監督 リドリー・スコット 主演 マット・デイモン
2015年 アメリカ/イギリス映画 144分 SF 採点★★★★
金を持った映画オタクが「伝説的な映画を作るぞ!」と設立された、金の使い方としては最高の例であったレジェンダリー・ピクチャーズが中国の大連万達グループに買収されたってニュースには、大きな驚きと失望にも似た感情を覚えましたねぇ。これまでも巨大な中国マーケットを意識して、“世界平和に貢献する最先端科学の国”みたいな不自然なまでの中国推しが目立っていたハリウッド大作なんですけど、これにレジェンダリーの作品まで混ざるのかと。ただまぁ、中国が出る度になんでもかんでも「まただ!」と騒ぎ立てるのも、
映画の楽しみ方としては健全ではないのかなぁとも。原作の段階で既にあるのに調べもせずに騒いでみたり、別段作品のバランスを崩してないのに貶すのはどうなのかなぁと。
【ストーリー】
火星での有人探査計画に従事していたアレス3のクルー達は、突如襲った砂嵐によりミッションを中止し火星からの脱出を決定。しかし、宇宙船へと向かう途中で植物学者のワトニーは折れたアンテナの直撃を受け行方不明に。生存が絶望視されたワトニーを残し火星を脱出するが、ワトニーは奇跡的に一命を取り留めていた。ひとり火星に取り残された彼は、次の火星探査機がやって来る4年後までサバイバル生活を余儀なくされるのだが…。
アンディ・ウィアーによる小説“火星の人”を、『
プロメテウス』のリドリー・スコットが映像化したSFアドベンチャー。脚本と製作総指揮に『
キャビン』のドリュー・ゴダードが。
そういえば『
ミッション・トゥ・マーズ』で
ドン・チードルがひとりで盆栽してましたけど、どうやら火星に取り残されると何か生やしたくなるようですねぇ。それはさて置き、老境に達しなにか新しい命のあり方を模索しているかのような雰囲気も漂うリドリー・スコットが、過酷な火星でのサバイバルの様子を思いのほかたっぷりと放り込まれたユーモアと緻密な描写で描き切った本作。孤独で切実な息苦しい作品になりそうなテーマをここまで軽快なアドベンチャー作に仕上げられたのも、そのユーモアとそれを体現できるマット・デイモンの持ち味があったからこそなのかと。主人公のみならず、登場人物のほぼ全員がひたすらポジティブな様には、基本ひねくれ者の私も「
やっぱポジティブっすよね!」と素直に感動。あんな状況、後ろ向きになった瞬間に負けですし。また、
科学考証云々に関しては物理学者でも宇宙科学者でもないので何とも言えませんが、「なんかそれっぽい!」という映画的リアリティに溢れていたのは流石リドリー・スコット。
強いて言えば、クライマックスからバタバタとしてしまうのが惜しかった本作。そのクライマックスに中国が登場し、先端科学技術を誇りワトニー救出に手を差し伸べる様に「またか!」と思われた方も居られたようですが、この辺は基本的に原作通り。やや唐突な感じは否めなかったんですけど、それよりもかつては米ソが手を結ぶことが世界平和への第一歩みたいな感じだったものが、今ではそれが米中になったんだなぁと時代の流れをひしひしと。この調子だと、もし『
レッドブル』がリメイクされたら、その
レッド野郎はロシアからじゃなく中国からやって来ることになるんだろうなぁと。まぁ、表立って敵扱いしづらいってジレンマもあるのかも知れませんけど。
主人公のワトニーに扮したのは、待ちに待った『ジェイソン・ボーン』が控える『
幸せへのキセキ』のマット・デイモン。すこぶる頭が良く、尚且つ茶目っ気たっぷりでユーモアを忘れない。どんな状況に陥っても易々とは諦めず、過剰な悲壮感も漂わせない。もうまさに
マット・デイモンそのもののイメージがワトニーに合致した、これ以上ないキャスティング。ほとんど本人を見ているようだったので、リドリー・スコットの映画を観ているって充実感よりも、マット・デイモン映画を観ている充実感の方が圧倒的に勝ったほどで。
その他、どんどんブライス・ダラス・ハワードと見分けがつきにくくなってきた『
インターステラー』のジェシカ・チャステインや、別段笑いやリアクション能力が活かされてたわけじゃないのでちょっともったいなかった『
俺たちニュースキャスター 史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク』のクリステン・ウィグ、『
グッドナイト&グッドラック』のジェフ・ダニエルズ、
出演作にハズレの少ない『
アントマン』のマイケル・ペーニャ、『
シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』のセバスチャン・スタン、『
ヘラクレス』のアクセル・ヘニー、『
ソルト』のキウェテル・イジョフォーに、『
サンシャイン2057』では
大いにやらかしていたベネディクト・ウォンなど、濃いめの顔触れが隅々に。
そんな中でも、やはり注目は『
ピクセル』のショーン・ビーン。当然。「ショーンが観たい!」ってのがほとんどの原動力でしたし。で、今回のショーン。官僚的なNASA長官と対立するクルー思いのフライトディレクターという、“優しい方”のショーン。“クルー思いの現場監督”というと熱血漢をイメージしますが、どこか弱腰で、ワトニー救出の奇策をこっそりクルーに教えるも
瞬く間にバレてクビ宣告。結果オーライでクビ回避かと思いきや、「それはそれ!」ってんであっさりクビになっちゃう相変わらずの切なさ。新ロケットの打ち上げも見ずにゴルフに興じるラストは、なんか楽しそうだからいいけど
やっぱり居た堪れず。そんなショーンを見れた充足感と、“スターマン”ではなくベタを恐れずどこか別のシーンで“
火星の生活”を流して欲しかった気もしますが、それでもボウイを聴けた喜びってのは変わらず大きいので満足度の高かった作品で。あ、ブルーレイに収められていた
ショーンのNGシーンが可愛かったってのを最後に。
ウジウジしない
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