2002年 アメリカ映画 119分 サスペンス 採点★★★
個人的な“後味悪い映画ランキング”において、圧倒的な強さを見せ後続を寄せ付けない『ザ・バニシング-消失-』。一見平和な家庭人である男が、「自分はどこまで悪人になれるのだろうか?」と好奇心を持ったことをきっかけにその思いに憑りつかれ、誘拐殺人というおぞましい犯罪を冷静に計画を立て、その計画を完遂し何知らぬ家族と共に満足げに犯行現場を訪れる男が新たな好奇心に駆られたかのような表情で家族を見つめる幕切れに、やりきれない思いと背筋の凍る恐怖を感じたもの。この映画は、“お前の物は俺の物”ハリウッドで『失踪』としてリメイクされたのだが、同じ監督を招きながらも“ハッピーエンドじゃなきゃ誰が観たがる?”と信じて止まない典型的ハリウッドプロデューサーによって180度違う結末を持つ映画として完成する。無論これが“ハリウッドのプロデューサーはバカだ”という証明にはならない。それどころか、私なんかより遥かに頭がいいはずだ。しかし、“ハッピーエンドじゃない映画なんて貧乏人なんかには理解できるはずがない”という高い所から物を言っているかのごとき尊大な態度が垣間見えるのは事実である。
【ストーリー】
白夜のアラスカで発生した女子高生殺人事件の捜査に、ロサンゼルスから敏腕刑事が呼ばれる。評判通りの活躍で犯人をおびき寄せることに成功するが、そこで発生した銃撃戦で誤って同僚を射殺してしまう。自分の身を守る為この事故を犯人の仕業に仕立て上げる刑事だったが、ある日犯人から電話が入る。「お前がやった事を見たぞ…」。
完全無欠のヒーローとして颯爽と現れた主人公が、ちょっと魔が差してしまったが為に泥沼に落ち込み、重い枷を引きずったまま遣る瀬無い幕切れを迎えたノルウェー映画『不眠症』のハリウッド版リメイク。監督は、リアルを目指した結果妙にこじんまりとしてしまった『バットマン ビギンズ』や、「もうちょっとマシな記憶方法がなんぼでもあるだろうに」というツッコミを寄付けないトリッキーな展開で観客をびっくらかした『メメント』のクリストファー・ノーラン。どうせ「言ったなぁ、コイツぅ。待てまて〜!」的強引なハッピーエンドだろうという勝手な決めつけで観ていなかった食わず嫌い作品だったのだが、意外にこれが面白い。オリジナルを忠実に再現しながらも、物足りなかった部分を上手に補ったリメイクの成功例である。
そもそもタイトルになっている割に必然性もひっ迫感も少なかったオリジナルにおける不眠症を、良心の呵責によって眠れなくなった主人公を演じるパチーノのやり過ぎギリギリの熱演と、遠近感と焦点のなかなか合わない不眠症視点での映像でカバー。また、物語のキモでもある同僚の誤射もみ消しも、オリジナルの主人公には叩けば出るホコリも少ないので「ごめんなさい」って謝っておけば後でしこたま怒られるくらいで済みそうな“魔が差した”感はたっぷりだがこれまた必然性に乏しかったのに対し、今回は内務調査官によってマークされた主人公が彼に不利な証言をすることを決めた相棒を誤射してしまうという正直に言っても圧倒的不利な立場に立たされてしまうという必然性と、その事前状況から本当に事故であったのか観客を惑わす二重のサスペンス構造に仕上がっている。これによって、劇中たびたび挿入される血のイメージが意味することを主人公が告白するラストにカタルシスを感じることとなる。
圧倒的なスケールで映し出されるアラスカの氷原や、小気味のいいテンポで繰り出される会話の妙など非常にハリウッド的表情を持ちながら、エンディングを含め異質感たっぷりの非ハリウッド的展開をするこの作品。なるほど、さすが“作家主導の映画作りを目指す”名目で設立されたジョージ・クルーニーとスティーヴン・ソダーバーグ率いるセクション・エイトだ。「『オーシャンズ』シリーズはどうなんだ?」というご意見もあるでしょうが、あれは仲間内の慰安旅行ですから。されど、ハッピーエンドを避けつつも最も安全な着陸点に軟着陸してしまうエンディングと、最後まで汚れきれない主人公には失望感も感じてしまう一面もある。
若作りか役作りか額が異様に狭かったアル・パチーノだが、不眠症の設定だけあっていつものギャーギャー振りは封印。颯爽と登場する前半のいかにも作られた英雄像が崩れゆく過程の表現力には、目を見張る。6日寝ていなくてもギラギラしているのは、さすがだが。出来ればオリジナル通り女に見境なく、しかもモテない役で挑戦して頂きたかったが。
老人の後を追い掛け回している役ばかりの印象が強いヒラリー・スワンクはさて置いて、デコレーションケーキの上に練乳をたっぷりかけた様な甘ったるい映画で甘ったるい役ばかりを演じてきたロビン・ウィリアムズだが、さすがにそんな映画ばかりなのに本人も観客もウンザリしてきたのか、本作では悪役に挑戦。自分の半分以上も歳が離れた女子高生と住む世界が違うことを判別できないが故に殺害してしまい、その殺人経験によって精神と人間性のバランスが崩れてしまった男をまるで頭からスライムを被ったかの様にヌルヌルと演じる。別に普段の笑顔が清々しいわけではないのだが、目が笑わない表面だけの笑顔が気持ち悪い。ロビン・ウィリアムズが気持ち悪い。二度繰り返すまででもないですが。
なんだかんだで無難な映画
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