2007年 アメリカ映画 125分 ホラー 採点★★★★
この間まで勤めていた職場に、些細なことでイッパイイッパイになってパニックを起こし、ちょっとした事態を大混乱に陥れる才能に溢れた奴がおりまして。そこまでイレギュラーに弱い人間が、ただでさえイレギュラーな事が起きやすい接客業を選んだことを不思議に感じつつイライラハラハラと眺める中、もし大災害なんかの有事が起こった際には、真っ先にこいつの動きを封じなきゃなぁと決意を固める私でしたとさ。

【ストーリー】
メイン州の田舎町を襲った激しい嵐の翌日、湖上に現れた濃密な霧が徐々に町中を包み込んでいく。そんな中、買い物客でごった返すスーパーマーケットに、一人の男が血塗れになりながら逃げ込んでくる。「霧の中に何かが居る!」。パニックに陥った人々は外へと逃げ出すが、霧に潜む何物かに襲われ、絶叫と共に霧の中へと消えていく。恐怖に襲われた残った人々は店内に篭城をするが、恐怖は店内にも潜んでおり…。

スティーヴン・キングの傑作中篇“霧”を、今では『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』『マジェスティック』と感動ヒューマン作を撮る監督として名を知られているが、元々は『ブロブ/宇宙からの不明物体』『ザ・フライ2/二世誕生』などの傑作怪物映画を書いていたフランク・ダラボンが見事に映像化した一本。
敢えて書くまででもないのだろうが、『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』はゾンビの恐怖を描いた作品ではない。生ける屍の群れは登場人物を一軒家に追い込み篭城させる為の障害でしかなく、真の恐怖はその状況下で本性を剥き出しにする人間たちの姿である。本作の“霧に潜む何物”かも、部分的にしか現れずその先に何があるのか判らないだけに不気味だった巨大な触手や、そのあまりの巨大さに存在意義や意図が全く見えない奇異な巨象としか形容できない生物にこそ底知れぬ恐怖を感じることが出来たが、姿を明確に現すその他諸々の異界の生物に関しては、想像の範疇を全く超えていない分恐怖を感じるまででもない。まぁ、蚊刺過敏症持ちの私にとっては、あの巨大な蚊は勘弁して頂きたかったですが。しかし、本作において恐怖の対象となるのはもちろんそれら異界の生物ではなく、人間たちである。

“地元の繋がり”という名の下につるんで陰口を叩くか虚勢を張るかしか出来ない田舎者、何であれ否定をすることで優位を保とうとする弁護士、主張が絵空事の範囲から逸脱しないリベラル、そして“神の名”と“正義”を振りかざし凶行に及ぶ狂信者。この現代アメリカの縮図としてだけではなく、何かにすがらないと生きていけない弱さを持つ人間そのものを描いているとも言える人々が、それぞれの主張を通し互いに交じり合わないばかりに、ボタンの掛け違いが延々と続くかの如くチグハグな行動をとり続け、結果的に事態が悪化するばかりという無情さと愚かさ。それはまるで、薄いガラス一枚を隔てているだけでしかないのにも関わらず、その向こう側とこちら側は別世界なんだと自分に言い聞かせようとする作品中の彼ら同様、ブラウン管や写真の向こう側は自分には関係ないと極めて狭い安全圏に身を置いて安心しきろうとする我々自身をも揶揄しているかのようでもある。

霧が発生してから極めて早いスピードで物語に突入する本作。状況が飲み込めないまま混乱に陥るその様は、ほぼ原作に忠実である。霧とそこに潜む何物かが発生した因果関係は原作より明確にされてはいるが、情報源が舞台となる店内に限られているので、そのボンヤリ感には大きな違いがない。しかしながら、終盤まで原作どおりに進んでいく本作であるのだが、結末に関してだけは大きく異なる展開を見せる。
“この先どうなってしまうのか?”という、静かだが確実に終末感がひしひしと感じられる結末を迎えた原作。その読後の余韻は、まさに文字の力でしか味わうことの出来ないものであったが、映像としての結末となれば話は別。それまでのスピード感が嘘だったかのようにじっくりとジワジワと進んでいく本作の結末は、原作との大きな差異と救いのない絶望感に賛否が大きく分かれることが容易に想像できるが、ダラボン脚本による映画オリジナルの展開ながらも、キング作品随一の悲劇“ペット・セマタリー”を読んだ後に味わった胸が締め付けられるような絶望感と悲痛さ、そして皮肉めいた運命すら感じられるこの展開は、非常にキング的で見事。愛する息子との約束を守るが為に、そしてこの先に待ち構えるであろう悪夢に終止符を打つために最も辛く絶望的な選択をした父親と、僅かな希望を感じるまでもなく我が子の為に身を投げ出した母親が一線に並ぶその一瞬は強烈。

幼い息子との心の繋がりを強く感じてはいるものの、その愛する息子が助けを必要としている一瞬に限って側にいない父親には、『ドリームキャッチャー』でもキング作品に主演し、なんだかハイランダーな人っぽくなってきたトーマス・ジェーン。その頼り甲斐はあるんだがイマイチ信用しきれない風貌が、作品に良い不安定さを与えているとも。
その他にも、マーガレット・ホワイトもかくやと言わんばかりの迫力とベクトルの狂いっぷりを披露する『アメリカン・ドリームズ』『臨死』のマーシャ・ゲイ・ハーデン、『サイレントヒル』でも霧に囲まれていたローリー・ホールデン、風貌とは裏腹に一番頼りになる人間だったトビー・ジョーンズ、『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』同様高い所からの物言いなアンドレ・ブラウアーら、非常にいい顔ぶれが揃った本作。しかしながら、それらの顔ぶれ以上に本作に大きな影響を与えたと言えるのが、トーマス・ジェーンの息子役で、バットマンの新作『ダークナイト』でゲイリー・オールドマンの息子役としても出演するネイサン・ギャンブル。もう、その愛くるしさは反則。『ペット・セメタリー』のミコ・ヒューズもそうだったのだが、“如何に可愛いか”を散々描いているからこそ、結末の衝撃度も上がるというもの。あれがクリント・ハワードのような風貌だったら、そこまで胸を打ったかどうか。

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