2016年03月06日

エクスプロラーズ (Explorers)

監督 ジョー・ダンテ 主演 イーサン・ホーク
1985年 アメリカ映画 106分 アドベンチャー 採点★★★

『エイリアン』に出てくるクリーチャーって、見た目はもちろんのこと、悪意も邪念もない本能のみの純粋な存在だからこそ怖いんですよねぇ。手加減もなければ分かり合える可能性もない、常に全力で殺しにかかって来るから怖い。そういう意味では、テレタビーの連中も相当怖いと思うんですよねぇ。文字通り無邪気で悪気の欠片もなく、本能の赴くまま常に全力で遊んでる。手加減ももちろんしないから、遊びに巻き込まれたら下手すりゃ死ぬかも知れないですし。見た目が可愛い分だけ性質が悪いとも。あの惑星に迷い込んだら間違いなく発狂しそうだなぁと、娘が小さい頃一緒にビデオを観ながら思ったもので。

expl01.jpg

【ストーリー】
宇宙に強い憧れを持つ少年ベンが見た不思議な夢を基に作られた物体移動装置。友人のウォルフガングとダレンと共にガラクタを集めて作った宇宙船にその装置を組み込み、3人は宇宙へと飛び立つのだが、そこで彼らを待っていたのは・・・。

expl04.jpg

インナースペース』のジョー・ダンテによるSFファンタジー・アドベンチャー。
“『グレムリン』のジョー・ダンテの最新作!特撮はILM!なんか『E.T.』っぽい話しみたい!”と散々期待を膨らませるも、劇場を後にした時には同時上映の『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』のことしか覚えてない、と言うか思い出したくない変な映画として一部で語り草の本作。劇場で観た当時は変な映画としか認識してませんでしたが、30年振りに観てみたらやっぱり変な映画。ただ、その“変な部分”こそが本作の魅力。
家庭や学校で問題を抱えた少年たちが友情を育みながら宇宙船を手作りするどこかノスタルジックな前半と、まるで別な映画化のように狂いだす後半という毛色の違い過ぎる展開をみせる本作。一般的には前半のロマン溢れる物語を後半で台無しにしたと見る向きが多いようですけど、正直なところ前半はありきたりな展開の寄せ集めにすぎない印象が。家庭の問題も学校の問題も掘り下げるわけでもなく、友情の変化に起伏もない。かつて宇宙を夢見た老保安官が唐突に出てくるが、特に絡むことなく「やったな、坊主!」で終了。ダンテがこの物語に関心を持ってる様子がないってのもあるんでしょうが、たとえ巧く作ったとしても当時山ほどあったこの手の作品の一つとして埋もれてしまったのでは。

expl05.jpg

そう考えると、突然『トワイライトゾーン/超次元の体験』の“こどもの世界”の再現が如く狂いだす後半は、個性の乏しい作品に色を付けるために必然の展開だったのかと。まぁ、アプローチ方法が正しかったかどうかは甚だ疑問ではありますが、30年を経てもそこだけは忘れられない映画になってるんだから間違ってもいないのかと。地球のTVマニアの宇宙人が、意思疎通そっちのけでわめき散らすシーンの狂気と恐ろしさ、トリップ感覚はそうそう味わえるものでもありませんし。
また、私の世代では若くして命を落としたスターの代名詞であるリヴァー・フェニックスと、『プリデスティネーション』のイーサン・ホークのデビュー作として有名な本作。中でも、線の細い美少年として輝きを放ちながらも、どこか自虐的な微笑みと暗い眼差しが異彩を放ってもいたイーサン・ホークの存在感は見事。それにしても、この手のチビッコアドベンチャー映画の中心人物に、暗く重たい表情の三人を据えちゃうってのは斬新だなぁと。
その他、『ソルジャーズ・アイランド』のジェームズ・クロムウェルや、ダンテ作品の常連『メイフィールドの怪人たち』のディック・ミラーの顔も。

expl02.jpg
無理に分かり合おうとせず、程よい距離感を保つのも大事

↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓
blogramで人気ブログを分析   

        

        

posted by たお at 12:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | 前にも観たアレ■あ行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月24日

アリスのままで (Still Alice)

監督 リチャード・グラツァー/ワッシュ・ウェストモアランド 主演 ジュリアン・ムーア
2014年 アメリカ/フランス映画 101分 ドラマ 採点★★★★

経験や知識がその人となりを形成してると思ってるんですが、てことは“忘れる”ってのはその人の一部を失うということなんでしょうねぇ。日々嫌な思い出をさっさと忘れたいと思ってるんですけど、実際忘れちゃうと自分じゃなくなっていくんでしょうかねぇ。まぁ、嫌な思い出には密接に良い思い出も関連付いてるんで、それだけを忘れることも出来ないんですけど。

stal01.jpg

【ストーリー】
大学で言語学を教えるアリスは、仕事も家庭も充実した50歳の日々を送っていた。しかし、講義中に単純な言葉が思い出せなくなったりジョギング中に道に迷ってしまうなど物忘れが頻発し、診断の末に若年性アルツハイマー症と判明する。日々症状が進行するアリスを家族は必死にサポートするのだが…。

stal04.jpg

リサ・ジェノヴァの同名ベストセラーを映画化した、若年性アルツハイマーを発症した女性と家族の姿を描いた人間ドラマ。ワッシュ・ウェストモアランドと、本作の公開後程なくしてALSで亡くなったリチャード・グラツァーが監督・脚本を。
知識と言葉を糧に人生を積み重ねてきた女性がそれらを失っていく戸惑いと恐怖、そして彼女を支えていく家族の姿を描いた本作。過剰に演出された過酷な闘病記や不幸と死をネタにした所謂“感動もの”にはせず、言葉が浮かばなくて戸惑うアリスや、名前を間違えられた子供たちの困惑の表情など些細な変化を丹念に描くことで、家族全員で向かい合わざるを得ない問題の大きさを見事に表現している。
若干イジワルな言い方をすれば、アリスはまだ恵まれている。経済的にも恵まれているし、それに裏打ちされた家族関係にも恵まれている。過酷さと不幸話を売りにしたいのであれば、この環境は反感を生むだけかもしれないが、そもそも本作はそんな作品ではないのでは。遺伝性であり子供たちにも発症のリスクがあることを知ったアリスが語るように、次の世代には解決法があって欲しいという希望と、最後に残る言葉が“愛”だったように、全てを失いむき出しになった人間性がこうであって欲しいという望みが込められた一本なのかと。そんな甘いものじゃないのは個人的な経験上からも分かってはいるが、それを持ち続ける重要さは十分過ぎるほど伝わったので評価は高い。

stal03.jpg

アリスに扮したのは、『フライト・ゲーム』『ドン・ジョン』のジュリアン・ムーア。常々彼女の作品を観る度に、類稀なる表現力と年々積み重ねていく美しさに“惚れ惚れする”としか書いてないんですが、本作もまさにそう。知性と理性に溢れた女性、それを失っていく恐怖と困惑に襲われる様、そしてその後の虚空と少しずつ確実に変化していく様を見事過ぎるほど的確に表現。
その表情の少なさと棒っぷりが本国でネタにもされる『スノーホワイト』のクリステン・スチュワートがジュリアン・ムーアと共演するってのは、なんか一種の罰ゲームのような感じもありましたが、お得意の低体温ゴス系キャラだったので違和感なし。
また、胡散臭い役柄か陰険な役柄ばかり最近観ていたせいか、大きな愛と懐の深さを見せる夫役の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』のアレック・ボールドウィンにちょっとした新鮮さを。ただ優しいだけではなく、葛藤と弱さをしっかり滲み出す巧みさも見事で。
その他、然程描かれてなかったってのとぱっと見のゴージャスさでウヤムヤにされてた感もあったが、アリスと同じくらいの重いドラマを抱えていた長女に扮した『バトルフロント』のケイト・ボスワースも印象的だった一本で。

stal02.jpg
変わらないものだけが残る

↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓
ブログランキングならblogram   

        

        

posted by たお at 20:57 | Comment(4) | TrackBack(26) | 前にも観たアレ■あ行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月02日

オーバー・ザ・トップ (Over the Top)

監督 メナハム・ゴーラン 主演 シルヴェスター・スタローン
1987年 アメリカ映画 93分 ドラマ 採点★★★

映画好きを公言してはいますが、同然のことながら苦手なジャンルや役者ってのもあるわけで、基本的にはそういったものを避けている私。「やっぱり嫌い!」とわざわざ確認する必要もないですし。ただ、中には嫌いな人の作品を仕事や義務でもないのに敢えて観て、わざわざ嫌いなポイントを懇切丁寧に説明して下さる方も居られるんですよねぇ。トム・クルーズの映画に「トムばっか!」と文句を言ったり。私がセガールにある種の期待を持ち続けているのと同様に、その人の中にベストのトムちん像ってのがあってそれを基準に言ってるならまだしも、ただただ嫌いってのだけを言いたいがために観ている印象も。そんなことで自分の鑑賞眼とやらを自慢しなくてもいいのになぁと。

ovto01.jpg

【ストーリー】
ラスヴェガスで開催されるアームレスリング大会を控える長距離トラックドライバーのリンカーン・ホークは、病床に就く別れた妻の願いもあって、離れて暮らす息子と共に旅をしながら妻の病院へと向かう。父に捨てられたとの思いから当初は反発する息子だったが、旅を通す中で絆を深めていくふたり。しかし、病院に到着する前に妻は亡くなってしまい…。

ovto02.jpg

親子関係の再生をテッカテカの筋肉とアームレスリングを織り交ぜながら描いた、キャノングループらしい垢ぬけなさが魅力の上腕二頭筋ドラマ。スタローンと共に脚本を手掛けたのは、『ポセイドン・アドベンチャー』でヒットメーカーに駆け上がるも瞬く間に転げ落ち、『世界崩壊の序曲』と共に崩壊したスターリング・シリファント。
「顔が嫌!声が嫌!身体が嫌!」と、じゃぁ最初っから観なきゃいいのにってほど貶されやすいスタローンの中でも、なにかとやり玉にあがりやすい本作。まぁ確かに、「パパ嫌い!」「やっぱ好き!」「でも嫌い!」とコロコロ心境の変わる可愛げの全くない息子や、血の繋がりばかりを強調するかのごとく何不自由ない裕福な暮らしをしている息子を取り戻そうとする住所不定の主人公といった人物描写もアレだが、その息子と会いたいがばかりに息子の家でもある義父の豪邸にトラックで突入して破壊する主人公が、「未来は向こうから来ない!自分で掴み取るんだ!」と輝かしい未来が既に待ち構えている息子に対し檻の向こう側で熱弁をふるうなど、物語も相当にデタラメ。これであまり身近ではないアームレスリングの世界がキッチリと描かれてれば良いのだが、序盤とクライマックスで唐突かつザックリと描かれるだけのあんまりな具合。
ただまぁ、そもそもが肉体労働帰りのオジサンたちを癒すために作られた、スタローン版『ダーティファイター』のような作品でもあるので、この位のザックリさ具合で丁度良いのかと。なんだかんだと観ている間は腕に力が入りましたし。この映画のおかげで巷のゲームセンターではアームチャンプスが流行り、遊ぶ時はついついキャップを後ろ向きに被ったもんだよなぁって想い出補正も踏まえ、評価は甘めに。

ovto03.jpg

主人公に扮したのは、当時人気の頂点に立っていた『ランボー』『ロックアップ』のシルヴェスター・スタローン。とどのつまり“演歌映画”である本作の主人公にはピッタリのキャスティングではあるんですけど、後に自身で語るようにどんどん吊り上っていくギャラに釣られて出たってだけに、金ぴかの衣装を着て庶民の生活を歌う演歌歌手のように大衆派と金満とのバランスが崩れ始めてきた印象も。この後間もなく転げ落ちるのも、本来の持ち味で得意技でもある庶民役に金の匂いしかしなくなってきたってのも大きかったのかと。
その他、考えてみれば単なる被害者でしかない義父役に扮した『ロスト・ハイウェイ』のロバート・ロジアや、スタローンとの仕事も多いテリー・ファンク、IWGP王者に輝くなど日本のリングで大活躍したスコット・ノートンなども出演した本作ですけど、やはり特筆すべきは息子役のデヴィッド・メンデンホールの可愛げのなさかと。まぁ、年齢的に一番可愛くなくなる時期でもあるので仕方がないんですけど、鑑賞中のイライラは相当なものだったなぁと最後に。

ovto04.jpg
これをやったところで二番目の中国人にも勝てなかったんですけど

↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓
ブログランキングならblogram   

        

        

posted by たお at 13:03 | Comment(0) | TrackBack(0) | 前にも観たアレ■あ行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月28日

ウルフクリーク 猟奇殺人谷 (Wolf Creek)

監督 グレッグ・マクリーン 主演 ジョン・ジャラット
2005年 オーストラリア映画 99分 ホラー 採点★★★

通り魔や強盗など勝手に向こうから悪意がやって来るものはアレですけど、基本的には犯罪を起こしそうな人達と関わらない、テリトリーに入り込まないってのが犯罪に巻き込まれない一番の防御法だと思ってる私。まぁ、知らない内にそのテリトリーに迷い込んでしまうってのも困りものなんですが。

wocr01.jpg

【ストーリー】
オーストラリア横断旅行を楽しむイギリス人のリズとクリスティ、そしてオーストラリア人のベン。しかし、彼らの車がウルフクリークの国立公園で故障してしまい足止めを食らってしまう。そこへ現れたミックという男に助けられた彼らだったが、目を覚ますと自分たちが拘束されてしまってることに気づき…。

wocr02.jpg

自分なりにもうちょっと分かりやすい表現はないかと思案するも、結局巷で言われる“オージー版悪魔のいけにえ”ってのが一番シックリくるカンガルー・ホラー。『レッド・ヒル』で製作総指揮を務めていたグレッグ・マクリーンが、オーストラリアで実際に発生したいくつかの殺人事件をベースに映画化。
男ひとり女ふたりの微妙な関係が生み出す仄かな恋模様や友情物語から一転、こちらの常識が一つも通用しない男によっての容赦も救いもない殺戮が繰り広げられる世界へと叩き落とされる落差が激しい本作。その落差が愛も友情も歯が立たない底知れぬ恐怖を生み出している。また、そこかしこに武器があるにもかかわらず手にせず、ようやく手にした銃は瞬く間に落とし、倒した敵にはとどめを刺さないなど、こちらのフラストレーションを溜めまくる行動の数々も、正常な判断能力を失わせるだけの極限状況に陥ってる様を巧みに表現。
ミック・テイラーに殺戮者としてのカリスマ性が少々足りない感もあるが、その辺もまた“荒野だったらどこにでもいそうな男”という特定しにくい怖さを生み出しているのかと。なによりも、見渡す限り何もないオーストラリアならではの景観が、助けなんか全く期待できない恐ろしさを。“ウルフクリーク”って地名からして怖そうですし。途中にある“エミュークリーク”はなんかちょっと可愛いですけど。

wocr03.jpg
悲鳴なんて絶対届かない

↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓
blogramによるブログ分析   

        

posted by たお at 10:34 | Comment(0) | TrackBack(0) | 前にも観たアレ■あ行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月25日

エンド・オブ・ホワイトハウス (Olympus Has Fallen)

監督 アントワーン・フークア 主演 ジェラルド・バトラー
2013年 アメリカ映画 119分 アクション 採点★★★

ハリウッド映画って、その時々の社会に潜む不安や不満を巧みに題材に盛り込みますよねぇ。タカ派が幅を利かせてる時にはリベラル的な作品が、リベラル政権の時は国威発揚的な作品が作られるみたいに。どっちか一方に傾き過ぎないよう自然発生的に表れるこのバランス感覚って、やっぱり一方に傾きっぱなしで他方の見識が重用されない国からすればはるかに健全だなぁと。

olfa04.jpg

【ストーリー】
朝鮮半島統一を目論むテロリスト集団に襲撃され、大統領を人質に占拠されてしまったホワイトハウス。そこに、、かつては大統領付きのシークレットサービスだったが、交通事故から大統領を救うも大統領夫人を救えなかった故に職務を外され、デスクワークに回されていたマイク・バニングが居合わせていた。大統領を救うため単身でテロリスト集団に立ち向かうマイクだったが…。

olfa03.jpg

イコライザー』のアントワーン・フークアによる、テロリスト集団に一人で立ち向かう男の姿を描いたアクション。ザックリと言えば、トム・クランシー原作による『ダイ・ハード6』みたいな感じ
アメリカの中枢中の中枢であるホワイトハウスが襲撃されるっていう、米国民にとっては大きな衝撃を受けると共にある種のカタルシスを味わってたのかなぁとも思える題材を描いた本作。平和と幸せからの落差が大きいオープニングと、ド派手でありながらも緻密そうに見える襲撃作戦が描かれる序盤が見事。
ただそれ以降は、韓国政府団にテロリスト集団が混ざってるザルさ加減や、知らん内に米軍秘密兵器が盗まれてたりと大雑把で大味な描写の連続となってしまうのだが、この辺の大雑把さがかつてジョエル・シルヴァーなんかが幅を利かせていた時代のアクション映画を思い起こさせ、懐かしさと共になんとも嫌いにはなれず。徹底的にホワイトハウスを破壊する情け容赦ないテロリストに対し、主人公も結構容赦ないってのも好みでしたし。
本来なら外国行ってあんなことしてる場合じゃなかったジョン・マクレーンや、衝突中の列車から文字通り一糸乱れぬ姿で脱出したケイシー・ライバックなんかが最終的に到達しなければならなかった場所でありながらも、それが描かれぬまま年月ばかりが経ってしまいモヤモヤが残ってる私のようなアクション映画ファンであれば、ある程度の欲求が満たされる一本なのかと。ロンドンが徹底的に破壊されるっぽい次回作『London Has Fallen』もちょいと楽しみに。

olfa02.jpg

基本顔がずっと怒ってる主人公に扮したのは、『完全なる報復』『300 <スリーハンドレッド>』のジェラルド・バトラー。“ブレない”とか“思いつめてる”とか“怒ってる”ってのが似合う役者なだけあって、悪者に対し嫌がらせにも近い圧倒的な強さを誇る主人公に不自然さを感じさせない好演。ラッセル・クロウの居たポジションにスポっとハマって波に乗るかと思いきや、最近ちょっと元気がない感もあったので、シリーズ化も期待できるこういうキャラを見れたのは嬉しい。
その他、『世界侵略:ロサンゼルス決戦』のアーロン・エッカートや、“こういう役でお馴染み”って紹介で済みそうな『オブリビオン』のモーガン・フリーマン、50を過ぎてまた美しさに磨きがかかったようだった『キンダガートン・コップ』のアンジェラ・バセット、『クレイジーズ』のラダ・ミッチェルに、『スティーブン・キング 血の儀式』のディラン・マクダーモットらといった、アクション大作らしい顔触れが揃ってるのも嬉しい。
そんな中でも、気品と親しみやすさを兼ね備えた、惚れ惚れしてしまう美しさに全くの変わりがなかった『妖精ファイター』のアシュレイ・ジャッドを短い時間ながらも見れたってのが一番嬉しかったかなぁと。

olfa01.jpg
「テロリストには負けません!」と言いたいのか、ホワイトハウスを壊したいだけなのか

↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓
blogramによるブログ分析   

        

        

posted by たお at 11:23 | Comment(4) | TrackBack(18) | 前にも観たアレ■あ行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月21日

オーバードライヴ (Snitch)

監督 リック・ローマン・ウォー 主演 ドウェイン・ジョンソン
2013年 アメリカ/アラブ首長国連邦映画 112分 アクション 採点★★★

“親ってのは何があっても子供の味方であるべき”って意見には、全く異論のない私。もう当たり前。ただ、その“味方”の捉え方を大いに誤解されてる親御さんってのも少なくないなぁと思ったりも。うちの子供らの同級生の親御さんなんかでも、明らかに子供が悪くて先生や他の大人に怒られたのに、そのことについて子供と話すのではなく、「そこまで言わなくてもいいのにねぇ」みたいに子供の不満に同調してしまう親御さんが見受けられますし。悪いことをしたら正しい償い方を教えるってのが、将来のことを考えても“子供の味方をする”ってことになると思うんですけどねぇ。

snit04.jpg

【ストーリー】
運送会社社長のジョンは、別れた妻に引き取られた18歳の息子ジェイソンが、麻薬密売人を密告すれば罪が軽くなる制度を悪用されて逮捕されたと知らされる。ジェイソンも密告すれば罪が軽くなるのだが、他の売人は知らない上に友人を罠にはめることもしたくない。このままでは最低でも10年の禁固刑になってしまう息子を救うため、ジョンは運び屋を装い麻薬組織へと自ら潜入するのだが…。

snit02.jpg

ブロブ/宇宙からの不明物体』や『ゼイリブ』にも参加していたベテランスタントマンであるリック・ローマン・ウォーが監督と脚本を務めた、実話を基にするアクション風味のサスペンスドラマ。主演のドウェイン・ジョンソンも、製作者の一人として名を連ねている。
芋づる式に犯罪者を捕まえることが出来るメリットがある半面、減刑目的に一般人を罠にはめるケースも少なくないチクリ制度の問題点と、家族を守るために奮闘する父親の姿を描いた本作。巨大麻薬組織に単身潜入する父親の物語で主演がドウェイン・ジョンソンとくれば、角材片手のロック様が素手ゴロで組織を壊滅する様を想像してしまうが、たとえロック様のような筋骨隆々の大男であっても拳銃を向けられれば竦んでしまう、そんなリアルな人間像を描いているので過度な期待は禁物。
アクションを期待すると少々痛い目に遭う本作ではあるが、その一方で筋肉幻想が通用しない怖さや緊迫感の生み出しには成功している一本でも。また、別れた妻のもとに居る息子を全力で救おうとする行動が今の家族を苦境に陥れてしまうジレンマや、元犯罪者の更生を阻む厳しい現実など考えさせられるドラマに仕上がっていた。
ただ、リアルさを求め過ぎた結果なのか少々メリハリに乏しく、これといって心に強く残る印象や個性に乏しいってのも否めず。また、法のシステムとしての不備を訴えたいのは分かるが、罠にはめられた方も犯罪行為をしている自覚があるので、ちょっとメッセージとして誤解される恐れもあるのかなぁとも。

snit03.jpg

主演には『ワイルド・スピード SKY MISSION』『ヘラクレス』のドウェイン・ジョンソンが。相手が凶悪な巨大麻薬組織であろうが素手で背骨を引き抜いて歩きそうなロック様だが、今回はその肉体的な強さは完全封印。ただ、その肉体的な強靭さに匹敵する精神的な強靭さを表現できる器用さを兼ね備えるロック様なので、フラストレーションは全く溜まらず。様々な角度から強さを表現できる、ホント稀有なアクションスターだよなぁと感服。「オレが居ればこんなことにならなかった!元嫁は何をやってたんだ!」と妙なプライドが現実把握の邪魔をする、男の足りなさ加減もしっかりと演じ切れていましたし。
また、善人の中に潜む邪悪を表現させたらピカイチである『リベンジ・マッチ』のジョン・バーンサルや、少々潜入捜査が長過ぎたのかなと思わせる眼差しの絶望感が光っていた『トゥルー・グリット』のバリー・ペッパー、作品にちょっとした格と知性を与えていた『ハッピーニート おちこぼれ兄弟の小さな奇跡』のスーザン・サランドンらが、本作のドラマ部分をがっちりと固める好演を。
その他、『ロボコップ』のマイケル・ケネス・ウィリアムズや、『デモリションマン』のベンジャミン・ブラット、自己主張の少ないサラ・ジェシカ・パーカーみたいだったパーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』のメリーナ・カナカレデスらも共演。

snit01.jpg
この親父に怒られるのが一番の罰

↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓
人気ブログをblogramで分析   

        

        

posted by たお at 14:12 | Comment(2) | TrackBack(10) | 前にも観たアレ■あ行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月12日

ウォリアーズ (The Warriors)

監督 ウォルター・ヒル 主演 マイケル・ベック
1979年 アメリカ映画 92分 アクション 採点★★★★

若い映画ファンの方々にはちょっとピンと来ないかも知れませんが、かつてのニューヨークって今で言うリオやヨハネスブルグ並みの犯罪都市ってイメージだったんですよねぇ。曲がり角を一つ間違えたら命に関わるみたいな。ただ、荒れ暮れてるだけじゃなく同時にカルチャーの最先端でもあったので、魅力とリスクが混在するエネルギッシュな都市でも。そう言えば、最近はそんなに色濃く感じることが少なくなりましたけど、その都市ならではの味が出た“都市映画”ってのも多かったですねぇ。ニューヨークはもちろんのこと、シカゴ、ロス、サンフランシスコ、ニューオリンズなどなどと、敢えてテロップ出さずとも舞台が分かるような作品が。

thwa01.jpg

【ストーリー】
ニューヨーク最大のギャングチーム“リフス”のリーダー、サイラスの呼びかけによりブロンクスの公園に集結した街中のギャングチームたち。しかし、演説の最中に“ローグス”のリーダーであるルーサーによりサイラスは暗殺され、そのルーサーによって“ウォリアーズ”が濡れ衣を着せられてしまう。街中のギャングに命を狙われながら、“ウォリアーズ”の面々は地元コニーアイランドを目指すのだが…。

thwa04.jpg

すっかり元気が無くなってから久しい『ダブルボーダー』のウォルター・ヒルが、その絶頂期に放った非常にストイックなアクション。製作には80年代ハリウッドを象徴するフランク・マーシャル、ローレンス・ゴードン、ジョエル・シルヴァーらの名前が。
ブロンクスからコニーアイランドまで逃げる。文字にすればそれだけの物語だし、距離にしても35キロほどの逃避行。着替えて地下鉄にでも乗れば2時間も掛からず終わる旅なのだが、これがもう手に汗握る握る。
ひと駅離れればまるで別の町に迷い込んだかのようなニューヨークの多様性を上手く活かし、完全アウェイの状況にウォリアーズの面々を放り込んだ本作。野球のユニフォームにフェイスペイント姿でバットを振り回しながら襲い来る“ベースボール・フューリーズ”ら、個性豊かにも程があるギャングらがその土地土地で襲いかかって来る様は、大都会を舞台にしながらもジャングル奥地でのサバイバルを彷彿させるスリリングさと絶望感が。また、濡れ衣を晴らすために奔走したり、チーム内のいざこざに下手に時間を割いたりせず、シンプルな物語が生み出すスピード感を重要視したってのも、本作が古びることなく面白い作品であり続ける要因となったのではと。派手さと量に走らなかったパンチ力のあるアクション描写も、この変わらない面白さに貢献。また、女性の扱いに長けてるとは言い難いウォルター・ヒルであるが、今回はギャングの後を追い続ける生き方しかできない女性キャラだっただけに持て余すこともなく、結果的にドブ板街のロミオとジュリエットみたいな側面が生まれていたなぁと。
イーグルスのジョー・ウォルシュによる“イン・ザ・シティ”や、口元しか映らない黒人DJなど音楽の使い方にも冴えわたっていた、まさにウォルター・ヒルの本領が発揮された一本で。

thwa02.jpg

主人公のスワンに扮したのは、本作で注目の若手として脚光を浴びるも、『メガフォース』『バトルトラック』と記憶にだけは強烈に残り続ける作品に出演してしまい、その後姿を見ることがめっきりとなくなってしまったマイケル・ベック。ただ、本作では体力より知力が若干上回ってそうな若きリーダーのスワンを好演。リーダーとしての絶対的安心感はないが、少人数を率いるには十分なカリスマ性ってのがその豹のような猫系の顔立ちからムンムンと。
また、本作がデビューとなる『コマンドー』のデヴィッド・パトリック・ケリーの存在感も強烈。卑屈で卑劣で卑怯という、“卑”の付く役柄を演じさせたら右に出る者が居ないデヴィッド・パトリック・ケリーだけに、タイマンなら負けそうにないが、その後に最高に嫌な嫌がらせをしてきそうなルーサー役にドハマり。アドリブだったという「ウォ〜リア〜ズゥ♪」と指に嵌めた瓶を鳴らしながら歌う様の不快感も絶品。
その他、『ウェドロック』のジェームズ・ラマーや、若くて痩せてたんで声を聞くまで分からなかった『ロックアップ』のソニー・ランダムらウォルター・ヒル常連組や、『遊星からの物体X』のトーマス・ウェイツらも印象的な一本で。
本作を語る上で避けられないのが、やはりチームカラーがハッキリ過ぎるほど出ているギャングの面々かと。先に挙げた“フューリーズ”を始め、男どもを巧みに罠に嵌める女郎蜘蛛集団のような“リジーズ”、天パにオーバーオールっていう加入するに躊躇しちゃいそうな“パンクス”など吹っ飛んだキャラが多いのが魅力。中でも個人的にお気に入りなのが、集会にすら呼ばれない三流ギャング“オーファンズ”。ドブネズミのような弱々しい風貌と、火炎瓶ひとつで「キャー!」と散り散りになる風貌に負けない弱々しさが、なんかもう哀愁漂っちゃってて嫌いになれず。他のチームが手を出そうとしない、なんの魅力もない縄張り内で天下を謳歌してるのかと思うと健気で健気で。

thwa03.jpg
嫌われることで輝く才能

↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓
人気ブログをblogramで分析   

        

        

posted by たお at 20:10 | Comment(0) | TrackBack(0) | 前にも観たアレ■あ行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月10日

ウォーリアー (Warrior)

監督 ギャヴィン・オコナー 主演 ジョエル・エドガートン
2011年 アメリカ映画 140分 ドラマ 採点★★★★

人間関係全般に言えることではあるんですが、特に親子関係ってのは一旦拗れるとなかなか修復出来ないもんですよねぇ。感情的な大爆発が原因であるのであれば同等の大声謝罪でなんとかなったりしますが、湧水のように静かに堪っていった怒りなんかが原因だったりすると、そうそう解消することもなし。相手の存在が無価値となってるので、謝罪や和解ってのを端から求めてなかったりしますし

warr05.jpg

【ストーリー】
飲んだくれで暴力的な父から逃れるため、母と共に家を出ていたトミーが14年振りに帰ってくる。しかし彼の目的は父との和解ではなく、近々開催される巨額の優勝賞金が掛かった総合格闘技イベント“スパルタ”に出場にあたり、父にコーチを依頼する為であった。一方、トミーの家出計画を知りながらも父のもとに残った兄のブレンダンは家庭を持ち教師となっていたが、難病を抱える娘の医療費がかさみ、家を手放さなければならないまでに追い詰められていた。そしてブレンダンもまた“スパルタ”に出場することを決意し…。

warr04.jpg

総合格闘技をモチーフに、愛憎複雑に絡み合う家族の姿を描いた格闘人間ドラマ。スポ魂と濃い目の人間ドラマを好みとする『プライド&グローリー』のギャヴィン・オコナーが、製作・原案・脚本・監督を務める。
レスリングの名選手として父の寵愛を受けるが、アル中で暴力的な父から母親を守るため家を出たトミー。弟の様に父に愛されたいという思いと恋人の為に地元に残ったブレンダン。そして、去ってしまった息子たちとの絆を取り戻したい一心の父パディ。この三者の拗れに拗れまくった感情のぶつかり合いを、言葉と拳を交えコッテリと描いた本作。冷静になって素直にそこらのカフェで話し合えば済むだけなのに、それが金網に囲まれたオクタゴンでの死闘に発展してしまう、なんという男心の面倒くささ。この意地になり過ぎて哀愁すら漂う男の姿を見事に描ききってたなぁと。
また、トレーニング方法こそロッキーばりのアナログさだがリングに立つとドラゴ級の戦闘ロボと化すトミーと、アポロのような合理的トレーニングをしつつも戦いっぷりはロッキー級に泥臭いブレンダンといった、兄弟の性格や状況の違いをそのファイトスタイルの違いで描いていたのも興味深い。試合運びもドラマもややオーバーなギットリ高カロリーな作品ではありましたが、ギブアップのタップに全ての思いが込められてる爽やかな締めくくりが好印象ってのもあり、胃もたれなくスッキリ楽しめた一本で。

warr06.jpg

置かれた状況がなんか『闘魂先生 Mr.ネバーギブアップ』みたいだったブレンダンに扮したのは、『遊星からの物体X ファーストコンタクト』のジョエル・エドガートン。雰囲気こそ優しげだが、アイルランドの暴れん坊みたいな顔立ちが“家庭人兼リングの野獣”ってキャラクターにピッタリ。ただ、濃い目のドラマにちょっと負けてしまう薄さが否めないかなぁとも。
そのジョエル・エドガートンに薄味の印象を与えてしまったのも、やはりトミーに扮した『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のトム・ハーディの強烈さゆえ。レスラーさながらの肉体もさることながら、反抗期をこじらせたかのような面倒くさいことこの上ない役柄が絶品。飲んだくれだった親父を責めようと思ったら禁酒しやがってるんで振り上げた拳の落とし所がなくなりオロオロ、親父は真人間になってるしお兄ちゃんもなんか幸せそうで「自分ばっか不幸!」とグズグズと、ひとりでなんでもかんでも背負い込む思春期真っ盛り。もう、見ていてだんだん愛らしくなってくるキャラクター。ワケあって記者会見しなければ試合後もそそくさとリングを去るのだが、それもだんだん「ただの照れ屋なんじゃないのか?」と思えてくる可愛らしささえ。こんなトム・ハーディを見れたってのが最大の収穫でも。
その他、老いてもそのタフさに陰りのない『ラン・オールナイト』のニック・ノルティや、教師の妻にしてはセクシー過ぎる『スター・トレック』のジェニファー・モリソン、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』のフランク・グリロに、コッテリめの作品に軽めの笑いをもたらしていた『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』のケヴィン・ダンらも印象的だった一本で。

warr01.jpg
言葉で伝えれば済むだけのことが出来ないのが男の子

↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓
人気ブログをblogramで分析   

        

        

posted by たお at 16:09 | Comment(2) | TrackBack(1) | 前にも観たアレ■あ行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月08日

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 (The Imitation Game)

監督 モルテン・ティルドゥム 主演 ベネディクト・カンバーバッチ
2014年 イギリス/アメリカ映画 114分 ドラマ 採点★★★★

“普通”って単語を自分でもついついよく使ってしまうんですけど、いざ言われる立場に立つとその響きに暴力的というか脅迫的な印象を受けてしまうことがあるんですよねぇ。数の多さを盾にした正義や常識の押しつけのような。多数派が正義みたいな物言いの仕方では、「○○さんも言ってたよ」ってのもありますねぇ。もう、その言い回しが大嫌い。“私だけじゃないんだ”っていう数での優位に立ちたいんでしょうけど、お前がそう思うでいいじゃんかと。で、そういう言い回しをする人に限って、“自分はちょっと変わってる”アピールをするんですよねぇ。「芸能人とかあんまり知らない」みたいな。いやもう、君はビックリするくらい普通だよ

imga01.jpg

【ストーリー】
第二次世界大戦が勃発した1939年。ドイツ軍が誇る最高峰の暗号機“エニグマ”を解読するため、イギリス軍とMI6はチェスのチャンピオンなど様々なジャンルの精鋭を集める。その中の一人に、天才数学者アラン・チューリングも。アランは彼の良き理解者ジョーンらの協力のもと解読マシンを完成させ、遂に暗号解読に成功するのだが…。

imga06.jpg

コンピューターの生みの親の一人とされるアラン・チューリングの人生と、第二次世界大戦の裏側で行われていた熾烈な情報戦の様子を描いたサスペンスフルなドラマ。製作総指揮も務めるグレアム・ムーアが脚本を手掛け、『ヘッドハンター』のモルテン・ティルドゥムがメガホンを。
事実関係を差し障りない程度に拾い上げほどほどドラマチックに演出する再現ドラマ的構成と、もともと特徴がありそれが知れ渡っている人物に如何に似せるかという形態模写的演技が横行する伝記映画ってのに辟易してたのと、予告編に引っかかるものが全くなかったってのもあってスルーしていた本作なんですが、鑑賞後はそんな自分の姿勢を痛烈に後悔してしまった一本で。
エニグマの解読を巡るスパイ映画さながらの物語を軸に、人間ドラマ、ロマンス、サスペンスといった様々な娯楽要素が詰まった本作。それらのジャンル要素がシーン毎に入れ替わるのではなく、全て同時進行で絡み合う脚本が圧巻。単なる詰め合わせではなく、各々が一級品の面白さを持ってるってのも見事。“普通ではない”ことが罪であった魔女狩りや赤狩りがそうであったように同性愛が罪であった時代を背景に、「普通じゃなくたっていいじゃないか!」ってテーマをしっかり芯を通し続けて描き切ったのも素晴らしい。
物語構成の話からはちょっとずれるが、戦時下を描きながらもニュース映像のフッテージ以外ではほとんど戦場が描かれない本作。たまに入るのは、如何にもミニチュア然とした戦場の光景なのだが、このどこか遠くで行われている想像上の戦争のような描写が、戦地から遠く離れた長閑さ残る地で戦争を戦う主人公らの状況を巧みに描き出していたなぁと。

imga02.jpg

演出、脚本共に優れていた本作なんですが、やはり“SHERLOCK”のベネディクト・カンバーバッチ抜きではここまでの面白さにならなかったのでは。
興味の向いたものに関しては凄まじいまでの集中力を発揮するが、それ以外に関しては全くの無関心。他者の感情を読み取ることは出来ないためコミュニケーションも成り立たないアラン。明らかにアスペルガー症候群と思われる言動が色濃く出ている一方で(それ故と言うべきか)、数学やパズルに対しては天才的な力を発揮する。私のような凡人がざっくりとイメージする“天才”そのものであり、否応がなしにもシャーロックを彷彿させる役柄でも。このキャスティングに安易さを感じる向きもあるかも知れないが、芸達者が名演すれば鼻につき、そうじゃない演者が挑めば大惨事になる、これはもうベネディクト・カンバーバッチでなければならない役柄では。以前、クリストファー・ウォーケンに対し“誰も似合わない役が似合う”と書かせてもらったことがあるんですが、ベネディクト・カンバーバッチもまさにそう。
彼の天才イメージは、感情に左右されず合理的な判断をもとに下した“命の取捨選択”に、誰もが納得せざる得ない説得力を生み出したが、そんな大雑把なイメージだけで乗り切ってるわけではあらず。淡く美しい初恋が悲劇的な結末を迎え、その無常さが彼の心に大きな影を落としたまま成長したのが透かし見える、彼の表現力の見事さたるや。その見事さがあったからこそ、心を通わせ合う最愛の人を守るために彼の辞書にはない“嘘”をつくという、さり気ないながらもハっと息を吸う美しいシーンが出来上がったのではなかろうかと。

imga04.jpg

そんなベネディクト・カンバーバッチの圧巻な存在感に目を奪われがちではありましたが、スパイ映画やロマンス、人間ドラマといった様々な側面を持つ本作の味わいを強固にするキャスティングが施されているのも魅力。
中でも、所謂“普通”とは明らかに違う価値観や考え方を持ちながらも、“普通”の中で生き抜く強さやしたたかさ、苦悩などを見事に表現した『ジャケット』のキーラ・ナイトレイは素晴らしかったなぁと。男社会の中にポンと入り込む役柄がもともと似合うだけに、男の考える女性らしさってのを巧みに出し入れしながらも、いざとなったら自分をしっかりと出すジョーン役にピッタリ。
また、今にも「フレミング、イアン・フレミング」と自己紹介し始めそうな知的&女好きなダンディーっぷりがハマってた『マッチポイント』のマシュー・グードや、007のMのモデルと言われるミンギスに扮した『キングスマン』のマーク・ストロングの、多くの情報を握ってる者の強さや怖さってのも非常に印象的で。その他、諜報戦の重要性を理解するよりも、第一次世界大戦を生き抜いてきた自身の経験やプライドの方が上回っていたデニストン中佐に扮したチャールズ・ダンスも忘れ難し。
青酸カリに浸したリンゴを齧り自らの命を絶ったと言われるアラン・チューリング。由来を調べると関連性はないようなんですが、アップルのロゴとコンピューターの生みの親の亡骸の傍らに転がる齧りかけのリンゴ。このなんとも奇妙な巡り合わせにも思いを馳せた一本で。

imga03.jpg
“普通”の人々の生活を支えてるのは、案外“普通じゃない”人達だったりも

↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓
人気ブログをblogramで分析   

        

        

posted by たお at 11:36 | Comment(6) | TrackBack(52) | 前にも観たアレ■あ行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月30日

アントマン (Ant-Man)

監督 ペイトン・リード 主演 ポール・ラッド
2015年 アメリカ映画 117分 アクション 採点★★★

キャラクターの宝庫だけあって次から次へと映画化してきますねぇ、マーベルは。それでいて、娯楽作品としての一定のレベルを維持し続けてるってのも凄い。こうなると、どれもこれも似たり寄ったりになりそうなんですけど、それぞれの作品にある程度の個性ってのを持たせてるも立派ですよねぇ。アクションに強い職人監督や知名度のあるスターにとりあえず任せるんじゃなくて、一見門外漢の人を連れてきてるようでいて、その人の個性を活かしつつ、自社のキャラクターイメージは守り続ける、キャラクタービジネスのお手本のような感じが。そもそも本国以外では知名度の低いキャラクターの映画をヒットさせるんだから、それだけでも立派。同様にコミック映画ばっか作っていながらも、悪い意味でのマンガ映画にしかなってない作品を乱発してるどこぞの国の業界さんもちょっとは見習って欲しいもので。それ以外の根本的問題から目を背けて、「予算がぁ」ばっか言ってないで。

anma05.jpg

【ストーリー】
電気工学に関する深い知識を持ちながらも前科者故に定職に就けず、養育費が払えないばかりに愛する幼い娘に会うことも出来ないスコット。真っ当な生活を望んでいた彼だったが、刑務所仲間と共に止むを得ずとある老人宅への侵入を決意する。難なく侵入した彼は巨大な金庫を破るが、中に入っていたのは風変わりなスーツのみであった。しかしそのスーツには、着る者を蟻のサイズに縮めるパワーが秘められており…。

anma04.jpg

キャプテン・アメリカの第3弾『Captain America: Civil War』への登板も決まっている、マーベルコミックのヒーロー“アントマン”の活躍を描いたアクション・アドベンチャー。メガホンを握ったのは『チアーズ!』のペイトン・リードが。
アントマンというと、ギャレット・モリス扮するアントマンがダン・エイクロイド扮するフラッシュに「へぇ、人間の力のまま小さくなるんだぁ。人間の力のままでねぇ」と冷やかされる、サタデー・ナイト・ライブの“スーパーヒーロー・パーティ”しか浮かばない私。“小さいヒーロー”となると、ミクロイドSとミクロマンしか浮かびませんし。そんなアントマン知らずの私でも、難なく入り込むことが出来た本作。
基本的には『Captain America: Civil War』への前フリ映画であるんですが、その共通世界観を保ちつつ、アクション性や迫力重視ってのよりも笑いやホームドラマの部分に重点を置いた、この作品ならではの個性を楽しめた一本で。敢えてアクションのリズムを崩して笑いを挟み込むクライマックスも好みで。
また、大小変幻自在なサイズを活かした奇抜なアクション構成も見どころ十分。虫嫌いの方には耐え難いかも知れませんが、蟻の群れを巧みに使うってのも面白かったなぁと。
この辺の笑わせながらもキメるべきアクションはしっかりとキメ、尚且つそのキャラクターのコアな部分を壊さない作りってのは、脚本を手掛けた『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』のエドガー・ライトとその盟友の一人ジョー・コーニッシュと、『俺たちニュースキャスター 史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク』のアダム・マッケイ、そしてポール・ラッドの“らしさ”ってとこなんでしょうねぇ。ただ、「正直なところこの顔触れにしては…」って印象も拭えず。マーベルの縛りがブレーキの働きをしちゃったのかなぁと。

anma06.jpg

二代目アントマンことスコット・ラングに扮したのは、『40男のバージンロード』のポール・ラッド。“ザ・普通の人”がハマるポール・ラッドがマーベル・ヒーローを演じると初めて聞いた時は、正直違和感以外に何も感じなかったんですけど、マーベル・シネマティック・ユニバースの作品群の中でもコメディ色の強い本作なので、当初思ってたよりは違和感もなし。というか、絶妙に普通という以外に当てはめようがない、基本的にいつものポール・ラッドだったので安心。一応ヒーローらしく身体も絞ったようですけど、やっぱりポニョ&ポコンのポール。そんないつものポールを劇場で観れるってのが本作を観ようと思った最大の理由なんですけど、その半面、ポール・ラッド主演作が日本で大々的に宣伝されて公開されるという、ついこの間まではあり得なかった現実に喜び以上の戸惑いも
一方の初代アントマンに扮したのは、『ザ・センチネル/陰謀の星条旗』のマイケル・ダグラス。親子なんで似ていて当然なんですけど、老人の域に達しても尚タフさ溢れるその様は八割方カーク・ダグラス。ベテラン現役ヒーローとして出てきても大丈夫そうな感じは流石。そう言えば、マイケル・ダグラスの撮影最終日に、ポール・ラッドがノーパンにバスローブだけを羽織り撮影中のマイケル・ダグラスの前に陣取って、椅子に座って足を組み返す“氷の微笑ごっこ”をやったそうなんですが、その冗談が全く通じなかったマイケル・ダグラスにポール・ラッドは怒られてしまったとか。
その他、今後ワスプとして関わっていくのかちょっと微妙な『リアル・スティール』のエヴァンジェリン・リリーや、『フライト・ゲーム』のコリー・ストール、『エンド・オブ・ウォッチ』のマイケル・ペーニャらが共演。また、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』のアンソニー・マッキーや、エンドクレジット後に登場する『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』のクリス・エヴァンスらが次回作への繋がりの為に登場し、もちろんスタン・リーも出演
そんな中でも個人的に嬉しかったのが、劇中アントマンが落ちてくる車の運転手役として一瞬だけ出てくるギャレット・モリスで。アントマンを映画化する際に、彼の名前を思い出してくれた人がいたって事実だけでも嬉しいもので。

anma01.jpg
天敵は蟻地獄マン?

↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓
blogramで人気ブログを分析   

        

        

posted by たお at 00:01 | Comment(6) | TrackBack(35) | 前にも観たアレ■あ行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。