2006年07月14日

怪談新耳袋 劇場版

2004年 日本映画 92分 ホラー 総合評価★★★

実録ホラー及び実録風ホラーの映像化に関しては、世界トップクラスの表現力を持つ日本映画界。僅かな情報の中に、「昔、なにかがあったんだろうなぁ」と画には出てこない過去の悲しい物語を織り込むのが上手い。
この映画の基となった本『新耳袋』。全国から集められた怪談話を収めたこのシリーズも、今では全10巻というかなりな量に。その昔、初版でこの本を買った私は一晩中読み耽り、そのあまりの怖さに腹が立ち、押入れの奥に放り投げた記憶がある。まだ入ってるのかなぁ?
元々が短編であるため限られた情報量の中で語られる怪談の数々は、その言葉の少なさゆえに想像を掻き立て、時に唐突に、時にあっけないくらいに終わる物語により一層の不気味ささえ感じたもの。その原作の中から選りすぐられた8編を映像化したのがこの作品なのだが、限られた予算と時間と情報の中かなり自由に解釈をして作り上げられている。その解釈の好みもあるのだが、出来の良し悪しにかなりの格差も感じられるが。

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第一話 『夜警の報告書』
監督 吉田秋生 主演 竹中直人 採点★★★★

深夜のビル警備を行っている警備会社。そのビルを警備するスタッフは、何かに怯えるかのように三日ともたず辞めてしまう。また、ビルの警備員から送られる報告書には、“異常なし 但し女性一名”と書かれており、不審に思った警備長がそのビルで見たものとは…。

“信じない”という姿勢が最強であることを知らしめる一本。尋常ならぬ霊現象を目の当たりにしながら、“信じてない”から全く意に介さない警備員がもの凄く面白い。ユーモアを存分に組み入れながらも、過去にあったであろう“何か”を感じさせる作りは見事。

第二話 『残煙』
監督 鈴木浩介 主演 坂井真紀 採点★★

運転中に深夜の山道で迷ってしまったOL三人組。一息入れようと車を降りた彼女達であったが、突如そのうちの一人が頭からみるみる消えていき…。

いわゆる心霊物ばかりではなく、理解不能な怪現象や不思議な場所についての話も多い“新耳袋”。場所とも人物とも接点のない主人公が出会った怪現象を描いた原作を、より明確に“神隠し”の物語として映像化。社、羽ばたく音、近づく高下駄のような音を入れることでよって、天狗の存在を想像させる。でも、やりすぎ。不気味さは充分にあるのだが、きょとんとするような呆気なさのなくなってしまった本編は、怪談話というよりはただのホラー

第三話 『手袋』
監督 佐々木浩久 主演 高岡早紀 採点★★★

突然別れた彼氏が家に訪ねて来た日を境に、彼女は毎晩白い手袋をした手に首を絞められ…。

生きてる人間の方が怖い。強い情念によって怪異が日常生活に入り込む様は不気味。淡々としすぎている気もしないでもないが、「その後、どうなちゃったんだろう?」と思わせる話作りは上手い。

第四話 『重いッ!』
監督 鈴木浩介 主演 井上晴美 採点★★

就寝中に突如なにか重いものが乗っかってきた。四苦八苦した挙句に「ヨイショ」と避けたら、隣に寝ていた子供が「重いー!!」と。

突然やってくる意味不明の怪異は、笑いと恐怖が背中合わせになっている。恐怖を引き立てる為に、笑いがスパイスとなっているのだ。甘みを増させるために、塩を少々入れるようなものですね。で、本編は笑いを削除。結果、恐怖もホドホドに。

第五話 『姿見』
監督 三宅隆太 主演 上条誠 採点★★

“見てはならない”と語り継がれる体育館倉庫にある姿見を見てしまった男子高校生。

よくある“学校の怪談”的物語。それ以上でも以下でもない。男子高校生が「キャーキャー」騒ぐ姿を観ても、別段面白くありませんし。バスケットボールを抱えて爆走してくる幽霊は、笑っていいのか悪いのか、判断しかねる。タイ人はこれで絶叫したそうですが。

第六話 『視線』
監督 豊島圭介 主演 堀北真希 採点★★

由加里が撮ったビデオに、謎の影が映りこんでいた。それが評判になり、文化祭で上映されることとなったが、上映される度にその影は動いていき…。

稲川淳二の定番怪談でもある、上映のたびに徐々に振り向く霊の話。完全に振り向く前に上映を止めたため、今ではフィルムの中でどうなっているか分からないってのが最大の恐怖だったのだが、やはり映像化するとついついやっちゃうのか、画面から霊を出しちゃってる。“怪談”と“ホラー”の紙一重の差を踏み外しちゃった例。

第七話 『約束』
監督 雨宮慶太 主演 曽根英樹 採点★★★

叔父が海外出張する間、彼の高級マンションで留守番することとなった浩之。叔父は彼に唯一つの約束を残していった。「名前を呼ばれたら返事をすること」。返事?誰に?

マンション内で起こる怪現象よりも、ほとんど語られることのない叔父と幽霊の仄かな恋物語が最大の魅力だった原作。本編でも「恋をしているのでは?」と語られているのだが、肝心の幽霊がいけない。人の好みは様々だが、あれじゃあ恋に落ちないだろ。怖いもん。それでも、“ただ名前を呼ばれるだけ”という不条理を日常に盛り込んだ展開は非常にユーモラス。呼ばれる名前が、主人公のものでも叔父のものでもないのが、ほんのり悲話を思い起こさせる。

第八話 『ヒサオ』
監督 平野俊一 主演 烏丸せつこ 採点★★★★

息子“ヒサオ”に話しかける母親。母親の問いかけに全く返答しない“ヒサオ”だが、それでも母親は語りかけ続ける。“ヒサオ”のいた場所場所に出来る水溜りを拭きながら…。

悲しい物語である。怪談が持つ悲劇性とは異なるものの、息子を強く思う余りにたがが外れていく母親の姿は、とても悲痛だ。烏丸せつこの独り芝居で進められる本編は、ストーリー性、演出力以前に、彼女の演技力によって完成させられたと言っても過言ではないだろう。“霊”というものを取り除いても物語が成立する、悲しい母の物語

出来にバラつきがかなり見られた本作ではあるが、物語を進行させる上での“緩急”と考えればさほど気にはならない。ま、頭と尻の完成度が全てを帳消しにしているとも言えますが。

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posted by たお at 02:09 | Comment(2) | TrackBack(1) | 前にも観たアレ■か行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんわ〜!
そうそう、そうだった!と思い出しながら読ませていただきました(笑
バスケットボール抱えて走ってくる幽霊は、ビクッとした後にゆがんだ笑いがこぼれました。
第七話『約束』、あれって叔父さんと幽霊は恋仲だったのですか?!
幽霊、、でかくなかったですか、、?
Posted by PINOKIO at 2006年07月17日 03:27
PINOKIO様ようこそー♪
第七話の幽霊、確かに原作にも“天井に届くばかりの大きさで、身体をくの字曲げ…”みたいに書かれてるんですが、“美女”とも書かれてるんですよね。あんな葉っぱまみれじゃなく^^;
あんなんに指差された日にゃ。。。
Posted by たお at 2006年07月17日 11:11
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