1976年 アメリカ映画 134分 パニック 採点★★★★★
これだけ“映画好き”ってのを公言してますと、「何で好きなのー?」「最初に観たの何ー?」と決まった質問を必ず食らうことに。で、必ず答えに窮する。別に覚えてないわけでも隠してるわけでもないんですが、まぁ多少は忘れてますが、『ニュー・シネマ・パラダイス』が公開されてからは、何となく答えるのが恥ずかしくなってきまして。というのも、私が子供の頃祖父が実家の前で田舎の小さな映画館をやってまして、映写室やら客席やらが普段の遊び場だったんで映画を嫌いになる要素が全くないんですが、あの映画以降素直にそう答えると、なんともネタっぽい。「隣町出身の今は亡き某大物歌手が、若い頃そこでフィルム運びのバイトしてたんだよー!」とかネタじゃないことを必死に説明すればするほど、さらにネタっぽくなっちゃうし。そんなんで、「何で好きか?」の問いには「一家全員好きだから」と濁し、「最初のは?」には実際TV代わりみたいなもんだったので正直に「覚えてないよ」と。ただ、こんな後戻りできなくなるくらい映画好きになったきっかけとなった映画は、しっかりと覚えてるんですけど。それが、ジョン・ギラーミンの『キングコング』。
【ストーリー】
石油会社ペトロックスのウィルソンと船に忍び込んでいた動物学者プレスコットら一行は、新たな油田を求め、常に濃い霧に隠された謎の島スカル島に向かっていた。途中遭難した船からの生存者である売れない女優ドワンを乗せ、スカル島に辿り着いた一行は、その島で神と崇められる巨大な猿と遭遇し…。
その昔、この映画に合わせて子門真人が「キングコングは王さまだー♪」って歌ってた記憶もぼんやりとある、1976年正月に公開され日本でも大ヒットした本作。1933年に製作された古典『キング・コング』を、『タワーリング・インフェルノ』『ナイル殺人事件』のジョン・ギラーミンが監督を務めリメイク。「どや!等身大のコング作ったぞ!」ってのが話題に。
主人公ら一行が、映画のロケ隊から石油会社の採掘隊になったのが最大の変更点である本作。それにより、企業による自然破壊や途上国を食い荒らす現状が明確となり、企業の宣伝の為という一方的な理由で連れてこられるコングの悲壮感が強く伝えられている。ちょっと残念な思考回路の持ち主である女性に振り回されながらも、一途な想いを貫き通すコングの男気描写も満載。そんなコングが、悲壮感をまとった男気を全開にするクライマックスは涙なくして観られない見事な物なのだが、如何せんそこまでがダレる。オリジナルに忠実なはずなのに、時間は倍になっていたピーター・ジャクソン版『キング・コング』も相当なものだったのだが、本作も相当なもの。コング以外は大蛇一匹しか出てこないなんとも寂しいスカル島での描写が、非常にマッタリ。まぁ、演出こそ平板ではありますし、血沸き肉躍る大アドベンチャーを期待すると大いに肩透かしを食らうことにはなりますが、エロ顔晒したコングがドワン相手に「アハハー、ウフフー」とデレデレ戯れる描写だけは満載なので、楽しいっちゃぁ楽しい。コングの一方的だが一途な想いと、それに起因する利用されやすい悲しい男の性がひしひしと伝わりますし。
「これが等身大コングだー!」ってのが売りのはずなのに、いざ出てきてみれば腕しか動かない木偶の坊っぷりに大いに驚いたのも、今では良い思い出。六尺のおおいたちに騙されたようなものですね。映画ってのは、ホント見世物なんだなぁと。ジェット戦闘機を鷲掴みにするポスターにも、「出てくるの、ヘリじゃん!」と大いに騙されましたし。
で、その木偶の坊以外は猿スーツによるコングが大活躍。アカデミー賞では『エイリアン』のカルロ・ランバルディが受賞をしたが、実際に製作しスーツアクターもこなしたのは当時新進気鋭の特殊メイクアップアーティストで、今では猿芸人の第一人者として知られる『マイティ・ジョー』のリック・ベイカー。あれこれ色々あって、エンドクレジットのトップに名前が挙がる事に。
そのリック・ベイカーによる表情と感情豊かなコングが、やはり本作最大の見所。島民全てに畏怖される神として君臨していた誇り高き生物であった筈が、その場その場の力関係で優位に立つ男ばかりを渡り歩くような女に惚れてしまったばかりに、全ての尊厳を奪われただの見世物へと身を落とし、叶わぬ恋であるにもかかわらず惚れた女の為に身を挺し傷つき死んでいくコング。今は亡き貿易センタービルの屋上で、自らの命綱でもあるドワンを彼女の身を守るために手放し、攻撃ヘリを前に立ちはだかるコングの姿には、もう号泣。冷静に考えれば、とても命をかける価値があるとは到底思えない相手だからこそ、一層コングの武骨さと不器用さと一途さが浮き彫りになって、号泣。男って生き物は、なんでこんなにバカなんだろうと。この結末を台無しにし、「ん?クィーンコングって、まさかリンダ・ハミルトンのことじゃないよな?」と観る者の首を傾げさせた『キングコング2』ってのもありましたが、まぁそこは大目に見て頂ければと。もちろん、こんなコングの姿に心を動かされない男性諸君もいるんでしょうが、きっと良い女性関係ばかり経験してきたんでしょうねぇ。あー、羨ましいったらありゃしない。
同じような毛だらけの顔を持ちながらも、頭より先に身体が動く体育会系コングに対し、まずは考えてしまう文系主人公のプレスコットに扮するのは、『サンダーボルト』『800万の死にざま』のジェフ・ブリッジス。その眼差し同様に柔らかい物腰と、滅多に激情に囚われない冷静さを持つ主人公を好演。ドワンと自分の将来を考え、きっぱりと身を引こうとするその冷静さは、是非とも見習いたい。
一方ドワンに扮するのは、今では大女優である『ブロークン・フラワーズ』のジェシカ・ラング。「キングコングの恋人ー!」と揶揄され相当苦労したようだが、それだけ空っぽのドワンを見事に表現した彼女の実力が凄かったって証とも。当時、字なんて全く読めなかった私でさえ、劇場で「なんだこの女!」と相当イライラした記憶がありますもの。辛うじて字が読める今でさえ、相当イライラしますし。そんな脚光を浴びる事を夢見、なんら悪気もなく自己中心的な本能で男を渡り歩く彼女が、その夢を叶えフラッシュを全身に浴びるのが、愛する者と愛してくれた者を同時に失った瞬間である皮肉が強烈。まさに、スターの代償。ラブストーリーの一面を成立させると同時に、救いのない悲劇として本作を締める事が出来たのも、一見空虚なキャラクターであるドワンを、しっかりと肉付けした空っぽの女性として表現したジェシカ・ラングの実力があってからこそではと。
『ベートーベン』『デーヴ』のチャールズ・グローディンや、『スターシップ・トゥルーパーズ2』『ロンゲスト・ヤード』のエド・ローター、やたらと男前でビックリした『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』『ローグ アサシン』のジョン・ローンなども登場する本作。オリジナルとの対比やその如何ともしがたいマッタリ感に、冷静な評価としては★3つくらいが妥当なのかも知れないが、コングの男としての生き様と、やっぱり初恋の人はボロクソに言えないってのもあるので、この評価。
冷静になれるんだったら誰も苦労しない
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