００７／慰めの報酬 (Quantum of Solace)

監督　マーク・フォスター　主演　ダニエル・クレイグ
2008年　イギリス／アメリカ映画　106分　アクション　採点★★★

えてして、「気にしてないよ」って言う人に限って気にしてるし、「根に持ってないから」って言う人は結構根に持ってるし、「怒ってないから」なんて言い出したら最後、すっごく怒ってるんですよねぇ。その辺を見抜けたらいいんですが、往々にして見抜けないんですよねぇ。で、こっぴどく怒られる。



【ストーリー】
愛するヴェスパを亡くしたボンドは、復讐を果たすべく調査を開始する。調査を進めるうちに、世界中の有力者や諜報機関を取り込む巨大組織の存在を突き止めるのだが…。



前作『００７／カジノ・ロワイヤル』の直後から物語が始まり、上映時間もシリーズ最短という異例づくしの００７最新作。監督は、『ステイ』のマーク・フォスター。
高級服で颯爽と高級外車を乗り回し、どんな困難な状況でも強大な敵を前にしてもユーモアを忘れず、会社の金で世界中を飛び回り、常に美女に囲まれる。そんな“男の夢”の塊であったジェームズ・ボンド像の徹底破壊することで、新生００７映画の構築を目指した前作。００７映画に何を求めるかにもよるのだが、“ボンド・ザ・ビギニング”的変化球として、存分に楽しむことが出来た。で、本作。「多少はボンドっぽくなってるだろう。少なくても、ボンド４級くらいには」と期待をし観賞したのだが、まだビギニングの途中のようで。
ジェイソン・ボーンシリーズの影響下にあるのか、今回もリアル志向と無駄の排除が施された本作。原理がわからないハイテク秘密兵器や、海底からザバザバザバーっと出てくる秘密基地なんかは、もちろん存在しない。そこにいるのは、やたらと顔を傷だらけにしながら復讐に燃える“人間ボンド”と、生活圏に隣接した拠点で諜報活動を行うスパイの姿。上映時間の短さもあって、物語は寄り道せず、派手なアクションが要所要所に挟まれる軽快なテンポで進む。“スパイアクション映画”としては、十分に及第点となる出来である。ただし、“００７映画”となると、また話は別。“無駄の美学”とも言うべき、らしさが感じられない。
もちろんこれも、“００７映画に何を求めるのか？”によってしまうのだが、他の“スパイアクション映画”と“００７映画”が目指している地平は、似て非なる物なのではと。なんと言うか、ジャック・ジョンソンの新譜とストーンズの新譜に求めているのは同じじゃないというか、醤油ラーメンと味噌ラーメンの違いというか。なんか、かえって分かりづらい例えになっちゃいましたが、まぁ美味い味噌ラーメン食べたのに、食後の印象が「あぁ、今の醤油ラーメン美味かったなぁ」じゃおかしいでしょ？みたいな感じで。



本作に、そんな“００７映画を観た満足感”が少ない大きな要因の一つが、最近のシリーズでも顕著だった悪役のスケール感のなさ。
血の涙を流すも、別にそれをピューっとボンドに飛ばすわけでもないル・シッフルのスケールの小ささが気になった前作ではあったが、本作では今後ボンドが全面的に対決するであろう組織の存在が、いよいよ明らかになる。スペクターにも匹敵する、不安定な世界情勢を利用し暗躍する組織で、ル・シッフルなんて所詮出納係の一人に過ぎなかったとなれば、おのずと期待してしまうのだが、出てきたのは出納係主任。いつになったら、部長クラスが出てくるんだろう？
もちろんそこに組織としてのリアルさを出したかったのかも知れないが、最終的にやたらと爆発ばかりするホテルを舞台に肉弾戦を繰り広げてしまうのでは、そのリアルさに意味はなし。演技力重視で『ミュンヘン』のマチュー・アマルリックが起用されたのかも知れないのだが、筋骨隆々のボンドを前にしてしまうと、ベソをかきながらキレまくっているいじめられっこに見えてしまうことも。しかも、自滅するタイプの。
無論細やかな表現力も大事なのであるが、知力戦であれ肉弾戦であれ、出るや否や「さすがのボンドも、今回はヤバいんじゃねぇか？」と思わせるだけの見た目インパクトも、ちょっとばかり重視して頂けたらと。



あれこれ不満も多い本作であるが、前作から引き続きボンドを演じる『ジャケット』『レイヤー・ケーキ』のダニエル・クレイグは、絶品。相変わらず、ジェームズ・ボンドにだけは見えませんが。
ピアース・ブロスナンでもティモシー・ダルトンでもロジャー・ムーアでもなく、ジョージ・レーゼンビーにはちょっと近いが、もちろんショーン・コネーリーではないダニエル・クレイグだからこそ出せる、“殺し屋濃度９０％以上”の凄味が本作に説得力を持たせている。『ボーン・スプレマシー』のＪ・Ｂは、わざわざロシアまで「ゴメンなさい」しに行ったが、こっちのＪ・Ｂはわざわざロシアまで行ってヒモ男に凄んでくる。この辺なんかも、ダニボンならではの見事な味わい。こんなダニボンが放つ異彩は、既存のボンド世界に放り込んでこそ更なる輝きを放つような気もするんですが。
そんなダニエル・クレイグ以外にも、相も変わらず人を見る目がないＭ役に『リディック』のジュディ・デンチ、数少ない常連キャラの一人であるフィリックス・レイター役に『レディ・イン・ザ・ウォーター』『ブロークン・フラワーズ』のジェフリー・ライトが、引き続き出演。
で、お楽しみのボンドガール。『ヒットマン』での脱ぎっぷりの良さが印象的だったオルガ・キュリレンコが演じるということで、脱ぎっぷりの良さとか色々とまぁ期待していたのだが、ハイチの海沿いを舞台にしながらも水着にすらならず。褐色に焼けた肌も、特に似合っているとも。でもまぁ、ジャック・ホワイトとアリシア・キーズによる主題歌のカッコ良さが色々とウヤムヤにしてくれたし、頓挫したままの最新作への応援の意味合いも込めて、採点は甘めに。


後ろ盾は大きいそうで

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Comments

たおさんのラーメンを喩えに出した説明は、上手い！！ 面白い！！ 分かりやすい！！

>いつのなったら、部長クラスが出てくるんだろう？
ボンド的にも、ボンドに相応しい敵的にも、“次こそは？”と思わせて３作目を見てもらう作戦では？
（自分で書いて置ながら、絶対そんな理由じゃないだろうと思っている哀生龍です）

Posted by 哀生龍 at 2010年06月28日 06:04

ね、ねごみみーーー！！！
あ、cnoteのkenkoです・・・
サブタレ復活したんですね。気付くのが遅くてごめんなさい。
しかもネコちゃん、たくさん飼われているようで！

『慰めの報酬』はイマイチだったけど、ダニエルボンドは大好きなので次回に期待しています。

またおじゃまします♪

Posted by kenko at 2010年06月29日 12:39

たおさん、ＴＢありがとうございました。
初めてコメント残させていただきます。
＞ル・シッフルなんて所詮出納係の一人、出てきたのは出納係主任。いつのなったら、部長クラスが？
爆笑しました。ル・シッフルが主任で、本作はぺーぺーって感じでしたけど・・・。
私もクレイグ・ボンドはコネリー、レーゼンビー以来のはまり具合だと思って応援してます。

プロフィールの水浴びにゃんこがカワイイです！

Posted by ryoko at 2010年06月30日 01:54

哀生龍さま、こんばんは〜♪

＞“次こそは？”と思わせて３作目を見てもらう作戦では？
えぇ、間違いなく違うと思いますｗｗｗ

Posted by たお at 2010年06月30日 02:35

kenko様、こんばんはー！

ご無沙汰しておりましたぁ！
知らぬ間にネコが増えてるサブタレですが、今後ともよろしうお願いします。

Posted by たお at 2010年06月30日 02:37

ryoko様、こんばんは！

うちの猫どもも、こんな風に愛らしければいいんですけどねぇ＾＾；
で、ボンド。
次はせめて係長クラスに出ていただかないと。

Posted by たお at 2010年06月30日 02:39

醤油ラーメンと味噌ラーメンの違い……なんとなくわかるような（笑）
確かに敵役はちょっと小ぶりでしたね^^;　００７シリーズの魅力の一つは個性的な敵役だと思っているので、次回はもうちょっと手ごたえのある相手だといいな、と期待してます。

Posted by りら at 2010年07月02日 21:05

りら様、こんばんは〜♪

醤油と味噌の違い、書いてる本人がわかるようで分かっていませんからｗ

Posted by たお at 2010年07月04日 02:03