１６ブロック (16 Blocks)

監督　リチャード・ドナー　主演　ブルース・ウィリス
2006年　アメリカ映画　101分　アクション　採点★★★★

“船頭多くして船山に登る”
あーだ、こーだと思い思いに指示を出す人間が多すぎて、本来の目標とは違うトンチンカンな方向へ進んでしまうことの喩えであるが、ダメな映画にもそのまんま当てはまったりもする。映画の場合の“船頭”とは、プロデューサー。大勢のプロデューサーが集まると、「ハッピーエンドにしよう！」「もっと爆発を！」「うちの姪っ子を出そう！」「じゃぁ、俺の愛人も！」とそれぞれの利害を追求する意見が飛び交ってしまうので、現場が大混乱。また、後戻り出来ない所まで行った挙句に頓挫しそうな時も、なんとか立て直そうと小金持ちが集まってギャーギャー。蓋を開けてみれば、目も当てられない作品の出来上がり。大勢の脚本家が携わっている場合も同様に要注意で、大勢のプロデューサーや脚本家が関わっている作品を観る場合は、事前に心構えの必要があったりする。で、本作のプロデューサー数、なんと２０人。ブロック数よりも多い。さて、どうなることやら…。



【ストーリー】
与えられる仕事はせいぜい現場でのお留守番という体たらくの刑事ジャック。そんな酒浸りの冴えない日々を送っていたジャックに、急遽行けなくなってしまった警官の代わりに、ある事件の証人エディを１６ブロック先の裁判所まで送り届けるよう命令が下る。渋々エディと共に留置場を出たジャックだったが、謎の男達が急襲。事態は急変し、仲間の警官たちにも追われる身となってしまう。



先に挙げた不安は、どうやら今回ばかりは杞憂に終わったようで。一つの作品を完成させようと一丸となった稀有な例のようで、徹頭徹尾締まった作品に仕上がっている。よかった、よかった。
グウタラ刑事が警察にとって厄介な証人を抱えてしまったが為に、仲間の警官にまで追われる物語と言えば、移動距離こそ短いがクリント・イーストウッドの『ガントレット』を彷彿させる。どちらの証人ものべつ幕なしに喋りまくってますし。ソンドラ・ブロックとモス・デフ、どっちのお喋りが耐えられるかは好みの問題ですが。もちろんただの『ガントレット』の焼き直し的作品ではない。前者が移動手段に列車やバイクを使用した大陸横断な大らかさがあったのに対し、本作はちょっとしたお使いって設定もある為もっぱら徒歩。しかし込み入った大都会らしく、地下から屋上まで上下を存分に使った迷宮的逃避行で、曲がり角を曲がったらそこに敵がいる狭っ苦しい緊迫感が生まれている。まぁ、最後にバスを使っておきながら「何でバスを蜂の巣にしないんだ？」との不満もありましたが。
たまたまヒマで、ついつい身体が動いてしまったが為に大事件に巻き込まれてしまった主人公の心情の変化と、“何事にも兆候があり、一見偶然に見えてもそれらは全て必然なんだ”というバットで宇宙人を殴り殺したあの映画みたいなテーマを持つ本作。セリフで何度もその“兆候”について取り上げるので多少ウザったい気もするのだが、リチャード・ドナーの手堅くきめ細かい演出により、さほど気にならない程度に。リチャード・ドナーと言えば、『オーメン』『スーパーマン』『リーサル・ウェポン』、まぁ人によっては『グーニーズ』と７０〜８０年代を代表する娯楽職人であったのだが、時の流れの残酷さか、ジョン・バダム同様結局の所『リーサル・ウェポン』以降は過去の人に。しかし本作では、制限時間の使い方が上手く活きていない不満こそあったものの、オープニングとエンディングでのブルース・ウィリスの表情の変化一つで映画を締めれるきめの細かさ、無駄を一切省いた手堅さを存分に発揮し健在をアピール。嬉しい拾い物の小品となっている。監督リチャード・ドナー、主演ブルース・ウィリスで“拾い物の小品”ってのも、どうかと思いますが。



２０年近くも大スターの座にいながら、ヒット作と失敗作の落差が非常に激しいブルース・ウィリス。代表作と代表作の間が常に１０本近く空く、その作品の選び方が上手なのか下手なのか全くもって謎なブルース・ウィリスなのだが、『パルプ・フィクション』や『シックス・センス』のように若手監督の意欲作を全面的にバックアップし、自らも起死回生を図るその嗅覚だけはずば抜けているようで。ブルース・ウィリスといえば、ブツクサと文句を言いながらも持ち前の無責任さと諦めの悪さで無事事件を解決する作品が多かったのだが、最近は加齢のせいか『ホステージ』や『シン・シティ』の様に、過去の栄光が重荷になって終始沈痛な面持ちでいるうだつの上がらない役柄も増えてきた。で、今回はぜい肉と髪の毛を増量し『ダイ・ハード』でもお馴染みの巻き込まれキャラを演じながらも、ついつい動いてしまった自分に毒づく沈痛キャラをもブレンド。ブルース・ウィリスの独壇場とも言えるキャラクターだ。同系統のキャラクターを演じた代表作を持ち、同じく“兆候”をテーマにした作品でシャマラン映画の特等席をブルースから奪い取ったメル・ギブソンへの仕返しか、リチャード・ドナー映画の特等席をブルースがメルから奪い取った形に。
新鋭の黒人俳優と言えば大概はラッパーなのだが、モス・デフもそれ。タオルの重要性を教えてくれた『銀河ヒッチハイク・ガイド』ほどの強烈さはないものの、彼が扮する“エドワード・バンカー”の名前を聞くとどうしても先頃亡くなってしまった犯罪者映画『ストレート・タイム』『アニマル・ファクトリー』の原作者であり、俳優としても『レザボア・ドッグス』『ロンゲスト・ヤード』に顔を出していた元犯罪者の強面を思い出してしまうので、「どんなのが出てくるんだ？」と期待すると、出てくるのがヌラヌラと喋り続けるモス・デフだというギャップが楽しい。
人懐っこい笑顔故に、そのギャップから悪役を演じることも多いデヴィッド・モース。出演作に大ハズレが少ない安心俳優と決め付けているのだが、今回もそのジンクスは破られず。今回も悪役を演じている時のデヴィッド・モースと何ら変わらないし、役柄自体よくあるタイプキャストしやすいキャラクターなのだが、彼が演じることで生まれるあの奥行きの深さはどうだろう。“演技力”とか“存在感”といった簡単な形容詞では収まらない懐の深さが魅力的な俳優だ。
全体的に観ればやや前時代的な作りは否めないし、煮詰め方が足りないのか、時間制限や地理的特徴を活かしきっていない部分も目立ったが、キレの良さと印象的なシーンの多さからも評価は高めで。


初めてのお使いには困難がつきもの

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Comments

はぁ〜っ！たおさん　またまた目からウロコです！
そっかぁ　ブロック数よりプロデューサーの数のほうが多かったのね♪
そして、プロデューサーの思惑がそんなにからんでくるというのも分かりました！
たおさんのレビューは勉強になります☆

Posted by なぎさ at 2006年10月31日 09:26

お早うざいます。
いつも弊ブログへのトラックバック、ありがとうございます。
こちらからもコメントとトラックバックのお返しを失礼致します。

この作品は、映画全体の躍動感のある展開と味わい深い台詞のやりとり、印象深いエンディングもとても良く、練り上げられた一本の作品としてのまとまりの見事さに、僕は魅力を感じた一本でした。
そして、ブルース・ウィリスさんが演じる刑事 ジャック・モズレイさんとモス・デフさんが演じる証人 エディ・バンカーさんの色々な面で対照的な二人の存在感も良かったです。

また遊びに来させて頂きます。
ではまた。

Posted by たろ at 2006年10月31日 10:34

ＴＢありがとうございました。
たおさんの笑えてお勉強にもなる映画のレビュー、いつも楽しみにしています☆

この映画、とーってもおもしろかったです〜

今回のブルースのヘアスタイル、いつもより”減”だと思っていたんですけど、
”増”だったんだ！勘違いしてましたｗ

Posted by kenko at 2006年10月31日 11:22

どーもー(笑)
まだ見てませんのでレビュー読まずにコメントしちゃお(笑)
ＴＶのＣＭみて「やっちまった」だったかな？そんなことを言ってたように思うんですが「いつも、やっちまってるやん。今に始まったことじゃないやろ」と関西弁で突っ込みを入れてましたぁ
なのでどのくらいやっちまったのか、ちょびっと期待しております(笑)

Posted by chibisaru at 2006年10月31日 13:04

TBどうもです。

＞キレの良さと印象的なシーンの多さからも評価は高めで。
ちょっと意外なブルース・ウィルスってだけで、高評価な私です。
最後の笑顔も印象的でしたね。

Posted by at 2006年10月31日 20:10

ＴＢありがとうございます
ふつうにアクション・ストーリーかと軽く思って観に行きましたが　面白かったです
８時から１０時までの映画時間と観客の映画を観てる時間が同じような進行なのも楽しかったです
初めて会った人のために自分の命を賭する・・というのも　すごいなぁと感動でした

Posted by 華やぐ時間 at 2006年10月31日 21:17

いつもありがとうございます。
モス・ディフ、どっかで観たことあると思っていたのですが、ラッパーと聞いて納得してたんですよ。そしたら、タオルの重要性を教えてくれた主人公と一緒に旅する人だったんですね！ありがとうございます（^^；

Posted by カヌ at 2006年10月31日 22:09

TBありがとうございます。
たおさんもかなりの映画通ですね。
エディ・バンカーの名前に気づいた人がいて嬉しいです。
こちらからもTBさせて頂きます。これからもよろしく！

Posted by wanco at 2006年10月31日 22:22

なぎさ様こんばんは〜♪
そりゃあ誰だって損はしたくないので、金を出したら口も出すんでしょうが、おかげで心の全くこもっていない骨抜け映画になってしまうのも困りもんですよねぇ。。。
脚本家が多すぎるのはもっと警戒で。たらい回しなので、ほとんど伝言ゲームのような映画に。

Posted by たお at 2006年10月31日 22:49

たろ様こんばんは！
対照的な二人が絡む典型的バディ物でもあるんですが、ダレのない演出で一気に見せてくれてましたよねぇ。

Posted by たお at 2006年10月31日 23:02

kenko様こんばんは！
勉強になるかどうかはアレですけど、お褒めいただき嬉しいです♪
最近なにげに髪の毛が多いブルースに観慣れてたので“減”の印象がありましたが、実の所“増”でｗ

Posted by たお at 2006年10月31日 23:07

chibisaru様こんばんは〜♪
レビューも読まずにコメントとは、怒っていいのか喜んでいいのかｗ
実は予告編もＣＭも見たことがないので、なんとも言いようがないんですが、えぇ、盛大にやっちまっております。まぁ、いつもブルースはやっちまってるんですが。

Posted by たお at 2006年10月31日 23:11

えぇーっと、○○様こんばんは＾＾；
すごーくいつものブルースって気もしたんですが、全体を通してよい印象で♪

Posted by たお at 2006年10月31日 23:13

華やぐ時間さまこんばんは！
“宿命”とか“運命”とかをテーマに描いてましたね。人の為の正義感というよりは、自分が目覚める様子を描いてたようにも思えましたよ。

Posted by たお at 2006年10月31日 23:17

カヌ様こんばんは！
そう！あのイルカの歌が素晴らしかった映画ですよ＾＾
あの映画ではもうちょっとハキハキ喋ってた気もしたんですが、今回は随分とヌラヌラしてましたねぇ。

Posted by たお at 2006年10月31日 23:19

wanco様こんばんは！
映画通というか、バンカー絡みの映画がどれも好きなもんなので＾＾；
あのネーミングは狙ったギャグだと思うんですが、違いますかねぇ。。。

Posted by たお at 2006年10月31日 23:22

こんばんは♪
TBありがとうございます。
プロデューサーの数がそんなに多いとは知りませんでした。
さぞいろんな意見が出てたいへんだったでしょうね。
ブルース・ウィリスの代表作は常に間が10本開くという事実に納得です！
『ダイハード４』はどうなりますことやら。

Posted by ミチ at 2006年11月01日 22:26

ミチ様こんばんは！
この作品に関しては、集まって各々が好き勝手言ってたというよりは、一致団結して作品を作り上げたって感じのようですね。
失敗作が続いてもスターの座に君臨し続けるブルース・ウィリス本人と、浮上しては消え浮上しては消えを繰り返す『ダイ・ハード』の企画自体が、ある意味本物のダイ・ハードな気も。

Posted by たお at 2006年11月02日 03:28

こんばんは。
それほど期待せずに見に行きまして、大正解でした。エディ（モス・デフ）の喋りにイラッとしながらも、後半それほど気にならなくなったのが不思議です。「慣れ」でしょうか？(^-^;
あとでＴＢさせてください。

Posted by 古木33 at 2006年11月03日 21:54

こんばんは
例によってトラバックが上手に出来ないのでコメントさせていただきます。（私はトラバが上手く出来なのです）
これは私の中では今年一番好きな作品かもしれないです。ブルース・ウィルスはこういうちょっと冴えない中年刑事役が本当に上手ですよね。まさにはまり役だと思います。また面白い作品に出演して欲しいと願ってやまないです（笑）

Posted by 怪盗紳士 at 2006年11月04日 22:59

古木33様こんばんは！
間違いなく“慣れ”ですねぇ。
私は最後まで「イラッ」としてましたしｗ

Posted by たお at 2006年11月05日 01:33

怪盗紳士さまこんばんは♪
ＴＢ出来ないのは、こっちにも問題があるのかも＾＾；
ブルース・ウィリスは、本当にこういう役が似合いますよねぇ。きっと面白い作品に出てくれますよ。あと１０本ほど我慢すればｗ

Posted by たお at 2006年11月05日 01:42

たお様！！
製作者20人ですかぁ。よくまとめましたね〜
そこは感心します。
私は結構面白かったと思ってます。
「ガントレット」だ思い出した。
何となく似てる〜〜

余談･･･お互いもうスグですね。Ｂの日　フフフ

Posted by Lance at 2007年08月15日 01:32

Lance様こんばんは〜♪
そうなんですよねぇ。
いよいよカウントダウンが始まっちゃいました。。。

Posted by たお at 2007年08月17日 01:41

おこんばんはー♪
デビッド・モース好きな私、ハゲが頑張る映画も好きだったりします(笑)
地味なダイハードだ・・・なんて思ったりもしたんですが、なかなか味わい深い作品でした。

Posted by chibisaru at 2007年09月01日 20:42

chibisaru様、こーんばーんはー♪
さすがハゲが頑張る映画とバイクが出る映画は見逃さないchibisaru様ｗ
ちょろっとした小品でしたが、なかなか面白かったですねぇ。

Posted by たお at 2007年09月04日 18:55

ええぇ〜！！！
プロデューサー20人ですか？(；・∀・)
よ〜まとまりましたね！

Posted by miyu at 2008年04月27日 16:30

miyu様、こんばんは！
多分出す金の小ささと同様に口も出さなかったんでしょうねぇｗ

Posted by たお at 2008年05月02日 22:58