2011年 フランス/イギリス/ドイツ映画 127分 サスペンス 採点★★★★
「誰にも言わないで欲しいんだけどね・・・」と前置きされる話をよく女の人から聞かされるんですけど、“誰にも言わないで欲しい”なら誰にも言わなきゃいいのにと思う私。そういう人の口からよく発せられる言葉と言えば、「ねぇねぇ、聞いた?」ってのも。もう「何を?」と答えるしかないし、結局聞かざるを得なくなっちゃう。こういう人を見てると、男女間では“秘密”の意味合いが違うんだなぁとつくづく思わされますよねぇ。
【ストーリー】
熾烈な情報戦が繰り広げられていた東西冷戦真っただ中のイギリス。英国諜報部“サーカス”のリーダー、コントロールは組織に潜り込んでいるソ連の二重スパイ“もぐら”を突きとめようとするも失敗、コントロールは右腕である老スパイのスマイリーと共に組織を去る。そんなある日、政府高官から極秘裏に“もぐら”を探し出すよう命じられるスマイリー。忠実な部下ギラムらと調査を開始するのだが・・・。
1979年に製作されたTVドラマ版も高い評価を受けたジョン・ル・カレのスパイ小説“ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ”を、『ぼくのエリ 200歳の少女』のトーマス・アルフレッドソンがメガホンを握って映画化したスパイサスペンス。ル・カレ自身も製作に加わり、パーティのシーンに顔も出している。
英国諜報部に潜り込んでいるソ連の二重スパイを突きとめるまでを、どっしりとした重厚なタッチで描き出した本作。ざっくりと一言で言えば“地味”な作品だし、原作なりドラマ版に一度でも目を通してなければ物語から置いてけぼりを食らってしまう、所謂親切な作品でもない。私自身どちらも未見なので、登場人物らの知力にあっさり置いてけぼりを食らうことしばしば。もちろん面白ガジェットなんか出てこないし、マティーニ片手に美女をはべらかしたりなんかもしない。それでもこの身悶えしてしまう面白さったら。
本物であれ偽物であれその全てに意味がある情報入り乱れる情報戦と、その見えない戦場の最前線に立っているスパイたちの緊迫感溢れる日常を描いた本作。映像を追ってれば大体分かる“目で観る映画”ってよりは、状況や心境を読み取る必要がある“読む映画”なのでボーっとしてるとたちまち迷子になるが、ちょっとした集中力さえ保てれば、数手先を読み合うチェスの如き静かで熾烈な頭脳戦に対し、間違いなく知的興奮が巻き起こる一本で。
冷たく非情な世界を描きながらも、間違いなく“情”が人を動かしている様をまざまざと描いているのも面白かった本作。男女間には裏切りや混乱が中心に描かれている一方で、偽りや裏切りが行き交う日常を過ごしているからこそなのか、“愛”は男性間を中心に描かれいたのも興味深い。このさり気ないも男同士が深い愛で繋がってる様を描き切ったことで、愛と信用は別物の世界とは言え騙され利用された男の怒りと悲しみに溢れた眼差しと、騙した男の会えた喜びと驚きに諦め、愛する者に幕を下ろしてもらえる安堵感が混じった表情が交差する素晴らしい結末が生まれていたのでは。原作にもあったようですけど、この性別にとらわれない深い愛を濃密に描き出せたのは、トーマス・アルフレッドソンの手腕があったからなのかなぁとも。
ソ連側もその能力の高さを恐れる老スパイのスマイリーに扮したのは、『ロボコップ』『ザ・ウォーカー』のゲイリー・オールドマン。知的で冷静だが、その冷静さには迷うことない冷酷さが秘められているスマイリーを好演。表情ひとつ変えずに“もぐら”をじわじわと確実に追い詰めていく様に、スパイとしての能力の高さと恐ろしさを見事に表現していたなぁと。
また、そんなゲイリー・オールドマンと並ぶと“初代と二代目”って感じが見た目一発で伝わる『ヘラクレス』のジョン・ハートや、『キングスマン』のコリン・ファースにマーク・ストロング、ゲイリー・オールドマンとは『チャイルド44 森に消えた子供たち』でも顔を合わせているトム・ハーディ、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』のトビー・ジョーンズに、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』のベネディクト・カンバーバッチといった、もし自分が役者で最初の読み合わせでこの顔触れに会ったら、「やった!ようやく俺も認められた!」と心の中で間違いなくガッツポーズしてしまうほどの実力者が勢揃い。その誰もがこの老獪なスパイが跋扈する世界を見事なまでに色づけていたからこそ、ここ数年のスパイ映画大ブームを彩った作品の数々に本作から多くの顔触れがキャスティングされたんだろうなぁと。
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