1987年 アメリカ映画 105分 アクション 採点★★★
ベトナム戦争の泥沼化が進む60年代後半。カリフォルニアの片隅でルーカスやスピルバーグら若き映画作家の卵たちが口々に「戦争怖いねぇ。行きたくないねぇ」語り合う中、「戦争行きてぇ!ベトコン撃ちまくりてぇ!」と騒ぐ男が一人。彼の名は、ジョン・ミリアス。後に、ソ連兵がパラシュートで降ってきてアメリカを占領するという、随分と要領の悪い占領方法だが中学生魂には火を付けた『若き勇者たち』を撮るゴリゴリのタカ派監督だ。そんな彼だから入隊検査を喜び勇んで受けるが、持病の喘息で入隊叶わず。落ち込んだミリアスは、伝え聞いたベトナムの現状とジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』を基に、ハッパをキメこんでサーフィンをする海兵隊兵士と、白人の兵士がジャングルの奥地で原住民を部下にベトコンをバリバリと殺しまくる“カッコイイ”戦争アクションの脚本を完成。ルーカスらと「今度一緒に撮ろうね♪」と夢を膨らませていたが、いつの間にかその監督の座は彼ら若手映画作家たちの親分格だったコッポラの手に渡り、コッポラ持ち前の運のなさと目論みの甘さが祟り、次々と現場にアクシデントが起こるその混沌そのものを映像化したかのような作品が出来上がる。そう。『地獄の黙示録』がそれだ。
【ストーリー】
かつては親友同士だったジャックとキャッシュも、長い年月を経てジャックは法の番人テキサスレンジャーに、キャッシュはメキシコの麻薬王となっていた。キャッシュの逮捕に躍起となるジャックの前に、公式には死亡となっている軍人の一団が現れ、彼らの目的もキャッシュであることを知ったジャックは、彼らと行動を共にするが、彼らの真の目的は別の所にあった…。
『地獄の黙示録』に大きな失望を感じたミリアスだったが、ミリアスの脚本は巡り巡ってウォルター・ヒルの手に。ミリアスはきっと喜んだに違いない。「男気溢れるアクションが得意のウォルター・ヒルなら、きっと“カッコイイ黙示録”を作るに違いない」と。確かにウォルター・ヒルは『ザ・ドライバー』『ウォリアーズ』と、ゴリゴリの硬派で切れ味の鋭いアクション映画を撮っていたが、『48時間』を最後に『マイナー・ブラザース/史上最大の賭け』『クロスロード』と非アクション映画を連発。批評的にも興行的にも苦戦を強いられていた。「やっぱり俺にはアクションしかない」と腹を括ったのか、ミリアスの脚本を大幅に書き換え、自身が敬愛するサム・ペキンパーに近づこうとしたのか舞台をベトナムからメキシコとテキサスに変更。燃えるゲリラ戦も、ヒルが取り扱いやすい一対一の対決を軸にすることに。もうこの時点で全く“黙示録”ではないのだが、これはこれでヒルらしさが存分に発揮しやすい舞台だ。主演には『48時間』に続きニック・ノルティが、ライバル役にはヒルのジャングル映画の傑作『サザン・コンフォート/ブラボー小隊 恐怖の脱出』のパワーズ・ブース、『スキャナーズ』のブレインクラッシャー、マイケル・アイアンサイドと、キャスティングも完璧の布陣。音楽は、ライ・クーダーだ。この布陣で、ペキンパーに一番近い男と称されたウォルター・ヒルが『ワイルド・バンチ』に挑むのだから、期待が高まらないわけがない。が…期待してた時が一番楽しかった。
冒頭のアクションシーンこそ素晴らしいが、あとはペキンパーに近づこうとすればするほど遠のいていく、ただ人が死ぬだけの混沌としたアクションシーンが続く。燃える要素である特殊部隊の連中を脇に追いやり、男同士が女を取り合う話を軸にしてしまっている為、風呂敷こそ大きいが中身が小さいスケール感も寂しい。そのくせ特殊部隊の連中が半端に物語に首を突っ込んでくるので、より一層混沌としてしまいウザったい。結局は、目的こそ明確だが何を考えているのか全く分からない、脂ぎった顔にラードを塗りたくったかのようにギラギラギトギトした登場人物が右往左往するだけの作品に。今では、ウォルター・ヒル没落の記念碑的作品として記憶に残ることと。
とは言え、作品自体はアレだが、この顔ぶれを見る分には満足度は高い。まぁ、満腹度とも言えますが。近作の『ホテル・ルワンダ』でもそのタフネスぶりは健在であったが、この頃のニック・ノルティは細胞の全てにタフと書いてあるかのような、タフな男の権化。結局は何を考えているのか全く分からないキャラクターではあったが、ノルティ史上屈指のカッコ良さを誇るキャラクターだ。そんなタフ神様相手では、たとえ『フレイルティー/妄執』の生粋のテキサスブロンコ、パワーズ・ブースであっても不安があったのか、バグズの天敵マイケル・アイアンサイドに首を切り落とされない限り倒れないクランシー・ブラウン、セガールにだけは滅法弱い『デビルズ・リジェクト〜マーダー・ライド・ショー2〜』のウィリアム・フォーサイスらが顔を揃える胃もたれ確定の高カロリーキャスティング。健康的にアッサリとしたキャスティング慣れした目には、非常に刺激的である。
もちろんジョン・ミリアスが、この作品に満足するわけがない。「もう誰もボクの“黙示録”を分かってくれない!」とばかりに、遂に自らメガホンを握り『戦場』を製作。少なくとも本作のニック・ノルティだけは気に入ってたのか、引き続き彼を起用。まぁ、蓋を開けてみれば妙にこじんまりとした原住民との交流物語になってたんですが。「これが本当にやりたかったことなの?」と大きな疑問を残したまま、“黙示録”を封印したミリアスでしたとさ。
洒落たカーツにごっついウィラード
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