2011年08月08日

プリズン211 (Celda 211)

監督 ダニエル・モンソン 主演 アルベルト・アンマン
2009年 スペイン/フランス映画 110分 サスペンス 採点★★★★

まだ免許を取り立てだった頃、友人を連れ立って「初日の出を見に行くべや!」と港へ車を走らせた私。しかしながら、慣れない運転かつ行動力のある方向音痴が二人揃ったこの車。当然の如く目的地に辿り着けない。そうこうしている内に車の集団がある方向に進んでるのを見た私たちは、「きっとこっちに港があるに違いない」とその集団の後を走ったんですが、よく見るその集団は私の身長ほどあるマフラーを斜め上に付き上げた暴走族集団で。明らかに異物な私たちはあれよあれよと囲まれて、血気盛んなお兄ちゃん方にギャースカ喚かれる羽目になったんですが、このマズイ状況に友人は咄嗟に助手席の窓を開け、そこから身を乗り出し腕を振り回しながら楽しげに歓声を上げ始め、それを見た彼らは、呆れたのか関わっちゃマズイと思ったのか、その包囲を解いてくれることに。いやぁ、機転って大事ですねぇ。

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【ストーリー】
赴任日を前に、職場となる刑務所に見学にやって来た新人看守のフアン。ところが、突如発生した囚人の暴動に巻き込まれ、刑務所内に取り残されてしまう。咄嗟に機転を利かせ囚人に成りすましたフアンは暴動の中心人物マラマドレに気に入られ、彼と行動を共にしながら脱出の機会を伺うこととなる。そんな折、ニュースで暴動を知ったフアンの身重の妻エレーナは刑務所に駆けつけるが、刑務所の外でも発生した暴動に巻き込まれ…。

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ゴヤ賞を総なめしたという冠も伊達じゃない、ずば抜けた面白さを誇る監獄サスペンス。いささか頭の悪い感想でアレだが、「ヤッベ、面白え!」と唸ってしまった一本。
囚人が私服であるからこそ成立する、看守である身分がばれてしまったら命が無い“ばれたらまずいサスペンス”を軸に、刑務所物として鉄板の熱い友情物語や、囚人と当局の駆け引きが堪能できる交渉サスペンス、スペインが抱える“バスク祖国と自由”の問題などが巧みに織り込まれ、片時も目が離せない作品に仕上がっている。囚人が交渉の盾としているのが看守や一般人ではなく、既に収監されているテロリストであるというのも新鮮。
また、主人公の正体に関するネタ一本で引っ張るのではなく、状況の変化に応じてそのネタも二転三転し、全く先が読めない展開に仕上がっているのも見事。

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囚人に成りすましたフアンの行動はあくまで身を守るための行動であり、囚人が置かれた劣悪な環境を目にして心を動かされる様子は、直接的には描かれていない。身分を偽り脱出の機会を伺い、後に見舞われる悲劇の後は、己の感情のみに突き動かされているだけである。しかしながら、観ている観客の心は明らかに揺り動かされる。殺人犯など凶悪犯ばかりが集まったその集団の環境改善を訴える主張に、何ら間違いはないと。
その一方で、正義の側に立っているはずの体制側の姿は、その本来の姿からはかけ離れた形に。暴力志向は囚人のみならず一般人へも及び、被害者である主人公が厄介な存在になると抹殺を図ろうとする、非常に醜悪なものとして描かれている。その辺は、長い独裁政権を経た故の体制不信が現れたのであろうか。

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ノーパン”という、恥ずかし過ぎるだけではなく、刑務所内で呼ばれるには半端ない緊迫感を生み出すあだ名を付けられてしまったフアンに扮しているのは、本作が劇映画初出演となるアルベルト・アンマン。普段の虫も殺せそうにない優男ぶりから一転し人殺しの顔になる様も、憔悴しきった様もなかなか見ものの男前で。
一方、暴動の中心人物で刑務所内のボス的存在であるマラマドレに扮したのは、『マイアミ・バイス』のルイス・トサル。角度によってはスキンヘッドにしたコリン・ファレルにも見える、その強烈な顔立ちと独特なだみ声で、学は無いが情には厚く、情は厚いが気に入らなければあっさり殺す、カリスマ性に富んだ囚人役を好演。この役者が中心に居たからこそ生まれえた緊迫感なのでは。ラスト、看守側のスパイでもある囚人が「ヤッベ!」って顔をしてしまうのも納得の存在感。
その他、「コイツら、本物の囚人じゃないのか?」と思えるほどパンチの効いた顔ぶれがそこかしこに出演しているのも見所かと。
それにしても、劇場公開はおろかDVDですらレンタル店の片隅にひっそりと置かれる冷遇を受けた本作。今年観た作品の中では間違いなく上位に入る面白さなのに、なんとももったいない扱いだなぁと。

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そのあだ名を受け入れてしまった時点で、もう上下関係は揺るぎないものに

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posted by たお at 05:01 | Comment(0) | TrackBack(2) | 前にも観たアレ■は行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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