2011年06月06日

ゴーン・ベイビー・ゴーン (Gone Baby Gone)

監督 ベン・アフレック 主演 ケイシー・アフレック
2007年 アメリカ映画 114分 サスペンス 採点★★★★

“善悪”の基準って、その人の育った環境や考え方が大きく影響されるんで、良かれと思ってしたことも相手にとって良い事とは限らないんですよねぇ。その逆も然り。とっても分かりやすい“殺しは悪”って基準も、「じゃぁ、タイムマシンで大戦前のドイツに行ってヒトラーを殺したら、それも“悪”なの?」と問われれば、一概に「うん!」とは言い切れませんし。結局、その人その人の基準で納得をするしかないのかなぁと。まぁ、だから法律や宗教があるんでしょうけど、「決まってる事なんだから」と納得し切れない歯がゆさがなんとも。

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【ストーリー】
4歳の少女アマンダが誘拐される事件が発生し、ボストンの街を騒然とさせる。そんな折、街の裏側にも精通する私立探偵のパトリックとアンジーのもとに、アマンダの伯父夫婦が捜索依頼にやって来る。事件の担当刑事らと共にアマンダの行方を追うパトリックらは、遂にアマンダを誘拐したと思われる人物を見つけ出すのだが…。

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『ミスティック・リバー』『シャッター アイランド』のデニス・ルヘインの原作を、『ハリウッドランド』のベン・アフレックが“初監督とは思えぬ”って言葉すら陳腐に思えるほど巧みな構成と腰の据わった演出で描き切った社会派サスペンスドラマ。考えさせられる事は山ほどあった作品であるが、もし未見の方が居られれば素直にお勧めしたい一本でもあるので、内容には極力触れない方向で行こうかと。
善悪の基準そのものに大きな問題を投げかける本作。裏社会と密接な関係を持っているだけに、“善なる自分”と犯罪者を隔てる心の拠所を宗教的概念や法に求める私立探偵と、その法の無力さを日々痛感している警察。共に“最善”を求めながらも、基準もアプローチ方法も全く違う双方が皮肉にも最悪を迎えてしまう様を、その人物像のみならず、スーツ姿に短パンでカメラの前に立つ姿が象徴する事件の上っ面しか伝えないメディアや、深刻な児童虐待など社会が孕む問題を含め丹念に描き切った見事な一本。彼らが一人の子供の幸せを追求する行動は決して間違ってはいないが、正しくもない。“立ち位置の違い”なんて単純な答えを拒むかの如く、彼らの行動に絶対的自己犠牲の善ではなく、少なからずエゴが入り込んでいる様もしっかりと描かれており、それによって、現実には完全なる善が登場して事件を解決なんてしてくれないことを痛感させられた『ミスティック・リバー』にも似た無常さと、広がり続ける波紋を心に残す作品に仕上がっている。もうただ一言、「見事!」
映画や音楽が表現方法であると同時にビジネスである以上、儲けに走ってしまうのは致し方がない事なのだが、表現そっちのけで売上にばかり集中しちゃっている感が非常に強い今日この頃。そんな気の滅入る状況の中、本作のメイキングでベン・アフレックが語る「言葉で簡潔に伝えられるのなら、映画なんていらない」って言葉には、映画を思いを伝える手段として真剣に取り組んでいる人材がまだ残っているんだなぁと、とっても安堵させられましたねぇ。

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私立探偵のパトリックに扮するのは、ベン・アフレックの弟である『オーシャンズ13』のケイシー・アフレック。神経質そうな線の細さを持つ彼は、背景に溶け込んでしまいそうな感じも含め決して主役向きの俳優ではないと思ってたのだが、タフそうには見えない反面、窮地は多少姑息な手を使ってでも乗り越えるハードボイルドな感じも含め、街に溶け込む事を生業とする私立探偵役として説得力溢れるキャスティング。正義感に青臭さが見え隠れしてしまう様も、非常にピッタリ。
また、その親しみ溢れる美貌が観客に近い立ち位置で物語を見守るパトリックの相棒役にピッタリだった、『デュー・デート 〜出産まであと5日!史上最悪のアメリカ横断〜』のミシェル・モナハンや、刻み込まれた皺がそのまま見つめてきた闇の数と合致しそうな刑事役として、凄まじいまでのカッコ良さを見せる『ヒストリー・オブ・バイオレンス』のエド・ハリスに、少ない出番ながらも、終盤家族に向け見せる笑顔に底知れない愛情を感じさせた『RED/レッド』のモーガン・フリーマンと、書き込まれたキャラクターを見事なまでに表現した名演を見せる役者が揃っているのも素晴らしい。
その他にも、エド・ハリスの妻である『おじさんに気をつけろ!』のエイミー・マディガンや、稀代の刑事俳優の一人であると思ってる『ビバリーヒルズ・コップ』のジョン・アシュトン、トラッシュぶりが圧巻過ぎた『グリーン・ゾーン』のエイミー・ライアンなど、ネームバリューではなく作品を締めるイイ顔をした役者が配されているのも嬉しい。まぁ、作品中一番イイ顔をしてたのはボストンの街並みと、その住人たちだったりもするんですけど。

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“正しい”が正解とは限らない

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posted by たお at 14:55 | Comment(4) | TrackBack(2) | 前にも観たアレ■か行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>“最善”を求めながらも、基準もアプローチ方法も全く違う双方が皮肉にも最悪を迎えてしまう
映画の中だから、見終わってから反芻し色んな角度から見ることが出来るけれど、現実の世界でも日々似たようなことが起きていて、その場その場で判断しながら進まなきゃならなくて・・・
普段から独善的な哀生龍ですが、“善”“正義”って何?と、改めて考えさせられちゃいました。

俳優業はアフレック弟に任せて、アフレック兄は監督業に励んでもらってもいいかも?
Posted by 哀生龍 at 2011年06月07日 23:51
おはようございます。予算がなくてベンは弟を主役にした、とも言ってましたがいやいや、ベストマッチなキャスティングですよね。

なんでこんなにいい作品がDVDスルーなんでしょうか。残念です。

哀生龍さんもおっしゃるとおり、ベンはもう監督業1本でええんやないの?と思ってます。
Posted by トリみどり at 2011年06月08日 09:23
哀生龍さま、こんにちは〜♪
小学校の道徳の教材として用いてもいいんじゃないかとすら思えた作品でしたねぇ。“正しい行い”ってことについて、随分と考えさせられました。
Posted by たお at 2011年06月09日 16:32
トリみどり様、こんにちは!
キャストだって全然悪くないのに、何を考えて未公開にしたのか甚だ疑問な作品でしたよねぇ。
監督として見事な腕前を披露したベンアフですが、あのいじめっ子風情がスクリーンで観れなくなるのも寂しいんで、俳優業も頑張ってもらいたいなぁと。
Posted by たお at 2011年06月09日 16:34
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