2014年 アメリカ映画 102分 コメディ 採点★★★★
“同じ価値観”やら“共感”、“絆”なんて言葉が人との関係性を表すケースで頻繁に使われるようになって随分経ちますよねぇ。うちの子供らの口から万が一出てきたら「まずは冷静になろ。な?」と言いたくなる“ソウルメイト”とか。その一方で、価値観が違う人は徹底して敬遠する傾向も。確かに好みや価値観が似ている人と一緒にいるのは楽だし楽しいんですけど、そればっかりになっちゃうと「そうそう!わかる!」みたいな自分の再確認の繰り返し以外に何も新しい視点や考え方は得れないとも思うんですよねぇ。
【ストーリー】
両親の離婚でニューヨークのブルックリンに母親と共に越してきた小学生のオリバーは、ひょんなことから隣に住む偏屈で近所の嫌われ者である初老の男ヴィンセントに面倒を見てもらうことに。誰彼構わず毒舌をまきちらし、小学生をバーや競馬場に連れまわすろくでなしなヴィンセントだったが、二人は妙にウマが合っていく。やがてオリバーは、嫌われ者のヴィンセントの意外な素顔を垣間見て・・・。
本作が長編デビューとなるセオドア・メルフィが監督と脚本を手掛けた、ハートウォーミングなコメディドラマ。製作総指揮に『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』のドン・チードルの名も。
偏屈老人といじめられっ子の交流を、細かな笑いのジャブをふんだんに含めながら描いた本作。この手の作品だと、子供の成長や変化および大人側の改心なんかを中心に描きがちだが、本作の登場人物たちは最後まで基本的に何も変わらない。オリバーは確かに孤独であったが、それは新しい環境に移ったための限定的なもので、初めっから結構口が達者で状況を達観して見ている少年。友達が出来るきっかけにヴィンセントが少し絡んでいるが、ヴィンセント抜きでも遅かれ早かれ友達が出来そうな性格。
一方のヴィンセントも素行の悪さから煙たがられてはいるが、バーテンダーやコールガールのダカ、妻が入所している介護施設の看護婦(監督の妻であるキンバリー・クインが好演)など、彼の本当の姿を知る人からは愛されている。オリバーの母も、シングルマザーになりたてだから必死になっているだけ。
そんな彼らが交わる中で見えてくる本来の姿を、着込み過ぎた服を一枚だけ脱ぐかのようなささやかさで描いた本作。そのささやかさが、タイトルにも絡む“聖人の定義”やあからさまで押しつけがましい善意ではなく“本当の意味での良き行い”というものと絶妙にブレンドした、ちょっと上手く表現できないが“微笑ましい”一本に仕上がってたなぁと。互いがシェルターを提供し合ってる作品の状況にマッチした、ボブ・ディランの“嵐からの隠れ場所”が流れるエンディングも絶品。
ヴィンセントに扮したのは、なんかSNL出身者で一番の出世頭になった印象もある『グランド・ブダペスト・ホテル』のビル・マーレイ。常に仏頂面で不機嫌で、怒りを撒き散らしている一方で奥底には優しさと寂しさが潜んでいる。もうあて書きなんじゃないのかと思えるほど、ビル・マーレイとヴィンセントがイコールになる絶妙なキャスティング。物語の良さはビル・マーレイじゃなくても然程変わらなかったのかも知れないが、本作に漂う程よい毒気と気だるげなユーモアは彼じゃなければ生み出せなかったものだろうなぁと。
また、ビル・マーレイと新旧ゴーストバスターの顔合わせとなる、最近引っ張りだこな『かぞくはじめました』のメリッサ・マッカーシーも忘れ難し。今回は随分と控えめな印象ではあったが、リアクションや会話の間の開け方に「さすが!」と思わせる瞬間も多々。ところで、『タミー/Tammy』はソフト化待ちで諦めるとしても、ジェイソン・ステイサムやジュード・ロウも共演している『Spy』は公開しないのかい?
その他、薹の立ち具合が丁度良かった『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のナオミ・ワッツや、考えてみたら製作に回ったドン・チードルとはウォーマシンコンビな『サボタージュ』のテレンス・ハワード、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』のクリス・オダウドらも印象的だった本作ですが、やはり本作のオリバー役で映画デビューした、ジェフ・ニコルズの新作『Midnight Special』にも出演しているジェイデン・リーバハーの、厳しい状況に反発するわけでも打ちのめされるわけでもなく、それを素直に飲み込む達観さと幼さならではの可愛げ、こしゃまっくれさとの入り混じりっぷりが非常に良かったなぁと。
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