2015年02月20日

フォックスキャッチャー (Foxcatcher)

監督 ベネット・ミラー 主演 スティーヴ・カレル
2014年 アメリカ映画 129分 ドラマ 採点★★★★

「ないものはしょうがない!」って考える方なので、“ないものねだり”って性質ではないと自負している私。でも、女房なんかに言わせると「あるものねだりがすごい」とのこと。そこそこ色んなことが出来るし、そこそこ色んなことに詳しく、その他色々そこそこなものを備えてるんだから贅沢にも程があるって言うんですが、私自身はその“そこそこ”ってのが耐え難い。全部が中途半端でどれも胸を張って自慢できるものがないんですよねぇ。他はなーんにもいらないから、ひとつだけずば抜けてるものが欲しいと常々思ってるんですけど、やっぱりそれは贅沢ってものなんでしょうかね。

foca05.jpg

【ストーリー】
ロスオリンピックで金メダルを獲得するも、マイナー競技ゆえに苦しい生活を強いられたままのマーク・シュルツ。同じく金メダリストで人望も厚く家庭にも恵まれた兄デイヴから紹介される講演会などで食いつないでいるマークのもとに、アメリカ有数の大富豪ジョン・デュポンから彼が設立したレスリングチームへの参加を好条件でオファーされる。恵まれた環境とジョンとの良好な環境の中でトレーニングに励むマークであったが、デイヴのチーム参加を境に大きな歪が生まれ始め…。

foca01.jpg

“オリンピックの金メダリストを大富豪が殺害する”という実際にあった衝撃的な事件をベースにした、『カポーティ』『マネーボール』のベネット・ミラーによる人間ドラマ。
類稀なる才能と名声を持ちながらもそれが実生活に反映されない不満と、偉大な兄の影に常に隠れてしまう劣等感に苛まれるマーク。有り余る富とそれが生み出す名声を持つも、逃れられない母親の影響力と全てお膳立てされた人生を送るが故に何事にも達成感を感じることがないジョン。その心に大きな穴が開いた二人が共鳴し合うように出会い“実感”を求めるも、手に入るのはデヴィッド・ボウイが歌い上げる“フェイム”同様、空虚な名声のみ。
そこに家族、名誉、人望、手にしたもの全てに実感と喜びを感じているデイヴが参入することにより生み出される歪と悲劇。その様を丹念に丹念に撮り上げた人間ドラマとしてのみならず、一握りの人間が富のほとんどを握るアメリカの現状に対してもしっかりと重きを置いて描ききった、ベネット・ミラーらしさが良く出た秀作。
確かに本作では“なぜ”は明確に語られてはいない。劇中被害者に落ち度があるような描写は皆無。実際の事件や裁判の経緯の中でも、明確な動機というのは明らかになっている様子はない。強迫観念症的な統合失調症や心神喪失が裁判の論点となる中、陪審は“有罪であるが精神疾患を患っている”という評決を下しているのも、劇中で“なぜ”が明確になっていない要因だと思われるが、そこに至る様はつぶさに描かれているので、観客に“思い当たる節”ってのを十分に与えている。その辺も含め、久しぶりに観た者同士存分に語り合いたいと思える作品であり、満足度の高かった作品であったなぁと。

foca02.jpg

ジョン・デュポンに扮したのは、『ラブ・アゲイン』『デート&ナイト』のスティーヴ・カレル。昨年亡くなったロビン・ウィリアムズやジム・キャリーなんかもそうなのだが、心の闇をけたたましさで隠すかのようなコメディアンが黙りこくると怖い。そこに彼の持ち味である細やかな動作による豊かな表現力と、本人に似せた特異なメイクの効果もあり怖さ倍増。
美味しい物を食べてもその味が分からないかのような感情と感覚の大切な部分がゴッソリと抜け落ち、また他者との距離感もおかしいので近づいてくると抱きしめてくるのか殺されるのかも分からない、そんなデュポンのキャラクターと性質を見事なまでに表現。彼の役者としての幅の広さと深さをまざまざと見せつけた本作ではありますが、これによって“名優スティーヴ・カレル”としての仕事が増え過ぎられるとそれはそれで寂しいなぁと複雑な心境も。

foca04.jpg

一方のマーク・シュルツに扮するのが、『21ジャンプストリート』『ディス・イズ・ジ・エンド 俺たちハリウッドスターの最凶最期の日』のチャニング・テイタム。元々のジョックス顔に、役作りのトレーニングで会得したレスラーっぽい身のこなしや歩き方でキャラクターをその手中に。不満はあるがそれが具体的に何なのか考えてもよく分からず、分からないモヤモヤは身体をぶつけ合う内にウヤムヤになる、言葉は悪いがそんなスポーツ馬鹿を熱演。
幼少期に得られなかった父性や心に穴を持つ者同士の強い繋がりをデュポンに求めるも、傍から見れば貴族とたまたまその目に留まった奴隷上がりのグラディエーターにしか見えないってのも、その役作りゆえかと。
また、今ある幸せに満足しながらも、別に不満がないわけではなく、その不満を困った笑顔で受け流す“大人の対応”ことでやり過ごす主要人物中唯一の常識人であるデイヴ・シュルツに扮した、『アベンジャーズ』『シャッター アイランド』のマーク・ラファロの好演も忘れ難し。
あの眼鏡に優しげかつ哀しげな笑顔、そしてレスリングのユニフォーム姿が相まって仲本工事が頭の中に居ついてしまうことこの上なかったが、好演には変わりなし。
その他、『オリエント急行殺人事件』のヴァネッサ・レッドグレーヴや、『レイヤー・ケーキ』のシエナ・ミラー、恥ずかしながら鑑賞中はあれが彼だとは気付かなかった『すてきな片想い』のアンソニー・マイケル・ホールなど、良い役者の良い仕事っぷりが印象に強く残った一本で。

foca03.jpg
「何が不満なんだ?」は自分への言葉とも

↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓
blogramのブログランキング   

        

        



posted by たお at 13:39 | Comment(4) | TrackBack(26) | 前にも観たアレ■は行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは

スティーヴ・カレルが凄かったですね…
あの空虚な台詞にからっぽの虚ろな表情
チャニング、ラファロも負けず劣らず素晴らしい演技を披露してくれていましたが、とかくカレルに尽きます
Posted by maki at 2015年09月07日 08:54
とにかくおもしろかったです。
おっしゃる通りないものはないし、持てないものは持てないのですよね。
ヴァネッサ・レッドグレーヴの存在感も大きかったです。
Posted by ミス・マープル at 2015年09月07日 18:11
maki様、こんばんは〜♪
ホント、カレルの虚ろさに尽きる作品でしたねぇ。
コメディアンが笑わない時の怖さってのを再確認できた一本で。
Posted by たお at 2015年09月08日 19:26
ミス・マープル様、こんばんは〜♪
底の抜けた器のように、飲んでも飲んでも満足いかないカレルの空っぽさたるや。で、それを生み出したレッドグレーヴの存在感。
ただ単に実話をなぞるんじゃなくて、キャストの力で膨らませた作品でしたねぇ。
Posted by たお at 2015年09月08日 19:33
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

フォックスキャッチャー ★★★
Excerpt: デュポン財閥の御曹司ジョン・デュポンが起こした殺人事件を映画化した実録ドラマ。ジョン・デュポンが結成したレスリングチームに引き抜かれた五輪メダリストの兄弟が、彼の知られざる姿を知った果てに悲劇に見舞わ..
Weblog: パピとママ映画のblog
Tracked: 2015-02-21 22:52

フォックスキャッチャー
Excerpt: 何を隠そう(以前から公言していますが)、私はスティーヴ・カレルのファンです。 と言っても、日本での知名度は低いので「だれ?」っとお思いの方も多いでしょう。      ダンディでしょ?ポスターの中..
Weblog: 映画の話でコーヒーブレイク
Tracked: 2015-02-22 01:33

『フォックスキャッチャー』 2015年1月29日 一ツ橋ホール
Excerpt: 『フォックスキャッチャー』 を試写会で鑑賞しました。 今週はクタクタで。。。よく寝れる映画ですよ(笑) ところでアンミカって誰なんだか 【ストーリー】  大学のレスリングコーチを務めていたオリンピ..
Weblog: 気ままな映画生活(適当なコメントですが、よければどうぞ!)
Tracked: 2015-03-03 14:45

『フォックスキャッチャー』 静謐の裏側
Excerpt: Foxcatcher(viewing film) 『フォックスキャッチャー(原題
Weblog: Days of Books, Films
Tracked: 2015-03-03 17:11

『フォックスキャッチャー』 (2014)
Excerpt: 突き刺すように冷たい戦慄の実録ドラマ! 震えるほど恐ろしい、人間の底知れぬ闇を覗き込む一級品であった。 本作のメガホンをとったのは、『カポーティ』(05)、『マネーボール』(11)と通好みな高品..
Weblog: 相木悟の映画評
Tracked: 2015-03-03 18:32

フォックスキャッチャー
Excerpt: アカデミー賞5部門ノミネートと言う情報だけで『フォックスキャッチャー』を観てきました。 ★★★★ 全くどんな映画か知らずに観始めて、除々に不気味さを増していく怪物ジョン・デュポンの闇の方がこの映画の..
Weblog: そーれりぽーと
Tracked: 2015-03-03 20:10

フォックスキャッチャー
Excerpt: 結末を知っていながらもどんどん強まっていく“嫌な予感” * * * * * * * * * * 1996年、デュポン財閥の御曹司ジョン・デュポンによる、 レスリング五輪金メダリスト射殺事件を映..
Weblog: 映画と本の『たんぽぽ館』
Tracked: 2015-03-03 20:26

フォックスキャッチャー  監督/ベネット・ミラー
Excerpt: 【出演】  スティーヴ・カレル  チャニング・テイタム  マーク・ラファロ 【ストーリー】 大学のレスリングコーチを務めていたオリンピックメダリストのマークは、給料が払えないと告げられて学校を解雇さ..
Weblog: 西京極 紫の館
Tracked: 2015-03-03 21:24

フォックスキャッチャー
Excerpt: 評価:★★★★【4点】(11) 異様な空間には緊張感が張りつめて息苦しいのだ(笑)
Weblog: 映画1ヵ月フリーパスポートもらうぞ〜
Tracked: 2015-03-03 23:34

「フォックスキャッチャー」 母の呪縛
Excerpt: 大財閥の御曹司が、元オリンピックの金メダリストを射殺してしまう。 かなりセンセー
Weblog: はらやんの映画徒然草
Tracked: 2015-03-05 21:55

フォックスキャッチャー/FOXCATCHER
Excerpt: 全米を震撼させた96年の大富豪デュポン財閥御曹司による金メダリスト殺人事件を題材に、 レスリング五輪金メダリストとそのパトロンとなった大富豪が 悲劇の結末を迎えるまでを描いた戦慄の実録人間..
Weblog: 我想一個人映画美的女人blog
Tracked: 2015-03-06 00:02

「フォックスキャッチャー」
Excerpt: あまりにも息を詰めて観ていたため、肩がこりっこりになってしまった。凄かった。本当に息詰まる、緊張感に溢れる作品。レスリングというスポーツのハードさや、とある貴族の異常性だけが凄かったのではない。勝ちた..
Weblog: ここなつ映画レビュー
Tracked: 2015-03-06 12:42

フォックスキャッチャー
Excerpt: 1984年のロサンジェルス・オリンピックで、金メダルを獲得したレスリング選手のマーク・シュルツ(チャニング・テイタム)は、同じ金メダリストの兄デイヴ(マーク・ラファロ)を頼りにするも、マイナー競技..
Weblog: 心のままに映画の風景
Tracked: 2015-03-06 17:52

フォックスキャッチャー
Excerpt:  『フォックスキャッチャー』を渋谷シネマライズで見ました。 (1)昨年のカンヌ国際映画祭で監督のベネット・ミラー(注1)が監督賞を受賞した作品だというので、映画館に行ってきました。  本作の冒頭で..
Weblog: 映画的・絵画的・音楽的
Tracked: 2015-03-06 21:05

映画:フォックスキャッチャー Foxcatcher カレルの狂気演技が最大の見物!
Excerpt: スポーツで食っていくのは大変。 それが例え、オリンピックのメダリストだろうと… レスラーで、ロスオリンピック1984でメダルを獲得した主人公(写真:左)は、超リッチな富豪からの招待を受ける。..
Weblog: 日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜
Tracked: 2015-03-06 22:33

映画『フォックスキャッチャー』★金持ち坊ちゃんの“支援”から“支配“の果て
Excerpt:   作品について http://cinema.pia.co.jp/title/166624/ ↑あらすじ・配役はこちらを参照ください。 ..
Weblog: **☆(yutake☆イヴのモノローグ)☆**
Tracked: 2015-03-07 09:25

フォックスキャッチャー
Excerpt: ちょっと前に今頃だけど「カポーティ」を観て 衝撃を受けまして マネーボールも面白かったし なので、この作品も観たいなあ〜と思って観ました。 こちらも実話なんですね。事件があったのは知りませんでした..
Weblog: ♪HAVE A NICE DAY♪
Tracked: 2015-03-07 10:34

『フォックスキャッチャー』
Excerpt: (原題:FOXCATCHER) ----『フォックスキャッチャー』って“キツネ狩り”のことだよね。 そんな歌、なかったけ? 「中島みゆきだね。 しかし、変なこと知っているなあ。 この映画のそれは、..
Weblog: ラムの大通り
Tracked: 2015-03-07 14:45

フォックスキャッチャー
Excerpt: スポ根ものなの?って思ってたら、人の心理に迫る怖〜いお話でした。デュポン財閥の御曹司が起こした実話です。大学のレスリングコーチを務めていたマークは給料が払えないため解雇されるが、大富豪のデュポンからソ..
Weblog: はるみのひとり言
Tracked: 2015-03-07 15:20

『フォックスキャッチャー』 大富豪はなぜ金メダリストを殺したのか?
Excerpt:  アメリカの大富豪が犯した殺人事件という実話をもとにした映画。  監督は『カポーティ』『マネーボール』のベネット・ミラーで、アカデミー賞の監督賞にもノミネートされているし、カンヌ国際映画祭では見事監..
Weblog: 映画批評的妄想覚え書き/日々是口実
Tracked: 2015-03-08 00:50

フォックスキャッチャー
Excerpt: 【FOXCATCHER】 2015/02/14公開 アメリカ 135分監督:ベネット・ミラー出演:スティーヴ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、シエナ・ミラー、ヴァネッサ・レッドグレーヴ..
Weblog: ★yukarinの映画鑑賞ぷらす日記★
Tracked: 2015-03-11 15:31

フォックスキャッチャー 【劇場で鑑賞】
Excerpt: スティーヴ・カレルやチャニング・テイタム、マーク・ ラファロら実力派が共演する実際にあった出来事を基に したレスリングにまつわるドラマで、監督は『カポーティ』 などのベネット・ミラーが務める映画『フォ..
Weblog: 映画B-ブログ
Tracked: 2015-03-24 18:51

人間の闇
Excerpt: 24日のことですが、映画「フォックスキャッチャー」を鑑賞しました。 オリンピックで金メダルを獲得したマーク・シュルツはデュポン財閥の御曹司ジョンからレスリングチーム「フォックスキャッチャー」に誘われ..
Weblog: 笑う社会人の生活
Tracked: 2015-04-26 22:34

フォックスキャッチャー
Excerpt: フォックスキャッチャー '14:米 ◆原題:FOXCATCHER ◆監督:ベネット・ミラー「マネーボール」「カポーティ」 ◆出演:スティーヴ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラフ..
Weblog: C'est joli〜ここちいい毎日を♪〜
Tracked: 2015-06-16 21:41

フォックスキャッチャー
Excerpt: 【概略】 レスリング界で起こった実話を元に描くサスペンス。大財閥の御曹司、ジョン・デュポン率いるチーム“フォックスキャッチャー”と契約した金メダリストのマーク・シュルツ。だが、ふたりの主従関係は次第..
Weblog: いやいやえん
Tracked: 2015-09-07 08:53

フォックスキャッチャー
Excerpt: JUGEMテーマ:サスペンス映画全般 「フォックスキャッチャー」 原題「Foxcatcher」 監督:ベネット・ミラー 2014年 アメリカ映画 135分 キャスト:スティーヴ・..
Weblog: マープルのつぶやき
Tracked: 2015-09-07 18:11
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。