN:ファースト・ジェネレーション』のマイケル・ファスベンダーは大健闘。ミステリアスとチグハグが若干混同してしまったキャラではあるが、『アラビアのロレンス』をお手本に人間勉強中なだけあって、その生々しいまでの妖しさが絶品。
“愛”や“情”とは無縁のエロティシズムというか。対角線上にいたシャーリーズ・セロンと良いコントラストを生んでいただけに、彼の横に並べる男性キャラが不在だったのがなんとも残念。ブライアン・シンガーだったら
その辺は抜け目なかったんだろうなぁ。

忘れられた者たちによる忘れられた昔話
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