1990年 アメリカ映画 90分 ホラー 採点★★★★
ゾンビが走れば、そりゃぁ怖いに決まってる。というか、走って追っかけてこられれば、もうゾンビじゃなくても怖いですし。曲がり角からこちらへ向かって、二足歩行の赤ちゃんが一心不乱に走ってきたら、間違いなく一旦逃げます。やっぱりゾンビはウスノロで、そののろさに油断かましていると知らんうちに囲まれてしまっちゃうという、もう責任の所在が自分にしかない遣る瀬無さが怖いんですよねぇ。
【ストーリー】
兄と共に母の墓参りにやって来たバーバラ。そこに突如現れた奇怪な人物に兄は襲われ、バーバラは命からがら一軒家に逃げ込む。ほどなくその家に逃げ込んできたベンの口から、恐ろしい真実が語られる。「死者が蘇って襲ってくる」と。やがてその家は、生ける屍たちに囲まれ…。
モダンゾンビの誕生作でもある傑作『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生』のリメイク。特殊メイクアップ界の鬼才トム・サヴィーニが初監督作を務め、オリジナル版の監督であるジョージ・A・ロメロが脚本と製作総指揮を務める。
“『死霊のえじき』や『悪魔のいけにえ2』で、凄まじいまでの人体破壊を繰り広げたトム・サヴィーニが初めて監督を務める!しかも、ゾンビ!”となれば、画面上のどっかで常に人体が壊れちゃってる作品になってるのではと想像してしまうが、本作には、そんな映画の流れや雰囲気をないがしろにしてまで出しゃばるゴア描写はない。というか、必要がない。必要がない物は撮らない、トム・サヴィーニの初監督とは思えぬ作品コントロール術が素晴らしい。
度々書いてしまってるが、ゾンビ映画の真の恐怖の対象はゾンビではなく、異常な状況下におかれた人間の行動が怖い。それを知り尽くしたロメロとトム・サヴィーニによる本作は、オリジナル同様シンプルに練り上げられた無駄のないストーリーを、丁寧に丁寧に撮り上げている。少人数であっても協力し合えない登場人物らが、パニックのあまり些細なことすら見落とし、その結果更なる混乱と困難を生み出していき、最終的に争い合ってしまう。そんな剥き出しとなった人間の本性とその変移を、無駄なく効果的な人物描写を基にスムーズかつ違和感なく描いた手腕も見事。ゾンビこそ出ていないが、それでも素晴らしい“ゾンビ映画”だった『ミスト』もそうなのだが、“この人はどんな人?”をさらりと分からせる無駄のない人物描写が出来ている映画ってのは、観ていて物語に没頭できて良いもので。
オリジナルからいくつかの変更を施した本作。中でも大きく変更されたのが、エンディングとバーバラの人物像。
オリジナルではひたすら騒がしいだけだったバーバラも、時代の流れか、本作では誰よりも頼もしい強さを持つ女性に変貌を遂げる。それも決して闇雲な強さではなく、正気と狂気の間をふらつきながらも辛うじて踏ん張っている不安定さが、誰を頼りにして良いのか分からない本作にぴったりマッチしている。そんなフラフラとした変貌を、しっかりと演じきったパトリシア・トールマンは見事。さりげなく身体を張った演技も、さすがスタントウーマンとして活躍しているだけある。ショートカットに凛とした顔立ちなんて、モロ好みですし。『デビルズ・リジェクト〜マーダー・ライド・ショー2〜』のビル・モーズリイじゃなくても、「バ〜バラ〜」って追っかけたくなる。
高貴な顔立ちを歪ませて常に涙目だっただけに、なにやら腹の底に鬱屈を溜めこんでいる感がヒシヒシと伝わった『キャンディマン』のトニー・トッド扮するベンと、明らかな言動には出さないが、南部の上流階級には未だ根強く残る人種差別意識がプンプンと臭い出している『デビルズ・リジェクト〜マーダー・ライド・ショー2〜』のトム・トウルズ演じるハリーが迎える結末も、オリジナルと大きく異なるが、伝えようとしている事は然程変わらない。と言うよりも、ベトナム戦争と人種問題が色濃く出ていたオリジナルから20年以上経ってもなお、さっぱり変わっていない人間をより冷徹に見つめているような気さえ。
俳優陣も素晴らしいが、もちろんゾンビも素晴らしい本作。なんと言っても、ゾンビが非常にゾンビらしい。やっぱり、死んだ時の様子が伺える、それぞれが個性とドラマを背負っているゾンビってのは良いですよねぇ。
にしても、若造役で出演していたウィリアム・バトラー。今では監督や脚本家として活躍しているようだが、本作のように素晴らしいゾンビ映画の現場を経験しておきながら、書いた脚本が『バタリアン4』と『バタリアン5』ってのは、如何なものか。もう一度勉強し直すように。
ゾンビに囲まれるより、人に囲まれる方が怖かったり
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