1974年 イギリス映画 128分 サスペンス 採点★★★★
まず目的地がありきでその場で楽しむ観光もいいですけど、のんびりとその道中を堪能する列車や船の旅ってのも一度は経験してみたいもんですねぇ。そういう普段の生活ではなかなか味わえない贅沢な気分に浸らせてくれるのも映画の良い所なんですが、最近はロケの美しさや贅沢気分を味わう作品も減ってきちゃいましたねぇ。

【ストーリー】
イスタンブールを出発したオリエント急行内で、アメリカ人富豪のラチェット氏が全身を刃物で刺される殺人事件が発生する。たまたま乗り合わせていた名探偵ポアロは、鉄道会社からの依頼を受け事件の解明に乗り出すが、やがてその背後に過去に起きた殺人事件の因縁が見え始め…。

アガサ・クリスティの原作を、キレのある社会派作品を数多く手掛けた『狼たちの午後』のシドニー・ルメットが、贅沢にも程がある超豪華キャストで映像化したミステリー。
推理を一緒に楽しむミステリーとしては、ポワロのみが知り得る情報を解決の糸口に使ったりと読者を置いてけぼりにする傾向がある半面、その事件を生み出すこととなる因縁話や因果関係に関してはずば抜けた面白さを描き出すアガサ・クリスティ。その、推理作家としてではなくストーリーテラーとしての素晴らしさを、見事に映像化した作品。事件発生から容疑者の事情聴取、謎の解明までを手際良くワクワクする展開で最後まで引っ張る本作。ただ、謎の解明自体はさして重要なポジションを占めてはいない。極端に言えば、全く重要ではない。本作で最も重要なのは、“なぜその事件が起きたのか?”“殺人者はどういう思いで犯行に至ったのか?”を中心に描くことで、犯罪は加害者と被害者だけの問題ではなく、一つの犯罪が数多くの人々を不幸に落としてしまう事実を浮き彫りにすることである。
動機は何であれ犯罪には変わりのないこの事件に、「これ以外はない!」と言わしめる大岡裁きを見せるポアロ。その結末に安堵と心の奥にほろ苦さを残す観客の思いを代弁するかのように、「良心と一騎打ちをして警察への報告を作文しよう」と場を立ち去るポアロのセリフは秀逸。

大女優としての威光に頼るのではなく、底力をまざまざと見せつけたイングリッド・バーグマンやローレン・バコールを筆頭に、“脱ノーマン・ベイツ”に躍起になっていたアンソニー・パーキンス、これまた“脱ジェームズ・ボンド”中だった『ハイランダー/悪魔の戦士』のショーン・コネリー、私も『ザ・ディープ』の透けTシャツ姿に騙されたくちのジャクリーン・ビセットや、ヴァネッサ・レッドグレーヴらといった、大物をまんべんなく網羅した感がある贅沢なキャストが集結した本作。しかも「やぁやぁ」と顔を見せるだけではなく、役者としての意地を見せるかのように熱のこもった演技を見せるのだから堪らない。
そんな凄腕集団を前に一歩も引かない熱演を見せたのが、ポアロに扮した『ボーン・アルティメイタム』のアルバート・フィニー。個人的には、『ナイル殺人事件』以降ポアロに扮したピーター・ユスティノフの愛嬌溢れるポアロ像が好きなのだが、嫌味だがユーモアがあり、ほど良くゲスで潔癖な、犯人にとっては堪らなく癇に障る人物であろうアルバート・フィニーによるポアロは、原作から感じられるポアロに非常に近い。安っぽい正義感からなんかじゃなく、知的好奇心が原動力になってる感じが非常に伝わる好演。
繰り返しちゃってアレですが、アガサ・クリスティの一連の作品や70年代の007作品のように、贅沢な観光気分を味わえる作品って、ホント少なくなってきちゃいましたねぇ。ロケすらしてない作品も増えましたし。

犯行前は、ポアロか蝶ネクタイの小学生が乗っていないかの確認が必要
↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓

