2008年04月13日

クローバーフィールド/HAKAISHA (Cloverfield)

監督 マット・リーヴス 主演 マイケル・スタール=デヴィッド
2008年 アメリカ映画 85分 パニック 採点★★★★★

今更わざわざここで書くことでもないような気もするんですが、原爆や大空襲の恐怖やなす術のない絶望感を、黒く巨大な“なにか”に具象化したのが、第一作目の『ゴジラ』。戦争の記憶がまだ生々しく残っていた当時の観客が、『ゴジラ』により身近な恐怖を感じたことは想像しがたくない。しかし、時代が過ぎ去り戦禍の記憶を持たない世代が増えてくると、ゴジラや他の怪獣らが持つ意味合いに変化が訪れる。彼らは恐怖の象徴としてではなく、「街がメチャクチャになったらスゲー!」という観客に秘められた暗い願望を実現してくれる存在として歓迎されることと。

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【ストーリー】
ニューヨーク。ロブの日本への栄転を祝ってパーティーが行われている最中、巨大な“それ”が上陸。“それ”が破壊と殺戮を繰り広げ街中が大パニックに陥る中、ロブは仲間と共に恋人を救う為に駆け回るが…。

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本土攻撃の経験がないせいか、破壊をエンタテイメントとして楽しむハリウッド。それこそ、破壊描写の進化がそのまんまハリウッド映画の歴史とも言えるのでは。人災であれ天災であれ、観客の度肝を抜く破壊描写が留まることのないエスカレートをしていったのだが、あの“9.11”で事態が一変。高層ビルに旅客機が突っ込むという、ジョエル・シルヴァーあたりが考え付きそうな事件が、現実に起きてしまう。世界中に配信されたその瞬間の映像は、被写体との距離、角度、巻き上がる黒煙、降り注ぐ大量の書類、展開ともに映像として完璧であった。しかし、その完璧な映像には“死者数千人”という絵空事ではない事実も付いてきた。アメリカ中を震撼させ打ちのめしたこの事件は、当然の如くハリウッドにも大きな影響を与えたのはご存知の通り。ストーリーに与えた影響はもちろんのこと、これまでのエンタテイメント性を重視した破壊描写は鳴りを潜めるか、ひたすら絵空事として展開することになったのだが、9.11を追体験させる『ユナイテッド93』あたりを節目に、9.11を作品内に上手く消化させた作品が現れ始めた。

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前置きばかり長くなってしまったが、『M:i:III』や“LOST”のJ・J・エイブラムス製作による本作。本人も「日本へ行った時に〜」と言っている様に、ざっくりと言ってしまえば“アメリカでもゴジラみたいなのを作ったる!”という作品。以前にも、ローランド・エメリッヒによる巨大イグアナが高層ビルの間をちょこまかと走り回る『GODZILLA ゴジラ』があったにはあったが、あのイグアナは何かを象徴しているわけでもなく、その時点でもう既にゴジラでもなかった。まぁ、後に“GODZILLA”から“GOD”を抜いたゴジラに似て非なる単なるジラであることが判明するんですが。しかしながら、本作の理由こそ分からないが強烈な“怒り”を持ってニューヨークを壊滅に陥れる“あれ”は、明らかに“歩く9.11”。市民レベルでは皆目見当の付かぬまま猛烈な怒りをぶつけられる様もしかり。ひたすら混乱に陥るしか術はない。“怪獣映画を作る”という意気込みは、往年の日本特撮映画を思い出させるエンディング曲にも垣間見れる。その志は立派。

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“事件現場から発見された、その状況を撮っていたビデオカメラの映像を観る”という、でかいハッタリから幕を開ける本作。公開前からネットを中心に様々かつ核心には触れない映像を大量に流し人々の関心を煽り、“発見されたフィルムをそのまんま流します”ってハッタリも、一人称視点に固定されているが故に視野も情報も限られ登場人物同様に観客をも混乱に陥れる手法は、もちろん『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』と同様。『食人族』でもよし。鮮明な画像上で展開する驚愕の出来事というのは、鮮明であればあるほど、リアルであればあるほど“良く出来た映像”にしか見えないのだが、荒れたビデオの映像というのは“ビデオが加工されているわけがない”と脳内での約束事があるのか、そのものをそのまんま映し出していると錯覚を起こしてしまう。肝心なものをハッキリと捉えないじらし加減や、無名に近い役者の顔ぶれも、その効果を高めている。ハッタリと荒れた映像が生み出す臨場感、そして仄かに匂わす裏設定の効果があったからこそ、画面一杯に大きく広がった鼻の穴から鼻水が止めどなく流れ落ちる様しか映っていなくても、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』は他では味わえない不気味さを堪能できた。そして本作は更に、編集と徐々に“あれ”の全容が明らかになっていく構成の上手さ、まるでクトゥルーの邪神かのような人智を超えた“あれ”の不気味さ、そして徹底した視点の固定と情報の制限によって見事な臨場感と緊迫感を生み出している。もちろんそれを生み出しているのが、一見ダラダラと他愛のない会話が続いている様にも見えるパーティ部分と、“重ね撮りをしてしまった”という設定のもと時折垣間見える幸せな日々の映像の積み重ねで、人物の関係図や心情、性格を明確にするドラマの土台がしっかりしているからなのですが。

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冷静に考えれば、確かに本作には一切の新味がない。何か教訓を得ようにも、精々“とんでもないことが起こったら、無理せず逃げた方がいい”くらいしか得ることはない。人間ドラマはベタであるし、巨大なる“あれ”は『ゴジラ』から、ハッタリと前置きと手法は『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』から、クライマックスのサイレンの音は『ユナイテッド93』の警告音を髣髴させ、転がる自由の女神の首は『ニューヨーク1997』のポスターイメージからと、一事が万事借り物ではある。しかし、それらの借り物とハッタリと発想の転換が全て完璧にかみ合い、事前に想像していた“『ゴジラ』+『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』”という恐ろしくダメっぽいイメージを払拭してなお有り余る面白さを持っているのも事実。『ユナイテッド93』が、観客も知っている事前知識と“あったであろう”出来事を再現し、実際にあった事件を追体験させたのに対し、本作はまだ誰も経験したことがないどころか、ありえないことをあたかも実体験してしまったかのような錯覚すら起こさせる。そんな、したこともない体験を体験させる本作には、何を言われようがこの評価で。そもそも怪獣好きですし、「ホントに怪獣出てきちゃったら、どうなるんだろ?」という身の回りの疑問と興味を映像化してくれた喜びは大きい。

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さて、早くも続編の製作がアナウンスされている本作。得てして続編となると、何か増えてみたり、前作の謎の解明に終始しちゃったりするんですが、どうなることやら。確かに本作にも劇中では触れられない、主人公の勤める会社と“あれ”に因果関係が裏設定にあるにはあるようですが、その辺を明確にしちゃうと主人公と変な因縁ばかりが目立つ只の怪獣映画になってしまう所を、本編で語らなかったが故に見事な混乱を生み出していたとも。出来れば続編も安易なビギニングや後日譚、はたまた原因解明しちゃって神秘性を損なうようなことは避けてくれればなぁと。せっかく『unknown アンノウン』のクリス・マルキーが出てたんだから、軍部とか同じ時間の別視点で何本か作って、全体を通すとぼんやりがほんの少しだけ晴れるようなシリーズになってくれたらなぁと。
それにしても、本作は2008年を代表する事件というか、学校行って開口一番「クローバーフィールド観た?」が合言葉になるだけの作品のような気もするんですが、どうにも煽りとかお祭り騒ぎが少ないような気も。勝手にイカシタ名前を“あれ”につけ、事前に騒いで煽って煽って煽り倒してナンボの作品だと思うんですが。TVを付ければ、各々の局のドラマの劇場版という名の拡大版の宣伝ばかりですし。なんかこう、映画をとことん遊び倒すって時代じゃないんですかねぇ。

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体験中は私もずっとこんな顔

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2008年02月06日

ホット・ファズ (Hot Fuzz)

監督 エドガー・ライト 主演 サイモン・ペッグ
2007年 イギリス/フランス映画 121分 コメディ 採点★★★★★

何かの続編かリメイク、はたまたTVドラマの拡大版に涙を出させる方法を人死にに頼り切った感動モノとやらばかりがスクリーンを占拠してしまっているおかげで、めっきりと劇場へ足を運ぶことが少なくなった私。たまに劇場へと足を運べば、スクリーン上で展開されるのは“面白い”と感じさせる化学調味料ばかりが添加された、“愛”の感じられない工業製品ばかり。映画を観てこうも滅多に心が躍らない日々が続くと、「自分は本当は映画なんか好きじゃないんじゃないか?」と自問してしまうことすら。

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【ストーリー】
そのあまりの凄腕ぶりが上層部に煙たがられ、ロンドンからど田舎の警察署へ飛ばされたニコラス・エンジェル。“最高の村賞”に幾度となく選ばれるその村で起きる事件といえば精々白鳥が逃げ出すくらいで、ロンドンでの激務に慣れていたニコラスは一向に馴染むことが出来ない。そんな中、とあるカップルが交通事故により首が切断された状態で発見される。殺人事件の可能性を訴えるニコラスだが、上司は一向に聞き入れない。その後も凄惨な死体が次々と発見されるが、それらも全て“事故”として処理されてしまう。裏があると読んだニコラスは相棒のダニーと捜査を始めるが…。

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『ゾンビ』のパロディとしてのみならず、ロメロが『ゾンビ』に込めたテーマと映画的快感を見事に継承し独自に消化した、ゾンビ映画としても大傑作であった『ショーン・オブ・ザ・デッド』のエドガー・ライトとサイモン・ペッグが、今度は刑事アクション映画への溢れんばかりの愛情を詰め込んで贈る一本。
全身の毛穴が開ききってしまうほどの面白さに悶絶し、何を書いたらいいのか、何から書いたらいいのかサッパリ浮かばないので「ヤバイ!面白すぎる!」で済ませようとも思ったが、さすがにそれもアレなので、グダグダながらもなんとかレビューの形にまとめてみようかと。
本来なら笑いの生まれることがないシチュエーションに無理矢理ギャグを投入したり、ツッコミを入れることで笑いを生み出したり、面白いと思われるシーンだけを継ぎ接ぎした凡百のパロディ映画とは大きく異なる本作。序盤の細かいギャグを挟みつつ描かれる状況設定や人物関係図のドラマ部の強固な土台が、中盤以降スピードを増していくアクションを無理なく盛り上げる構成が、まず見事。そのドラマ部の強固さがあるからこそ、ぐるんぐるんカメラが回る『バッドボーイズ2バッド』のマイケル・ベイばりのキメも、ハトこそ出てこないが二丁拳銃で横っ飛びはするジョン・ウーのスタイルも、そしてそのアクションスタイルのみならず男同士の絆をしっかりと描くジョン・ウー魂も見事に作品に消化され、“好きだからやってみました”ではなく、彼らが“やらざるをえない”強烈な説得力を生み出している。

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そもそも、のどかな田舎町で発生する『ウィッカーマン』を髣髴させる土着のカルト宗教が絡むオカルト風味の連続殺人事件、ジョン・ウースタイルのアクションと男気、マイケル・ベイ風の豪快なカメラワークと血飛沫、死んだと思われた法の執行官が青白い馬に乗って悪党ばかりの町に帰ってくる『荒野のストレンジャー』を挟んで、マカロニウエスタン風味に、怪獣映画フレーバーを一本の作品に全て詰め込んで大笑いまでさせるという、誰が考えても不可能としか思えない難題を、全てを共存共栄させ、この完成度で仕上げることが出来たエドガー・ライトとサイモン・ペッグの手腕に、ただただひれ伏すことしか出来ない。「唯一足りないのはオッパイだけだ!」と書こうと思いましたが、ニセモノながらも出てることは出てるので、もう文句なし。アクション映画としてもコメディ映画としても、ずば抜けた完成度を誇る本作。工夫を忘れないアクションにしろ、細かい芸を随所に仕込んだギャグにしろ、愛して止まない映画の数々を自分の中で解体・消化し、彼らだからこそ作り上げられた本作から受ける印象は、ロブ・ゾンビの『デビルズ・リジェクト』から受けたものにも近い。非常にベタな締め方でなんとも恥ずかしいのだが、彼らの作品からダイレクトに伝わってくるのは、映画に対する底知れぬ愛情である。こういう作品に出会えると、「ホント、映画好きで良かったなぁ」とつくづく感じるものです。ヨボヨボのお婆ちゃんに物凄い勢いでドロップキックをする、今まで観たこともない素晴らしいシーンも観れましたし。

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「あのショーンがスーパーコップ役ぅ?」と、その違和感を笑う出オチかと思ってみれば、思いのほか違和感の感じさせないハマリっぷりに驚かされた、『ショーン・オブ・ザ・デッド』『M:i:III』のサイモン・ペッグ。もちろん違和感がゼロではないし、そこもギャグの大事な部分ではあるのだが、スーパーコップとしての説得力がないと後のギャグの数々が効いてこない本作でのサイモン・ペグの緩急の付け方は見事。締める所はしっかりと締めるサイモン・ペグがいるからこそ、同じく『ショーン・オブ・ザ・デッド』から引き続き登場のニック・フロストの演じるアクション映画の刑事像にどっぷりとハマったキャラクターとのコントラストが活きてくるし、その逆も然り。
その緩急は全てのキャラクターに徹底されており、『007/リビング・デイライツ』『ロケッティア』のティモシー・ダルトン、『ナイロビの蜂』のビル・ナイ、『80デイズ』のジム・ブロードベント、『ボーン・アルティメイタム』のパディ・コンシダイン、『銀河ヒッチハイク・ガイド』『ラブ・アクチュアリー』のマーティン・フリーマン、『ナイト ミュージアム』のスティーヴ・クーガンら、カメオも含め錚々たる面子が揃った本作を、顔ぶれだけで終わらせない安定感をもたらしている。
先に挙げたスティーヴ・クーガンもそうなのだが、本作には意外な顔ぶれがノンクレジットで登場するお楽しみも。“顔ぶれ”というか、顔見えてないんですが。その一人が、暴漢役として後姿で登場するピーター・ジャクソン監督。痩せてるんで、判りませんでした。で、もう一人が、鑑識役として目元以外は全てマスクで隠した、人間にしろそうじゃないにしろ女王役がバシリとキマる、ケイト・ブランシェット。エルフ耳が隠れてたんで、気がつかなかったです。

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で、恒例の愚痴を少々。
100歩譲って、『ショーン・オブ・ザ・デッド』の劇場未公開は良しとしましょう。傑作とはいえ、どこの馬の骨とも知れぬ若造が作り上げたゾンビコメディを商売として成功させるには、配給会社としては少々荷が重過ぎたのかも知れませんし。しかし、その『ショーン・オブ・ザ・デッド』がDVDリリースされた後の評価と評判の高さは周知のこと。『ショーン・オブ・ザ・デッド』はもう充分に販促に使用できるほどになったし、『ゾンビ』よりは一般的に認知度の高いマイケル・ベイやジョン・ウーのアクション映画をテーマにしているだけに、本作の存在を知ってからというもの、劇場公開の日を首を長くして待っていたのですが、今回も劇場公開見送り。なんですか?続編とリメイクとTVドラマの拡大版と主人公が死んで涙をドバーっと流させようとする映画がいっぱい過ぎて、本作を公開する余地が全くないんですか?それとも、アリモノの宣伝材料だけでも充分観客の関心を呼べるであろう本作を売る方法が思いつかないほど、配給会社の皆様は能無しなんですか?映画館で笑っちゃ、ダメなんですか?「映画って楽しい〜ねぇ〜♪だからシネマっていうのかな〜♪」という虫酸の走る歌を、聴き続けなければならないんですか?もうそんな配給会社の皆様には、今年も小さな不幸がたくさん訪れますようお祈りいたします。それはさておき、辛うじて年内のDVD発売だけは決まっているらしい本作。なんとも外しまくった邦題やサブタイトルが付きそうな予感もしないでもないですが、『俺たちホット・ファズ』とかだけは勘弁して下さい。
で、こんな終わりの方で申し訳ないんですが、今回この作品を観れたのも、いつも大変お世話になっている“Die-Early”のUSA-P様の御厚意があってからこそのこと。いやぁもう、本当にありがとうございました!

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ハトの代わりにしてはちょっとデカイ

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posted by たお at 02:46| Comment(4) | TrackBack(3) | ★★★★★(大満足!!) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする