2001年 フランス/アメリカ映画 98分 アクション 採点★★★★
人の好みの方向性は、13〜4歳で決定付けられるらしい。どおりで中学校の頃聴いていた音楽や、夢中になって観ていたタイプの映画に身体が抵抗できないわけだ。コールドプレイを聴いていても、中にニューオーダーやボウイの匂いを嗅ぎつけたり、ナイン・インチ・ネイルズにトーマス・ドルビーのフレーズを見つけ出したりするのも納得。
で、私はベッソン映画が好きである。と言っても、別に『グラン・ブルー』や『サブウェイ』が好きなわけじゃない。『レオン』は好きだが、別段一生を左右するような映画でもない。ベッソンが今ある地位も名声も考えず一心不乱にラクガキ帳に書きなぐったかのような話、ベッソンが妄想を爆発させた一番幸せな時間に考えたような話が好きなのである。退屈極まりない授業中に、教科書に載った偉人の顔にセリフやヒゲを描いていた自分の精神年齢と一致した、幼稚な話の数々が好きなのだ。『グラン・ブルー』のベッソンとは上手くいきそうもないが、『トランスポーター』のベッソンとは、殴り合った後でも夕陽を見ながら肩を組んでいそうな気さえする。
麻薬密売人のソングを追って中国からパリへやって来た捜査官リュウは、麻薬密売の独占を狙う地元パリ警察のリチャード警部の罠にはまり、ソング殺しの犯人に仕立て上げられてしまう。逃亡するリュウは娼婦ジェシカと出会うが、彼女もまたリチャードに娘を人質に取られ、汚い仕事をさせられていたのであった。
意気込んでハリウッドに渡ったはいいが、“よく動く中国人”な扱いしか受けられない現状に腹が立ったのか、自らの原案を持ってベッソンと共に作り上げた一本。まだまだ『レオン』の威光が残っていた時期でもあったため、古参のベッソンファンには唾棄された作品ではあるが、どうしてどうして、非中国圏映画の中では最も良く出来たリンチェイ作品となっている。
自分が観たい映画は自分で作るベッソン。多くのリンチェイファン同様、『ロミオ・マスト・ダイ』を腹立たしく観ていたに違いない。「ハリウッドめ!リンチェイにこんなことをやらせやがって!!」と。『小さな恋のメロディ』を観させられているかのような恋愛描写にも、もちろんご立腹だったはず。「オレが大人の恋愛を描いてやる」と、作り上げた相手役の設定は、中学生男子にとって最も“大人の女”の彼方にいる娼婦。もちろん、“不幸な生い立ちが原因でイヤイヤやらされている”という夢を壊さない設定も忘れない。“大人の恋愛”と言うには、唇も重ねず娼婦を前に常時あわあわしているリンチェイに童貞臭さを感じるのも、中学生の想像力の限界を感じて非常にベッソンらしい。その娼婦役には、ベッソンの『ニキータ』をリメイクした『アサシン』でなんとなく株を落としたブリジット・フォンダ。ベッソン再生工場が始動する。
ベッソン映画といえば、“首輪付きの殺し屋”や“セクシー下着の殺し屋看護婦”など一手間も二手間も加えた余計な仕事が魅力なのだが、本作も例に洩れずカンフーの達人捜査官という基本ラインに、針灸の達人というベッソニズム溢れた設定。ストーリーラインも、“凄腕捜査官が罠にはめられ大暴れしている内になんだかんだでハッピーエンド”とシンプルかつマンガ的なのも、リンチェイの魅力を削がない為に敢えてそうした、と好意的に解釈。そのシンプルな物語上に、飽きのこない程度の長さでまとめられたアクションシーンを点在させ、非常にバランスとテンポの良い作品に仕上がっている。
これが長編デビューとなるクリス・ナオンは、隅々の演出というよりは、アクションシーンと非アクションシーンとの全体バランスを整える作業に従事していたと考えられる。で、本作の多くの部分を占めるアクションシーンを監督するのが、リンチェイとの仕事も多いコリー・ユン。演技者の技だけではなく、小道具を巧みに使うことによって非常に見応えのあるアクションを作り上げている。格闘スタイルも“捜査官”という設定を考えてか、より攻撃性を高めたジークンドースタイルを採用。アップライトに構えるリンチェイは新鮮。本作での撮影スタイルの成功もあってか、“調整役兼全体監督”と“アクション監督だが実質は監督”という二段構えでの撮影方法を『トランスポーター』シリーズでも採用することとなったのであろう。
元々“幸薄顔”が好みの私にとって、『ルームメイト』にショートカットでブリジット・フォンダ登場して以来、数少ない好きなタイプの外国人女性の代表に。『ジャッキー・ブラウン』でのグダグダっぷりがもの凄く魅力的だったのだが、本作でもかなりグダグダ。さすがベッソン。よくわかってる。そして、その彼女との身長差が、そのまま年齢差にもなりそうなリンチェイの仔犬っぷりも堪らない。知らない街で途方に暮れるリンチェイは、まるで初めてのお使いで迷子になった子供かのようだ。あれで当時38歳。同じアジア人から見てもあの若さ。欧米人にはどう映るのか?
リンチェイファンなら萌え死に確実な“捨て犬”っぷりと、タイトルの由来となっている秘孔の秘密が明らかになる色んな意味で驚愕のラストと併せて、ベッソニストの私は文句なしの★4つ進呈。
あべし
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コメント&TBありがとうございました。
TB返しさせて頂きます。
仰るように「非中国圏映画の中では最も良く出来たリンチェイ作品」ですね(*^-^)
ビリヤード場でのアクションは、劇場で観ながら大興奮したのを覚えていますw
>知らない街で途方に暮れるリンチェイは、まるで初めてのお使いで迷子になった子供かのようだ
普段余り映画で東洋人を見る事が無い哀生龍なので、久々に体の切れる東洋人を見たという感慨に浸りました(笑)
でも、カッコイイだけじゃなくて、幼い雰囲気が確かにありましたね!
その中では、まぁまぁ楽しかったという印象しかなかったんですが、今思い出すと、確かに娼婦を前に童貞っぽいリンチェイだったし、初めてのお使いで迷子になった子供っぽかった(笑)
警察の柔道場で大暴れするのってコレでしたよね?違っ?
こうやってたおさんのレビューを読んでいると「非中国圏映画の中では最も良く出来たリンチェイ作品」だったなぁとアクションシーンなんかも含めて頷けます。
この手の娯楽映画は、実際ベッソンが欧米の映画人で一番上手いのかなと考えちゃいました。
きっと自身が好きなんでしょうねw
この幼さは、りんちぇいのものというより、ベッソンノ幼稚さなのかも^^;
何の訓練をしていたのか全く分からない道場で大暴れするのは、コレですよw
壁に“火の用心”って書いてありました。
捨て犬のようにオロオロする登場人物を描かせたら、ベッソンはピカイチだなぁと再確認しましたw