2010年 アメリカ映画 96分 コメディ 採点★★★★
ヒーローとヴィランって真逆の存在のように思えて、法に照らし合わせるとどっちも犯罪者なんですよねぇ。ヒーローは世間的に“良い人”となんとなく認知されてるだけの存在なんで、うっかり訴えられると結構まずい立場に。そう考えると、胸を張って悪事に勤しむヴィランなんかよりも、遥かに矛盾した存在ですよねぇ。だからウジウジ悩むヒーローが多いんでしょうけど。

【ストーリー】
ダイナーのキッチンで働く冴えない中年男、フランク。何一つ良い事のない人生において、美しい妻のサラの存在だけが彼の心の拠り所となっていた。しかしそんなある日、妻のサラはフランクを捨てドラッグディーラーのジョックのもとへと去ってしまう。悲しみに暮れる彼だったが、神の啓示を受け自家製ヒーロー“クリムゾンボルト”となり、妻を救い出す為に街の悪党退治に繰り出す決意を固めるのだが…。

『ドーン・オブ・ザ・デッド』『スリザー』のジェームズ・ガン監督/脚本による、自家製スーパーヒーローとなった中年男の姿を描いたコメディ。一応“コメディ”とはなってますが、別に誰かが面白いことをするわけではなく、可笑しくも悲しい生き様を見てついつい笑ってしまうってタイプ。
冴えない主人公がヒーロー・コスチュームに身を包む映画と言えば『キック・アス』や『ディフェンドー 闇の仕事人』を思い起こさせるが、受けた印象はそっちよりも『アメリカン・サイコ』や『ヒストリー・オブ・バイオレンス』に案外近かった本作。何の取り柄もない自分の代弁者として主人公に自己投影し単純に喝采を送ると言うよりは、垣間見える狂気に恐怖を感じながらも、“列に横入りする奴をぶん殴りたい”“人の車に傷つける奴をとっちめたい”など、日々の怒りから来る暴力衝動を果たす主人公に快感を感じるタイプって感じ。
ただ、本作の暴力描写には痛快さの欠片もない。レンチで殴られた顔は無残に引裂け、後頭部を床に叩きつけ続けられる悪党の目は徐々に焦点を失い死者の顔となり、断末魔の悲鳴を上げる男に何度も何度もナイフが振り下ろされる。ホラー畑の監督が悪ノリしたゴア描写と言うよりは、ヒーローであろうがヴィランであろうが振るう暴力には何の変わりのない、暴力それ自体とその結果をまざまざと見せつけているようだ。そこには善も悪もなく、暴力は暴力に過ぎない。暴力を嫌いながらも突き上げられる衝動を抑えきれず、「悪党相手になら…」と暴力を振るう理由を後付けしてしまいがちな観客の溜飲を下げさせるように見せかけて、暴力そのもののエグさを見せつけ「うわぁ…」っとさせる、なんとも憎い演出。

本作の主人公は、世間的に大多数を占めるであろう“冴えない男たち”の代表としては、奥さんが美人ってのをさて置いても非常に共感しずらい。“共感できない”ってのではなく、認めたくない自分の暗部をも曝け出す、“認めたくない共通点を持つ”人物。
奥さんが逃げたのはドラッグディーラーのせいで、ヒーローになったのは神の啓示、暴力を振るうのはそいつが悪党だからと、全てにおいて自分を顧みず原因を他所に見出す主人公。都合の悪さや矛盾からは目を逸らし、責任を他者に転嫁してやり過ごす、まぁ非常によくいるタイプではある。ここまで自分本位な男が主人公であれば、観賞中も相当イライラしてしまいそうなものだが、本作は主人公が自分本位を暴走させればさせるほど面白くなってくる。自分本位だろうがなんだろうが、やり切ってしまう姿は清々しい。最終的に“愛する人のため”とか“日々に小さな幸せを”とか、非常にもっともらしい言葉で締めくくろうとはしているが、それとて自分の行動を正当化するための後付けの言い訳に思える。犠牲を払う事も、責任を取る事も、自分に共感してついてきた“相棒”の顛末についても触れようとせず、一人で達観することで万事解決したように思い込もうとしてるかの如く。負け犬の物語としては、負け犬であることからすら目を逸らす、ほぼ完璧な締め括り。

まぁ、こっからは思いっきり道を外れた深読みって言うか邪推なんですが、この物語に現実味が感じられない。もちろん、“映画内の現実”って意味で。不安定な男の日常を、同様に素人めいた不安定なカメラワークで追ってるせいもあってか、どこかフワフワした印象を覚える本作。見ていたTV番組がそのまま直結する“神の啓示”にしろ、単に日々の鬱憤を晴らしているだけの行動にしろ、どこか現実から遊離してしまってる。こうなってくると、もう「最初っから最後まで主人公の妄想なんじゃないのか?」と思えてくることすら。
そうなると、“どこから妄想が始まってるのか?”ってのに興味が湧いてしまうんですが、素直に考えれば“奥さんが逃げた時から”ってことに。ただまぁ、失礼な話あのフランクがあんな美人のサラを嫁さんに出来るとは到底思えない。ってなると、サラが現実に存在するとしても、彼女が元ジャンキーでグループセッションに参加してるって設定も怪しく。あんまり考え込むとワケ分かんなくなるんで適当に整理すれば、フランクがダイナーのキッチンからサラを眺めながらしていた妄想が、そのまんま映像になったのが本作なのかと。そうだとすれば、自家用車で行動してるのに誰もナンバーを控えてなかったり、フランクの正体に気付いた刑事がたまたま死んだり、ギャング組織を一網打尽に出来たり、若い女の子が一方的に迫ってきたりする都合の良過ぎる展開も納得。きっと本来のエンディングは、妄想に夢中になり過ぎたフランクがハンバーグを焦しちゃって、同僚に怒られ我に帰るシーンなんじゃないのかと。なんか、デヴィッド・クローネンバーグあたりに撮ってもらいたい題材に思えてきましたねぇ。まぁ、ここで書いてる事自体が私の妄想なんですけど。

主人公のフランクに扮したのは、『ROCKER 40歳のロック☆デビュー』『Gガール 破壊的な彼女』のレイン・ウィルソン。薄毛で中年太りの彼が、ドンヨリしながらも妙に鋭い目線を脂ぎった厨房からホールにいるサラに送っている姿が、あまりにハマり過ぎていて若干引いてしまう程の好キャスティング。半端な二枚目なんかが演じたら出てこない生々しさが見事。まぁその反面、重過ぎる印象もありましたが。
ただ、その重さを解消してくれたのが、『インセプション』『ローラーガールズ・ダイアリー』のエレン・ペイジ。テンションの上がるスイッチがイマイチ分かりづらい、私のようなおっちゃんにとっては非常に扱いに困る女子役を、相変わらず見事に表現。彼女が出てくると、重たい画面が途端に弾みだす。
また、年を取ってもカッコ良くモテモテなのは、きっと裏で悪い事をしているからに違いないという、フランクにとってのリア充というか俗世間のイメージを一身に背負ったジョック役には、『パーフェクト・スナイパー』『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』のケヴィン・ベーコンが。この作品を手に取ったほとんどの理由がケヴィン・ベーコン見たさだったので、飄々っぷりに磨きの掛かった彼を見れて満足。こんな大人になりたい。まぁ、年齢的には私も充分大人なんですけど。
その他、相変わらず面長過ぎる顔立ちの割に下半身がドッシリしてきた『インクレディブル・ハルク』のリヴ・タイラーや、どっちかと言えば犯罪者顔である『ペイバック』のグレッグ・ヘンリー、『スリザー』『デイズ・オブ・サンダー』のマイケル・ルーカーらも出演。そう言えば、マイケル・ルーカー。スタローンやシュワなど肉体派を前に輝く役者なんですけど、なにやら合気道の名手だとか。ってことは、いつかセガールの前に立つって日も来るんですかねぇ。ワクワクしますねぇ。

強いて言えばどっちの方が悪いかってレベル
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最近こちらのブログを発見し、愛読させていただいております。
折しもショーン・ビーンに着目していたところだったので、こちらでいろいろとショーンについての興味深いコメントを読むことができるのも楽しみです。
『スーパー!』は私も観ましたが、確かに心理的にも肉体的にもエグい作品でしたね。ヒーローから痛快さを取っ払うと、ここまで堕ちるかってぐらい。
そんな一連のエグい活躍劇が実は主人公の妄想……というたおさんの考え方が個人的には斬新。また面白い観方が一つ増えました。
今後また何か感想を書き込むかもしれませんが、よろしくお願いします。
ショーンを愛でるブログが数ある中、よりによってサブタレなんぞに来られちゃいまして、なんというか…^^;
で、本作。暴力描写の生々しさの割に、物事があまりにも主人公にとって都合が良過ぎるなぁと思って観てたんですが、その現実味のチグハグさに「もしかして妄想かも!?」と勝手に考えてみまして。
まぁ、ホントこの考え方自体が妄想みたいなもんなんですけど^^;
それはさて置き、今後ともよろしくお願いいたしまーす!
そんな所にニヤッとしながら見るのが、また楽しかったり。
>飄々っぷりに磨きの掛かった彼を見れて満足
この憎らしいほどの・・・
そんなケヴィン・ベーコンとレイン・ウィルソンとの対比が、これまた楽しくて仕方なかったです。
共感しずらい主人公フランクに、私かなりのイキオイで共感、
感情移入してしまいました〜〜
なぜあんなベッビンの奥さんを娶れてしまったのかも
二人の出会いのエピソードなどからけっこう納得で。
しかし、すべてフランクの妄想という考え方も
なるほど有りうるなーと目からウロコです。
血が「ピュー」って出るんじゃなく、「ゴボッ」っと吹き出る生々しさ。でも、その原因を作ってるのが全身赤いヒーロースーツの中年男ってギャップがスゲェなぁと。
感情移入できないってよりは、認めたくない共通点があり過ぎて感情移入したくないってキャラでしたねぇ^^;
確かに今までにないタイプに惹かれるっていうか、極端に違う方向へとシフトする事はありますが、結婚まで行くとなると相当な事の様な気も。だから、妄想!w
悪党退治だけどここまでやったらどっちが悪いのか?ですよね^^;
思いの外グロかったし。
エレン・ペイジの壊れっぷりが好きです。
まぁ、どっちもどっちというか、どっちも悪党なんですよねぇ。世間がなんとなく善人ってしてるだけで。