2006年06月28日

未知との遭遇 (Close Encounters Of The Third Kind)

監督 スティーヴン・スピルバーグ 主演 リチャード・ドレイファス
1977年 アメリカ映画 137分 SF 採点★★★★★

1947年6月24日。アメリカ人実業家ケネス・アーノルドが未確認飛行物体を目撃する事件により、アメリカ中がUFO熱に浮かされる。この事件以前にも、“幽霊飛行船”や“幽霊飛行機(フー・ファイター)”等の目撃例があったものの、第二次世界大戦が終結し、強大な力を持つ未知なる敵が存在するのではないかという心理的警戒心も重なり、誰もが空に関心を持ち始めることとなる。そして50年代。その恐怖は現実のものとなる。
一時は同盟国でもあったソ連が共産主義国家となり、核兵器でけん制しあう冷戦へと突入する。そんな中の1957年10月4日、ソ連が史上初の人工衛星“スプートニク1号”の打ち上げに成功する。「敵が我々の国土の上を飛んでいる」と、アメリカ人の恐怖は最高潮に達し始める。この時期に多く作られた『遊星よりの物体X』など侵略系SF映画での宇宙人は、共産圏の暗喩だと言われる。まだこの時期は“UFO=宇宙人の乗り物”という認識より、敵国および自国の新兵器といった認識が多かったようだ。だが、『地球が静止する日』のように、国家間、人種間でいがみ合う人間に警告を与える人間より遥かに進んだ科学力と知性を持つ存在としても考えられ始める。
古い価値観に対し反抗を始めた60年代。新たな神、新たな信仰を模索していた人々に“宇宙人=人類を導くもの”という考えが受け入れられる。『2001年宇宙の旅』の人類を新たなステップへと進化させてくれる宇宙人が典型例であろう。
人々は様々な想いを持って空を見つめる。警戒心から、または平和な世界へと導いてくれる“神”の光臨を待ちながら。少年時代に父親の仕事の都合で各地を転々とした男がいる。学校に馴染めず、ひ弱ないじめられっ子だった彼は、やがて家族を捨て家を出る父親との思い出を胸に空を見つめていた。「どこか遠くへ行きたい。遠くへ連れて行ってもらいたい」と。彼の名前は、スティーヴン・スピルバーグ。

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【ストーリー】
第二次世界大戦中に行方不明となった雷撃機が、その当時のままの状態で遠くはなれたメキシコの砂漠で発見されるなどの怪事件が続発。そんな頃、電気技師のロイは、仕事に向かう途中にUFOを目撃。その日以来、彼の頭の中にあるイメージが染み付いて離れなくなってしまう。ロイ同様UFOを目撃し、息子をUFOに誘拐された母親ジリアンも、ロイと同じイメージに悩まされる。やがて彼らはイメージに導かれるように、“デヴィルズ・タワー”へと向かう。

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“雷撃機の消失”“航空機によるUFO目撃”など、実際に起きたといわれる事件の数々を基にした序盤からワクワクさせてくれる。UFO事件を検証し、多くの見間違いやインチキを解明してきた“プロジェクト・ブルーブック”の最高責任者でありながら、解明出来ない謎の事件の多さからUFOの存在を否定できなくなり、肯定派へと転じたハイネック博士(本人も映画の終盤に顔を出している)が製作に関わっているだけあって、事件や現象の数々は隅々まで凝っている。
UFOも、マザーシップを除き機械的というよりは、イギリスでの目撃例も多い光り輝く“妖精”のような姿で描く。これにより、物語が実存的な異星人と対話したり明確な目的を持っての対面というよりは、遥かに優れた存在との神話的・精神的対面という形を形成していく。実際、異星人が何をしたいのか全くわからない。はるばる地球までやってきて火を借りた宇宙人や、わざわざ自分の星まで連れて行って演劇を見せた宇宙人もいたそうだから、奴らのやることは、よくわからない。劇中帰還した人々が、格段と変化していたり能力をつけている描写はないので、遥かに優れた存在との接触による精神的進化を得たということであろうか。

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中年ながら鉄道模型に夢中で、『ピノキオ』の素晴らしさを子供達に相手にされずとも語り続ける、子供がそのまま大きくなったような主人公ロイ。スピルバーグ自身と父親をモデルに描かれている。家族を叩き起こしてUFOを見に行くシーンは、スピルバーグの子供時代に父親に流星群を見に連れて行かれたことが元になっているという。この頃のスピルバーグ作品は自身の幼年期をモデルにすることが多く、『E.T.』でも仕舞われてあった家を出た父親のセーターの香りを嗅ぐシーンを描いている。実際はセーターではなく、屋根裏部屋に隠してあった大量のSF雑誌だったらしいが。素敵だ。
当初このロイ役には、ジーン・ハックマンやスティーヴ・マックイーンを希望していたようだ。特にマックイーンを熱望し、飲めない酒まで付き合って口説いたが断られ落ち込んでいたスピルバーグの周りで「オレが、オレが!!」と騒ぎ続けていたのが、リチャード・ドレイファス。「若すぎる」との理由で断っていたが、あまりの熱意に承諾。しかしドレイファスは、子供じみているが純粋な主人公を熱演。実際、彼以外にロイ役を演じられる俳優は浮かばないほどの、見事なマッチぶりだ。彼の参加で、ファンタジーと若干の恐怖もブレンドされたこの作品に足りなかったコミカルな面が加わり、完成度がより高まったのではないだろうか。

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スピルバーグ自身は後年「夢を実現する為とはいえ、仕事と家族を捨て旅立つ無責任な話」と語っているが、その無責任ではあるが実現のために如何なる障害をも乗り越えて目的を果たそうとする姿には、やはり胸を打たれる。それがたとえ“子供のままでい続ける”という選択であってもだ。無邪気な笑みを浮かべながら子供のような異星人に囲まれ光の中へ進んで行き、宇宙の彼方へマザーシップが飛んでいくラストは、何度観ても涙がこみ上げてくる。いくら無責任と言われようと、子供じみていると言われようと、感情移入せざる得ないのだ。子供なんですねぇ、私。
男女の差や年代の差によっても受け取り方が変わるであろう、この作品。
ロイの妻はひたすらに現実的で、ロイの子供じみた部分を受け入れることが出来ない。UFOを目撃し興奮するロイに対しても真剣に耳を傾けず、仕事を失い目撃以来ロイの頭から離れないイメージの解釈に苦しみ奇行を重ねるロイを、遂に見捨ててしまう。子供の頃初めてこの作品を観た際、ロイの妻のあまりの非理解ぶりに腹が立ち、しばらくテリー・ガーが大嫌いだった。しかし、彼女の行動には何の非もない。現実的には、成長を拒み、家族に目もくれず夢を追い求める男が迎える末路とはこういうものだ。非日常に触れた結果、平和だった日常が崩壊してしまう様子をスピルバーグは丹念に描き、観客を不安に陥れる。ロイに感情移入をし、自らの子供の部分を刺激されワクワクしていた観客が、ロイの落ちぶれた姿を見て「やはり自分は間違っているのか?」と。だからこそ、障害に立ち向かい、夢を実現したロイの姿に強く胸を打たれるのだ。甘えた話かもしれない。しかし、どうしても否定することが出来ないのだ。

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UFOとの接触プロジェクトリーダーを、『大人は判ってくれない』等の監督フランソワ・トリュフォーが演じる。スピルバーグ自身が熱望したキャスティングなのだが、暖かい眼差しでで物事を全て受け入れる柔らかい物腰の彼は素晴らしい。大人になれず子供のような衝撃で突っ走るロイを見つめる父親のようである。彼の存在で、“主人公対政府”というUFOモノにありがちな対立構図が強調されず、“子供対大人”という構図が浮かび上がってくる。
トリュフォー演じるラコーム博士の側近の一人として、若き日のランス・ヘンリクセンの姿があるが、非常に残念ながら大して活躍せず。カットされたシーンにはだいぶ出てましたが。『ロッキー』のカール・ウェザースに到っては、出番をまるまるカット。

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1980年に公開された特別編では、スタジオの強い希望もあってマザーシップの内部を描いたシーンが追加されていたが、観客の夢を壊す以外の機能を果たしていなかった。“まばゆい光の中に消えていく”という、宗教的でもあり童話的でもあるラストが肝心なのに。しかし、今回のファイナル・カット版ではそこをカット。いくつかのシーンも蘇っている。
これまで何度観たか覚えていないが、これからも観続けるであろう傑作である。

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うらやましい

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posted by たお at 03:59 | Comment(4) | TrackBack(2) | 前にも観たアレ■ま行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつもありがとうございます。
自分もファイナルカット版がただ未公開シーンをくっつけてDVD的映画になっているのかと思って観たのですが、マザーシップ内部の描画が消えていてびっくりしました。と、同時に「これでいいんだよ!」と感激しましたよ。
すごく良かったです!
Posted by 八ちゃん at 2006年08月07日 10:29
八ちゃん様こんばんは!
あれは全てを台無しにしてしまうシーンでしたからねぇ^^;
ラストの“星に願いを”が消えてしまっているのは残念ですが、それでも素晴らしい作品です!
Posted by たお at 2006年08月08日 05:04
私は一番最初のオリジナルバージョンが一番好きなんですよ。
なぜならラストのエンドタイトルにピノキオの星に願いが少し流れるじゃないですか。著作権の関係だけで以降カットされたバージョンしか入手できないのが残念です。LDではピノキオをラストに聴けるバージョンがあったんですけどね。
Posted by ニアリー at 2006年11月19日 00:24
ニアリー様こんばんは!
もう取り戻せない以上は、このバージョンを楽しむしかないんですかねぇ^^;
まぁ、これ以上は手を加えて欲しくもないですが。
Posted by たお at 2006年11月19日 01:00
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