2010年 香港映画 109分 アクション 採点★★★
創作の世界であれ現実の世界であれ、敵を外に設定し、皆でやんやと騒ぎたてる時期ってありますよねぇ。たぶん、大変な時期を一丸となって乗り越えようって意図や、ちょっと張り合える余裕が生まれたって意味があるんだろうなぁと。それか、内情から目を逸らさせたいか。

【ストーリー】
1950年。佛山を離れ、香港に移り住んだ葉問。生活の為に詠春拳の武館を開こうとするが、香港武館界のしきたりである上納金を支払うことを拒んだため、様々な嫌がらせを受けてしまう。そんな折、香港武館界の重鎮で、葉問もその実力を認める洪拳師範のホンが、中国武術を侮辱した英国人ボクサーとの試合に挑み、殴り殺されてしまう。更なる挑戦者を募るボクサーに対し、中国武術の誇りをかけ葉問が立ち上がるのだが…。

ブルース・リーが教えを受けたことでも知られる葉問の波乱万丈人生を描いた、“イップ・マンシリーズ”第二弾。監督は前作『イップ・マン 序章』に引き続き、『SPL/狼よ静かに死ね』『香港ゾンビ』のウィルソン・イップ。
舞台を英国統治下の香港に移し、前作以上に盛り沢山のイベントを描きつつ人格者としての葉問の姿を描く本作。若干盛り沢山過ぎて、ホンとの間に生まれる信頼関係や前作の登場人物のその後の物語がバタバタとしてしまっている感は否めないし、物語の基本構造が前作と変わっていない気もしないでもないが、生活描写や人物描写が増えた分、葉問の人柄がより深く伝わる作品となっている。もちろん、対決路線が強調されたアクション部分も素晴らしい出来栄えで、普段は物静かな葉問が、表情こそ然程変わらないが攻撃内容は結構エグイ、鬼気迫る凄味を感じさせるものとなっている。
完成度とは別の問題で日本未公開となってしまった前作であったが、今回は無事劇場でも公開された本作。ただまぁ、日本軍に蹂躙される中国を描いた前作から、西洋に蹂躙される中国に変わっただけで、根っこの部分は何も変わらず。史実ベースではあるが、敵を外に設定し内なる問題を全く描かない(および描けない)姿勢は、やはり好みではない。このパターンの作品は昔っからあったんですが、どうにも“返還後”ってのが気になっちゃう感じで。

“謙虚であれ”ってモットーがそのまんま人格を持って歩き出したかのような穏やかな顔立ちから一変、戦いの場では敵の動きを止める事を目的とした効率的かつエグさ抜群の腕前を披露する葉問に扮するのは、もちろん前作に引き続いて『かちこみ! ドラゴン・タイガー・ゲート』のドニー・イェン。育ちと人柄の良さが表れた微笑みと人の良さに満ちてはいるものの、若干大雑把な金銭感覚と生活力の無さに旦那にするにはアレな人物である葉問を好演。電光石火をそのまんま体現できるドニーさんだけに、伝説的な武術家としての役回りに、一切の違和感なし。
また、今回はアクション監督のみならず、敵役ながらも武術の達人同士ならではの心の通じ合わせ方を見せる洪拳の師範ホンとして、香港アクション界の重鎮サモ・ハン・キンポーが出演。顔がみるみる腫れ上がっていくであろうこの二人の戦いをメインで観たかったのが正直なところだが、少ない場面ながらも何人たりとも近づけない恐ろしいまでにレベルの高い戦いを見せてくれるので満足。
その他、若干置いてけぼりになっていた『PTU』のサイモン・ヤムや、急に気の良いおいさんになってた『コネクテッド』のルイス・ファンらも前作に引き続いて出演しているが、やはり一番強烈な印象を残していたのは、オチとして登場する李小龍に扮した子供。あの面構えといい、生意気そうな雰囲気といい、非常にイイ顔だなぁと。
そう言えば、クライマックスで描かれる、『沈黙の復讐』にも出てたダーレン・シャラヴィ扮するボクシングのチャンピオンと葉問との異種格闘技戦。不利を感じたボクサー側が試合中に葉問の蹴りを禁じる流れが、物語上卑怯な行為として描かれてるんですけど、試合中ってのがアレだとしてもルールとしては全く卑怯じゃないよなぁと。グローブを付けたパンチのみのボクサーに対し、蹴りを禁じられた葉問が可能な攻撃方法は、素手での打撃に肘打ち、投げ技、寝技、関節技、掴み技、背後からの攻撃、ダウン状態での攻撃およびダウンしている相手への打撃と、もうほとんどなんでもあり。多少ウェイトの差があったとしても、圧倒的に不利な状況で戦ってるのはボクサーの方なのでは。アウェイ戦ですし。しかも、当初は線香が燃え尽きるまで連続で戦ってやるとまで言い放ってる。ラウンド制すら否定。アッパレだなぁ、ボクサー。

“謙虚であれ”って言葉が届いてくれてればいいんですけど
↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓

