マネーボール (Moneyball)

監督　ベネット・ミラー　主演　ブラッド・ピット
2011年　アメリカ映画　133分　ドラマ　採点★★★

ちょいと行き詰ってたり、にっちもさっちもいかなくなったお店の立て直しに出向くことが多いんですが、そういうお店で最初に苦労するのは出来上がってしまった常識と習慣を根っこから変えることなんですよねぇ。それをするには明確なゴールイメージを全員と共有して、とにかく目線を同じ方向に向けるためにひたすら話し合いをするしか。確かに事務所にふんぞり返って「あれやれ！これやれ！」とトップダウンで指示するだけだったり、周囲を無視して自分がプレーヤーとなって現場で動きまわればことは早いんですけど、それだと自分がいなくなった瞬間に元の木阿弥になっちゃうんですよねぇ。“急がば回れ”って、ホント昔の人は良いことを言うねぇ。



【ストーリー】
弱小球団アスレチックスのゼネラルマネージャーを務めるビリー・ビーン。厳しい財政状況で満足な選手補強も出来ない中、詳細なデータを基に斬新な選手評価をしていた青年ピーターと出会う。ビリーはピーターと共に安い選手で勝てるチームを作る独自の経営戦略を打ち立てるが、野球界の常識から外れたその考え方に周囲は反発し…。



弱小球団であったアスレチックスを常勝球団へと作り変えた実在のゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンの物語を『カポーティ』のベネット・ミラーが映像化したスポーツドラマ。“スポーツドラマ”とは言ってみたものの、選手は駒か転売用の商品として描かれてるので“経営ドラマ”と言った方が正しいのかと。
プロ野球ってのは勝敗を競いあうだけじゃなく経営も競い合うものなんだから、資金が潤沢な球団に強い選手と人気が集中するのは当たり前の事だと思ってる私。そういう球団が妬まれるのは仕方がないにしろ、「フェアじゃない！」と騒がれるのはお門違いなのではと。弱小には弱小なりの戦い方ってのがあると思いますし。そんな弱小球団アスレチックスを、野村前ゴールデンイーグルス監督も口を酸っぱくして言ってた“野球は確率のスポーツ”ってのを徹底的に突き詰めた“マネーボール理論”を用い、既存の考え方とぶつかりながらその理論を立証していく様を描いた本作。勝ち上がっていくスポーツ映画としての醍醐味には乏しいが、まるで古参のマフィアのような旧体制の反発にもめげずに自分の信じた理論を押し通し、それが結果を作りだしていく過程は非常に面白く痛快でもある。
ただまぁ、この面白さはネタそのものが持つものであって、映画が作り上げたものではないのかなぁと。マネーボール理論を心底信じ切る動機や、現場と距離を置いていた主人公が本来真っ先にやらなければならなかった現場との対話に乗り出す転機など、ストーリー上重要な転換期が全てボンヤリ。主人公がどんな人間なのかよく分からないまま“彼の理論は間違ってなかった”とふんわりと軟着陸する結末も、彼自身が作った理論でもなければ彼が直接手掛けた上での成果でもないので、猛反発を前に自分の考えを押し通した男の物語が迎えるオチとしては「ん？」となる座りの悪さも。なんと言うか、あまり評判にならなかった自分の好きな映画が賞を獲ったんで、「ほらね！」と言って喜んでるような感じが。



“何を考えてるのか分かりづらい”ってのは作り手の問題に因るものなんでしょうけど、ビリーに扮した『メガマインド』『オーシャンズ１３』のブラッド・ピットが持つ雰囲気も大きいのかと。良く言えばミステリアスだが、悪く言えば空っぽ。ただ、元スポーツ選手で若くして成功した気の良いあんちゃんって本作の役柄に関しては、非常に似合ってたのかなぁと。旧体制とは考え方から行動の仕方まで全てにおいて違う、新世代ってのを体現するにはピッタリの役者ですし。まぁ、そんなブラッド・ピットもそろそろ50代なんですけど。本人もその辺は意識しているようで、「いつまでも“そこらのあんちゃん”ではいられない」と俳優業の引退も口にしてるとか。ロバート・レッドフォード路線を狙ってるのかも知れないんですけど、芸幅の狭さをハンサムってのに集約した結果“ザ・ハンサム”って居場所を見出したトムちんってのもいますんで、70過ぎてもあんちゃん風情漂う“ザ・あんちゃん”ってポジションを狙って欲しいなぁって気も。
その他、スポーツをやってるイメージが全く無かった割には案外ユニフォーム姿が様になってた、『ウソから始まる恋と仕事の成功術』『パイレーツ・ロック』のフィリップ・シーモア・ホフマンや、『ドラゴン・タトゥーの女』『アンブレイカブル』のロビン・ライトらの好演も光っていたが、やはり最も強烈だったのは『僕の大切な人と、そのクソガキ』『寝取られ男のラブ♂バカンス』のジョナ・ヒルだったなぁと。今回はお馴染の下ネタや血圧の高そうなテンションを封印していた彼だったんですが、明らかに普通の人とは違う異彩と、ブラッド・ピット以上に旧体制との距離がある新世代の若者ってのを見事なまでに体現。ここ数年役者としての器用さや力量が脚光を浴びてるのは昔からのファンとしては嬉しい限りなんですが、もうそろそろコメディ映画でジョナ・ヒルを観たいなぁ。とりあえずは、早急に『寝取り男はロック★スター』のソフト化を。


“来たら負ける”ってジンクスの持ち主がＧＭってのはどうかと

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Comments

TB ありがとうございます。

野球映画というよりも人間ドラマ、経営理論ともいえて
それを巧く描いてますね

プラピもそうですが、やはりジョナ・ヒルの好演が光りますね!

Posted by リバー at 2012年04月05日 16:20

リバー様、こんばんは！
まぁ、野球チーム経営映画でしたねぇ。
ブラピに関してはアレだったんですが、ジョナ・ヒルは良かった！

Posted by たお at 2012年04月05日 18:25

そうですか〜
わたしはこのブラピはかっこいいと思いました
普段そこまでも思わないのですが
あとツリー・オフ・ライフのブラピなど…
お父さんのブラピに魅力を感じているようです

来たら負けるジンクスはレベルＥのクラフトさんを思い出したり
結構どんなスポーツでもジンクスそれぞれ持ってる選手多いですよね
GMは元選手だったからその辺に繊細なのかも

Posted by おくやぷ at 2012年04月05日 20:41

おくやぷ様、こんにちは！
どうにもブラピとその周辺世代の役者に煮え切らなさってのを感じてしまってるせいか、イマイチ魅力を感じられないんですよねぇ＾＾；
にしても、11点差すらひっくり返るジンクスって凄まじいですねぇ。

Posted by たお at 2012年04月06日 08:04

野球もの！と勝手に期待してたもんで、こりゃ経営が主眼だったのね〜と言うことで、私的には、少々肩すかしでした。
そうやって見れば、面白いのですが、おっしゃる通り、物語が面白いんで、映画としたらどうか？と言われると、ちょっと弱かったかなあ。

その昔、「あんたの代理人」という漫画で、会社更生法を適用された造り酒屋の再建を託された弁護士の話を思い出しました。
ふんぞり返って指示出すんじゃなく、同じ目線、でも明確な指示ってのが大事だってやつでした。いずこも同じだ。

Posted by sakurai at 2012年04月06日 10:12

sakurai様、こんばんは！
面白かったは面白かったんですけど、違う人が撮っても面白さに変わりのない、ネタに頼った感じがありましたねぇ。
＞同じ目線、でも明確な指示ってのが大事だってやつでした
頭で理解していても、実行して継続するのって難しいんですよねぇ。

Posted by たお at 2012年04月07日 19:01

TBありがとうございます。

ジョナ・ヒルが光ってましたよね。

ちなみに『寝取り男はロック★スター』は
『伝説のロックスター再生計画!』というタイトルで8月3日にDVDが発売されますよ＾＾

Posted by kusukusu2812 at 2012年05月01日 17:27

kusukusu2812様、こんにちは！
＞『伝説のロックスター再生計画!』というタイトルで8月3日にDVDが発売
そうなんですよねぇ！
今から楽しみで楽しみで＾＾

Posted by たお at 2012年05月02日 08:11