2011年02月02日

ウェイヴ (Die Welle)

監督 デニス・ガンゼル 主演 ユルゲン・フォーゲル
2008年 ドイツ映画 108分 ドラマ 採点★★★★

高い失業率から来る将来への不安や社会への不満、外国人に対する嫌悪や恐怖、極端な右翼化とと左翼化。そんなのがグチャグチャに混じり合った重たい空気漂う状況に、やたらと口の立つ人物が民衆の不満や不安を代弁し将来に明るい展望を持てそうなキレイ事を並べ連ねると、大衆の圧倒的な支持を得て瞬く間に指導者になっていくもんなんですよねぇ。それこそ、拍手喝采で。で、権力を握った張本人は自ら法律を変え、従わない者を排除し、権力の座を頑なに守り続ける。「あれ?あの拍手喝采はなんだったの?」と民衆が気付く頃には手遅れで、独裁政治の一丁上がり。なにも歴史に限った話じゃないんですよねぇ。遠い国の話でもないですし

diwe1.jpg

【ストーリー】
ドイツのとある高校。独裁制についての特別授業を、不本意ながら受け持つことになった教師のライナー。彼は独裁制をより理解できるように、生徒たちに全体主義を体験させることを思いつく。自ら指導者となり、同じ色の服を着させ単純だが厳格な規律を作り、同じ目標を持たせる。ほどなく生徒たちは互いに結束し合い強い団結をしていくのだが、その団結心はコントロール不能なまでに肥大していき…。

diwe3.jpg

1967年にアメリカの高校で起きた事件を基に描かれた、ファシズムの恐怖を描いた一本。
集団で何か同じことに向かって熱く行動するのは気恥ずかしいもの。でも、その気恥ずかしさを乗り越えて、自分もその渦の中に飛び込んで一緒に動くと、なかなか得難い興奮や感動を感じるもの。運動会であれ、グループ課題であれ、それこそサッカーの応援であれ、強烈な一体感を感じると何でも出来るような気にさえなってくる。一糸乱れぬ集団の動きに魅了されるマーチングや、単調なビートが延々と続くテクノに感じるトランス感にも似た高揚感。しかしその団結が意図を持って、及び意図を持った人物によって思うように動かされてしまった時、またはコントロールを失ってしまった時、その強大な力は凶器となる。そんな怖さを見事に描いた本作。
将来の不安や家庭の問題、人種による劣等感に恋の悩み。高校生じゃなくても誰もが持っているような悩みを持つ生徒たち。個人と個性を尊重する反面、バラバラで覇気のない集団。そんな彼らが授業の一環として流されるままに全体主義のシュミレーションに参加し、生まれ来る団結心と集団行動に高揚し心酔していく。教師もまた、不本意ながらに受け持った授業で、そのシュミレーション自体思い付きだったのにもかかわらず、指導者として尊敬と崇拝されていく状況に陶酔感をおぼえていく。彼らは皆、ファシズムを嫌悪していたはずだったのに。その、人々が容易に流され自ら大きな渦を作っていってしまう怖さを、結束が生み出すメリットも包み隠さず描いたうえで、容易に流されやすいが故にコントロールも失いやすく暴走もしうる恐怖を自然な流れのように描き切っている。本作はドイツでしか作れない作品かも知れないが、ドイツでしか起きない事件ではない。その身近さに、寒気を覚えた作品。

diwe2.jpg
異物は徹底的に排除

↓↓お帰りの際にでもぽちりと↓↓
blogram投票ボタン   人気ブログランキングへ

        

        

posted by たお at 01:42 | Comment(0) | TrackBack(15) | 前にも観たアレ■あ行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

mini review 10482「ウェイブ」★★★★★★★☆☆☆
Excerpt: 独裁政治を学ぶ体験授業をきっかけに洗脳されていく高校生たちの姿を描き、ドイツで大ヒットを記録した心理スリラー。アメリカで起こった実話をドイツの高校に置き換え、『エリート養成機関 ナポラ』のデニス・ガン..
Weblog: サーカスな日々
Tracked: 2011-02-02 02:09

THE WAVE◆◇ ウェイヴ あるクラスの暴走
Excerpt: 揺れる高校生たちの心を支配したものとは? ドイツ全土を席巻! 240万を動員! ドイツ国内映画興行成績第1位! 京都みなみ会館にて鑑賞。3月4日〜10日の1週間限定上映ということもあって、多くのお..
Weblog: 銅版画制作の日々
Tracked: 2011-02-02 13:53

THE WAVE/ウェイヴ
Excerpt: 実際にアメリカの高校で起こった事件をベースにした作品。主演は『エーミールと探偵たち』のユルゲン・フォーゲル、監督は『エリート養成機関 ナポラ』のデニス・ガンゼル。独裁制の授業の実習を通じて、いつの間..
Weblog: LOVE Cinemas 調布
Tracked: 2011-02-02 14:59

THE WAVE ウェイヴ
Excerpt: 1967年のアメリカで実際にあった出来事を現代のドイツに舞台を変更して映画化。実験の内容的には「es」という映画に似ていると思ったが、「es」の基になった実験は1971年のものだから、実際にはこちらの..
Weblog: シネマ日記
Tracked: 2011-02-02 15:45

ドイツ映画祭2008...「ウェイヴ あるクラスの暴走」
Excerpt: 「Die Welle」...aka「The Wave 」2008 ドイツ 高校教師ライナー・ヴェンガーにユルゲン・フォーゲル。 ティムにフレデリック・ラウ。 マルコにマックス・リーメルト。 カ..
Weblog: ヨーロッパ映画を観よう!
Tracked: 2011-02-02 20:32

『THE WEVE ウェイヴ』
Excerpt: 本作は、1969年、米国のカルフォルニアの高校で実際起こった実話を基にしている。原作は、新樹社から刊行されているノンフィクション小説だが、現在でも多くのドイツの学校では教材として読むように薦められてい..
Weblog: 千の天使がバスケットボールする
Tracked: 2011-02-02 20:43

THEWAVEウェイブ DIEWELLE
Excerpt: エス[es]と同じく、実際の心理実験を元にした衝撃的な映画。高校の授業で「独裁」の実習を受け持つことになった体育教師のライナーは、生徒たちに独裁制の特徴を答えさせて、それを...
Weblog: まてぃの徒然映画+雑記
Tracked: 2011-02-02 23:11

映画「THE WAVE ウェイヴ」
Excerpt: die welle ドイツ 2008 2009年11月公開 DVD鑑賞 劇場公開されているときにとーっても観たかったんですが、過去に劇場で観た「es」が結構トラウマになっているので、なかなか勇気が出な..
Weblog: Andre's Review
Tracked: 2011-02-03 22:58

ウェイヴ  THE WAVE
Excerpt: 先日テレビの番組で集団真理の一つである「傍観者効果」を検証する実験を見ました。 人は自分以外に目撃者(傍観者)がいる時には行動を起こさないという心理です。 誰かが荷物を沢山持って落としたとき、自分一人..
Weblog: 映画の話でコーヒーブレイク
Tracked: 2011-02-04 16:17

ウェイヴ
Excerpt: ■ シネマート新宿にて鑑賞ウェイヴ/DIE WELLE 2008年/ドイツ/108分 監督: デニス・ガンゼル 出演: ユルゲン・フォーゲル/フレデリック・ラウ/マックス・リーメルト/ジェニファ..
Weblog: 映画三昧、活字中毒
Tracked: 2011-02-05 21:32

『THE WAVE ウェイヴ』
Excerpt: JUGEMテーマ:映画 制作年:2008年  制作国:ドイツ  上映メディア:劇場未公開  上映時間:107分  原題:THE WAVE  配給:アット・エンターテイメント  監督:デニス..
Weblog: La.La.La
Tracked: 2011-02-06 09:56

ウェイヴ
Excerpt: 特別授業週間に“独裁制”講座を担当することになった高校教師ライナー・ベンガーは、独裁制の体験を提案する。 自分のことを“ベンガー様”と呼ぶように命じ、集団としてのルールを重んじた。 この団体を“ウェイ..
Weblog: 象のロケット
Tracked: 2011-03-28 22:52

ウェイヴ
Excerpt: 独裁政治を学ぶ体験授業をきっかけに洗脳されていく高校生たちの姿を描き、 ドイツで大ヒットを記録した心理スリラー。アメリカで起こった実話を ドイツの高校に置き換え、『エリート養成機関 ナポラ』のデニ..
Weblog: だらだら無気力ブログ
Tracked: 2011-04-06 00:30

THE WAVE ウェイヴ
Excerpt: DIE WELLE/08年/独/107分/サスペンス/PG12/劇場公開 監督:デニス・ガンゼル 原作:モートン・ルー『ザ・ウェーブ』 脚本:デニス・ガンゼル 出演:ユルゲン・フォーゲル、フレデリ..
Weblog: 銀幕大帝α
Tracked: 2011-07-06 00:28

THE WAVE ウェイヴ
Excerpt: いかに人間を洗脳するのが簡単なのか、よくわかった。そして恐ろしい。 生徒たちは実習の授業から教師が作ったルールに従っていきます。それは簡単な事だった。先生には「様」をつけること、席を立って意見す..
Weblog: いやいやえん
Tracked: 2011-07-15 09:51