1986年 アメリカ映画 97分 SF 採点★★★★
もし神さまが森羅万象の全てを創造したってのなら、その最高傑作って昆虫なんでしょうねぇ。その機能性といい、デザインといい、全く無駄も妥協もないですし。その無駄と妥協のなさは、行動にまでも徹底されてますよねぇ。神さまも鼻高々でしょうに。ただまぁ、多少の無駄があってこそ愛着がわくってもんです。やっぱり、人間はいいですねぇと締めてみる。
【ストーリー】
物質転送装置を完成させた科学者のセス・ブランドル。ある日、難しかった生命体の転送にも成功した彼は、自身の身体を実験台に転送を行う。実験は成功したかに思えたが、その転送の際に一匹の蠅が紛れ込んでおり、その蝿と遺伝子レベルでの融合をしてしまう。
1958年製作の『蠅男の恐怖』を、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』『デッドゾーン』のデヴィッド・クローネンバーグがリメイクした、傑作SFホラー。
クリス・ウェイラスによる強烈な特殊メイクのインパクトも絶大だが、やはり実験の失敗で怪物と化していく科学者と、その彼を愛し続ける恋人の悲し過ぎる物語が出色である本作。科学者は科学者らしく理性と知性で問題と対峙しようとし、恋人は感情で科学者を見つめ続けるという、キャラクターの描き分けも見事。その完成されたストーリーラインと、強烈な特殊効果だけでも十分に完成度の高い作品になっているのだが、本作はそこに一癖加わっている感じも。怪物と化していく自分に絶望を感じる一方、ある種の高揚感を持っているように描かれる主人公。怪物化の過程で抜け落ちていく指や歯を、進化の過程で不要になった遺物として保管する主人公には、人間だった頃への名残惜しさと次なるステップへと進もうとする決意が見える。そこはもう、“人間は不完全な生物”と捉えるクローネンバーグらしい視点。口から溶解液を吐き出し、天井や壁を自在に這いずり回る主人公の姿をおぞましいだけではなく、その機能美を讃えるかのように映しだす所にも顕著。最終的に転送機とも融合してしまう主人公の無残な姿ですら、昆虫と機械の究極の融合のように捉えている。
完成度の高い物悲しい作品なら本作以外にいくらでもあるが、この独特の味わいは本作でしか味わえない。
クローネンバーグ作品の主演と言えば、ヴィゴ・モーテンセンやジェームズ・ウッズ、ピーター・ウェラーなど、自分自身にも似た人間的な温かみを感じられない爬虫類顔の俳優を多く使っているのだが、本作の主役は『ライフ・アクアティック』『インデペンデンス・デイ』のジェフ・ゴールドブラム。その流れからは外れる顔立ち。なんていうか、濃い。ただ、それが違和感かと言えば、全くそんなことはない。如何にも数学に強そうな理数系顔プラス、昆虫系顔のジェフ・ゴールドブラムは、登場と同時に既に遺伝子レベルで蠅と融合してしまっているかのような違和感のなさ。
相手役には、ジェフ・ゴールドブラムと本作の後ほどなく結婚することとなる、『ロング・キス・グッドナイト』のジーナ・デイヴィス。『テルマ&ルイーズ』で大ブレークを果たしてからは、本作ではジェフ・ゴールドブラムと一緒だったから目立たなかったその長身を活かしたゴージャス感溢れる美人女優となるのだが、本作ではまだまだ垢抜けない大造りな女優って感じも。その他に、出演する時は医者役が多い気がするクローネンバーグ自身が、嬉々として産婦人科医を演じてたのも印象的。
余談ではありますが、“スター・トレックシリーズ”や『ギャラクシー・クエスト』でもお馴染の“物質転送装置”なんですが、如何せんSFに疎いんで憶測で話をしますが、それって物質を一旦分子レベルまで分解して、その構成を数値データとして転送して、再構成するんですよね?転送されるのは数値。例えるなら、“砂糖大サジ2杯、醤油大サジ1杯、酢大サジ1杯”みたいなレシピが。てことは、見た目も中身も完璧に同じものが再構成されるんでしょうが、性格とか記憶とかの物質以外のものはどうなっちゃうんだろ?ま、ホント余談でしたが。
“その人の事をどこまで愛し続けられますか?”と投げかけられているようにも
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わーい。
大好きな映画ですってば。これ。
見終わった後、なんて美しい愛の物語かしらと、ジーンとした覚えがあります。
ジェフ・ゴールドブラムは確か翌年(ぐらい?)アカデミー賞にプレゼンターとして出た時司会に
‘Mrジェフ=ハエ男=ゴールドブラム‘
って紹介され、いやー、本国でもやっぱインパクト大だったんだなーと感心しました。
美しい愛の物語を味わいつつ、なんとも妙な余韻を残す作品ですよねぇ。
ジェフ・ゴールドブラムって、これ以上のハマり役ってないような気も^^;