2006年05月21日

the EYE 【アイ】 (見鬼)

監督 オキサイド・パン/ダニー・パン 主演 アンジェリカ・リー
2002年 香港/タイ/イギリス/シンガポール映画 99分 ホラー 採点★★★★

私は怪談話が好きである。根底に流れる“優しさ”に心を惹かれるのだ。災害や悲惨な事件の被害者たちの無念を忘れぬよう語り継がれるのが怪談だと言われる。口述伝承の中でディテールは省略され、より刺激的に脚色もされていくが、詳細に語られずともその背景に浮かび上がる被害者たちの悲しい叫びが怪談を語り継がせる要因となっている。それが、無差別に暴走する呪いの話や怪物話との大きな違いであると考えている。

【ストーリー】
幼い頃に失明したマンは、二十歳になり角膜移植手術を受ける。無事視覚を取り戻したマンだったが、彼女の目は周りを彷徨う不気味な影をも映し出してしまう。

eye3.jpg

これは面白い。視覚を取り戻した主人公が、身の回りで多発する怪現象に向き合う決心をするまでの前半と、その“見える”力の謎を探る後半の二部構成で語られるこの作品は、中だるみすることなど全くなくノンストップで突き進む。『呪怨』が怪談集『新耳袋』に掲載されている怪談を劇中に取り入れることによって、よりリアリティに溢れる恐怖表現を実現したのと同様、本作も実際にあった事故や巷で語られている怪談話を取り入れた結果、大きな悲しみを含んだ恐怖表現を可能にした。ディテールは語られず、登場時間もそれぞれ短い本作の亡霊たちは、矢継ぎ早に登場するものの怖がらせるだけではなく、その背景にある悲しい想いをも観客に伝えている。トム・クルーズがリメイク権を獲得した事も有名だが、この“悲しき叫び”をどこまで作品に反映できるかによってこの作品の持っている本来の味を大きく失ってしまう可能性もあるので、慎重を期していただきたいところである。下手をすれば『ファイナル・デスティネーション』のようになってしまう危険性もあるのだから。

eye1.jpg

死者たちは“気付いてもらいたい”“話を聞いてもらいたい”という一心でこの世を彷徨っている。その願いがかなうまでの間、彼らは死の瞬間を永遠に味わい続け、永遠の孤独を過ごさなければならない。ようやく取り戻した視界。彼女の目に映る見慣れぬ世界は、この世のものとあの世のものとの境が非常に曖昧だ。亡霊の存在に気付き恐れおののいた結果彼女が取った行動は、彼らと向き合うことである。『シックス・センス』同様、それがこの作品にみなぎる優しさの要因となっている。黒い影として登場する死神も、あの世に連れ去る不吉な存在ではなく、あくまであの世までの水先案内人であり、彷徨う事のないようマンツーマンで対応する姿にも、底知れぬ優しさを感じ取る事が出来る。
ちょびっと話題になった“本物の幽霊”とやらは、まぁちょっとやりすぎかと思いましたが。

eye2.jpg
ひさしぶりにところどころ泣きました

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posted by たお at 02:28 | Comment(6) | TrackBack(8) | 前にも観たアレ■あ行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>トム・クルーズがリメイク権を獲得した事も有名だが、
『ヴァニラ・スカイ』とかトムちんのボク映画になりそうですよなぁ(笑) ってのはさておき、
 
タイにおけるピー(生霊っか亡霊っか幽霊っか)の感覚ってのは独特だなぁ… っと思ったんですが、それよりもまずタイ映画界の厚みをより強く感じた映画でしたのぅ… いや、酷い映画はホント酷い(笑)し苦手&不向きなジャンルもありますが、映画という娯楽、エンターテイメントとしてのサービス精神を作品で現す事が出来る役者、編集、そして機材に技術、ノウハウが単純に外国映画からの模倣ではなくちゃんとタイ・オリジナルとしてある、ってのが特に。
 
 
 
貴殿のレビューで、そろそろタイからDVD買いたくなってきたですよ(笑)
Posted by USA-P at 2006年05月21日 08:38
USA-P様いつもどうもです♪
熱心な仏教徒でも敬虔なキリスト教徒でもない日本は、どちらかといえば“無宗教”的様相もありますが、死者を敬い死者を重んじるあたりは“死”を信仰する国民とも言えるのかと。仏教徒いうベースがあってこそですが。この映画における死に対する感覚に親近感をおぼえたのもその辺なのかも。最近起きた大惨事をサラリと映画に取り入れちゃうあたりはアレでしたが^^;
とことん模倣を繰り返した積み重ねて作り上げた独自のオリジナリティだと思うのですが、模倣をつまらない自尊心で恥じてつまらない作品ばかり作る国なんかより遥かに面白い作品が生まれるんですよね。模倣と土着性の見事な融合例だと思います。
Posted by たお at 2006年05月21日 20:36
こんばんわ。
今まで見たアジアンホラーって
呪怨やリングっぽいものが多かったんですけど、
コレは怪談でしたね、ほんと。
ただ怖いとかそういうのではない感情がありました。
本物の幽霊、って話題もあったのですね。
チラッと映る霊みたいなのが多すぎて、どれがどれやら。。(^^;
Posted by PINOKIO at 2007年01月11日 22:14
PINOKIO様こんばんは〜♪
電車内に出てくる奴がそうらしいんですが、あれはあまりにあんまりじゃないのかと^^;
Posted by たお at 2007年01月12日 19:45
うぅ〜ん、、
たしかに気持ち悪かったけれど、
あれはあからさますぎるんぢゃぁ(笑
絶対にそういう話題ってこの手の映画にはありますねw
Posted by PINOKIO at 2007年01月13日 01:21
PINOKIO様こんばんは〜♪
「幽霊が映った!」と騒ぎになった映画って多いですものねぇ。
『サスペリア』『フェノミナ』『死霊のはらわた』『スリー・メン・アンド・ベイビー』などなどなどなど。まぁ、どれもこれもネタが割れてるんですが^^;
Posted by たお at 2007年01月13日 19:44
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