監督 マシュー・ヴォーン 主演 ジェームズ・マカヴォイ
2011年 アメリカ映画 131分 アクション 採点★★★★
時々、自分の思想がリベラル寄りなのかタカ派寄りなのか考えたりする私。同性婚は認められるべきだと思うし、信教や表現、中絶の権利や自由も守られるべきと考えてる一方で、
責任を負わない自由は認めるべきではないと考えたりも。また、国益の為だけに他国に対し強硬な態度に出ることは反対だが、国益を損なう敵対行動を取る相手に対しては、如何なる手段を用いてもその行動に対応すべきじゃないのかなぁと思ってたりも。まぁ結局のところ、一つの思想を貫く為の犠牲を全く払っていない、
ごくごく“普通”の小市民でしかないんだなぁと。

【ストーリー】
ソビエトと冷戦の緊張下にあった60年代のアメリカ。特殊能力を持つミュータント集団を率いたセバスチャンは、両国を刺激し戦争を誘発させ、それに乗じて世界征服を企んでいた。CIAの依頼でセバスチャンを追っていた強力なテレパシー能力者チャールズは、幼い頃セバスチャンに母親を殺された能力者エリックに出会う。共に行動する中で友情を育んでいく彼らであったのだが…。

後にX−MENを率いるプロフェッサーXと、ブラザーフッドを率いるマグニートーの若き日と出会いを描いた、“X−MEN”シリーズ第一章的位置付けにあるSFアクション。メガホンを握ったのは、『
レイヤー・ケーキ』『
キック・アス』のマシュー・ヴォーン。これまでのシリーズとの関連性をちらつかせながら、若い頃にやってそうな事をちょちょいと描く安易なフランチャイズ映画になってしまっているかと思いきや、「これが第一作目だったら!」と
事後承認したくなるほどの面白さに溢れる、これはとっても嬉しい誤算な一本。
米ソの緊張状態が極限にまで達したキューバ危機を舞台に、物理法則を無視したミュータントの能力合戦を描くというよりも、往年のスパイ活劇の面白さがたっぷりと堪能できる本作。
ブロフェルドもジェームズ・ボンドもミュータントみたいな。その程よく誇大され程よく荒唐無稽なスパイ映画的設定は、“歴史の陰にミュータントあり”と言われても何となく納得してしまうほどミュータントの存在と相性が抜群。
そんな活劇としての面白さのみならず、“
普通とは違う”故に自らその姿を恥じ、“
普通の人々”から嘲笑と恐怖と迫害に晒されるミュータントの悲しみをしっかりと描いているのも見事。この辺はやはり、久しぶりのシリーズ復帰となる『
ワルキューレ』のブライアン・シンガーの存在が大きいのではと。
同性愛者も含めたマイノリティの葛藤がミュータントの葛藤とリンクする辺りに賛否が分かれるところであろうが、私はブライアン・シンガーが描くX−MENが好き。

物語の中心に立つのは、『
ラストキング・オブ・スコットランド』のジェームズ・マカヴォイ扮するプロフェッサーXことチャールズ・エグゼビアと、『
センチュリオン』のマイケル・ファスベンダー扮するマグニートーことエリック・レーンシャーの二人。恐れられ差別されようとも人類との共存を目指すチャールズと、人類を淘汰しミュータントの世界を作り上げようとするエリック。共にミュータントの幸せを目指しているが、思想と手段の全く異なるこの二人は、非常にベタな例えではあるが
マーティン・ルーサー・キングとマルコムXのようである。
チャールズの友愛精神は、何不自由のない暮らしを送る裕福さがその背景にある。盗みに入ったミュータント一人養ったところで痛くも痒くもない
彼の環境だからこそ、その理想は実現可能だ。だが、そうではない人間にとっては耳触りの良い絵空事でしかない。プロフェッサーXが如何なる困難にも負けずその理想を貫く人物であることは、過去のシリーズを観れば分かることではあるが、本作ではまだ理想論の枠を抜け出していない。理想実現のために唯一無二の親友と決別せねばならなかったエリックを前にしてしまうと、重みも存在感も一歩下がった印象があるだけに、次回作以降では、
髪の毛が抜け落ちる以外の犠牲と困難に苦悩する彼の姿を見せて頂きたいもので。
一方、怒りと哀しみがその背景にあるエリックの思想は、非常に現実的で共感せざるを得ない。しかしその共感には、
独裁者誕生の瞬間に感じる興奮と高揚感にも似た危険な香りが。もちろん、その危険な香りこそ抗う事が出来ないマグニートーの魅力である。このヒーロー以上に輝く、カリスマたっぷりのヴィランを描けた功績は非常に大きい。おさがりのヘルメットを、
真っ先に自分色に染めるオシャレさんぶりもポイント高し。次回作では是非ミュータント軍団を前に大演説を打って頂きたいもので。
この思想の異なる二人の出会いと別れを描いた本作。そこには、恋愛感情にも似た単なる友情以上の濃密な感情が見て取れるような感じも。もう少しその濃い感情を前面に押し出しても良かったような気もするが、あまりやり過ぎないこの位の方が
脳内妄想で補完する余地が生まれるのかなぁとも。
スケールのドデカイ企てを姑息な手段で実現しようとする、まさに007の悪役っぽいセバスチャン・ショウに扮したのは、『
パーフェクト・スナイパー』『
狼の死刑宣告』のケヴィン・ベーコン。ドイツ語もナチスに居るってのも似合っているとは言い難かったものの、キャラから漂う狡賢さとヨットで漂々としている様はバッチリ。腰かけ程度でナチスにいただけなんで仕方がないんですが、
もっと第三帝国色を打ち出した扮装だったら無闇やたらにとんがっててカッコ良かったのかなぁとも。まぁ、一人だけマンガ色全開で浮いちゃうんでしょうけど。
また、数少ないミュータントの理解者であるCIAエージェントに扮したのが、『
ノウイング』のローズ・バーンと、『
紀元1年が、こんなんだったら!?』のオリヴァー・プラット。ローズ・バーンの下着姿も嬉しかったですが、何気にオリヴァー・プラットをここ最近またよく見るようになったってのがちょいと嬉しい。
一方、第一世代のミュータントに扮したのは、その名の通り
凍てつく視線がなんとも堪らなかったフロスト役に『
アンノウン』のジャニュアリー・ジョーンズを筆頭に、スーパーモデル体型のミスティークも若い頃はムチムチだったと確認できたジェニファー・ローレンス、『アバウト・ア・ボーイ』のあの子が知らん内に成長していたニコラス・ホルト、よく見ると
やっぱり父親似のゾーイ・クラヴィッツ、恥ずかしながら全く気が付かなかった『
タイタンの戦い』のジェイソン・フレミングらがキャスティング。
その他、『
ツイン・ピークス』のレイ・ワイズや、『
ダブルボーダー』のマイケル・アイアンサイド、『
RED/レッド』のジェームズ・レマーといった強面が周囲を固めているのも印象的。そういや、若き日のエリック役で『
リトル・ランボーズ』のビル・ミルナーが。なんか
縦方向に急激に成長しておりましたねぇ。
あ、そうそう。ヒュー・ジャックマンとレベッカ・ローミンが出ておりましたねぇ。ちょっとした贈物みたいな感じで、素直に嬉しかったですよ。

蜜月
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