2012年 アメリカ映画 109分 ドラマ 採点★★★★
事件と鉢合わせした刑事が草々に犯人を追跡し、激しい銃撃戦を展開した後に犯人射殺。または、市民からの通報で現場に駆けつけた刑事がその足で捜査を開始し、あれやこれやで犯人射殺。刑事アクションなんかで見慣れた展開なので特に違和感など感じないんですが、実際のところ通報を受けて現場に最初に到着するのも、被害者と最初に接点を持つのも、場合によって犯人に出くわすのも現場の制服警官なんですよねぇ。映画ばっか観てると、そんな当たり前を忘れてしまうことも。
【ストーリー】
重犯罪多発地帯、ロサンゼルスのサウスセントラル地区。ヒスパニック系ギャングと黒人ギャングが日々激しい抗争を繰り広げるこの地域で巡回パトロールに当たっているのが、白人警官のテイラーとメキシコ系警官のザヴァラ。彼らは固い絆で結ばれた署内でも有数の検挙率を誇る名コンビであったが、ある出来事をきっかけに、メキシコの巨大麻薬カルテルに命を狙われてしまい…。
サウスセントラルの現実と警官の日常を非常にリアルに描いた、『フェイク シティ ある男のルール』のデヴィッド・エアーによるクライムドラマ。
警察の内部とストリートの実情を描かせたら、他から頭ひとつふたつ抜きん出た才能を発揮するデヴィッド・エアー。同様の題材を繰り返し描いてきたエアー作品の中でも、ある種の到達点にあるのがこの作品。“善と悪”という大まかな枠組みこそあれど、日々の些細な行動や他愛のない会話を緻密に積み重ねることで、彼らは単に法を守る側と破る側に分かれただけである同じ人間だという当たり前の事実を、当たり前だけどなかなか表現が難しい事実を、しっかりと描き切ることに成功している。ピッタリな表現が思いつかないので申し訳ないんですけど、登場人物に“人間感”がちゃんとある。
また、リアルさだけを追求するなら“警察24時”とかを見てれば事足りるのだが、本作にはそのリアルさと同時に荒唐無稽になり過ぎない程度のドラマチックな展開を施してあり、ドキュメンタリーなどでは味わえない映画的ダイナミズムをしっかりと堪能させてくれている。
このリアルと映画的ダイナミズムのバランスの絶妙さは映像にも活かされている。“たまたま誰かが撮っていた”っていう主観映像モノってのは、例え傑作であった『クロニクル』のような作品であっても“やり過ぎ感”ってのが拭えないのだが、本作ではその主観映像はあくまで日常や現場の空気感を作り出すためだけに集中され、さり気なくも効率よく第三者視点ってのを挿入しているので、自然さを求めてやり過ぎた結果かえって不自然になるという本末転倒な状況に陥ることなく作品を完成させている。優れた脚本家としての実力に目を奪われがちだったデヴィッド・エアーでしたが、その脚本を映像で見事に表現できる優れた映像作家でもあることを知らしめた一本。
描いていること自体は非常にシンプル。白人警官テイラーとヒスパニック系警官のザヴァラの絆。警官の妻の苦悩や地域との繋がり、組織としての警察などもちろん様々なことも盛り込まれているが、中心として描かれているのはここ一点。その濃さたるや。
友情、家族同然、それどころか夫婦同然と表現しても全然物足りない、互いに命を守り合う関係でしか生まれ得ない濃密な関係。職務が終われば良き夫であり良き恋人である彼らが、いざ現場へと出れば相棒に向けられた銃口の前に躊躇なく立ちはだかり、また躊躇なくその相手に向け弾丸を撃ち込む。戦友同様、この状況だからこその関係性を見事に描ききっていた。
そういう意味では、『ミッション:8ミニッツ』のジェイク・ギレンホールと、『ペントハウス』のマイケル・ペーニャの組み合わせは完璧。どこが現実社会からずれた、そこに上手く居場所を見出すことができない役柄で輝くジェイク・ギレンホールが扮する、理知的だが一般社会で生きる社会人としては何か大切なものが欠けている感じのするテイラーに、マイケル・ペーニャ扮する知性よりも先に相手に対する思いやりで動く圧倒的な包容力を持つザヴァラの、複雑なピースが完璧な形で組合わさったかのようなコンビネーションが絶品。
その他、ラスト近くに見せる警察官の妻である現実に初めて気付いたかのような表情が印象的だった『50/50 フィフティ・フィフティ』のアナ・ケンドリックや、優しさと厳しさを兼ね備えた良き上司の見本のようだった『バトルフロント』のフランク・グリロ、叩き上げで上り詰めた男の強さを感じさせたハイメ・フィッツシモンズなど、画と物語に負けない顔が揃ってたのも嬉しい一本で。ラストに流れる、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ、ゼム・クルックド・ヴァルチャーズのジョシュ・オムによる“Nobody To Love”の艶やかさも非常に好きな部類の一曲でしたし。
何を生業にするかってのも大事だが、誰と働くのかってのも大事
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