2016年 アイルランド/イギリス/アメリカ映画 106分 ドラマ 採点★★★★
筋金入りのボンボンが多く集まる中高一貫の男子校に入学するも、田舎者の成り上がり臭が悪目立ちしてしまったせいで、決して幸せとは言えない過酷な中学三年間をようやく終え、高校進学を機に自分を変えようと決心した1985年。スポーツ刈り一択だった髪を伸ばし当時好きだったハワード・ジョーンズ風の髪形にし(「ん?チェッカーズ好きなん?」と何度聞かれ、何度全力で否定したことか)、第二次パンクブームに乗っかり楽器も弾けないのにクラスメイトらとバンドを結成。音楽繫がりでこれまで話をしたこともない、もしくは極力近づこうとしなかった同級生らとも交流が深まり、ついこの間までいたカーストの最下層からようやく脱出することに。
【ストーリー】
1985年、アイルランドのダブリン。父親の失業によって、名門私立学校から荒れた公立学校へ転校した14歳の少年、コナー。学校にも家庭にも問題を抱えたコナーだったが、ある日出会った自称モデルの美少女ラフィーナに一目惚れ。つい「僕のバンドのプロモビデオに出演して!」と彼女の関心を引くため出まかせを言ってしまったコナーは、大慌てでバンドを結成。仲間と共に猛練習を始めるのだったが…。
学校から直帰の生活パターンも変わり、練習スタジオでダラダラと過ごしたりライブハウスを出入りしている内に様々な人と出会ったのもこの頃。30過ぎて独身でギターショップでバイト中の夢追い人という、世間一般的には負け犬扱いだったけど、当時の自分にとっては輝いてた人々や、音楽界隈に巣食うちょっとエキセントリックな女性たち、そんな人たちが集うバーのマスターなど、これまで出会うことのなかった人々とドップリと交わったもので。音楽、映画、料理、酒、アートなどなど、今の自分の知識の発端は全てここにあるといっても過言じゃなし。
「モテんじゃね?」と邪な動機が根底にあったバンド活動でしたけど、案外そんなにモテず。ただ、妙に自信が付いたせいか、女性に対しやたらとアグレッシブになってたのもこの時期。もともと年上が好きってのもありましたが、「どうせ振られるなら」と高嶺の花ばかりに突進していたもので。付き合えたら付き合えたで、相当背伸びしないと釣り合えないので、心身共に疲労困憊しちゃうんですが。
振り返ってみると、1985年を起点としたこの数年間が今の自分の大半を作り上げてることに気付かされること多々。良し悪しは別にして、自分の決断や行動が生んだ結果なので、然程後悔はないんですよねぇ。少なくても、いまだになんだかんだ日々楽しく過ごしてるのも、あの年月を過ごしたおかげだと思ってますし。そのせいか、趣味も仕事も恋愛もなにもかもを居心地の良さを重視しちゃう若い衆と飲んだりすると、「もっと背伸びしろやぁ!」と説教モードになっちゃうこと多々なんですけど。
そんな思い出話をダラダラとしてしまいたくなるほど“あの当時”を存分に思い出させてくれた、『ONCE ダブリンの街角で』のジョン・カーニーによる青春ドラマ。新人のフェルディア・ウォルシュ=ピーロが主演を務め、共演にルーシー・ボーイントン、『ブリッツ』のエイダン・ギレンらが。
監督の実体験を基に描かれた本作。「あの時こうしてれば…」ってのをベースに物語が進むが、年を経てから振り返った時にありがちな冷静さや美化のし過ぎなど一切なく、まるでこの間の思い出を振り返ったかのような瑞々しさが見事。登場人物の思考、言動、視野など作品の隅々が思春期そのもの。タイムマシンに乗って時間だけが“あの時”に戻るのではなく、身も心も戻っている感覚と言うか。
私自身も一番楽しい時間だと思っている、関係性が成立する直前の恋愛模様の描き方も素晴らしかった本作。また、その恋愛が「末永く幸せに暮らしたとさ」みたいな大袈裟な一生ものとして描くのではなく、今現在の自分を形成してきた、いくつかある中で忘れ難い一つの恋愛として、ある種の割り切りをもって描かれていたのも好印象。勢いだけでは乗り切れない、前途多難にも程がある『卒業』的エンディングを迎えながらも、そのおよそ3秒前のような、二人の関係性の頂点であり終わりの始まりの(彼女の方はもうちょっと前に気付いているようでしたけど)絶頂の瞬間で切り取る、爽やかさとモヤモヤが混じったエンディングのタイミングも見事。
金も車もなければ力も知恵もない少年が、自分の想いだけを武器に年上の女性にアタックし続ける様や、彼女のちょっとした言葉や仕草などに喜怒哀楽する様など、主人公の気持ちが他人事とは思えぬほどわかり過ぎちゃうと同時に、色んな記憶の蓋がパカパカと鑑賞中に開く、記憶復元映画の様相すら。きっと世界中に何万人といるんでしょうが、「なんだ?これは俺の話なのか?」と錯覚してしまう瞬間多々の、思い当たる節だらけ作品で。
1985年を表す楽曲の数々と音楽ネタに溢れているのも本作の魅力。そもそも、デュラン・デュランの“リオ”賛美から始まる映画を嫌いになれるわけもなし。それらの楽曲が「あー、懐かしい!」で終わらず、主人公の思春期特有の揺らぎと成長を表現しているのも巧かった本作。バンドの楽曲や主人公の扮装ががニュー・ロマンティックで始まり、兄お薦めのホール&オーツやジョー・ジャクソンで背伸びし、最終的にザ・キュアに着地する、まさに思春期絵図。季節ごとに髪形もファッションも大きく異なってた当時の写真を見てるかのような、この辺も思い当たる節あり過ぎで、思い出したくないことも一緒に思い出しちゃって大声出したくなる瞬間多し。
強いて言えば、デマカセから始まった急造バンドにしては作曲レベルも演奏レベルも高過ぎで、ちょいとその辺に現実味と言うか身近さが感じられない部分が。まぁ、卓越した音楽センスを持ち、尚且つ主人公の要望に文句ひとつ言わず「いいね!やってみようか!」と応え続ける、U2におけるジ・エッジのようなエイモンという存在が居たからこそのバンドレベルなんでしょうけど。だったら、エイモンも一緒にロンドンに連れてくべきだよなぁとも。
そう言えば、前年の『焔』のリリース、バンドエイドへの参加に続き、この年はライブエイドへの出演でいよいよ人気が世界レベルになってきたアイルランドご当地の星U2が劇中全く触れられていないってのが不思議だったんですけど、スケジュールの都合で頓挫しちゃったそうですけど、当初はボノとジ・エッジが作品にコラボレーションする予定だったようですねぇ。まぁ、頓挫したおかげで楽曲のバラエティが豊かになったかも知れませんけど。
自分のバンドのデモテープに、他のライブアルバムの歓声を多重録音しちゃったりしてたなぁ…
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