監督 デヴィッド・フィンチャー 主演 ジェシー・アイゼンバーグ
2010年 アメリカ映画 120分 ドラマ 採点★★★★
いつまでも根に持って虎視眈々と復讐の機会を伺うタイプではないんですが、“
機会があれば仕返ししたいリスト”ってのを常に心の奥にしまっている私。なんと言うか、一種の活力として。ただまぁ、“仕返し”っていっても、“超金持ちになったら札束でビンタする”とか、“美人を引き連れてそいつの前を練り歩く”とか、
至って幼稚なものしか思い浮かんでいないんですけどね。

【ストーリー】
2003年の秋。ハーバードの学生であるマークは、恋人にフラれむしゃくしゃしていたこともあり、学内のデータベースにハッキングし、女学生の顔写真を使った投票サイトを立ち上げる。その腕を認めたエリートソサエティに属するウィンクルヴォス兄弟は、マークに“ハーバードの学生と交流できる”を売りにしたSNSの立ち上げを依頼するが、マークは親友のエドゥアルドの協力の下、別のSNS“ザ・フェイスブック”を立ち上げる。そのサイトは瞬く間に登録者数を増やしていき、巨大サイトへと変貌していくのだが…。

自分は利用していないのでイマイチ分からないのだが、エジプトやチュニジアで発生した一大デモとの関連も取りざたされた巨大ソーシャル・ネットワーク・サービス“フェイスブック”の誕生秘話を、『
ゾディアック』のデヴィッド・フィンチャーが映像化した実録ドラマ。製作総指揮には、
ジョン・ドゥケヴィン・スペイシーの名が。
観る前は、“コミュニケーション能力に欠如した男が作り上げた巨大コミュニケーションツール”とかなんとか
シタリ顔で書こうかと思ってたんですが、いざ観てみたらそんなものは外枠の一部でしかなかった本作。フェイスブック誕生の経緯と、それにまつわる幾多のトラブルに物語は焦点を置いているが、主人公の言い分や言い訳を描いているわけではないので、実録ものにありがちな“知ってるつもり?! マーク・ザッカーバーグ編”にはなっていない。それどころか、
主人公が何を考えているのか分からせようとはしていない。しかしながら、コミュニケーション能力に欠如した分かりづらい人物を下手に雄弁に語らせるのではなく、「分かりづらい人間は分かりづらいんだ!」とばかりにそのまま観客の前に放り投げたこの選択は正しい。別に本作は、主人公と観客がリンクする必要が全く無い作品ですし。中心に地に足が付いていないフワフワした人物を配することにより、主人公を取り巻くそれぞれの人物の思惑や立場、出来事の持つ意味合いがより一層浮き彫りになったのではと。
若干遊び過ぎの感もあったティルト撮影はさて置き、人物をやや突き放し、『ファイトクラブ』程ではないが建造物や物を舐める様に映しだすフィンチャーらしさも健在。

ざっくりと掻い摘めば、本作は特別モテるわけでもなくスポーツも苦手なオタクのユダヤ人グループが、由緒正しい家の出であるエリート白人グループにオタクならではのやり方で逆襲する、
リアル『アニマル・ハウス』である。まぁ、ユーモアの欠片もありませんが。器の小ささが露呈する切っ掛けの描写にしろ、エリートに対して憧れと劣等感がごった煮になって敵対心になっている様にしろ、まさにそれ。「セレブの仲間入りした気分はどうよ?」と歌われるビートルズの“ベイビー・ユーアー・ア・リッチ・マン”が流れるエンディングで、もっと多くの登場人物の“その後”が語られていれば更に完璧。それこそ、数多くのコメディや青春映画で描かれて来たこの構図が、創作が加えられているにしても現実に起きたことに驚きを。フィクションであれば、鼻持ちならないイジワルエリート軍団vsユーモラスなユダヤ人軍団という善悪の分かり易い構図が生まれるのであろうが、本作で描かれるエリートが何不自由なく育てられたが故の素直さと誇りの高さを持つ、
なんとも可愛らしい連中として描かれているのも印象的。本来搾取する側が、搾取されちゃってる。また、そのエリートグループに属そうと頑張るエドゥアルドに対する、マークの嫉妬と蔑視の入り混じった感情も興味深い。
選ばれし極少数の人間のみが富を享受する、現行のシステムに対する挑戦のような側面もある本作。既存の方法論で突き進もうとするエドゥアルドを切り捨て、大手企業が爆発炎上する『ファイトクラブ』同様、
音楽業界にとってはテロ行為でしかない“ナップスター”を生み出したショーン・パーカーにマークが共鳴していく様にも、そんな思いが感じられる。
確かに手に汗して掴み取った成功ではないが故に、どこか空虚な革命っぽい臭いも漂ってはいる。ただ、若き成功者の顛末だけではなく、先に挙げたエリート白人への逆襲や既存のシステムへの挑戦という側面も描かれている以上、感想を“虚しさ”で締め括るには
言葉足らずのような気も。成功する様自体は、正直羨ましかったですし。まぁ、だからと言って当てはまる締めの言葉が浮かぶほど文才がないので、無理やり締め括るとすれば“彼女に人として嫌われたら、いくら札束積み上げてももう無理”って感じですかねぇ。なんか、途端に
話のスケールが小さくなった気もしますが。

疾患的に人と上手く関われないマーク・ザッカーバーグに扮しているのは、『
ゾンビランド』『
アドベンチャーランドへようこそ』のジェシー・アイゼンバーグ。何も考えていないのか、先の先が見え過ぎちゃって達観しているのかよく分からない、知り合いだったら
間違いなくイラつく主人公を、その持ち前のオタクっぽさと覇気の無さで好演。
また、その生真面目さゆえに見事なまでに置いてけぼりを食らうだけではなく、非常に面倒臭い彼女まで作ってしまうエドゥアルドに扮したアンドリュー・ガーフィールドや、実際はここまでクールじゃないショーン・パーカーに扮したジャスティン・ティンバーレイク、なんとも可愛らしい双子に扮したアーミー・ハマーなども非常に印象的で。
正直なところ、題材にしろキャスティングにしろ、それこそ“デヴィッド・フィンチャーの新作!”ってのにも然程食指が動かなかった本作なんですが、それでも「観たい!」と思った最大の原動力はトレント・レズナーが音楽をやってるから。ナイン・インチ・ネイルズのアルバム『ウィズ・ティース』に収録された“オンリー”のPVを、フィンチャーが撮った縁もあっての起用かとは思うんですが、トレントが本格的なサントラを手掛けるのは初めてなだけに、どんな仕上がりになっているのか非常に楽しみにしてたもので。まぁ、音自体は事前にオフィシャルサイトから落とせていたので、映像とどう絡みあってるのかってところが。で、いざ本作を観てみれば、ノイズの中をたどたどしく言葉少なげだが美しいピアノの旋律が奏でられる、非常にいつものトレントで安心。映像とバッチリハマってたかと言えば、
正直浮き上がってた感じもするんですが、こんなトレントの曲を聴きたかったんだから文句もなし。なにやらこれでアカデミーを取ってしまったようですが、これを切っ掛けにどこぞの教授みたいにならなければいいなぁと思ったりも。まぁ、“移民の歌”のカバーがけたたましく流れるフィンチャー&レズナーの次回作、『
ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』のリメイク版予告編を観る限り、そんな心配も無用な気もしますが。
因みに、本作のサントラで「トレント素敵!」って思われた方がおられたら、
コチラのオフィシャルサイトでトレントと嫁レズナー、本作のサントラでも共同作業しているアッティカ・ロスとのプロジェクト“HOW TO DESTROY ANGELS”のアルバムがまんま無料ダウンロード出来るので、聴いてみるのも一興かと。

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