2005年 アメリカ映画 108分 ホラー 採点★★★★
今となってはビデオ屋を巡り歩いてもなかなか見つけることが出来なくなった『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』『グライド・イン・ブルー』ら、70年代アメリカンニューシネマの傑作の数々。どこのビデオ屋も似たり寄ったりで、置いてあるのは大量入荷された大作かその残骸ばかり。TVも似たようなもので、放映されるのは最近の話題作ばかりでTVで映画を知る機会もめっきりと少なくなったものです。昔話ばっかりでアレなんですが、子供の頃TVをつければザラついた映像で映された荒れ果てた荒野を舞台に、強烈な暴力描写とホロ苦い結末のニューシネマばっかりやっていたような気も。そんなんばっか観ていたせいか、いまだにザラついた映像で要所要所でストップモーションなんてキメてくれる映画を観ると、「あ〜、映画を観た!!」って気になるんですよねぇ。
【ストーリー】
恐るべき大量殺人を繰り返してきたファイアフライ一家宅を警察隊が包囲。激しい銃撃戦の末母マザー・ファイアフライは逮捕されてしまうが、兄オーティスと妹ベイビーは辛うじて脱出。父キャプテン・スポールディングも途中合流し、凶行を繰り返しながらの逃避行を続けるが、一家に兄を惨殺され復讐に燃えるワイデル保安官が一家を追い詰めていく。
『ファンハウス』や『悪魔のいけにえ2』のトビー・フーパー作品を髣髴させるものの、やや遊び過ぎの感も強くあまり好みの作品ではなかった『マーダー・ライド・ショー』の続編ではあるが、ロブ・ゾンビ自身が「お気に入りのキャラクターを使った別の作品」と言うように、前作とはまるっきり感触の違う作品に仕上がっている。前作から引き続き『悪魔のいけにえ』に対するオマージュは強く残されているが、今回目指しているのは70年代アメリカンニューシネマの再現。ホコリの舞うザラついた映像とスローモーションを多用した激しい銃撃戦の末ストップモーションとなり、オールマン・ブラザーズ・バンドの“ミッドナイト・ライダー”をバックに赤い文字でタイトルがドドーンと出るオープニングから、美しい空撮とレナード・スキナードの“フリーバード”をバックに、『俺たちに明日はない』などニューシネマお馴染みの展開を迎えるラストまでとことん徹底されている。しかし、とことん再現されているとは言っても最近多い“作り手がマニア”の監督が作る、豊富な知識と愛情には溢れているものの再現性に終始するあまりに魂がない作品群とは大きく異なり、様々なモチーフを取り入れながらも独自のスタイルとして愛と魂の溢れる作品に仕上げたロブ・ゾンビの手腕が素晴らしい。劇中に多用されるストップモーションからワイプする場面展開なんて、下手すると寒いだけになりかねないところを、タイミング、テンポのどれをとっても見事。本業がミュージシャンのロブ・ゾンビであるが、長い間本業を間違っていたのではとさえ思えてくる。次回作にジョン・カーペンターの『ハロウィン』のリメイクが予定されているロブ・ゾンビだが、本作を観る限り彼なら安心して任せられるのではないだろうか。
元ネタやトリビアを挙げればキリのない本作であるが、特に強く前面に打ち出されているのが、チャールズ・マンソンと『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』。既存のモラルと宗教観に一切縛られず本能の赴くままに行動するファイアフライ一家の長男オーティスが口にするセリフ「俺は悪魔だ。そして俺は悪魔の仕事をやりに来た」は、マンソンファミリーのセクシー・セディがシャロン・テートを殺害した時に口にしたセリフと言われている。
そして物語は中盤に入ると、ハンソロをキャプテンに、ルークをオーティスに、レイアをベイビーに(レイア髪は別にもう一人いるが)、そしてランドを売春宿を経営するチャーリーに置き換えた『帝国の逆襲』となっていく。旧知の友人であるチャーリーが、はじめキャプテンに冷たい言葉を投げかけるが一転し抱き合うシーンなど、「ここまでやるか!」と嬉しくなってしまう。スター・ウォーズと、そのスター・ウォーズによって消え去る運命となったニューシネマが一つになった瞬間である。ファイアフライ一家がスター・ウォーズにおける反乱軍となると同時に、本来正義の味方であるはずの保安官ら国家権力は、復讐と狂気に駆られた帝国軍へと変貌していく。“神の名”と“モラル”を笠に凶行を重ねる保安官の姿は、帝国軍へと成り下がった現代のアメリカに対する強烈な皮肉だ。そのあてにならない正義とモラルに引き換え、残忍な殺人一家であるはずのファイアフライ一家が、どんな宗教にも戯言にも惑わされず、最もミニマムで根源的な愛である“家族愛”によって強固に結ばれている姿には、強い共感と感情移入を生むこととなる。前作にも匂わせていたが、ホラー映画の狂人一家にありがちな近親相姦の匂いを一切消し去り、純粋に愛に結ばれた家族として描いたロブ・ゾンビの脚本の力が成した業だ。アイスクリームを買うシーンにある愛らしい家族描写など、ポイントポイントで家族愛を描いているからこそ、予測は出来ていたはずのラストでむせび泣いてしまうことになるのだ。
70年代の娯楽映画の顔としてタランティーノにも敬愛されているシド・ヘイグ、『悪魔のいけにえ2』でレザーフェイス以上の存在感を示したビル・モーズリイ、シェリル・リーを髣髴させる安っぽいが抗えない魅力を持つシェリ・ムーン・ゾンビ、先頃亡くなってしまった名が体を表していないタイニー役のマシュー・マッグローリーは前作に引き続き登板。あまりに違和感がないのでてっきり引き続きカレン・ブラックが演じているものだと思っていたマザー役には、『ポリス・アカデミー』シリーズのキャラハンことレスリー・イースターブルック、『アウト・フォー・ジャスティス』でセガールに本作以上の酷い目に遭わされていたウィリアム・フォーサイスらメインキャストも充実しているが、本作の見事な配役はゲスト陣にも施されている。“ピーター”と聞くと真っ先にこの人が浮かんでしまう『ゾンビ』のケン・フォーリー、その弟役で「“ロボット”じゃないよ!スター・ウォーズでは“ドロイド”って言うんだよ!」がたまらなく可愛かった『サランドラ』のマイケル・ベリーマン。あぁ見えても、俳優になる前は花屋さんで働く心優しい人なんですが。その他にも、劇中語られる『トム・ホーン』繋がりでの起用なのか、この人が出ているだけでイーストウッドも出てきそうな気がするジェフリー・ルイス、この人が出ているだけでロドリゲスの映画を観ているような気がする大のお気に入りダニー・トレホに、その相棒役にはプロレスファンには馴染み深いダイアモンド・ダラス・ペイジに、この人以外のジェイソンはジェイソンなんかじゃないケイン・ホッダーまでもがチラリと顔を出す。もうここまでくると“凄い”を通り越して“呆れる”に近い顔ぶれだが、さらに凄いのがもう一人。スティーヴ・レイルズバックだ。まぁ、「スティーヴ・レイルズバックだぁ!」と言われたところでトリを務めるにはいささか地味な名前なのだが、『ヘルター・スケルター』でチャールズ・マンソンに扮し、『悪魔のいけにえ』のトビー・フーパー監督によるオドロオドロしいムードを全て吹き飛ばすクライマックスが快感の『スペースバンパイア』に主演、その『悪魔のいけにえ』のモチーフになった猟奇殺人鬼のゴッドファーザー、エド・ゲインの事件を描いた『エド・ゲイン』を自ら製作総指揮・主演を務めた、本シリーズを一人体現している俳優だ。
物語、配役、演出、それら全てにおいて満足度の非常に高い作品なのだが、出番を丸々カットされたドクター・サタンのシーンなどを含めた削除シーン集や、いくらでも面白い話が出てきそうな音声解説が入っていない日本版DVDには大きな不満が。相変らず分かっていない…。
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しっかし権利関係や翻訳の手間とかがあるとは言っても
・Audio commentary with Director Rob Zombie
・Actor Audio Commentary with Sid Haig, Bill Moseley and Sheri Moon Zombie
・Blooper Reel
・Morris Green Show - "Ruggsville's #1 talk show"
・Mary The Monkey Girl Commercial
・Spaulding Christmas Commercial
・Cheerleader Missing - The Otis Home Movie
・"Satan's Got To Get Along Without Me" - Buck Owens video
・Deleted Scenes
・Make Up Tests
・Matthew McGrory tribute
・Still Gallery
・Theatrical Trailer and TV spots
って特典満載のオリジナル版DVDに比べるとホンマ、ショボイですよね日本版って… って事でたお様も個人輸入の冥府魔道、どない?(笑)
なんとなく久しぶりな気もしますが、元気してました?w
私も前作が好みじゃなかったんで全くのノーマークだったんですが、その無防備な所を殴打されたかのような衝撃でした。
にしても、この特典の差はなに???
せめて音声解説だけでもあれば、★もう一つ上げても充分な出来だったのに・・・。
個人輸入かぁ・・・。
マジで考えよ^^;
『マーダー・ライド・ショー』よりも断然好きです。
モロに70年代チックなところが最高でした。70年代の(80年代も)作品も
TVの映画枠でバリバリ放映して欲しいです。
私も断然こっちの方が好きですね^^
ビデオ屋にもう置いていないような作品を、地上波でやって欲しいものです。
マザー・ファイアフライ、カレン・ブラックじゃなかったんですね! と、たおさんのレビューを読んで初めて気付きました。
たおさんのレビューは、ホホーと唸るような薀蓄が豊富で、とっても為になりますね。
勉強させて頂きまっす!
私はダニー・トレホが出てきた瞬間、「またひどい殺され方するんだろうなぁ」と思ったのですが、その予感はまんまと外れました。
ロドリゲス作品と違って、“出来る男”扱いで、よかったですね♪
TBさせて頂きまーす。
ホラー映画ファンとしてのみならず、一映画ファンとしてもくすぐられるモチーフがてんこ盛りだったので、ついつい長々と^^;
見た目とのギャップを上手に使うロドリゲス映画でのトレホ兄貴も好きですよ^^
1でイマイチな印象だったため、本作を観るのが遅くなってしまいましたが、いや面白かったです。
教育的指導の必要があるこの家族に、もう逢えないのかと思うと……うっ。(泣)
またお邪魔させて下さい!
トビー・フーパーの映画を観ているような気分にだけはなれた『1』ですたが、まぁ映画そのものは。。。
しかしコレは素晴らしい!この一家に会えないのは寂しいですが、ロブ・ゾンビの次回作『ハロウィン』に期待!物が物なんで、気合が空回りしなければいいんですが^^;