2004年 香港映画 95分 ドラマ 採点★★★
高校時代の体育の時間と言えば、晴れていれば校庭で野球かサッカー、雨なら体育館でバスケットかバレーか卓球と、非常に娯楽性重視であったのだが、そんな体育の時間に必修として週一回組み込まれていたのが、何故だか柔道。強豪校でもないのに。もちろんその日は各自柔道着持参で登校しなければならないのだが、なにせ街中にあるちょっとオシャレな学校。誰もそんな柔道一直線な恰好で登校したがらず、結局年中ロッカー内にある始末。しかしそこは男子校。ロッカー内の柔道着はその靴の臭いまで吸い取り瞬く間にすえた香りを漂わせ始め、夏の終わり頃にもなるとブルーチーズ臭を漂わせ始める。もうそうなると道場内は、ブルーチーズとブルーチーズが乱取りをする阿鼻叫喚な空間に。
【ストーリー】
かつては柔道界で名を馳せたシト・ポウも、今では酒浸りとなり場末のバーでしがない雇われマスター兼バンドマンになっていた。そんなある日、最強の相手を求めてトニーがやってくるが、闘志を失ったシト・ポウは全く歯が立たないが、トニーを気に入ったシト・ポウは同じくフラリとやって来た有名人志望の女の子シウモンと共に共同生活を始める。

常に黒澤明への敬意を怠らないジョニー・トーが、黒澤映画でも有名な『姿三四郎』へオマージュを捧げた柔道青春ドラマ。傑作と問題作の振り幅がワンパクなジョニー・トーらしく、今回は随分とアッチの方へ振り幅が。『ザ・ミッション』や『PTU』を期待するとある意味度肝を抜かれるが、『マッスル・モンク』を期待するとなんとなく落ち着く作品。冒頭から『姿三四郎』の主題歌が浪々と歌われる動揺から覚めないうちに、ジョニー・トー色に染まった夜の街中で行われる格闘シーンが全て柔道一本の序盤にさらに驚く。絵柄はとにかく地味なのだが、袖の取り合い襟の取り合いと、地味な攻防がスリリング。野外で行われる柔道をなんと呼べばいいのだろう?草柔道?野良柔道?
しかし、その後は奇妙な青春映画と変換していく。かつての栄光を捨て、すっかり目も死んでしまったどん底主人公と、有名になれるんであれば、何処だろうが何だろうが飛びつく野良猫のような宿無し娘、暑苦しい柔道坊主との交流を軸に、周りを囲む奇妙な人物との関係を随所随所に柔道を挟んで展開。唐突な展開とオフビートな笑いに取っ付きにくさをも感じる場面も多いが、主人公が再び柔道に目覚めてからの終盤の暑苦しさは絶品。痛みによって生の実感を得ていた『ファイト・クラブ』の如く、満面の笑顔で乱取りし、満面の笑顔で受身の練習をし、満面の笑顔で技を決められる。とにかく暑苦しい。こんな立派なバカは久しぶりに見た。目的も熱意も失った現代の若者へ対する、熱い説教だ。ただ、あんまり熱すぎるので若者は逃げてしまうのではとも思いますが。

主人公を含め熱意を失ってしまった人物は全員目が死んでいる、非常に分かりやすい人物設定の中、スポーツ刈りに満面の笑顔で「オラと対戦してけろ」としつこいトニーに扮するアーロン・クォックの暑苦しさは素晴らしい。その風貌と温度は、勝俣州和を連想してくれれば分かりやすいかも。常連のジョニー・トー組の俳優が見当たらないのは寂しいものの、それを補うだけの熱い顔ぶれが揃っているのは嬉しい限り。夏には感想も変わりそうですが。
劇中、両手に大金を抱えたシウモンが逃げるシーン。走る勢いで紙幣が飛び散り、最後にほんの僅かだけが手元に残るシーンが印象的。「あぁ、人間が抱えられる幸せの量ってのは決まっているんだなぁ」と、深読み気味に感慨深く。

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