2003年 イギリス映画 93分 SF 採点★★★★
人間が授かった最も尊い才能は、“忘れる”ってことなんじゃないのかなぁと。忘れることで前へ進め、忘れることで強くもなれるんじゃないのかと。ただ、“何を忘れるか”を自由に選択出来れば尚良いんでしょうけど、まぁ、“忘れたい”思い出には大概“忘れたくない”思い出が絡み付いてるんで、なかなかそう都合良くもいかないんですよねぇ。
【ストーリー】
“パペル”という滞在許可証を持つ者のみが都市間移動を許されている近未来。そのパペルの偽造事件の捜査を依頼されたウィリアムは、上海で容疑者である女性マリアに出会う。特殊なウィルスにより得た能力で犯人が彼女であることを見破ったウィリアムだったが、たちまち二人は恋に落ち、虚偽の報告で彼女を庇うウィリアム。しかし、彼らの間に同一遺伝子間の生殖を禁じる“コード46”が立ちはだかる。
急激に成長し、立ちはだかる壁のように高層ビルが並ぶ上海を未来都市に見立てたSFラブロマンス。
クローン技術の向上により同一の遺伝子を持つ人間が多く存在し、その同一遺伝子間の生殖を禁じるための法律“コード46”が施行されている社会を舞台に、選ばれた者のみが住む事の出来る多数の言語が行き交う都市、ウィルスによって得れる特殊能力などSF的ギミックに溢れた作品ではあるが、SFとして観るとその法律の施行背景や都市生活の描写が中途半端で物足りなさを感じる作品でもある。謳い文句にあるサスペンス映画としても、ダメ調査員の物語にしか観えない可能性も。似たような題材を用いた傑作『ガタカ』を期待すると肩透かしを食らう作品ではあるが、ラブロマンスとして、別離を選んだ女性の物語としては、非常に良く出来た作品である。
出会いの経緯としては“遺伝子レベルの繋がり”と非常に曖昧ではあるが、愛した男性が妻子を持つ身であり、特殊な能力なくしても先に待ち構える運命を見越すことの出来る状況の下、考えれる中で最善で最も悲しい選択をする女性の行動が強く胸を打つ。“ウィルスの影響下による行動”として劇中では描かれているが、愛した男性の幸せを考えた上での自発的行動にも見える、“別れ”という選択。女性の記憶を全て消された男、事実を知りながらも夫を向かいいれる妻、そして運命を受け入れた結果都市を追放され、独り荒野を彷徨う女性の悲しげで真っ直ぐな眼差しと、「あなたに会いたい」で締めるラストショットが、この映画が描きたかった愛の物語をより明確にしている。記憶を消されたとは言え、結局のところ何事もなかったように家庭へと帰る男の姿は、男のズルさと弱さを表してもおり、全ての重荷を女性に背負わせてしまう身勝手な恋愛の側面をも表していると言える。幸せなだけではない恋愛の側面と、ラストショットに導く為にだけ、SFという設定が用いられているにすぎないのでは。
本作でのキャスティングが某大手映画サイトでは評判の悪いサマンサ・モートンであるが、どうしてどうして。ツルンとした赤ん坊のようで中性的な顔立ちは、非常に未来顔で本作にピッタリなんですが。その中性的な顔立ちから連想させる強さが、自分を犠牲にする強さを持ちながらも、心の底でやせ我慢の叫びを上げている脆さを見事に表現している。
その異様にデカイ図体の割に、顔立ちは赤ん坊というアンバランスさが特徴のティム・ロビンス。何を考えているのか全く分からない役柄を得意とする彼だが、本作では“共鳴ウィルス”によって他者に共鳴する能力を持つ役柄のせいか、いつも以上に何を考えているのか分からず。これまた本作にピッタリ。
何十年も同じ歌を歌わされているミック・ジョーンズなどのサプライズゲストも登場するが、やはり本作の顔は急成長を遂げている上海の街並みや、貧しくも人間味溢れる中近東の荒野といったロケーション。コールドプレイやミューズを髣髴させるザ・フリー・アソシエイションによるサウンドトラックにより彩られた風景は、非常に魅力的。ラストに流れるコールドプレイの“ウォーニング・サイン”も絶妙な選曲。
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いつもTBだけで失礼しててごめんなさい。
最初はSFサスペンスだと思ったのですが、
観てから随分時間が経つのに、今も切なく儚い思いがすぐに甦ります。
「もし自分の行動の結果がわかってしまっていても、同じように行動するだろうか?」
「あなたに逢いたい」
その台詞が今も強くインプットされています。
観る人の恋愛観や経験で、受ける印象に大きな差が生まれそうな作品ではありましたが、世の中強い人間ばかりではなく、耐えなければならないという恋愛の一面を描いていると感じました。切ない話でしたねぇ。