2010年08月09日

アンブレイカブル (Unbreakable)

監督 M・ナイト・シャマラン 主演 ブルース・ウィリス
2000年 アメリカ映画 107分 ドラマ 採点★★★★★

ついこの間まで鼻水垂らして遊び呆けてたのに、気づいたら人生概ね半ばを過ぎた立派なミドルエイジマンになってた私。どおりで最近眉毛が無軌道に伸びてくるわけだ。で、この歳になってもほぼ毎日のほほんと過ごしている私なんですが、寝床に入る時にふと「このまんまで人生終わっちゃうのかなぁ?こんな大人になる予定だったっけかなぁ?」と頭をよぎる事も。そうなると昔の事やら何やらかにやらが頭の中を駆け巡り、しまいには「産まれた環境で、概ね人生決まるよなぁ」とか柄にもない事まで考え始め収拾が付かなくなり、もう寝れない。そんな時はまぁ、素直にベッドから出て、ぐっすりと眠ってるネコをわしゃくしゃいじくり倒して気晴らしをしてるんですけど。

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【ストーリー】
乗員乗客131名が死亡する凄惨な列車事故から、唯一無傷で生き延びたデヴィッド。人生そのものに疑問を感じていたデヴィッドは、「なぜ、自分だけが助かったのか?」と悩むが、そこへ奇妙なメッセージカードが届き…。

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シックス・センス』の大成功で一躍時代の寵児となったM・ナイト・シャマラン。しかしながら、その『シックス・センス』の結末があまりに衝撃的だった為か、作る映画作る映画すべて結末ばかりに注目を集め、そこに至るまでの時間をないがしろにして「ビックリしなかったから、つまんねぇ映画」と不当な評価を受けることに。そんなにビックリしたいなら、お化け屋敷にでも行けばいいのに。その『シックス・センス』直後だけに更に不当な評価を受けた感のある本作だが、これはもうシャマラニスト必見の傑作
沈痛な面持ちの登場人物がヒソヒソと喋る様をゆったりとしたカメラワークで収める、いつものシャマラン演出で描かれる本作。青を基調とした画面の中、登場人物の性格や属性を相反する色を使用して表現するのも、非常にシャマラン的。その中で描かれているのは、スーパーヒーローとスーパーヴィランの誕生の瞬間。言うなれば、ブルース・ウェインがバットマンに、売れないコメディアンのジャックがジョーカーになった瞬間、あるいはレックス・ルーサーとスーパーマンが初めて対峙する瞬間である。そんな劇的な瞬間を、それこそビッグバジェットでド派手な爆発と共に描かれそうなテーマを、シャマランは淡々と日常で起きた物語として描いている。スーパーヒーローとなってしまった当の本人の戸惑いは、別に世界中を巻き込むわけではなく、あくまで彼自身と彼にとっての世界である“家庭”、そしてほんのちょっと周囲に変化を与えるだけである。
後の『サイン』同様、大規模である出来事をミニマムな世界で描いた本作に、物足りなさを感じてしまった方も少なくないであろうが、シャマランが描きたいのは当事者達の葛藤であり、決して世界を股にかけた大アクション活劇ではない。その点に於いて、このアプローチは正しい。まして、本作でシャマランが描いているのは、ヒーロー譚だけではない。

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自分の存在意義を見出せず、漠然とした「何かが違う」という思いだけが募り続ける、主人公デヴィッド。それは彼本人のみの問題であるのにもかかわらず、その違和感から妻とも子供とも距離を置いてしまう。そんなデヴィッドの姿は、ミドルエイジクライシスに陥った中年男そのもの。どこにでもいる、普通の中年男だ。そんな彼を中心に、夫の選択に自責の念を感じ、離れゆく夫の心を繋ぎとめる方法が浮かばない妻、子供にとって父親はそこらの大人と違う“特別な存在”であって欲しいという願いを体現する息子。その3人の家族の姿を丹念に描き込むことで、家族の再生の物語を強く打ち出している。特に、息子の父親への思いを事細かに描いたからこそ、父親の本当の姿を知った息子の驚きと喜びの表情に、胸が熱くなるのである。
デヴィッドが見出した自分本来の姿は、スーパーヒーロー“セキュリティ”。確かにそこはファンタジーだ。「実はオレ、スーパーヒーローだった」なんて経験、そうそうあるもんでもない。しかし、デヴィッドの物語の部分に於いては、“スーパーヒーロー”はさして重要でもない。知らず知らずのうちに人を助ける仕事に就いていたデヴィッドの天職が“スーパーヒーロー”だっただけで、それが“教師”であろうが“ラーメン屋の店主”であろうが、デヴィッドにとっての天職である限りは、家族再生の物語であるデヴィッドのパートは、充分に成り立つ。

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本作が“家族の物語”だけを描いているのであれば、登場時間も長いしクレジット順もトップのブルース・ウィリスが主役で問題はない。しかし本作は、“スーパーヒーローの誕生”というファンタジーをも描いている作品。一般的な家庭の日常に入りこんで来た“スーパーヒーロー”という非日常に対し、主役であるはずのブルース・ウィリスは翻弄されているだけである。ヒーローとして立ち上がるのも、促された結果である。物語も語っていない。それもこれも、本作に於ける非日常の象徴であるサミュエル・L・ジャクソン扮するイライジャこそが、真の主役だからである。
骨を作るたん白質が形成されない奇病を患うイライジャ。「自分がこんな体に生まれたのには、何か理由があるに違いない」と、自分の存在理由に悩む姿は、デヴィッドと概ね同じである。ただ、イライジャは自ら行動を起こす。自分の存在理由と、自分と対極にある存在を探すために。その方法は大きく間違っているが、定められた運命に抗うことが出来ないのであろう。
このイライジャの物語は、あまりに悲しい。自分の対極の存在を探す事が、自分の存在理由を知る唯一の方法であるイライジャ。大罪を犯してまで得た答えが、“自分はスーパーヴィラン”であり、“ようやく得た友が自分を打ち倒す存在”という、全く望まない物。それを、一片も惜しむことなく愛情を注いでくれた母親もいる空間内で自ら認めなければならない結末は、あまりに悲痛だ。
この二つの軸を巧みに織り込み、主人公の逆転も難なく成し遂げたシャマランの脚本は見事。『サイン』同様、笑っていいのかダメなのか分からなくなるシャマランギャグも効いていて、シャマラニストには堪らない。シャマラン自身が大のお気に入りであるという本作。一時は続編製作の噂も流れたが、そんな話ももうどっかへ。相変わらず新作のプロジェクトがあれこれ動いているようですが、なんとかその中に『アンブレイカブル2』をねじ込んで頂けないものかと。

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特技が“怪我をしない”という、一見地味だが考えてみればウルヴァリンと一緒であるデヴィッド・“セキュリティ”・ダンに扮するのが、『サロゲート』『16ブロック』のブルース・ウィリス。シャマランの前作『シックス・センス』から引き続きの登場だが、今回も沈痛な面持ちでヒソヒソ喋ってるので、受ける印象は概ね一緒。
一方、“骨折”という選べるんだったらご遠慮したい特技の持ち主であるイライジャ・“Mr.グラス”・プライスに扮するのが、『スネーク・フライト』『フリーダムランド』のサミュエル・L・ジャクソン。シャマラン映画と言う事もあってか、相手を圧倒するいつものサミュエル説法は随分と控えめだが、内面の歪みを表現したような変なズラで熱演。流石、ズラ芸人
大人の女性にしては若干都合のいい描き方をされてた気もする、『ステート・オブ・グレース』『50歳の恋愛白書』のロビン・ライト(・ペン)や、拳銃を握り締め「お願いだから一発撃たせて!」と、純粋なんだか邪悪なんだかいささか不明な息子役を演じた、『グラディエーター』のスペンサー・トリート・クラークらも、印象に強く残る。そう言えば、初めてスペンサー・トリート・クラークを見た時、「この子、ジュリアン・ムーアの隠し子なんじゃね?」と訝ったのも、今となってはいい思い出ですねぇ。
で、お待ちかねのシャマラン。本作でももちろんヌケヌケと登場するシャマランだが、まだ監督三作目ということもあってか、遠慮がちに小さな役で登場。ここからどんどん登場時間も重要度も増していき、しまいには『レディ・イン・ザ・ウォーター』で劇中唯一の二枚目役を自ら演じてしまう俳優シャマランですが、聞く所によると最新作の『エアベンダー』には出ていないとか。遂にキッパリと「ダメ!」って言われちゃいましたか?

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それっぽいコスチュームを手に入れないとなぁ

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posted by たお at 02:55 | Comment(2) | TrackBack(0) | 前にも観たアレ■あ行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この作品、昨日見ました。

たおさんはシャラマニストなんですね。私はシャラマンにあまり詳しくないんですけど、今作はなんとなくこれがシャラマン流なんだろうな〜…と不思議な世界に浸ってました。
題材が面白いし、近代的映像の中に人生とは?自分の存在意義とは…等の深みのある内容ももりこまれていて良かったと思います。
何処までが実話だかわからないけどこのストーリーと展開は斬新ですよね。

ラストも私は驚きました。サミュエルが良い存在感をだしてましたね。
Posted by ソク at 2010年09月22日 17:15
ソク様、こんにちは!
思い付きで使い始めた“シャマラニスト”って適当な言い回しが、いつの間にやら徐々に浸透し始めちゃいましたねぇ。“ベッソニズム”はさっぱり浸透しないので、もう少し連呼してみようかとw
で、本作。個人的には「これぞシャマラン!」って作品なんですが、なんとも評価は低く。。。「続編作りたいー!」ってシャマランの声も、封殺されちゃってるようですし^^;
Posted by たお at 2010年09月23日 11:45
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