2012年01月14日

アリス・クリードの失踪 (The Disappearance of Alice Creed)

監督 J・ブレイクソン 主演 ジェマ・アータートン
2009年 イギリス映画 101分 サスペンス 採点★★★

“犯罪映画”って、計画の緻密さや犯行の手際良さ、追手をかいくぐる機転の良さなど、それ自体がメインのテーマじゃなくても、犯行がしっかり描かれていると俄然リアリティが生まれて面白くなるんですよねぇ。まぁだからこそ、その逆もあるんですが。

doac2.jpg

【ストーリー】
富豪の娘アリス・クリードを誘拐した、ヴィックとダニー。周到に練り上げられた計画に則りアリスをアパートの一室に監禁し、あとは身代金の受取りをするのみであった。しかし、首謀者のヴィックが知らない秘密を、アリスとダニーが抱えていて…。

doac1.jpg

プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』のジェマ・アータートン、『明日へのチケット』のマーティン・コムストン、『シャーロック・ホームズ』のエディ・マーサンの三人のみで繰り広げられる、『ディセント2』の脚本を手掛けたJ・ブレイクソンの長編初監督作となる愛憎と欲が入り乱れる犯罪サスペンス。直接的なネタバレは避ける方向で前向きに善処するつもりですが、きっとバレると思いますからおおらかな気持ちでお読み頂ければと。
アリス・クリードの“誘拐”ではなく、“失踪”ってとこがちょいと捻られてた本作。完璧に思えた計画が、誘拐犯と被害者の間に“悪女”ってのが紛れ込んでたおかげで散々な羽目になる様を、大きく物語を二転三転させながらスリリングに描き切っている。三人以外はエキストラも登場しない限定しまくった状況も、“愛と嘘”を描く上で功を奏していたとも。様々な感情と思惑が交差する物語を、上手く文章でまとめ上げたなぁって印象。“映像”ではなく、“文章”で

doac3.jpg

この、“良く書けた脚本を丁寧に撮った”だけにも見える、この映画ならではの個性が見当たらないのが、本作の弱みかと。また、本作に仕込まれた仕掛けも、ビックリさせるのと物語を成立させるためでしかなく、整合性に乏しいのも難点。新人なら許されるが、ベテランだったら怒られるタイプのネタかと。
人間の愚かさに仄かなユーモアも感じさせる本作にはコーエン兄弟の影響も見え隠れするが、かと言って彼らほど人間を突き放す(若しくは見下す)わけでもなく、前後の印象を吹き飛ばすバランス度外視の強烈なショットがあるわけでもない。道を踏み外さないよう丁寧に慎重に撮った結果、灰汁を取り過ぎたスープのような風味のない作品に。意地悪な見方ではあるんですが、偏執的ですらあるほど緻密に誘拐準備を描いてた割に、最も難しい身代金受け渡しのシーンをスルーしてしまった様に、“犯罪を描くのがメインのテーマじゃない”から描かなかったのではなく、浮かばなかったから描けなかったようにも思えてくる。その辺を上手く誤魔化して逃げおおせたって感じ。
まぁ、体当たりの熱演の割には“被害者”の枠からはみ出れなかったジェマ・アータートンはさて置き、“ヤサ男/クズ男/淑女/悪女”をほんのちょっとのシフト変更で見事に表現しきったマーティン・コムストンと、愛に真っ直ぐな故に利用されてしまうエディ・マーサンの熱演が、本作を随分と締めてくれてたのかなぁと。

doac4.jpg
優位に立ってると思わせるのが悪女の技

↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓
blogram投票ボタン   人気ブログランキングへ

        

        

posted by たお at 10:07 | Comment(2) | TrackBack(16) | 前にも観たアレ■あ行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
灰汁を取りすぎたスープですか!!
なるほどねえ。
それはそれですっきりとして、余計なもんがなくて潔きよかったかなあとも。
マーティン君にすっかりやられたおばさん的にはとっても面白かったです。
でも次回作で真価が問われそうですね、この監督さん。
Posted by sakurai at 2012年01月26日 11:23
sakurai様、こんにちは!
作品がどーのこーのってよりは、最近の“新進気鋭”の作品が、あんまりにも無難にまとまってるなぁって感じが強くて。。。映画的に、イイ子ちゃんと言うか。
Posted by たお at 2012年01月29日 07:20
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

「アリス・クリードの失踪」
Excerpt: 登場人物、たぶん3人、お金を使わずアタマを使ったストーリーで見せる。
Weblog: 或る日の出来事
Tracked: 2012-01-21 15:48

アリス・クリードの失踪 #37
Excerpt: ’09年、イギリス 原題:The Disappearance of Alice Creed 監督・脚本:J・ブレイクソン ジェマ・アータートン  : アリス・クリード マーティン・コムスト..
Weblog: レザボアCATs
Tracked: 2012-01-21 16:19

アリス・クリードの失踪
Excerpt: 2011年6月30日(木) 19:30〜 ヒューマントラストシネマ有楽町2 料金:1000円(Club-C会員料金) パンフレット:未確認 『アリス・クリードの失踪』公式サイト 誘拐された女と誘拐..
Weblog: ダイターンクラッシュ!!
Tracked: 2012-01-21 20:20

アリス・クリードの失踪/The Disappearance of Alice Creed
Excerpt: 『ディセント2』の脚本家、J・ブレイクソンの初監督作品。ある日1人の若い女性が誘拐された…。犯人2人組と女性、三者三様の思惑が交錯し、物語は意外な結末を迎える。誘拐されるヒロインを『007/慰めの報酬..
Weblog: LOVE Cinemas 調布
Tracked: 2012-01-21 21:05

アリス・クリードの失踪
Excerpt: 《アリス・クリードの失踪》 2009年 イギリス映画 − 原題 − THE DI
Weblog: Diarydiary!
Tracked: 2012-01-21 21:45

アリス・クリードの失踪
Excerpt: ★ネタバレ注意★  イギリスのJ・ブレイクソン監督の長編デビュー作。登場人物は、ジェマ・アータートン、マーティン・コムストン、そしてエディ・マーサンの三人だけ、というギリギリまでにミニマムな..
Weblog: キノ2
Tracked: 2012-01-21 22:01

アリス・クリードの失踪
Excerpt: ★★★☆  二人の男がホームセンターで大工道具、壁紙、カーペットなどを買いこみ、べッドや壁を改造しているようなシーンから始まる。それはある女を拉致して監禁するための準備であった。  監禁された女は大金..
Weblog: ケントのたそがれ劇場
Tracked: 2012-01-21 22:17

『アリス・クリードの失踪』
Excerpt: '11.07.15 『アリス・クリードの失踪』@ヒューマントラストシネマ有楽町 これ気になってた。7月1日から実施された15%節電計画にともない、日替わりでフロア毎に17時退社を実施。残務処理担当の..
Weblog: ・*・ etoile ・*・
Tracked: 2012-01-21 22:19

「アリス・クリードの失踪」 愛と嘘と疑心暗鬼
Excerpt: いやいや、圧巻でした。 ミニマムな作りながらも、全編まったくたるむことなく、最後
Weblog: はらやんの映画徒然草
Tracked: 2012-01-21 23:13

「アリス・クリードの失踪」 体をはった ジェマ・アータートン
Excerpt: 登場人物は誘拐犯の男2人と人質にされた女1人だけ、 人質役を演じるのは ジェマ・アータートン 『 007 慰めの報酬 』のボンドガール、でも目立ったのはオルガ・キュリレンコ 『 タイタンの戦..
Weblog: カサキケイの映画大好き!
Tracked: 2012-01-22 01:20

アリス・クリードの失踪
Excerpt:  『アリス・クリードの失踪』をヒューマントラストシネマ渋谷で見ました。 (1)この映画は、巷での評判が大層いいので見に行ってきましたが、実際にも大変よくできた作品だなと思いました。  映画について..
Weblog: 映画的・絵画的・音楽的
Tracked: 2012-01-22 06:47

アリス・クリードの失踪・・・・・評価額1600円
Excerpt: 密室に監禁された一人の女と二人の誘拐犯。 綿密に練られたはずの完全犯罪の計画は、ある驚くべき告白によって脆くも崩れて行く。 果たして彼ら三人の運命や如何に? 監督は、「ディセント2」の脚本家で、..
Weblog: ノラネコの呑んで観るシネマ
Tracked: 2012-01-22 21:24

アリス・クリードの失踪
Excerpt: ヴィック(エディ・マーサン)とダニー(マーティン・コムストン)は、富豪の娘アリス・クリード(ジェマ・アータートン)を誘拐し、アパートの一室のベッドに、両手両足を縛り付け監禁する。 身代金200..
Weblog: 心のままに映画の風景
Tracked: 2012-01-22 22:55

アリス・クリードの失踪
Excerpt: J・ブレイクソン脚本・監督で 「タイタンの戦い」のジェマ・アタートンが体当たりで臨んだ 2009年製作のイギリス映画ですよねぇ クルマのハンドル右だったし 小粒だけど小粋な面白い映画でしたよ ジェマ..
Weblog: 538ねん。
Tracked: 2012-01-23 15:33

アリス・クリードの失踪
Excerpt: うーん、アタシの目は確かだった・・・かも。
Weblog: 迷宮映画館
Tracked: 2012-01-26 11:24

アリス・クリードの失踪
Excerpt: 誘拐される女と、誘拐犯の男2人。冒頭からテンポ良い画さばき、相当用意周到な計画のよう。出てくるのは3人のみ。だからこそ、ある意味でこの3人の関係性をうっすら〜と感じ取れるものではありました。 ..
Weblog: いやいやえん
Tracked: 2012-01-30 08:54