1993年 アメリカ映画 145分 ドラマ 採点★★★★
もし昔の自分に会えるなら、アドバイスしてやりたい事が山ほどある私。その性格は直しておいた方が良いぞ、それはやめた方が良い、あれは諦めるな…などなどなどなど。それが出来れば今頃はもうちょっとマシな私が出来上がっているんでしょうが、一方で10年前の私がそんな話を素直に聞くとは到底思えず。10年後の私が今目の前に現れてアドバイスをしたとしても、きっと聞く耳を持たないでしょうし。
【ストーリー】
かつては麻薬の帝王として街に君臨していたカリート。しかし、刑務所から出所した彼は、その世界から足を洗うことを心に固く決心していた。昔の恋人と共にバハマでの真っ当な暮らしを夢見るカリートであったが、借りのある弁護士の願いを聞いてしまったことから、彼の夢は脆くも崩れ始め…。
『ブラック・ダリア』のブライアン・デ・パルマによる、変えることのできない男の生きざまを描いた一本。
がむしゃらに頂点を目指す男を描いた『スカーフェイス』に対するアンサーのようにも思える本作。自分に課した掟が自分の首を絞めることになると知りながらも、それを変えることが出来ず、抜け出そうと必死に足掻きながらも悪の道に飲みこまれていく様を、抒情的に描いている。『スカーフェイス』のようなアグレッシブさを求めると退屈さを覚えるのかも知れないが、本作の題材においては古典的とも言えるこの演出が正しい。例えるならば、本作は演歌なのである。足を洗いたくても生き方を変えられない仁義に生きるヤクザ者と、その男を涙ながらに待つ女の姿を歌った演歌。そこには、マイケル・シェンカーのギターソロが入る余地などないのである。なんでマイケル・シェンカーが浮かんだのかは自分でも分かりませんが、まぁそんな感じ。
そんな抒情的に描かれる物語を引き立たせる、デ・パルマらしい映像魔術も秀逸。デブのマフィアがピタゴラのカギとなるクライマックスの駅構内シーンも見事だが、ここで言いたいのはそこではない。“扉の向こうが怪しい”“踊る彼女は美しい”“銃に弾は入ってない”など、さり気ない小さなシーンだが、主人公の目線をイメージしたショットのなんとも見事なこと。なんとも説明が難しいので分かりづらいかと思うが、文字を説明するために映像化するのではなく、頭の中のイメージをそのまま映像化するデ・パルマらしいショットの数々が素晴らしいのだ。クラシカルな優雅さを帯びたショットの数々が、このカリートの男道を描いた本作に独特の美しさと物悲しさを与えたのではと。愛する女とまだ見ぬジュニアが南国で楽しく踊る様をカリートが夢見てるかのようなラストシーンなんて、胸が締め付けられるほどの美しさ。
カリートに扮するのは、『ボーダー』『リクルート』のアル・パチーノ。『スカーフェイス』のトニー・モンタナが老いたような、落着きと凶暴さが同居する主人公をほとんどカリート本人なんじゃないのかって言うほどの好演。怒りの沸点に達するのが早い一方で、極度に用心深いカリートには、あのアル・パチーノの“眼”は必須アイテム。前年に念願のアカデミーを獲ったこともあってか、年々悪化する演説癖が見え始めてはいるが、本作ではまだまだ抑えている方かと。
また、“ユダヤ人の悪徳弁護士”ってのを見た感じで表現したショーン・ペンも見事。全ての元凶であるクズな役ではあるが、見た目に対するコンプレックスと小心さがクスリ漬けのクズを形成したということを、ショーン・ペンらしい細かさで見事に演じている。まぁ、内面が理解できたからと言って、好きになれるキャラクターじゃありませんが。むしろ嫌い。“嫌いなキャラクターランキング”とか作ったら、間違いなくベスト10圏内に入りますし。アパムと一緒に。
その他にも、紗の掛かった映像が誤魔化すためではなく、そのクラシカルな美しさを際立たせるためである『シャドー』『キンダガートン・コップ』のペネロープ・アン・ミラーや、ドブネズミのように狡猾で頂点を狙うガツガツとした眼が強烈だった『ハプニング』『アサルト13 要塞警察』のジョン・レグイザモ、ワンシーンのみの登場ながらも、色男のなれの果ての無残さが強烈な印象だった『ザ・ロード』『ゴッド・アーミー/悪の天使』のヴィゴ・モーテンセンなど、細かい所まで目が行き届いた粋なキャスティング。特に、『恋愛ルーキーズ』『ローグ アサシン』のルイス・ガスマンは絶品で、彼自身が持つコミカルさと怖さを兼ね備えたボディガードのパチャンガ役を熱演。気の良いそこらのチンピラ的な親近感を醸し出しながらも、やっぱり到底相容れる事の出来ないギャングの怖さをパチャンガから感じられたのも、やはりルイス・ガスマンが演じてたからでは。こういう、役の大小に関係なく作品をきっちりと底上げしてくれる俳優って、ホント貴重ですよねぇ。
器用な男からは、良い物語は生まれない
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