1998年 イギリス/アメリカ映画 122分 アクション 採点★★★★
映像技術の進化によって、アクション表現の幅だけじゃなく、わざわざロケに行かなくてもそこに居るかのように見える製作上のメリットも多く生まれましたよねぇ。ただまぁ、そういった映像から得られる驚きって、“非常にリアルなアニメ”の絵そのものの迫力から得てる驚きであって、“事件を目撃した”という本能的な驚きとは趣が違うんですよねぇ。まぁ、私が歳を取ったからそう感じるのかも知れませんけど。
【ストーリー】
とあるケースを盗み出す為、パリに集められた5人の男たち。ケースのあるニースへ向かった彼らは強奪に成功するのだが、裏切り者によってケースを奪われてしまう。これを取り戻すべく、元CIAのサムとフランス人調達屋のヴィンセントが僅かな手掛かりを基にケースを追うのだが…。
家族やカップルで楽しめる総合エンタテイメント化とデジタル化が進むアクション映画界に対し、齢70を目前に控えた『ブラック・サンデー』のジョン・フランケンハイマーが「男のアクションとはコレじゃーい!」と叩きつけてきた、20世紀アクションの総決算のような骨極太犯罪アクション。
ケースを追っかけるだけの一本調子の物語に、「マクガフィンだから」と胡坐をかきまくった仕掛け、あれだけ劇中煽っておきながら主人公だけは浪人じゃなかった人物設定に、妙にフワっと終わってしまう結末など、粗を探す気になればワンサカ出てくる本作。多方面への配慮とバランスを重視する映画であればこれらの粗は問題であるが、本作はそんな映画ではない。非情な裏社会に生きる男たちの姿を描いた、ちょいと大袈裟かもしれないが“漢の映画”である本作は、これくらいの荒々しさで丁度良い。やたらと無関係な人ばかり死ぬのも、まぁ荒々しさの表れってことで。
素性を明かさぬアウトロー同士の間で生まれる友情や裏切りといった、男気溢れるなんとも劇画チックで胸熱くなる本作だが、アクション描写もこれまた男気満載。特にカーチェイスの凄まじさは、もう私の中で伝説の域。CGを一切使用せず、数多くのシーンで役者に運転させ、ダイアナ妃が亡くなったことでも有名なトンネル内や渋滞の道路をロケーションに選んだこのこだわりは、流石プロのレースドライバーを夢見たフランケンハイマーらしい心意気。プロの卓越した技術と並外れた度胸によって映像に収められたこれらのシーンからは、昨今の作品では感じる事の少なくなった“ギリギリで死を回避した”現場の目撃者としての興奮を存分に味わうことが出来る。「カーチェイスだけの映画」と揶揄される事もあるが、そのカーチェイスに並々ならぬ価値があるんだから、もうそれは褒め言葉では。
主人公のサムに扮したのは、『ミート・ザ・ペアレンツ3』『マチェーテ』のロバート・デ・ニーロ。アンサンブル重視のあっさりし過ぎた演技か、名優モードのやり過ぎ演技かのどっちかに偏りがちなデ・ニーロだが、本作ではセミプロの中に本物のプロが秘かに入り込んだ格の違いや凄味ってのを、抑え過ぎず出しゃばり過ぎずの絶妙なバランスで好演。ちょっとした仕草や言い回しの中に、描かれてはいない主人公の過去を透かし見せる素晴らしい仕事っぷり。
一方、「パリにある物なら何でも揃える」調達屋に扮したのは、『バレッツ』『アーマード 武装地帯』のジャン・レノ。細かい気遣いと人懐っこい笑顔を見せるキャラクターなんで、「こんな気の良い人が何で裏稼業なんかに?」って疑問が頭をよぎること多々ではありましたが、格の違うデ・ニーロに献身的に尽くすヒロイン的ポジションの役柄なので、まぁこんな感じで良いのかと。本作に限らずとも案外ヒロイン役がハマるジャン・レノなんで、これまた好キャスティングが光った一例かと。
その他、小雪ばりの般若顔がちょっと怖かったナターシャ・マケルホーンや、見た目のイメージまんまの冷酷な役柄を充てられた『ドラゴン・タトゥーの女』のステラン・スカルスガルド、ほとんどのシーンで実際に運転させられてたスキップ・サダスらに、自分を追ってるエージェントに裏切り者、仕舞いには口だけ番長まで雇ってしまう人を見る目の全くないボスに扮した『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』のジョナサン・プライス、『007/ムーンレイカー』のマイケル・ロンズデールに、後ほど述べる『007/ゴールデンアイ』のアノ人といった“007悪役三人衆”も登場し作品をピシっと締めてくれる。
で、ショーン・ビーン。凄まじ過ぎるカーチェイスが私の中で伝説であるのと同様、本作のショーンも私の中では語り草。
その道のプロ集団に、どういうわけかまんまと忍び込んだ素人に扮したショーン。「どんな銃使ってんの?」と皆に絡んでますが、高校デビューを図ってるいじめられっ子がクラスのヤンキーによく知りもしない車の話題を持ちかけてるかのような痛々しさです。それも、よりによってプロ中のプロであるデ・ニーロに絡んじゃうんですから、初っ端からもう居た堪れません。黙ってればいいものの、黙ってれば舐められると思ったのかよく喋ります。典型的な口だけ番長です。
そのくせ、いざ仕事が始まると途端に黙りこくるショーン。目が泳ぎ始めてます。出来る事なら「腹痛い…」とか言って家に帰りたいところなんでしょうけど、もちろんそうもいかないので渋々仲間たちと取引現場へと向かうショーン。取引相手を前に急に威勢が良くなるショーンですけど、腹が据わったって言うよりは、恐怖と緊張が限界を超えてしまったってのが手に取るように分かります。分かりやす過ぎです。その後の銃撃戦を乗り越えたショーンは「奴らの血をぶちまけてやったゼ!」とか妙なテンションではしゃいでますが、そうでもしてないと泣いちゃうんでしょうねぇ。多分人を撃ったのは初めてだったんじゃないでしょうか?緊張からは解き放たれましたが、後悔やら更なる恐怖に襲われ瞬く間に車に酔ってましたし。そんなショーンを見つめるデ・ニーロとジャン・レノの視線の冷たいこと冷たいこと。ずっと怪しんでたんでしょうけど、ここで口だけ番長であることが確定的にバレます。
そんなこんなで本筋に入る前に追い出されてしまうショーン。黙って立ち去ればまだカッコが付くのに、報酬が欲しいので皆が仕事に出掛けるのを一人待ってます。切なすぎです。よくある展開だとその後裏切り者として再登場しそうなものですが、こんな怖い目にもう金輪際遭いたくないショーンは見事に姿を消します。でも、多分地元のパブで披露する“なんちゃって武勇伝”に、このエピソードが美化されて加わったことでしょうねぇ。
記憶の中に3人ぐらいはいるであろう口だけ番長を、見事なまでに表現したショーン。何かしらの賞を獲ってもおかしくない本作のショーンに対して★をもう一つくらいオマケしたいところですが、あんまり甘やかせるとまたちゃんとした映画に出なくなっちゃいそうなので、ここは厳しくオマケはなしで。
喋れば喋るほどボロが出るし、黙っててもボロが出る
↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓
遂にきましたね、『RONIN』。
初めて観たときはデ・ニーロやジャン・レノ中心、カーチェイスも真面目に堪能してましたが、今やショーンの出てる本筋スタート前が、私の中でメイン扱いだったりします。
ちゃんと鍛えてあげれば、スペンスもまずまず使える子になってくれるんじゃないでしょうか。途中でうっかり散ってしまいそうだけど。
ちなみに私事ながら、先月夢にショーン・ビーン(『ナショナル・トレジャー』のイアン版)が出てきました。夢の中でもツメが甘い人でした。面白いやら申し訳ないやらで複雑です。
何度も観てるんでてっきりレビューを書いたもんだと思ってたらまだだったんで、最近ショーンも観てないしついでにって感じで^^;
下手に鍛えてその気にさせても死ぬだけなので、やっぱり今回のように怖い思いだけしてスゴスゴ退散してた方が良いんでしょうねぇw