2014年 スペイン映画 105分 サスペンス 採点★★★★
すっごく初歩的なことではあるんですけど、ある特定の年代を舞台にしている作品って、その年代じゃなければならない理由ってのがあるんですよねぇ。ただ、観慣れた国の作品とかならまだしも、然程詳しくない国の作品だったりするとオチの意味すら把握できなくなっちゃう場合も。なもんだから、初っ端に“19○○年”とかテロップが出たら一時停止にしてググルようにしてるんですよねぇ。まぁ、劇場の場合はお手上げですけど。
【ストーリー】
1980年、スペインのアンダルシア地方。首都マドリードから湿地帯の小さな町へ左遷されてきた若き刑事ペドロとベテランのフアンは、二人の地元少女が行方不明になった事件を担当することに。しかし、少女らは程なく遺体で発見され、その遺体には惨たらしい拷問と強姦の痕跡が残されていた。捜査を進める内に、過去にも同様の事件が発生している事を知った刑事は…。
独裁国家から民主主義国家へと生まれ変わったばかりのスペインを舞台にした、本格的な刑事ドラマ。『UNIT 7 ユニット7/麻薬取締第七班』のアルベルト・ロドリゲスが脚本と監督を。
少女の惨殺死体や小児性愛、麻薬汚染や貧困といったセンセーショナルな題材を扱いつつもそのキャッチーさに頼らず、湿地帯から染み出る湿気のようにジワジワと浮き出る田舎町の暗部を、己の目と耳と足で暴いていく本格的で重厚な刑事ドラマを満喫できた本作。都会から遅れてようやく変化の波が訪れた田舎町の閉鎖的な空気感や、その町を離れることが容易なようで困難な状況に失望しきった若者の姿、少しずつ明らかになる過去と同時に人物像も明確になっていく刑事らなど、ストーリーのみならず状況や人物描写の見事さにも舌をまく。
決してランニングタイムは長くないのだが、十分過ぎる程どっしりとした充足感を味わえた本作。活劇的なシーンはほぼ皆無だが、ちょっとしたチェイスシーンにある高い緊迫感や暴力シーンの陰惨さなど、メリハリの付け方も非常に上手い、ちょっとこの監督の過去作も漁りたくなるだけの魅力と面白さがあった一本で。
ここから先はネタバレと憶測になるんですけど、この組織的な拷問殺人事件の末端に居る犯人こそ逮捕するも、その全容が明らかになるどころかベテラン刑事フアンにも疑いの目が行く締めくくりを迎える本作。
ちょっと監督のコメント等までは調べがつかなかったのであくまで憶測ではあるんですが、“フアン犯人説”は少々厳しいかなぁと。事件発生時に犯行可能だったような描写もなければ、時期も過去に遡るので難しい。ただ、写真に残る犯人の腕時計の位置や形状、拷問の達人だった過去やその女好きっぷり、霊媒師の意味深な発言など、観客に疑いを敢えて持たせる作りになってるのも事実。
じゃぁ、なぜそんな描写にしたんだろうという疑問が。これは個人的な解釈でしかないのですが、フアンはこの事件で自分の影を追う羽目になったのではないかなぁと。犯人に向けた怒りや蔑視は全て自分に返って来る、自分の尻尾を延々と追い続けなければならない無間地獄に陥ったかのような。実行犯の一人に対する異常なまでの暴力も、逃れることも消すことも出来ない自分の内なる闇に対する感情の爆発なのかも。また、霊媒師の言葉も、その言葉通り過去の犠牲者の怨が不安の心身を蝕んでいる現在を指してたのかも。個人的にはこれが一番シックリきた解釈でしたねぇ。
そんな、鑑賞後もあれこれ頭に残る、そして決して闇雲に煙に巻くような作りではない本作はやっぱり好みだった一本で。
美人ばっか住んでるってのも好みで
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この映画は私も時代をググってしまいました。
それを知ったうえで見ると、フアンの心の闇もなんとなくわかるし、霊媒師の言葉もうなづけます。
難解映画は苦手なんですが、この映画の雰囲気は好きですね。
ただ闇雲に謎を増やそうとしているんじゃなく、犯罪の背後だけじゃなく時代の背後と遺産を描こうとした故の未解決さなんですよねぇ。これは面白かった!
たおさんの言う通り、フアンはフランコ体制後の民主化の中で、
自分の過去の過ち、罪悪感に苛まれながら死に向かって彷徨う老刑事です。秘密警察で培った暴力&盗聴でガシガシ捜査を進めて、コラレスが黒幕だということを突き止めますが、コラレスもおそらく旧体制を維持しようとしているフランコ支持者で(次の選挙で消滅しますが)、拷問という共通項を持つかつての「同志」なのです。フランコ独裁時代はスペインのいたるところで市民に対して拷問が行われていて、その影は体制崩壊後も亡霊のように見え隠れしていましたよという演出だと思います。
スペインの過去と未来を象徴する2人の刑事のコントラストがストーリーの主軸であり、社会の片隅に残されている悪の遺産が、なんとも不気味な雰囲気を映画全体に醸し出しています。こういう事件はスペイン中の名もない田舎でいくらでもあったことなんだよ、とね。
子供が生まれたばかりの正義感の強い若刑事や、十字架の前でのフアンの心理描写は、映画の中のわずかな「救い」ですよね。