1998年 アメリカ映画 124分 ドラマ 採点★★★★
「習慣が変わると人生が変わるんだよ!」と、自己啓発セミナー帰りの人に熱弁されることがあるんですが、熱弁されればされるほど冷めてしまう私。物が何であれ押売りされるのがイヤってのも大きいんですが、なによりも「キミみたいになるのだけはイヤだ」ってのが一番の理由だったりも。

【ストーリー】
ひょんなことから50年代のTVホームドラマ“プレザントヴィル”の世界に入り込んでしまった、デイヴィッドとジェニファーの兄妹。暴力もセックスも存在しない、全てがモノクロの愉快な世界に戸惑う二人だったが、ジェニファーの奔放な行動によってその世界に“色”が付き始め…。

『ビッグ』の脚本でも知られるゲイリー・ロスによるファンタジー・ドラマ。
“古き良き時代”とされる50年代から、公民権運動や女性解放運動など大きな変化の波が訪れる激動の60年代といったアメリカが歩んできた変化の歴史を、アットホームなTVドラマの世界を舞台に再現した本作。古きものを残していく“ノスタルジー万歳”な展開をしそうに思えて、その実「変化には抗えない」とばかりにばんばんドラマの世界観を破壊していく荒々しい展開が印象的。
“本当の自分を見出した者”から色づき始めるというアイディアと、そのアイディアを視覚化した映像に目を奪われる本作。モノクロの世界に少しずつ色が混ざり込んでくる映像の美しさは、見事の一言。視覚だけではなく、不良の音楽であったジャズやロックが流れ始め、穏やかだったプレザントヴィルが俄然賑やかになっていく過程も面白い。
ただ、視点がリベラルに大きく傾いてしまっているのは、ちょいと気になった点。保守を“変化しなければならない”対象としてだけではなく、変化させない“是”の部分もニュートラルな立場で描けていれば、もう少し苦みと深みが生まれたのかなぁと。

TVドラマオタクのデイヴィッドに扮したのは、その私生活とは裏腹に童貞チックなナヨナヨ男子を演じさせればピカイチであるトビー・マグワイア。想いを寄せる女子に遥か遠くから声を掛ける、基本ピーター・パーカーと同じ役柄なのでドハマリ。
ただ、そんなトビー・マグワイア以上に輝きを放っていたのが、『幸せの始まりは』のリース・ウィザースプーン。性格がそのまま表れたかのようなしゃまっくれた顔で、モノクロの世界を力ずくで色付けするパワフルな役柄を好演。自分に正直な女子役が、ホントに似合う女優だなぁと。
また、『ボーン・アルティメイタム』のジョーン・アレンや、『カイロの紫のバラ』でも劇中の人だったジェフ・ダニエルズ、ご飯を貰えない夫の哀愁をその捨て犬の目で見事表現した『セルラー』のウィリアム・H・メイシーなども非常に印象に残る好演を見せる。
その他、名憎まれ役俳優として数々の作品で印象に残る名演を見せるも、本作の撮影終了後に帰らぬ人となってしまった『ア・フュー・グッドメン』のJ・T・ウィルシュや、『パーフェクト・ゲッタウェイ』のマーリー・シェルトン、モノクロだとその濃さが何故か際立つ『ワイルド・スピード』のポール・ウォーカーらも非常にイイ味を出していた一本で。

一度進んだら、もう戻らない
↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓

