2006年 香港/タイ映画 108分 ホラー 採点★★★★
十数年ぶりに母校を訪ねてみると、その周囲の風景がガラリと変わってたりして驚いたもの。見覚えのない店や真新しいビルに囲まれ、まるで別の街に来てしまったかのような錯覚すら覚えるが、ふと裏道に入ると何十年も変わらない街並があったりも。こうやって古いものを下敷きに、新しいものが出来上がるんだなぁと、当然のことを改めて思ったもので。まぁ、忘れたことや忘れたいことの積み重ねが、今の私を作り上げているんでしょうし。元々忘れっぽいってのは別にして。
【ストーリー】
人気女流作家のディンイン。霊的体験をテーマとした次回作の執筆に入る彼女であったが、短いアイディアこそ出るが形にならず苛立つ彼女。やがて彼女の周囲で不可解な現象が起き始めるが、それらは全て彼女が捨てた小説のアイディアばかり。現実と虚構の狭間で混乱する彼女であったが、周囲の世界は更に大きく変貌し始め…。
『the EYE 【アイ】』のパン兄弟による、ホラーファンタジー。
捨て去られた言葉が具象化する序盤こそはアジアホラー特有のおぼろげでジットリとした恐怖描写で描かれるが、中盤以降はその風合いを残しつつもより直接的な力技表現で恐怖を描く、そのブレンド具合とバランス感覚が秀逸。“力を宿す言葉”“忘れ去られた者(物)の悲しみ”“過去の過ち”など様々な要素を欲張って全て取り込んだ結果、非常にとっ散らかった印象も強いのだが、捨てられた玩具が地平線を埋め尽くす光景や、廃墟の間に挟まれた観覧車、障害物が亡者の“死霊のラビリンス”と化した死界の様など、強烈なビジュアルイメージがそれを補って余りあるものとなっている。首のだらりと伸びた亡者が大挙する“首吊りの森”や、名前も与えられぬまま中絶された水子が育ち続ける巨大な子宮といった、恐怖と底知れない悲しみが混在する世界をテーマ毎に教訓を込め見事に表現した本作のビジュアルイメージは、『パンズ・ラビリンス』に匹敵すると言っても全く過言ではないほどダイナミックである。
しかし、その見た目以上に強く心を揺さぶるのが、悲しさと優しさと厳しさに溢れた物語。登場する亡者の全てに言葉では語られない悲しい過去を匂わせているのだが、主人公の水先案内人として登場する名もない少女の想いは強烈。母親を想う強い気持ち、僅かな時間の間に母親と一緒にしたかった事を出来るだけ叶えようとする切ない想い、どんなに悔いても詫びても過去に起きた事実は変えようがない厳しさを一言で諭すその少女が背負うあまりに重い悲しみには、強く胸を締め付けられる。
大きな瞳が際立った美しさを放っていた『the EYE 【アイ】』のアンジェリカ・リー。本作では、その美しさに過去を自ら封印する力強さと翳りを漂わせ、一種妖艶な美しさすら感じるほど。やっぱり恋人のことは、より一層美しく映し出そうとするもんなんでしょうねぇ。
とっ散らかった物語、やり過ぎちゃったエンディングなど不満も少なくはないが、見事なビジュアルとアンジェリカ・リーの美しさが圧巻であるので、文句なしにこの評価。
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ぼくもこの映画には心揺さぶられました。
圧巻のビジュアル、そそいてあの少女の秘密。
いま思い出してもゾクッときます。
あのビジュアルを作り出す創造力もそうでしたが、やはり少女の秘密を始めとした切ない思いに胸を打たれましたねぇ。。。