2008年 ドイツ映画 108分 ドラマ 採点★★★★
高い失業率から来る将来への不安や社会への不満、外国人に対する嫌悪や恐怖、極端な右翼化とと左翼化。そんなのがグチャグチャに混じり合った重たい空気漂う状況に、やたらと口の立つ人物が民衆の不満や不安を代弁し将来に明るい展望を持てそうなキレイ事を並べ連ねると、大衆の圧倒的な支持を得て瞬く間に指導者になっていくもんなんですよねぇ。それこそ、拍手喝采で。で、権力を握った張本人は自ら法律を変え、従わない者を排除し、権力の座を頑なに守り続ける。「あれ?あの拍手喝采はなんだったの?」と民衆が気付く頃には手遅れで、独裁政治の一丁上がり。なにも歴史に限った話じゃないんですよねぇ。遠い国の話でもないですし。

【ストーリー】
ドイツのとある高校。独裁制についての特別授業を、不本意ながら受け持つことになった教師のライナー。彼は独裁制をより理解できるように、生徒たちに全体主義を体験させることを思いつく。自ら指導者となり、同じ色の服を着させ単純だが厳格な規律を作り、同じ目標を持たせる。ほどなく生徒たちは互いに結束し合い強い団結をしていくのだが、その団結心はコントロール不能なまでに肥大していき…。

1967年にアメリカの高校で起きた事件を基に描かれた、ファシズムの恐怖を描いた一本。
集団で何か同じことに向かって熱く行動するのは気恥ずかしいもの。でも、その気恥ずかしさを乗り越えて、自分もその渦の中に飛び込んで一緒に動くと、なかなか得難い興奮や感動を感じるもの。運動会であれ、グループ課題であれ、それこそサッカーの応援であれ、強烈な一体感を感じると何でも出来るような気にさえなってくる。一糸乱れぬ集団の動きに魅了されるマーチングや、単調なビートが延々と続くテクノに感じるトランス感にも似た高揚感。しかしその団結が意図を持って、及び意図を持った人物によって思うように動かされてしまった時、またはコントロールを失ってしまった時、その強大な力は凶器となる。そんな怖さを見事に描いた本作。
将来の不安や家庭の問題、人種による劣等感に恋の悩み。高校生じゃなくても誰もが持っているような悩みを持つ生徒たち。個人と個性を尊重する反面、バラバラで覇気のない集団。そんな彼らが授業の一環として流されるままに全体主義のシュミレーションに参加し、生まれ来る団結心と集団行動に高揚し心酔していく。教師もまた、不本意ながらに受け持った授業で、そのシュミレーション自体思い付きだったのにもかかわらず、指導者として尊敬と崇拝されていく状況に陶酔感をおぼえていく。彼らは皆、ファシズムを嫌悪していたはずだったのに。その、人々が容易に流され自ら大きな渦を作っていってしまう怖さを、結束が生み出すメリットも包み隠さず描いたうえで、容易に流されやすいが故にコントロールも失いやすく暴走もしうる恐怖を自然な流れのように描き切っている。本作はドイツでしか作れない作品かも知れないが、ドイツでしか起きない事件ではない。その身近さに、寒気を覚えた作品。

異物は徹底的に排除
↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓

