クラッシュ (Crash)

監督　ポール・ハギス　主演　ドン・チードル
2004年　アメリカ映画　112分　ドラマ　採点★★★

「差別は恐怖からくる」とマリリン・マンソンが言っていた。その恐怖は、無理解から来るもの。理解出来なければ出来ないほど恐怖を感じ、差別し排斥することで身の安全を図ろうとする。1対1だった対立関係も、それぞれが安全圏を持ちグループ化することで、より一層大きな対立が起きてしまう。もちろんこれは、多民族国家だけの問題ではない。

【ストーリー】
黒人刑事とその同僚であるヒスパニック系の女性刑事。白人に対し怒りを感じている黒人青年二人組。テロ事件以降不当な扱いを受けるペルシャ人一家。差別主義の白人警官と彼に疑念を感じる同僚。次期選挙に向け黒人層の票を得たい検事とその妻。裕福な黒人ＴＶディレクターとその妻。家族思いのヒスパニック系鍵屋。彼らは思いもよらぬ形で交わり、そしてそれぞれの人生を大きく変えていく。



『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本で一躍売れっ子となったポール・ハギスの監督作。多民族国家アメリカが抱える“人種問題”と“銃問題”を、加害者でもあり被害者でもある人々を交えることでより一層明確に描く。
この映画で提示される問題は、劇中ではなんら解決しない。差別主義者の代表格として描かれるマット・ディロン扮する警官も、攻撃的で白い頭巾をかぶるようなタイプではない。身の回りの不満に対する怒りが他者へと向けられる、それこそどこにでもいる潜在的差別主義者でしかない。身を挺して黒人女性を救うのも、改心などではない。目の前で困っていたのがたまたま黒人女性であっただけだ。気のいい隣人の心の闇を見事に描いている。また、そのマット・ディロンに屈辱的な仕打ちを喰らう黒人ＴＶディレクターだが、彼が喰らう最も屈辱的な行為は、ここではない。警官から受ける仕打ちは、あくまで肌の色の違いだけで受けてしまう現状を映し出したに過ぎない。最も屈辱的な仕打ちは、彼の誇りも実績もある職場で、白人のイメージする黒人像を押し付けられる瞬間だ。黒人であるアイデンティティーを、全て否定されているようなものだ。そして、彼らの怒りや恐怖が銃に手を伸ばさせる描写は素晴らしいと言える。



人物描写もそれぞれが持つドラマも見事なのだが、どうにも締りが悪い。まるで3時間の映画を圧縮したかのような、過剰なまでに重厚な演出と密度で描かれる割に、非常に宙ぶらりんな印象も受ける。大きく乱れることのないテンポで描かれた『ミリオンダラー・ベイビー』持っていた“余韻”とは違い、盛り上がりの途中で切られた“寸止め”感が強い。異常に高い緊迫感で引っ張り何も起こさせない、“寸止め”演出を三度も繰り返され腹が立ったのも、その印象を強く持たせた要因だろうか。
『リディック』や『Ｍ：Ｉ−２』で目をそらさせ続けたタンディ・ニュートンや、クレジット順がトップの割に印象の全く薄いサンドラ・ブロック、今回は控えめなブレンダン・フレイザーは別にしても、『アウト・オブ・サイト』以来出てくるだけで何となく怖いドン・チードルを始め素晴らしい俳優も多く、青を基調とした夜間の映像も美しい。また、デヴィッド・シルヴィアンのアルバムへの参加でも知られるマーク・アイシャムのジャズをベースにしたアンビエントの味わい深いサントラも見事。良い部分も非常に多いだけ、物足りないかつ腹立たしい部分がより一層目立ってしまった結果に。


マット・ディロンでさえ目を…

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Comments

どうも。TBサンクスです。

ん、すっきりしない部分がある映画っていうのは結構同感です。見たあとはなんかいい映画も見た感じがしましたが、色んなエピソードが詰め込まれていて、しかも個人的には１本何か筋が通っているとも思えなくて、段々印象が薄らいでいく映画でもあるなーといまは思いますねぇ。

といっても、見てよかった映画でした。
んじゃまた〜。

Posted by goma at 2006年07月16日 13:11

な〜んか、漠然とした、コメントの書きにくいフィルムでした。この噛み切れなさは、意図したものなのでしょうが。
しかし、「寸止め」でなければ、とても分かり易く成りすぎてしまうような気がしますね〜。

Posted by sheknows at 2006年07月16日 17:59

　ＴＢありがとうございました。僕は今のところ今年のベスト１なんですがたおさんにはイマイチでしたか。確かに問題に明確な答えを出している映画ではないとは思いますが監督の「なんとかなるよ」なメッセージが伝わってくる楽観的なラストシーンを含め大好きな映画です。ＴＢさせてもらいますね。

Posted by nappa at 2006年07月16日 20:11

こんばんは、TBありがとうございました！
うーむ、僕はこの作品結構好きです。
衝突しながらもつながりを求める人間の性、というテーマは十分日本人にも説得力があったように思いました。

Posted by Ken at 2006年07月16日 22:06

goma様、こんばんは！
問題の投げかけ方だと思うんですが、どうもこう・・・＾＾；
演出の好みもあって、この評価です。

Posted by たお at 2006年07月17日 00:35

sheknows様ようこそ♪
“解決しない”ってのは全く問題じゃないんです。提起する意味でも、脚本は非常によくできてます。
しかし、仰々しいまでに重厚な演出とのバランスが合ってないのではと。まるで全編がクライマックスかのような緊迫感溢れる演出に緩急があまり見られないのも不満でした。
そこに“寸止め”感が。
「死ぬかもよー。大変だよー」という展開を、サスペンスフルに描くのはいいんですが、結局引っ張っていた方向とはまるで別の結果を三度も連続でやられると・・・。

Posted by たお at 2006年07月17日 00:40

nappa様こんばんは！
sheknows様へのコメントと重複しちゃいますが、意図は間違ってないんです。『ミュンヘン』や『ミリオンダラー・ベイビー』にあった問題提起と、それに見合った演出が私は大好きだったんですが、人種問題・銃問題・人との距離といったものを含んだ群像劇にするには、演出のテンションが高すぎると感じました。

Posted by たお at 2006年07月17日 00:44

Ken様こんばんは！
大概は「長すぎる！｝と文句を言う私ですが、コレに関しては短すぎで。もの凄く物足りないのです。。。

Posted by たお at 2006年07月17日 00:47

TB有難う御座いました♪
どーも登場人物の殆どが嫌いなタイプだったせーか、かなりイライラしながら観てました(^^ゞ
作品自体の見応えはあったと思うんですけどね^^;

ではでは〜、これからもよろしくお願いします♪

Posted by Aki. at 2006年07月17日 05:24

Aki.様ようこそ♪
＞登場人物の殆どが嫌いなタイプ
そりゃぁ辛いですねぇｗ
ま、私もサンドラ・ブロックにはかなり・・・＾＾；

Posted by たお at 2006年07月17日 11:14

こんにちは！早速のＴＢお返し有難うございました。この「クラッシュ」は劇場へ観に行かなかったので、レンタルに成ると同時に直ぐに借りてきました。登場人物の多いのもさることながら、ＬＡでの人種問題・銃の問題などぎっしりと詰まった作品内容。たおさんの記事の”盛り上がりの途中で切られた寸止め感”そのとうりですね！。

Posted by パピのママ at 2006年07月17日 11:28

こんばんは〜。TBありがとうございます。
これ、レンタル先行なんですよね。
予約してるDVD、早く来ないかな〜。(7/28発売）

上映館が少なかったので、DVDでたくさんの人に見て欲しいな。
考えさせられるけど、暗いだけじゃなく　救いがあって
愛があるのがよかったです。
テレンス・ハワード、好きです。
哀しげな目がイイでしょ？

Posted by kino at 2006年07月17日 21:41

kino様こんばんは！
多くの人が観て、より多くの意見が行き交うべきな作品ですね。
テレンス・ハワードは、『フォー・ブラザース』と『レイ』での印象が強いですね＾＾

Posted by たお at 2006年07月19日 02:06

パピのママ様こんばんは！
あくまで好みの問題なんですが、深く考えさせられる余韻を求めるなら、もう少ししっとりとした演出が好きなもので＾＾；

Posted by たお at 2006年07月19日 02:08

たおさん、ＴＢ、感謝ですよん♪

>身を挺して黒人女性を救うのも、改心などではない。目の前で困っていたのがたまたま黒人女性であっただけだ。

うん、そうそう！ 別段誉めるような事じゃないでわ、あれは。

>黒人であるアイデンティティーを、全て否定されているようなものだ。

もしあそこでディレクターが、
｢そうでんなぁぁ、いっそポリポリとケツでま掻かせまひょか？｣
言ってたら、それはそれでエライ奴なんだけどね(笑)。

>人物描写もそれぞれが持つドラマも見事なのだが、どうにも締りが悪い。まるで3時間の映画を圧縮したかのような、過剰なまでに重厚な演出と密度で描かれる割に、非常に宙ぶらりんな印象も受ける。

｢一応最後は綺麗にまとめて見ましたよ(微笑)｣的な括り方が気に入らなかったです。
トリアーなら手酷いラストになったのになぁぁ。

ところで最後の、
>マット・ディロンでさえ目を…
の意味が良く解らず、すんごく気になってるのですが…。

Posted by カゴメ at 2006年08月05日 15:01

カゴメ様こんばんは！
とりあえずまとめました、って感じがねぇ・・・。
タンディ・ニュートンは、『Ｍ：Ｉ2』『リディック』で非常に目障りで、とても目を合せてられないってことでそのように。

Posted by たお at 2006年08月05日 23:01

おお！たおさん、今回真面目なんですね☆
カッコイイー！なんか、男前ですやん！
って、今頃言うとるやん、すいません・・・焦っ

自分としては、ここまでの悲劇が起こらないと、目が覚めない懲りない人達に、各にとことん悪夢的な事件を与えたのは、「ちょうどいい」なんて、超強引に納得してしまいました☆テヘヘ・・・

Posted by とらねこ at 2006年11月18日 12:28

とらねこ様こんばんは〜♪
実は真面目な記事も多いサブタレ。
大体３割くらいですが。
まぁ、バッターならかなりの高打率ってことでｗ
男前なのは昔っからなのでｗ
あ、ごめんなさい。。。
物語自体は良く出来ているんですが、なんともまぁ。。。
最近『父親たちの星条旗』を観て思ったんですが、案外ポール・ハギスの脚本って、好みじゃないかも。

Posted by たお at 2006年11月19日 00:47

ＴＢ＆コメントさせてもらいますね〜

>出てくるだけで何となく怖いドン・チードル

私は、彼を見た瞬間に何かの犯人だと思ってました（爆
これは一種の人種差別でしょうか？（−−；

　まぁそれは置いておいて、さすがアカデミー作品賞を取る映画ですね。
内容もしっかりしてましたし、複線も面白い形で結末を向かえました。
結構満足できました〜♪

Posted by oguogu at 2007年03月31日 15:31