2005年 アメリカ映画 103分 サスペンス 採点★★★★
ジャンルとしては大好きなのにも関わらず、心底面白いと身悶えするような作品に滅多に出会ったことのない“タイム・トラベル”もの。「タイムパラドックスがどーたらこーたら」と屁理屈をこねるほど賢くはないのでその辺は大概スルーなのだが、“面白い・つまらない”以前に“嫌い”という作品にばかり出くわす。『サウンド・オブ・サンダー』は放っとくとして、『タイムマシン』にしても『タイムライン』にしても、それこそ『バタフライ・エフェクト』ですら嫌い。どうにも、自分の都合と倫理観で歴史をいじくる作品が嫌いなようで。「あれは面白かったなぁ」と思った映画を探してみても、『バンデッドQ』くらいしか思い出せないクセに、新作が出るとワクワクして観ちゃうんですよねぇ。イヤなことはスグに忘れちゃうタイプなんでしょうね。
【ストーリー】
1992年。湾岸戦争時に頭部に受けた銃弾の後遺症で記憶障害を患ってしまったジャック。帰国後、ヒッチハイクで乗った運転手が起こした警官殺害事件の容疑者として逮捕されたジャックは、心神喪失を理由に精神病院へと送られてしまう。そこで治療と称し行われた、死体安置用の狭い引き出しに閉じ込められたジャックは意識を失うが、意識を取り戻した彼は2007年にタイムスリップをしていた…。
嫌いな作品に出会う確立が異常に高いジャンルのうえに大嫌いな俳優が主演しているのでかなりビクビクしながら手に取ったが、最後の最後まで画面に釘付けだった一本。走馬灯モノとして安易な展開をしがちな物語を、その選択を最後まで拒み、SF・サスペンス・ラブロマンスに寓話的要素をも加えた盛り沢山な物語を破綻せずに脚本化した手腕に、まず脱帽。しかしこの作品の完成度は、下手をすれば「寝タバコはダメよ」と説教された印象だけで終わりかねないこの脚本を、至極丁寧に仕上げた監督の手腕によるものが大きい。まるで残り少ない生を享受するかのように、ワンシーンたりとも無駄で美しくないシーンがない。物語の中核を成す“自らの死因を探る”サスペンスも、意外とマヌケな結末を迎えているものの、現実感と因果関係を曖昧にした演出によって醸し出された主人公の天使性により、結果よりもそれに向かって必死になった過程の重要さが、より浮き彫りに。愛の物語の側面もあるが、そこには“愛の押し売り”も“安売り”もなく、やることはやっているにも関わらず生々しさもない。愛する女性を救う物語というよりは、一つの家庭を救う為に苦労する天使見習いの物語のようにも見えてくる。時期が時期ですし。その後を匂わせるエンディングではあるが、画面を包む眩い光が象徴するのは二人で過ごす将来ではないはず。
本作にもタイムトラベルものに付き物と言えるでっかいタイムパラドックスは存在する。1992年にAがBから聞いた事は、実は2007年にAがBに話したことをBがAに話しただけで、じゃぁ元はどこなんだと。だが、そんなタイムパラドックスにばっかり拘ってたんじゃ、『プライマー』みたいになっちゃいますし。そんなせまっ苦しい思いをするくらいなら、面白さを最優先するほうが映画的には正しい。
そもそも、“タイムトラベル”という目立つ奴が目の前にブラブラしているので、そっちにばかり目を奪われSF的な物語と思い込みがちだが、本作の骨組み自体は『素晴らしき哉、人生!』や『クリスマス・キャロル』と然程変わらない。戦争時代に一組の親子の運命を狂わせてしまった主人公が、帰国後我が身を呈して別の一組の親子の運命を救うという“使命”を背負う物語でもあるといえる。一度死んだ主人公が、僅かな時間と共に与えられた使命と。死をもって見習い天使になったとも、見習い天使になる為に死ぬ運命を持っていたともとれる現実味の曖昧な演出と、想像を刺激する隙間が心地よい。
音楽も本作の印象を高めている要素の一つ。ブライアン・イーノと言えばデヴィッド・ボウイとのコラボレーションが真っ先に思いつく私にとっては、劇中に流れるアンビエントでノイジーなサウンドは、非常に心地が良い。残念ながらボウイの楽曲は流れないが、キーラ・ナイトレイの母親の部屋にデカデカとボウイのアルバム“アラディン・セイン”のポスターがあるのは嬉しい気配り。母親の名前がジニーってのも、同アルバムの代表曲“ジーン・ジニー”と一緒だと有頂天になるバカがここに。画面に目を凝らすと、キーラ・ナイトレイの部屋にはイギー・ポップのアルバム“ラスト・フォー・ライフ”を発見できる。カエルの子はカエルですね。ボウイがプロデュースした名盤なのだが、当時ボウイとコラボレーションしてたのが、ブライアン・イーノ。そして、エンディングに流れる『女王陛下の007』でルイ・アームストロングが歌っていた“愛はすべてを越えて”をカバーしているのが、イギー・ポップ。なんか非常に狭い所で遊んでいる気もしないでもないが、嬉しいことには変わらないので。あ、もちろん採点には“ボウイ・アドバンテージ”が採用されてますよ。
先に挙げたのだが、エイドリアン・ブロディが嫌い。なんか、こうヒモっぽくてイヤ。したたかにダメ男を演じ、その捨て犬のような風貌で女性の母性本能をくすぐっていつの間にか転がり込んでそうな感じすらする。まぁ、昔好きな女の子を取り合った奴にソックリだってのが最大の原因だったりするんですが。『キング・コング』で3時間も観る羽目になり苦しんだ彼だが、本作では思いのほか感じが良い。別にしこたま痛みつけられているからではないのだが、存在のおぼろげで天使的な主人公にピッタリ。本作でも、いつの間にか女性宅に転がり込んではいますが。やっぱり、野良犬っぽい。
そのエイドリアン・ブロディに転がり込まれるのが、『ベッカムに恋して』や『ドミノ』で見事に“ナタリー・ポートマンのそっくりさん”から脱却を果たしたキーラ・ナイトレイ。ゴスっぽいメイクをするとウィノナそっくりになってしまうのだが、小生意気な顔からは想像の出来ない歯を剥き出しにした人懐っこい笑顔で、ハスッパだが包容力のある女性を熱演。そんなんだから、野良犬が転がり込んでくるんですが。そんなキーラ・ナイトレイと新旧小生意気女優対決を果たすのが、『マシニスト』のジェニファー・ジェイソン・リー。老けましたねぇ…。その他にも、『ブレイド3』『ペイバック』のクリス・クリストファーソンや、『アンダーワールド2:エボリューション』のスティーヴン・マッキントッシュ、もうパッと見誰だか分からなくなってしまった昔の美少年ブラッド・レンフローなど顔ぶれも豪華なのだが、一番驚いたのが『ミュンヘン』のと言うよりは“新ジェームズ・ボンド”のダニエル・クレイグ。髪が黒いせいか、もうもの凄く顔が濃い。トミー・リー・ジョーンズから知能指数を100程抜いたようなその風貌に、ますます彼のボンドに不安が。
『コンフェッション』『シリアナ』同様、ジョージ・クルーニーとスティーヴン・ソダーバーグらによるセクションエイト製作の一本だが、今回はジョージ・クルーニーもジミーちゃんも顔を出さず。出なくて正解。
ところで、死んだ患者として名前だけ出てくる“テッド・ケイシー”。連続殺人鬼のテッド・バンディとジョン・ウェイン・ゲイシーを足したんでしょうか?性格や性癖まで足されてたら、すげぃヤですねぇ。
ほら、イギーいたでしょ?
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>テッド・ケイシー
そこに一番反応してしまいましたw
私もテッド・バンディ思い出しましたよーー
それに母親の部屋のポスターまでチェックしているとは、流石たおさんっ!!
わっ、たしかに似てるかもウィノナに。
...万引きしちゃダメだぞ。
ついついピンと来てしまう名前ですよねぇ。あざとすぎるというか^^;
チェックしているというか、部屋にデカデカとあるのがヴァン・ヘイレンとかだったら気付かないんですが、ボウイだったんで^^
で、どっかのオヤジが“フリー・キーラ!”とかプリントされてるTシャツ作って大もうけですねぇw
タイムトラベルものがお好きなようですね。
邦画ですが「サマータイムマシンブルース」は如何でしょう。プロットが大変みみっちくって素敵でした。
それでは。
好きと言うか、期待とその後の印象のギャップが激しすぎるジャンルなんですよねぇ^^;
大抵、腹を立ててますw
大変みみっちくて素敵でしたかぁ。
うーん・・・^^;
あと。。確か、ケビン・ベーコン主演の『タイムなんとか』っていう、格別に面白いSFがあったはずなんですが、忘れてしまいました(中途半端なこと言ってごめんなさい)。
>下手をすれば「寝タバコはダメよ」と説教された印象だけで終わりかねない
いやぁ、“雪の日に道路は滑っちゃダメよ”という説教では〜?
タイムトラベルものがダメっていうよりは、ストーリー上の収集をつけるための手段がやたらとキレイごとだったり、自己チューだったりするんで、そこが嫌だったりすることが多くて^^;“蝶が羽ばたくとどうのこうの”という映画とか。面白いのも確かにあるんですけどね。
“雪道は滑る”“寝タバコは危険”と、どれもこれも当然のことばかりでしたねぇw
ケビン・ベーコン主演の、面白かったタイムトラベルもの、『フラットライナーズ』でしたよ!
たおさんは見られましたー?
まだだったら見て欲しいなあ、なんてちょっとだけリクエストしてみたり・・・・
(無理にとは言いませんが)
あぁ、『フラットライナーズ』!
むかーし観ましたよ。
でもあれって、タイムトラベルっつうか“今際の際でゴメンなさい”映画でしたよねw
まぁ、本作も似たようなテーマですが。
SFミステリーかと思って借りたら、随分セツナイサスペンスでした。
久しぶりに気に入った一作でした。
エイドリアンは妖怪顔ですけど。
切ない物語でしたねぇ。前向きではありましたが^^
しかしまぁ、妖怪顔ってのももの凄い形容でw
私は彼を見ると、名前は浮かばないんですが馬のように顔の長いちょっと高級な犬を思い出すんですよねぇw
好きなのだけどたおさんがあげてる作品は
どれも好きだわ(;・∀・)
まぁ、私が偏屈者なだけですから^^;