2006年 イギリスTV 76分 ドキュメンタリー 採点★★★★
2001年9月11日。アメリカを襲った同時多発テロによって炎上し崩落する世界貿易センタービルの様子を写した映像や写真は、その日のうちに世界中を駆け巡った。その内の一枚、燃えさかる世界貿易センタービルから飛び降りた男の写真“フォーリング・マン”は、世界中を震撼させる。しかし、その同時多発テロの恐怖を象徴した写真は、間もなく全てのメディアから消え去り、200名はいたはずの自ら飛び降りた人数も、“飛び降りによる死者 0人”と変わっていく。
人間の尊厳と、9/11の恐怖、そして誤った道へ進んでしまった世界の象徴として“フォーリング・マン”の写真を掲載しております。ご理解のうえ、お進み下さい。

イギリスのチャンネル4製作のドキュメンタリー。
下劣で覗き見趣味で人間の尊厳を無視しているとして、一斉にメディアから消え去った写真“フォーリング・マン”。そして、それに代わりメディアに報じられる“立ち上がるアメリカ”“負けないアメリカ”“英雄達の暮らす国アメリカ”を象徴する、消防隊員や警察官らの写真の数々。確かに彼らは真の英雄達であるし、恐怖に打ちのめされたアメリカに勇気と希望をもたらした。しかし、“恐怖”からひたすら目を逸らしたアメリカが進んだ道は、“復讐”だった。
“フォーリング・マン”の身元を調べる過程で、あの時ビルに取り残され命を失った犠牲者達の遺族に出会う。命を落とす数分前まで、電話で会話を続けていた夫婦もいる。恐怖と絶望に追いやられた犠牲者達の最期の言葉が、同じく絶望と恐怖に打ちのめされた遺族の口から語られる。言葉を失う。
“フォーリング・マン”に対する遺族の反応は両極端である。宗教的理由から、または愛する人間が自ら死を選んだことへの否定。だが一方で、最愛の人の最期を知れた安堵感、最愛の人が最期まで自らの意思と尊厳を尊重していた誇りを語る者もいる。いつの間にか、彼らは“自ら飛び降りた”のではなく、“爆風で飛ばされた”ことになっている。それこそ、最期の瞬間に選んだ行為への尊厳を無視しているのではないだろうか?
恐怖は恐怖を生み出す。戦時下を利用して情報が選ばれ、国民をある一つの方向へ導いていく仕組みも表立ってはいないが語られている。結果どうなったかは、もう誰もが知っていることだ。恐怖は恐怖を生む。しかし、その恐怖を見つめないと「何故そんな恐怖を受けるのか?」、そして「どんな恐怖を与えてしまったのか?」を知ることは出来ない。

忘却は何も解決しない
↓↓ぽちりとお願いいたします↓↓
人気blogランキングへ