第９地区 (District 9)

監督　ニール・ブロンカンプ　主演　シャールト・コプリー
2009年　アメリカ／ニュージーランド／南アフリカ映画　111分　ＳＦ　採点★★★★

強いメッセージ性なりテーマ性を持った作品を観た直後こそ、そのことに対し色々と思いを馳せるもんですが、如何せん日々だらだらと過ごしていると、あっという間にそんなことも忘れてしまうもので。今となっては遠いルワンダのことなんて思い出す事なんてないんですが、ＴＶなりビデオ屋なりで『ホテル・ルワンダ』を見かけると、ふと思い出すことも。そう思うと、映画って形で残るのって良いもんだなぁと。



【ストーリー】
８０年代初頭、南アフリカのヨハネスブルグ上空に、突如巨大なＵＦＯが故障により漂着。政府は已む無く彼らを難民として受け入れることに。それから２０数年後、スラムと化した難民キャンプ“第９地区”から新たな居住地へ異星人たちを移転させるため、超国家機関ＭＮＵのエイリアン対策課のヴィカスがキャンプを訪れるが、ひょんなことから謎の液体を身体に浴びてしまい、衝撃的な変異が彼を襲うことに。



アパルトヘイト政策真っ盛りの南アフリカに漂着してしまった異星人の境遇と、とんだ災難に見舞われる小役人の姿を描いたＳＦ。監督は新鋭ニール・ブロンカンプ、製作を『ラブリーボーン』のピーター・ジャクソンが担当し、全面的にバックアップ。
きっかけは簡単な事だったのかも知れない。それこそ『エイリアン・ネイション』を観て、「アメリカだったら、あくまで理想上の信条だろけどエイリアンを“移民”として受け入れるんだろうなぁ」「じゃぁ、南アフリカだったら？」、ってくらいに。ただ、その“もし”っていうＳＦマインドを、忠実かつ徹底的に突き詰めて物語を構成した手腕は立派。
巨大な円盤が空中に静止し、その下で虐げられ搾取され続けたことによって諦めムードに支配された異星人らが群居するスラム街を映し出す強烈な映像のもと、モキュメンタリーの手法で、若干込み入った状況設定と人物の性格描写をすんなりと消化する導入部から、ストーリーへの移行のスムーズさに、まず驚かされる本作。最底辺に更なる底辺をはめ込むことで、南アフリカのみならずアフリカ全体が抱える問題をより明確にする強く重いテーマ性を持ちながらも、ちょっとした疾走感のある娯楽作としての側面を持ち合わせることが出来たバランス感覚も秀逸。「そこに着ぐるみが立ってんじゃね？」と思わせるほどの実存感を感じさせる異星人のエフェクトも、見事の一言。



悪意のある犯罪ももちろん性質が悪いが、本人に悪意の全くない犯罪ってのは更に性質が悪い。それが複数の人間によって役割分担される職務となり、罪悪感までも分担された揚句に慣れに埋もれてしまうと、尚更悪い。
本作の主人公であるヴィカスは、まさにそれ。ある意味、人間の代表。彼には、差別の意識も罪悪感もない。彼にとって異星人は、そこらで這いずり回っている虫と変わらない。これから産まれてくる異星人の赤子を平然と殺せるのも、職務として代々“みんなそうやってきた”ことだし、そもそも虫を殺すのに差別の感情はいらない。一見バディ映画風のクライマックスを迎える本作だが、もちろんバディ映画なんかじゃない。だって、ヴィカスは異星人の事をバディなんて思ってもいないし、彼の行動は全て彼自身の為に行っているに過ぎない。そんな地位こそあるが小役人の代表格のようなヴィカスが迎える最大の天罰が異星人との同化のようにも思えるが、案外そこではなく、その一歩手前、異星人も姿形が違うだけで人間と同じく知性と感情を持つ生き物であることに、ようやく気付いてしまう瞬間なのかもしれないですねぇ。


アパルトヘイトも、建前だけは立派で

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Comments

TB ありがとうございます。

設定の妙が効いていて
面白かったですね

最後のアクションもすごくて
見ごたえありました

Posted by リバー at 2010年09月07日 16:01

トラックバック有難うございました
こちらからもと思ったのですが
エラーになってしまいますので
コメントで失礼します

素晴らしい作品でしたね
アイデアも秀逸で低予算とは思えない映像でもありました
人間とエビたち…どちらがより野蛮なのか、みていて顔をしかめてしまいました
大抵のSF映画はエイリアンが上から目線ですが、人間が上から目線というのは珍しい気がします

Posted by maki at 2010年09月07日 16:04

いろんな意味で期待してて、その期待を裏切らなかった映画です。
メッセージは人によってどの程度重く受け止めるかが違うと思いますが、それを抜きにしてもよくできていたと思います。
エイリアンの造形、動きなどとても気に入りました。

Posted by KGR at 2010年09月07日 16:13

今年を振り返ったときにまず浮かぶ、お気に入りムービーです！
後半の怒濤の娯楽っぷりが楽しすぎました。

完全に異星人の姿になったヴィカスは、
人間の姿であったときよりも穏やかで幸せそうに見えた・・ような気がします。

Posted by kenko at 2010年09月07日 19:08

アパルトヘイト真っ盛りだったかどうかは定かではないですが、小面倒くさいこと言わずに、素直に面白かった！というのが感想でした。
只今上映中の「特攻野郎Aチーム」に、ヴィカスが出てて、なんか嬉しかったです。
さっそくハリウッドに目をつけられたみたいで。

Posted by sakurai at 2010年09月07日 20:36

こんばんは！
小役人ヴィカスに、嫌だな〜と思いつつ他人事じゃないような気がして思わず応援してた（苦笑）
苦味を娯楽で包んで疾走する、いろいろビックリの映画で面白かったです♪

Posted by りどる at 2010年09月08日 00:06

リバー様、こんばんは！
アイディアからの膨らませが見事でしたよねぇ。娯楽性もきっちりと盛り込んでるのもいい！

Posted by たお at 2010年09月08日 02:11

maki様、こんばんは！
ご迷惑かけて、すいません。。。
人間とエビ。立場を変えても、もしかしたら同じことが起きるかもしれませんねぇ。生き物そのものの習性として・・・。

Posted by たお at 2010年09月08日 02:13

KGR様、こんばんは！
テーマの押し売りじゃなく、「映画なんだから、まずは楽しめや！」って姿勢って大事ですよねぇ。

Posted by たお at 2010年09月08日 02:14

kenko様、こんばんはー♪
＞人間の姿であったときよりも穏やかで幸せそうに見えた
なんか、星新一とかのショートショートにもありそうな締めでしたねぇ。

Posted by たお at 2010年09月08日 02:15

sakurai様、こんばんは！
80年代初頭に設定されたオープニングに、「あぁ、よりによってその時代のその場所かぁ。。。」と。

Posted by たお at 2010年09月08日 02:17

りどる様、こんばんはー♪
ボロカスに書いてはいますが、ヴィカスって結局みんなと同じなんですよねぇ。「そういうもんだ」って教わって育った環境にいれば、誰も罪悪感なんて感じませんし。

Posted by たお at 2010年09月08日 02:18

おお、やった！レビューありがとうございます。

異星人の異形さに気をとられがちですが、ヴィカスのキャラクターこそが、実はこのフィルムの肝である気も致します。エンディングも良かったですね。

Posted by sheknows at 2010年09月08日 08:40

>その一歩手前、異星人も姿形が違うだけで人間と同じく知性と感情を持つ生き物であることに、ようやく気付いてしまう瞬間なのかもしれないですねぇ。

相手の立場に立って考えるって
難しいのだと思いました。
本当にエイリアンになってみないと分からない．．．．

この映画でそういうこと学んだような気がするのですが
日常生活に戻るとやっぱり自分の立場でしかものを考えられない私がいたりします。

Posted by vic at 2010年09月08日 09:54

sheknows様、こんにちはー♪
いやぁもう、休み過ぎちゃってイマイチ調子が戻ってないサブタレですが、今後とも是非長い目で＾＾；
にしてもこれ、もうエイリアンでなくてもいいんですよね。ヴィカスがちゃんと描かれてるんで。

Posted by たお at 2010年09月08日 14:24

vic様、こんにちは！
まず間違いなく忘れちゃうんですが、もう一回観ると思い出す。もう2度と観なくても、誰かが観れば同じような思いを持ってくれる。そういう意味でも、映画として残るってすごいなぁと。

Posted by たお at 2010年09月08日 14:25

初めまして。
ＴＢありがとうございます〜こちらからもさせて頂きました。（ＴＢすごい数でびっくり）
「第９地区」面白かったですね。
この映画とは全然関係ないですけど、
ブログ右側のネコちゃん、かわいいですね〜。
思わず、しばらく眺めていました。
あ、この映画とは、猫缶・・って共通点がありますね？

またお邪魔させて下さいね。

Posted by つるばら at 2010年09月08日 17:05

つるばら様、こんばんは！
面白かったですねぇ、コレ。
で、ネコ。
もっぱらカリカリ食わせてるんでネコ缶はなんかのお祝いですが、まぁよくネコでますｗ
今後とも、よろしくお願いしますー

Posted by たお at 2010年09月08日 22:32

こんばんは♪
面白かったですね〜(^^)
それにしても、ヴィカスはほんとに自分勝手な人間で、ちょっと他の人（エイリアン？）のことを考えれば助かったのに、自分のことだけしか考えてなかったことで逆に墓穴を掘っていく様子がなんともなさけなかったです。なので、最後のほうでは可哀相でしたけど、ちょっと見直しました。　……３年後にちゃんと人間に戻れるといいんですけどね(^^;)

Posted by りら at 2010年09月09日 21:26

りら様、こんにちはー♪
３年後、戻ったら戻ったでエビの星で人間一人って状況になんなきゃいいですけど＾＾；

Posted by たお at 2010年09月10日 13:02

>バランス感覚も秀逸
たおさんが書かれているように、重いテーマなのに娯楽作品としての魅力を兼ね備えているところが、なによりも気に入ったポイントでした。
“映画”として楽しく見ることに罪悪感を覚えずに済みました♪

Posted by 哀生龍 at 2010年10月10日 11:39

哀生龍さま、こんばんはー♪
その国特有の特質じゃなくて、人間の本質のようなものをエグイ描写で描いている一方、痛快なSFアクションにも仕上がってるんですよねぇ。なんか、難しい授業なんだけど、先生の話が面白いんで聞き入っちゃううちに覚えちゃうみたいな感じ。

Posted by たお at 2010年10月11日 01:52