2002年 アメリカ/カナダ映画 105分 サスペンス 採点★★★★
毎日どこかで必ず発生している殺人事件。相当センセーショナルな事件でもない限り、ざっくりとした事件の概要がニュースで伝えられるだけなんですけど、そういった事件に対して私たちが持つイメージって概ね“加害者が悪人で被害者が善人”ってものだったりしますよねぇ。もちろん犯罪を犯した人物はどんな理由があるとしても“悪人”に変わりはないんですけど、だからと言って犠牲者が“善人”であるとは限らないのではと。殺人に至らないケースでもこういうイメージを持ちがちで、時には“被害者は嘘をつかない”を前提に物事を決めつけたりも。
【ストーリー】
売人との銃撃戦で一般市民を巻き添えにしてしまい18ヵ月の停職処分となった麻薬潜入捜査官のテリスは、復職の条件として潜入捜査官カルベス殺人事件の捜査を命じられる。カルベスの元相棒で、粗暴なやり方で問題を起こしてばかりいるオーク警部補と共に捜査を始めるのだが・・・。
長編2作目となる本作で注目を浴び『M:i:III』の監督に大抜擢されるも、方向性の違いやらなにやらでスタジオと衝突し降板して以降、なにかと浮き沈みの激しい監督って印象が強くなった『クレイジー・ドライブ』のジョー・カーナハンが監督と脚本を手掛けたクライムサスペンス。出演者のレイ・リオッタも製作者に名を連ね、本作に惚れ込んだトム・クルーズが製作総指揮を名乗り出た一本。
9.11以降ハリウッド映画がだいぶ内向きになっていたとは言え、まだまだ勧善懲悪を描く単純構造のヒーロー映画が求められていた時流に思いっきり反する、善と悪の境が紙一重でしかない刑事の姿をリアルで重厚に描き切った本作。物語展開はもちろんのこと、粗く冷え切った映像も70年代ニューシネマを彷彿させてくれるのも嬉しい。また、小手先に走りがちな若手が多い中、無駄のないカメラワークでどっしりと映像を収めながらも、要所要所で的確な映像的変化を与えることでダレ場を作らない手腕も見事。特に、荒々しく凄惨なオープニングシークエンスは、その後の映画の色を一発で決めさせた名シーンで。
タイプの異なる二人の刑事が未解決の警官殺し事件の真相を追うという、物語のベースとしては定番と言える本作ではあるが、真相が見えてくるにつれて観客が巧みにその定番の罠に嵌め込まれていく脚本がまず巧い。一人の女性を守りたい、守るためなら法なんてクソ食らえだという強い思いと、単純な善悪の物語ではないことが判明し、その後を主人公と観客の手に委ねられるラストが与えるインパクトと余韻は素晴らしいの一言。万人に愛される作品でも、今現在に至るまで表立って語られ続ける作品でもないのだが、21世紀を代表する刑事ドラマのひとつではないのだろうかと。
主演こそテリスに扮した『ルーザーズ』『ロストボーイ』のジェイソン・パトリックだが、本作はやはり何といってもオークに扮した『デート&ナイト』『グッドフェローズ』のレイ・リオッタが素晴らしい。口ひげをたくわえ体重を増やしたことで、ブライアン・デネヒーに匹敵するほどの刑事っぽさを身に付けたレイ・リオッタ。その外見のみならず、犯罪者を追う役割ながらも単純な正義の味方なんかではなく、法を執行する側とされる側の違いでしかない善と悪の紙一重さ、狂気を孕みながらも独自のブレない正義感を持つ複雑な性格を内面から見事に表現。また、登場するだけで漂う独特な胡散臭さが物語のツイストを際立たせたりもする、レイ・リオッタなくしては作品が成り立たない圧倒的な存在感を誇示。もともと巧い役者ではあるが、本作でのパフォーマンスは彼のキャリアの中でもベストの一つに。
そんなレイ・リオッタに食われっぱなしのジェイソン・パトリックではあるんですが、その“食われっぱなし”ってのが役柄上重要なので、単に存在感の無い人ではなし。長年潜入捜査を続けた故に倫理観が揺らぎ始め、一般市民を犠牲にしたことで正義感までもが揺らぎ始めたテリス。善悪の間を漂うテリスだが、そこに彼を遥かに凌ぐオークが現れることでテリスは自分の立つべき場所を再確認する。そういった役柄である以上は一歩下がって然るべきであるし、そうすることで“刑事も人間である”ってのがより深く伝わる好キャスティング。
そんなタイプの異なる二人のバランスのとれた熱演のみならず、基本トロントでの撮影だがその寒々しさと、映し出されるのは僅かながらも舞台となるデトロイトの寂れっぷりやそこで暮らす人々の姿も作品の顔として強烈な印象を残していた一本で。
法のみが善悪を定めてるわけではなく
↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓