監督 デヴィッド・フィンチャー 主演 ダニエル・クレイグ
2011年 アメリカ/スウェーデン/イギリス/ドイツ映画 158分 サスペンス 採点★★★
非常に当たり前の事なんですが、どんな国だって暗部ってのはあるんですよねぇ。もう、福祉大国だろうが安全・清潔を売りにした国だろうが、悪人はいるし被害者もいる。掘り起こしてもらいたくない過去だって、たんまりとあるはず。“微笑みの国”タイだって、別にみんな
四六時中微笑んでる訳じゃないですし。まぁ、微笑んでたら微笑んでたで、すっげぇイヤですけど。

【ストーリー】
名誉棄損裁判で敗訴し窮地に陥った社会派雑誌“ミレニアム”のジャーナリスト、ミカエル。そんな中、彼は巨大財閥の元会長ヘンリック・ヴァンゲルからある調査を依頼される。それは、40年前に忽然と姿を消したヘンリックの姪ハリエットの事件の再調査であった。ヘンリックの弁護士から紹介された、社会性は全くないが卓越した情報収集能力を持つ少女リスベットと共に迷宮入りした事件を調べ始めた二人だったが、やがてこの財閥一族に隠された忌まわしき過去が明るみになり始め…。

『
ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』として映画化されたスティーグ・ラーソンのベストセラー小説を、『
ソーシャル・ネットワーク』のデヴィッド・フィンチャーが再映画化したサスペンス。
メタリックでインモラルで暴力的なタイトルバックに轟音で被さる、トレント・レズナーとカレン・O、アッティカ・ロスによるレッド・ツェッペリンの『
移民の歌』のカバー。「
フィンチャー、レズナー、クレイグのトリオで007の新作を作って欲しい!」と強烈に思わせる、この完璧すぎるオープニングで幕を開けた本作だが、残りの2時間半はもう
ひたすら忍耐力との勝負に。清潔で社会福祉も整備され、過去にはナチスから逃れてきたユダヤ人を多く匿った“善良”のイメージがあるスウェーデンではあるが、その一方で親ナチ派も非常に多かった事実や、男どもによって辱められ、打ちのめされ、殺されていく女性たちの姿は非常に強烈ではあるのだが、その社会の暗部を暴露するある意味
硬派な実話ナックルズみたいなネタだけで引っ張るには、このランニングタイムはやはり長すぎる印象も。
映画としての面構えはスウェーデン版とは比べ物にならないほど向上した本作。状況や人物の紹介も非常にスムーズで、多少込み入る序盤にも乗り遅れる事のない作りも上手い。ただ、「毎年花を贈って来るのは、姪を殺した犯人に違いない!」と、どこかで姪が元気にしてると考えるのが自然な気もするが、
一族の誰かに殺されたに違いないという思い込みと、メモに残された名前と数字の羅列が同じ名前の人の電話番号と一致していたって
偶然、海外にいる親族とは顔を合わせないって前提は、やっぱりミステリーとしては弱いと思わざるを得ず、それが映画作品として完成度が高まった分粗さとして目立ってしまい、そこを補う為に暴力的でセンセーショナルな描写を散らしてみたって印象を受ける結果に。

ミステリーとしては幾分アレな印象もあった本作だが、リスベットという非常にユニークなキャラクターに関しては非常に面白い。膨大な情報を瞬時に記憶し的確に処理する卓越した能力を持ちながらも、社会性は皆無で暴力的、善悪の基準も
非常にざっくばらんなリスベット。タトゥーにピアス、モヒカンに黒ずくめのファッションは他者を寄せ付けない。しかし、その威嚇的なファッションは彼女の武器ではなく防具。社会不適合者である彼女は害悪として爪弾きにされ、弱みに付け込む変態によって痛みつけられる。彼女の立ち居振る舞いと外見は、全て外敵と内なる脆さから守るためのようでも。
そんな全てを拒むかのようなリスベットだが、裏も表も全て知り尽くした上での判断か、唯一ミカエルには
彼女なりの方法で心を許している。傷付いたミカエルをその身体で慰め、他人には語りたくない忌まわしき過去を語り、彼の宿敵を葬り去る、言動とは裏腹の健気な姿を。それだけに留まらず、ミカエルが幸せだった時に着ていたレザージャケットと同じ物を、足を棒にしてまで捜し出したのであろう姿には、明確に“愛”が描かれている。
好みは分かれる所であろうが、他者との距離感を上手く掴む事の出来ないリスベットが、“
どれだけ愛すれば充分なのか?”を分からないままミカエルを愛する物語としての側面を強めたのは、非常に功を奏していたのではと。そここそが、『
ソーシャル・ネットワーク』でリスベット同様に社会に適合できない男の姿を撮り上げたフィンチャーの描きたかった部分なのかも知れないし、繊細過ぎる故に音楽で自己破壊を進めていった
トレント・レズナーにとってもうってつけの題材。本作のエンディングに、『
レジェンド/光と闇の伝説』のアメリカ公開版でのみ流れていた、
今じゃもう誰も覚えていないようなブライアン・フェリーの“Is Your Love Strong Enough? ”のカバー(トレントの嫁さんとアッティカ・ロスも参加するハウ・トゥ・デストロイ・エンジェルス名義)を収録したのも、そこをテーマとして強めたかったからなのかと。

ミカエルに扮したのは、『
007/慰めの報酬』『
ジャケット』のダニエル・クレイグ。ジェームズ・ボンドってよりは『
007/ロシアより愛をこめて』のレッドみたいな風貌の彼だからこそ、身を切るような寒さ伝わる北欧の地が似合う。ハリウッド顔では、さすがにここまでハマらなかっただろうなぁと。もちろんその顔立ちは土地に似合うだけではなく、正義感以上の意志の強さをも感じさせ、毒づきぼやきながらも仕事を全うする“強い男”ってのを好演。まぁ、若干強過ぎちゃってどんな状況にも安心感が生まれちゃってるし、若い娘に翻弄されアワアワしてるってよりは、
上手い具合に乗りこなすモテ男っぷりが全面に出ちゃってもいましたが。
一方、
ヘルメットを脱いでもモヒカンが立派に保たれていたリスベットに扮したのは、『
エルム街の悪夢』のルーニー・マーラー。きっとなにかとノオミ・ラパスと比べられてしまうのだろうが、実父を憎悪しながらも、心の拠り所となる大人の男性を求めている
弱さと脆さをより感じさせてくれる彼女の方が案外好きかも。尻尾を出した犯人を追う前に、ミカエルに対し「殺してもいい?」と確認する姿もちょっと可愛かったですし。必要な情報をミカエルが得たかどうかを確認したかったんでしょうけど、自分の行動でミカエルに嫌われる事を避けたいがための言葉にも思えて、なんとも健気だなぁと。
その他、再映画化の話を聞いた時は舞台が舞台だけにマックス・フォン・シドーが演じるものと思っていたヘンリック役に、『
インサイド・マン』のクリストファー・プラマー、夫ある身ながらミカエルと肉体関係を続けるエリカ役に、『
アンブレイカブル』のロビン・ライト、地元からは『
マイティ・ソー』のステラン・スカルスガルドらも出演。また、
ロシア顔の代表格『
ランボー/怒りの脱出』のスティーヴン・バーコフを久々に見れたのも嬉しい。そんな顔ぶれの中、若き日のヘンリックを演じた役者に見覚えがあると思ったら、『
オーシャンズ13』のジュリアン・サンズだったんでちょいと驚き。最後に劇場で彼の姿を見たのは何だったのか記憶を遡ってみたら、『ワーロック』だった。あらあら、御無沙汰しておりました。

抱きしめられたがってるハリネズミのような感じも
↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓