1978年 アメリカ映画 91分 ホラー 採点★★★★★
ハイカラさんがいっぱい住んでる都市部ではどうか知りませんが、田舎のこの辺ではまだまだイベントとして定着していないハロウィン。死人絡みのイベントであればお盆の圧勝。ただまぁ、全国チェーン店の品揃えがそうなってしまうからか、なんでもかんでもカボチャ味になる時期としては定着したのかと。まぁ、位置付け的にはちょっと前倒しの冬至って感じですけど。
【ストーリー】
まだ6歳だった15年前に実の姉を惨殺したマイケル・マイヤーズが精神病院から脱走。主治医のルーミス医師がその後を追い、マイケルの故郷ハドンフィールドに辿り着く。その頃、真面目な女学生ローリーは不気味なマスクを被った男の姿を目撃し…。
『ザ・ウォード/監禁病棟』のジョン・カーペンターの出世作であり、80年代スラッシャーホラーブームの火付け役ともなった傑作ホラー。主演は本作以降『ニューヨーク1997』『パラダイム』でカーペンター作品の顔ともなるドナルド・プレザンス、実質的な主人公にはその出自から“醜いアヒルの子”と揶揄されるも、『大逆転』でチャーミングな女性へと驚きの変貌を果たしブレイクしたジェイミー・リー・カーティスがキャスティング。
直接的なゴア描写は皆無で、血糊も極々僅か。本作のヒット以降、雨後の竹の子の如く発生したスラッシャーホラーがスプラッター描写を激化させていったのだが、その先駆けとなったこの作品にはそういった描写は見当たらない。ぶちまけられる臓物を観たければ、本作に手を伸ばさない方が良いだろう。ただ、この作品には雑多なホラーでは味わう事の出来ない、冷たく鋭利で美しさすら感じられる恐怖が満載。鈍器で殴られるのではなく、鋭く研ぎ澄まされた細身のナイフか、尖った針が深くゆっくりと刺し込まれていくかのような恐怖。キンキンとした怖さと言うか。
本作に感じる恐怖と美しさを際立たせる、カーペンターによるテーマ曲も秀逸。「ベンベンばっか!」と言われるカーペンターのスコアだが、シャープでスピーディな中にじわじわと不穏が混じってくるなんとも素晴らしい出来。その筋には疎いのでアレなんですが、現代テクノアーティストの中にはカーペンターに絶大な影響を受けた人が何人かはいるのでは。絶対いるはず。
本作の顔は、やはり何と言ってもマイケル・マイヤーズ。そのマスクを見れば、元ネタであるウィリアム・シャトナーのことは思い出せなくても、本作のマイケル・マイヤーズのことは思い出せるはず。
そのマイケル・マイヤーズ。ルーツもはっきりしている、実存する殺人鬼。つまりは人間。ルーミスのパートとローリーのパートの大きく分けて二つの物語からなる本作だが、少なくてもルーミスのパートではマイケルは人間である。我々観客の日常とリンクする、現実的な恐怖としてマイケルが君臨している。
しかし、ローリーのパートになるとその様相は一変する。男性に対し臆病で、興味や異性に対する一種の願望は持っているが行動するまでは至らないローリーの前にマイケルは現れるが、ローリー以外の誰もその存在に気付かない。気付く時は死ぬ時のみ。生活感の感じられない冷めきった住宅街の様子も相まって、このパートはどこか幻想的な幽霊譚のようだ。事実人が殺されているのだからマイケルは存在する筈なのだが、まるでマイケルはローリーの男性に対する恐怖感が具象化した幻かのような存在感。
この現実と幻想を隔てる線上の、互いに混じり滲んだ場所に立ってるのが本作。それが同時にスクリーンの向こう側とこちら側の境界線が曖昧になることを意味し、向こう側が迫ってくる、うっかり向こう側に足を踏み入れてしまったかのような怖さを味わえる結果に。
後にシリーズ化されリメイクもされたが、因果関係が明確になっていく違った面白さこそあれど、知らない内に恐怖が後ろに立っているかのような感覚的な怖さを味わえるのは、やっぱり本作だけだなぁと。因みに、アメリカでTV放映された際にカットされた残酷描写の代わりに加えられたシーンを増量した“エクステンデッド版”なるものもありますが、カーペンターの作品は「劇場公開版こそディレクターズ・カット版だ!(本人談)」なので、そっちは興味があったらって程度に。
見えたら“純粋”ってことで
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ハロウィンといえばタイトルまんまこの映画ですね。
もっとも、ホラー苦手な家族の手前、いつも流すのは『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』ですが(そっちも好きですが)。
>マイケルはローリーの男性に対する恐怖感が具象化した幻かのような存在感
そういう見方もあるんですね……。
個人的には、郊外では肩身が狭い非ジョックスな人々の心の投影みたいだと思ってたもので。
そういうふうに観る人によって中身をいかようにも入れられるあたり、やっぱり「亡霊」なのかなとも……。
>郊外では肩身が狭い非ジョックスな人々の心の投影
なるほど〜
ローリー以外の女性にも姿が見えていて、マイケルがあの微妙な距離感を保っていたらまさにそんな感じですねぇ。マスクを被っていないと女性に接することが出来ないって点も。
観る人の心を反映させながら、はっきりと明言しないまま恐怖感を増させる、カーペンターの良さがギューっと詰まった一本ですよねぇ。