2007年07月06日

カサンドラ・クロス (The Cassandra Crossing)

監督 ジョルジ・パン・コスマトス 主演 リチャード・ハリス
1976年 西ドイツ/イタリア/イギリス映画 128分 パニック 採点★★★★

映画の面白さってのをTVで学んだ子供の頃。放映されるラインナップが変わり映えしていなくても、それこそ何度も何度も同じ映画を楽しんだもので。如何せん終わる時間が11時近くと、親が「いい加減早く寝ろ!」と怒り始める時間ではあったものの、必死に頼み込んで見させてもらっていたものです。その映画の興奮を頭の中で反芻しながら眠りにつくのが何とも幸せだったんですが、逆に後味が悪い映画だったりすると眠れなくなってしまうこともしばしば。『家』とか『ファンタズム』なんて、夢にまで出てきましたし。

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【ストーリー】
過激派がジュネーブの国際保健機構本部の爆破を試みるが失敗。その際、極秘に開発されていた細菌に感染してしまった一人が、ヨーロッパ大陸横断列車へと逃げ込む。やがてその細菌により伝染病が広まってしまった列車を軍部は秘密裏にポーランドへと隔離しようと企むが、行く手には老朽化したカサンドラ大鉄橋が待ち構えており…。

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パニック映画ブームの真っ只中、アイディアは頂き物であっても、その娯楽志向と“見せるべきものは大体3割増しで見せる”サービス精神に溢れていたイタリア映画界作り上げた、観終わった後胃にドッシリと残るパニック映画の快作。
ポルターガイスト』のジェリー・ゴールドスミスによる、美しい旋律の中に、これから迎える運命を予感させるような不穏で不吉な不協和音が混じりこむ素晴らしいテーマ曲をバックに、ジュネーブの街並から物語のスタート地点となる国際保健機構本部までを一気に空撮で収めるオープニングから見せ場に次ぐ見せ場の連続で、ダレることなく一気に突っ走る一本。乗客が千人という大所帯ながらも、物語に関わる人物を最小限に抑えているため、ダレ場になりやすい人物紹介も手短に済んでいるのも、このスピード感に繋がっている。さすが、後に見せ場だけは豊富な『ランボー/怒りの脱出』や『コブラ』を手掛けたジョルジ・パン・コスマトスだけある。

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娯楽志向の強い作品とはいえ、ことが人災だけにスコーンと突き抜けた明るさは全く見当たらず、全編を通して無常感と遣る瀬無さに溢れた本作。無情で融通の利かない国家の象徴としてパニック映画には欠かすことの出来ない白い防毒服の男達が、「シュコーシュコー」と呼吸音を響かせながら登場するクライマックスになると、ユダヤ人虐殺の忌まわしき記憶も物語に絡み始めその遣る瀬無さはますますヒートアップし、エンディングでピークを迎えてしまう。橋から転落した列車内の阿鼻叫喚な地獄絵図をこれでもかと見せ、死体が累々と流れる川面をバックに抱き合う主人公らの姿には、見事なまでにハッピー感なし。抱き合う主人公らを見つめる少女が待っている母親は、ついさっき死んだばっかりですし。子供心に「凄い嫌なものを観ちゃったなぁ」「防毒服の連中は信用しちゃダメだ」と深く刻まれた本作。最近、こういうトラウマになる作品ってめっきり少なくなっちゃいましたねぇ。

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ワイルド・ギース』のリチャード・ハリスを筆頭に、ソフィア・ローレン、バート・ランカスター、エヴァ・ガードナーと国際色豊かな顔ぶれが揃った本作。“オールスター映画”って呼ぶには若干華やかさには欠けていますが、作品自体が華やかじゃないのでこれでいいのではとも。ただまぁ、O・J・シンプソンも出ているんだから、ジョージ・ケネディとアーネスト・ボーグナインも出ていて欲しかったですが。そんな渋味を通り越して苦味すら感じる顔ぶれの中で目を引くのが、富豪夫人のヒモを演じる『ボビー』のマーティン・シーン。もちろん『バーバレラ』のジョン・フィリップ・ローも、『悪魔の墓場』のレイモンド・ラヴロックも忘れがたいですが。で、エミリオとチャーリーのパパ。30年も前から芸風が変わっていないことにも、息子らもまるっきり芸風が一緒なのにも驚かされたが、やはりパンツ一丁での三点倒立姿には卒倒。色んな意味で、この辺も遣る瀬無かったり。
それにしてもリチャード・ハリス。黒のハイネックが最も似合う男性の一人。頼り甲斐も力強さも颯爽とした感じもないってのに、どうしてこんなにもカッコよく見えてしまうのだろう。この頃の彼には、どんな状況でもなんとか切り抜けてしまいそうなオーラがある。程よい皮肉も混じった彼の口ぶりも含め、“大人のお手本”として子供心に刻まれた彼だけあって、『許されざる者』でボコボコにされたまま消える彼に強いショックを覚えた記憶も。

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行動は早いが見捨てるのも早い

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posted by たお at 00:17 | Comment(2) | TrackBack(0) | 前にも観たアレ■か行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コレ、リアルタイムで映画好きの母親に連れられて劇場で観てトラウマになった作品の1つでありますわ(笑)。他にも『地獄の黙示録』『キャリー』等も劇場で観てトラウマになっちゃいましたが… でも本作も映画としてよく出来てるんですよね、呆れるくらい。そう大した予算の作品でもないのに。
 
最近、トラウマもさる事ながらこのくらいのあまり予算はかかっていないんだろうけど役者と監督の手腕で観てしまうって映画も少なくなったような気がします。妙ぅにカッティングとか編集とかは上手いんだけど物足りないって言うか… まぁこれは爺の繰言になっちゃうかな?(苦笑)
 
 
Posted by USA-P at 2007年07月10日 23:36
USA-P様こんばんは〜♪
いやぁ爺の繰言なんかじゃなく、ホント最近の映画は小奇麗にまとまっちゃってますよねぇ。。。料理なんかで灰汁を取りすぎちゃダメってのと同じで、えぐ味とか全体のバランス度外視してでも入れる描写とか、最近の映画には見当たらないんですよ。おかげでトラウマにはならないんですが、心にも残らない作品ばかり。まぁ、小奇麗にまとまってる映画ばかり評判が良いと、「あぁ、そういう時代なんだなぁ」とまさに爺の繰言を言っちゃうんですが^^;
Posted by たお at 2007年07月11日 01:42
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