2007年 アメリカ映画 100分 SF 採点★
“映画は映画、原作は原作”と割り切って楽しむ性質とはいえ、やっぱり好きな小説の映画化は色んな意味で期待と不安が入り混じるもので。それでもまぁ、映画として面白く出来ているなり原作の持っていた重要なポイントさえ押さえていれば、50人いた登場人物が3人に減っていようが、中世だったはずの舞台が宇宙に変わっていようが、“フランダースの犬”が筋肉映画に豹変していようが、全く気にはならないんですけどねぇ。

【ストーリー】
2012年、ニューヨーク。3年前に爆発的に発生した謎の病気により人類が吸血鬼のような怪物と化してしまった世界。地球最後の人間として生き残ってしまったネヴィルは、その病気の治療薬開発と他の生存者探しに奔走するが…。

あらゆる意味でネタバレをしていますんで、要注意を。
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』から始まるモダン・ゾンビのネタ元としても非常に重要な位置づけにある、リチャード・マシスンの傑作小説“地球最後の男”の『地球最後の男』『地球最後の男 オメガマン』に続く三度目の映画化。
謎の疫病により人類が吸血鬼と化し唯一の人間となってしまった主人公の、当初こそは防衛と研究の為であったはずの吸血鬼狩りが、長い日々の繰り返しの中でルーチンワークとしてただこなすだけの日課となっていく様を、主人公のボヤキ同様ドライなタッチで描かれる原作。あくまで読者同様人間である主人公の視点“人間=善 吸血鬼=悪”で進んでいくのだが、自分にとって恐怖の対象であった吸血鬼から見れば、唯一の人間である主人公こそが異物であり、呪われた存在であり、連日寝こみを襲ってくる“伝説の怪物”であることが判明するラストの衝撃は、それまで然程本好きではなかった私に、本の面白さを「これでもかっ!」って程教え込ませてくれたものである。
その“自分こそが伝説の怪物(アイ・アム・レジェンド)”とタイトルに重要な意味を込められた原作が、そのまま“アイ・アム・レジェンド”としてウィル・スミス主演で映画化されると聞いた時は、「オレはグレートだぁ!オレは伝説的なヒーローだぁ!」と“レジェンド=ウィル・スミス”ないつもの俺様映画になっちゃうんじゃないかと冗談半分不安半分で思ってはいたものの、踏み外しようのない完成されたオチを持つ原作を『コンスタンティン』で卓越したビジュアルセンスを披露したフランシス・ローレンスが監督をするってんで、多少不満があったとしても、つまらない作品にだけはならないと思っていた私。アイザック・アシモフの原作を『クロウ/飛翔伝説』『ダークシティ』のアレックス・プロヤスが監督したにも関わらず、ロボット3原則が“オレ最高!オレ最強!やっぱりオレ最高!”の“ウィル・スミスの3原則”に摩り替わっていた『アイ,ロボット』のことをスッカリと忘れて…。

「オレの肉体美を堪能しろ!」と、不自然なほど長く挿入されるウィル・スミス映画恒例の肉体自慢を軽く受け流せるほど強烈なインパクトを持つ廃墟となったニューヨークの異様な光景を舞台に、基本的に一人称視点で展開される本作。いかにもCG然とした動物などといった問題点を軽く吹き飛ばすほど強烈なその景観は、本作のもう一人の主人公と言ってもいいほど。「こういう事があったんだろうなぁ」と脳内補完で完成させることを拒むかのように、やたらと挿入される回想シーンによってテンポが著しく悪くなってしまうが、『28日後…』のレイジ以降主流となった全力疾走型ゾンビの系譜に則った感染者が生み出すスピード感が、それを相殺している。日中建物内の暗闇の中で輪になり休息している感染者の群れが照明に照らし出されるシーンは、近年の作品の中でも群を抜く恐ろしさである。
しかしながら、中盤以降その肝心の感染者の描写が非常に雑。動物を操り、罠を作り、先導者の下で集団行動を取り、同族間で愛情にも似た感情を持っていることがサラリと描かれるが、社会を構築するだけの知性ある存在ではなく、最後まで怪物としてのみ描かれる。“非常に雑”とは書いたが、それもこれも“映画の主人公は誰からも愛され共感を持たれる人物でなければならない”という、近年の映画製作に蔓延る病巣が原因なんですが。

で、いきなり結末に触れるが、本作は“アイ・アム・レジェンド”でも“地球最後の男”でもない。ずらりと並んだ感染者の写真で研究の為に大量の感染者を殺してしまっていることは匂わせるが、吸血鬼狩りの直接的描写が一体のみに絞られ、感染者が知性に基づいて社会を形成することによって生まれる社会構成の逆転や視点の逆転がないため、主人公の行為は人類救済の善意のものとして観客の共感を得れる範囲に留まっている。そして、感染者による社会の逆転が発生しない本作には代々語り継がれることになるであろう恐怖の“伝説”は存在せず、よって「自分こそが伝説の怪物であった」と気がつく“I Am Legend”という、作品上最も重要なセリフもない。その代わりにあるのは、「彼こそ人類の救済者だー!彼こそ伝説の英雄だー!」と褒め称える“He Is Legend”。いつの間にかタイトルが変わっている。病原菌は寒さで死滅するのでバーモント州の山間部では生存者がワラワラいるってのも、たとえ地球温暖化で全体的に暖かくなっているという裏設定があったとしても、冬は極寒のニューヨークを舞台にしているだけに説得力は皆無で、「だったら、結構あちこちに生存者いるんじゃね?」との疑問が浮かぶ以前に、「そこまでしてハッピーエンドにしたいのか?」という不満が大きい。作り手以上に、それを求め過ぎる観客にも問題があるのですが。
リメイクにしろ原作ものにしろ、重要なポイントを取り除いて別物として仕上げるのであれば、『ドーン・オブ・ザ・デッド』のようにそれらを補って余りあるずば抜けて面白さを持つ作品に仕上がっているのであれば嬉しいのだが、残念ながら原作の背帯の粗筋だけを映画化したかのような本作にはそこまで強烈な面白さを見出すことが出来ず。ごま塩頭で奮闘するウィル・スミスも、他者なりロボットなり宇宙人なりに絡むことで彼の持つ面白さを発揮するのだが、さすがに一人ぼっちの本作ではそこまで魅力を発揮できてはいない。いきなりノン・クレジットでエマ・トンプソンが登場する嬉しい驚きはあったが、なまじ思い入れのある原作である上に、劇場でここまで口をアングリしてしまった作品もここ最近なかったので、手厳しいとは思いつつもこの評価で。まぁ、この作品のヒットで、一人でも多く原作を手にしてくれる人が増えれば嬉しいんですが。

まぁ、常に“オレひとり”って映画ばかりの気もしますが
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