2008年02月06日

ホット・ファズ (Hot Fuzz)

監督 エドガー・ライト 主演 サイモン・ペッグ
2007年 イギリス/フランス映画 121分 コメディ 採点★★★★★

何かの続編かリメイク、はたまたTVドラマの拡大版に涙を出させる方法を人死にに頼り切った感動モノとやらばかりがスクリーンを占拠してしまっているおかげで、めっきりと劇場へ足を運ぶことが少なくなった私。たまに劇場へと足を運べば、スクリーン上で展開されるのは“面白い”と感じさせる化学調味料ばかりが添加された、“愛”の感じられない工業製品ばかり。映画を観てこうも滅多に心が躍らない日々が続くと、「自分は本当は映画なんか好きじゃないんじゃないか?」と自問してしまうことすら。

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【ストーリー】
そのあまりの凄腕ぶりが上層部に煙たがられ、ロンドンからど田舎の警察署へ飛ばされたニコラス・エンジェル。“最高の村賞”に幾度となく選ばれるその村で起きる事件といえば精々白鳥が逃げ出すくらいで、ロンドンでの激務に慣れていたニコラスは一向に馴染むことが出来ない。そんな中、とあるカップルが交通事故により首が切断された状態で発見される。殺人事件の可能性を訴えるニコラスだが、上司は一向に聞き入れない。その後も凄惨な死体が次々と発見されるが、それらも全て“事故”として処理されてしまう。裏があると読んだニコラスは相棒のダニーと捜査を始めるが…。

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『ゾンビ』のパロディとしてのみならず、ロメロが『ゾンビ』に込めたテーマと映画的快感を見事に継承し独自に消化した、ゾンビ映画としても大傑作であった『ショーン・オブ・ザ・デッド』のエドガー・ライトとサイモン・ペッグが、今度は刑事アクション映画への溢れんばかりの愛情を詰め込んで贈る一本。
全身の毛穴が開ききってしまうほどの面白さに悶絶し、何を書いたらいいのか、何から書いたらいいのかサッパリ浮かばないので「ヤバイ!面白すぎる!」で済ませようとも思ったが、さすがにそれもアレなので、グダグダながらもなんとかレビューの形にまとめてみようかと。
本来なら笑いの生まれることがないシチュエーションに無理矢理ギャグを投入したり、ツッコミを入れることで笑いを生み出したり、面白いと思われるシーンだけを継ぎ接ぎした凡百のパロディ映画とは大きく異なる本作。序盤の細かいギャグを挟みつつ描かれる状況設定や人物関係図のドラマ部の強固な土台が、中盤以降スピードを増していくアクションを無理なく盛り上げる構成が、まず見事。そのドラマ部の強固さがあるからこそ、ぐるんぐるんカメラが回る『バッドボーイズ2バッド』のマイケル・ベイばりのキメも、ハトこそ出てこないが二丁拳銃で横っ飛びはするジョン・ウーのスタイルも、そしてそのアクションスタイルのみならず男同士の絆をしっかりと描くジョン・ウー魂も見事に作品に消化され、“好きだからやってみました”ではなく、彼らが“やらざるをえない”強烈な説得力を生み出している。

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そもそも、のどかな田舎町で発生する『ウィッカーマン』を髣髴させる土着のカルト宗教が絡むオカルト風味の連続殺人事件、ジョン・ウースタイルのアクションと男気、マイケル・ベイ風の豪快なカメラワークと血飛沫、死んだと思われた法の執行官が青白い馬に乗って悪党ばかりの町に帰ってくる『荒野のストレンジャー』を挟んで、マカロニウエスタン風味に、怪獣映画フレーバーを一本の作品に全て詰め込んで大笑いまでさせるという、誰が考えても不可能としか思えない難題を、全てを共存共栄させ、この完成度で仕上げることが出来たエドガー・ライトとサイモン・ペッグの手腕に、ただただひれ伏すことしか出来ない。「唯一足りないのはオッパイだけだ!」と書こうと思いましたが、ニセモノながらも出てることは出てるので、もう文句なし。アクション映画としてもコメディ映画としても、ずば抜けた完成度を誇る本作。工夫を忘れないアクションにしろ、細かい芸を随所に仕込んだギャグにしろ、愛して止まない映画の数々を自分の中で解体・消化し、彼らだからこそ作り上げられた本作から受ける印象は、ロブ・ゾンビの『デビルズ・リジェクト』から受けたものにも近い。非常にベタな締め方でなんとも恥ずかしいのだが、彼らの作品からダイレクトに伝わってくるのは、映画に対する底知れぬ愛情である。こういう作品に出会えると、「ホント、映画好きで良かったなぁ」とつくづく感じるものです。ヨボヨボのお婆ちゃんに物凄い勢いでドロップキックをする、今まで観たこともない素晴らしいシーンも観れましたし。

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「あのショーンがスーパーコップ役ぅ?」と、その違和感を笑う出オチかと思ってみれば、思いのほか違和感の感じさせないハマリっぷりに驚かされた、『ショーン・オブ・ザ・デッド』『M:i:III』のサイモン・ペッグ。もちろん違和感がゼロではないし、そこもギャグの大事な部分ではあるのだが、スーパーコップとしての説得力がないと後のギャグの数々が効いてこない本作でのサイモン・ペグの緩急の付け方は見事。締める所はしっかりと締めるサイモン・ペグがいるからこそ、同じく『ショーン・オブ・ザ・デッド』から引き続き登場のニック・フロストの演じるアクション映画の刑事像にどっぷりとハマったキャラクターとのコントラストが活きてくるし、その逆も然り。
その緩急は全てのキャラクターに徹底されており、『007/リビング・デイライツ』『ロケッティア』のティモシー・ダルトン、『ナイロビの蜂』のビル・ナイ、『80デイズ』のジム・ブロードベント、『ボーン・アルティメイタム』のパディ・コンシダイン、『銀河ヒッチハイク・ガイド』『ラブ・アクチュアリー』のマーティン・フリーマン、『ナイト ミュージアム』のスティーヴ・クーガンら、カメオも含め錚々たる面子が揃った本作を、顔ぶれだけで終わらせない安定感をもたらしている。
先に挙げたスティーヴ・クーガンもそうなのだが、本作には意外な顔ぶれがノンクレジットで登場するお楽しみも。“顔ぶれ”というか、顔見えてないんですが。その一人が、暴漢役として後姿で登場するピーター・ジャクソン監督。痩せてるんで、判りませんでした。で、もう一人が、鑑識役として目元以外は全てマスクで隠した、人間にしろそうじゃないにしろ女王役がバシリとキマる、ケイト・ブランシェット。エルフ耳が隠れてたんで、気がつかなかったです。

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で、恒例の愚痴を少々。
100歩譲って、『ショーン・オブ・ザ・デッド』の劇場未公開は良しとしましょう。傑作とはいえ、どこの馬の骨とも知れぬ若造が作り上げたゾンビコメディを商売として成功させるには、配給会社としては少々荷が重過ぎたのかも知れませんし。しかし、その『ショーン・オブ・ザ・デッド』がDVDリリースされた後の評価と評判の高さは周知のこと。『ショーン・オブ・ザ・デッド』はもう充分に販促に使用できるほどになったし、『ゾンビ』よりは一般的に認知度の高いマイケル・ベイやジョン・ウーのアクション映画をテーマにしているだけに、本作の存在を知ってからというもの、劇場公開の日を首を長くして待っていたのですが、今回も劇場公開見送り。なんですか?続編とリメイクとTVドラマの拡大版と主人公が死んで涙をドバーっと流させようとする映画がいっぱい過ぎて、本作を公開する余地が全くないんですか?それとも、アリモノの宣伝材料だけでも充分観客の関心を呼べるであろう本作を売る方法が思いつかないほど、配給会社の皆様は能無しなんですか?映画館で笑っちゃ、ダメなんですか?「映画って楽しい〜ねぇ〜♪だからシネマっていうのかな〜♪」という虫酸の走る歌を、聴き続けなければならないんですか?もうそんな配給会社の皆様には、今年も小さな不幸がたくさん訪れますようお祈りいたします。それはさておき、辛うじて年内のDVD発売だけは決まっているらしい本作。なんとも外しまくった邦題やサブタイトルが付きそうな予感もしないでもないですが、『俺たちホット・ファズ』とかだけは勘弁して下さい。
で、こんな終わりの方で申し訳ないんですが、今回この作品を観れたのも、いつも大変お世話になっている“Die-Early”のUSA-P様の御厚意があってからこそのこと。いやぁもう、本当にありがとうございました!

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ハトの代わりにしてはちょっとデカイ

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posted by たお at 02:46 | Comment(4) | TrackBack(3) | 前にも観たアレ■は行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 この意見には僕もうなずくものがあります。最近は、まず死ありきで、全部ゾンビ映画か!と思ってしまいます。死んだら悲しいのは当たり前ですけれども、全部それにおんぶに抱っこではたまらないですよね。この映画は確かshowbiz count downで紹介していたのを覚えています。こういうのが公開されると助かるんですけどねえ。
Posted by フランケントミー at 2008年02月06日 13:25
あぁ何て素敵なレビューなんでしょう!
 
これだけの文量でありながらネタバレもしていない上に、観た人でこのレビューで笑わない人はいないでしょう! 勿論私も大笑いしましたよ!
 
ホント、何の悪戯かダブりトリプったこの子をたお様に身請けしてもろうてありがとうございました…
 
以前からポツポツとちゃんとした日本語メニューや字幕が付いているけど日本版はリリースされていないハリウッドメジャーのDVDがあったものですが、本作のように日本の声優さんを起用して(主人公二人はちゃんと『ショーン〜』と同じだそうな)日本語吹替えまで収録しておきながらも日本だけリリースされないという情況って一体何なのだろうかと思います。そりゃまぁお金とかで足元を見られたりとか色々な事情はあるんでしょうけど、日本映画産業界は現状やっている事って自分で自分の首を絞めてる事にしかならんと思うんですけどね… 実際、邦画バブルは06年のみで07年は興行成績も観客動員数も減っているそうですが、こういう現状はホント、何とかならんもんですかね…
 
(ロブ・ゾンビ監督のリメイク版『ハロウィン』とかも公開されるんでしょうかね… あぁ…)
Posted by USA-P at 2008年02月06日 21:20
フランケントミー様、こんばんは!
“人が死んだら悲しい”って、“バナナの皮で滑って転んで大笑い”と同じで、映画の中の記号でしかないんですよねぇ。それをメインに「人が死んで悲しい映画を撮ろう!」「それを観よう!」って流れは、愚か以外のなにものでも。。。
Posted by たお at 2008年02月07日 22:54
USA-P様、こんばんは〜♪
乱造して観客にそっぽを向かれる悪循環ですよねぇ。その乱造期に一人でも多く映画好きを作り上げてたならまだしも、離れた観客は結局映画には戻ってこないんで、ホント、自分の首を絞めてるだけですよねぇ。
しかしまぁ、このレビューはしんどかったですねぇ^^;
あんまりに面白すぎて、何を書いたらいいのかさっぱり分からなくなるほど興奮しちゃいましたし、「観たい!」って思わせるクスグリを入れようにも、そうそう見れる状況じゃないので酷でしょうし、ネタバレは避けたいしと。辛うじて形にしたってのが、ホントの所で^^;
それにしても、こんな素晴らしい作品を譲っていただき、ほんとーっにありがとーございました!!!
Posted by たお at 2008年02月07日 23:01
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